魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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人の子の肉を食べず、その血を飲まない限り、

自分の内に命を持てません。


私の肉を食べ、私の血を飲む人は永遠の命を受け、

私はその人を終わりの日に復活させます。


私の肉は真の食物、私の血は飲み物です。


私の肉を食べ、私の血を飲む人は、ずっと私と結び付いており、

私もその人と結び付いています。




――――ヨハネによる福音書

 



魔法少女ストーリー
七海やちよ <結城安里の章 第1話>「おもちゃあそび」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結城安里ですか……。あいつは本当に薄っぺらいヤツでしたよ」

 

 ――――一言で言えば、傭兵には向いて無かった。

 

 ああ、勘違いしてる人が多いんですけどね。汚れ仕事やってる連中だけが傭兵じゃないんですよ。

 経済ヤクザって言葉知ってます? 当然知ってますよね。最近、うちらの界隈も法整備がすっかり進んできちゃったんでね、単純に汚れ仕事だけやってたんじゃすぐにお縄ですよ。

 今は、これですね。(口をパクパク)。コミュ力。話が上手くて金持ってる奴にみんなついていく。

 “メカニック”って知ってます? うちらの界隈じゃ稼ぎ頭って言う意味なんだけど…………。

 

 

 ――――と、話がそれましたね。

 

 まあ、結城安里って奴は、本当にゴミみたいな人間でしたよ。

 いつもボソボソナニ喋ってんだか分からないし、暇さえありゃ部屋の隅でずっとゲームしてたりね。

 会話も禄にできないから、日々のシノギも満足に稼げりゃしない。カタギに舐められるのもしょっちゅうでしたよ。

 だから、あたしらはずっとパシリに使ってましたよ。でも嫌な顔一つせず淡々とこなすの……思い出すだけでも気味悪くてね。

 

 そう……“嫌な顔しない”、ていうのが、あいつの強みではあったのかな。

 

 そんなんだから、あいつの仕事は専ら、敵対組員の排除や拉致、拷問……そんで死体処理でしたね。

 ……あたしはって? いや、やる訳無いじゃないですか。()()、やりませんよ。

 あたしらは傭兵だけど、人間なんですから。殺しの仕事なんで好んでやる訳が無い。

 どんな強そうなヤツでも、一度人を殺せば、ここ(胸を撫でる)が参っちゃいますから。前に敵対組の幹部を家族ごと殺せって言われたヤツ、いたんですけど……任務終わって帰ってきたら緊張の糸が解けたのか、すぐ魔女化しちゃってね、あれは参りましたよ。

 

 その点に限って言えば、結城安里は凄かったですよ。

 どんな拷問や殺しも、遺体を燃やしたり、バラバラにして埋めるのも、顔色一つ変えることなくやってたんですから。

 

 何人殺したのかって?

 

 それは、オヤジから秘密にされたって……あ、でも、結城がポロっと喋ったことがありましたね。

 確か、『三十人くらいはヤったかも』って、普通に。素っ気なく。

 ……おっかないでしょ? でも、あいつ普段は本当にゴミだから、あたしも強い刺激にはならない程度にパシってましたけどね。

 

 生い立ち?

 

 あいつは自分の事は一切話しませんでしたよ。

 あたしだって3年ぐらい付き合って面倒見てきたけど、そんなことを聞けるほど親しくなった訳でも無かったし。パシる、パシられるの関係で終わってましたね。

 

 …………ああ、でも、確か……『弟が欲しかったなあ』的な事はいってましたね。子供好きっていうのは公言してましたよ。

 

 それを聞いてたからこそ、今回の事件は本当にびっくりなんですよね。

 あいつがまさか、こんなに世間を騒がす“殺人鬼”になっちまうなんてねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結城(ゆうき)安里(あさと)

 

 その女の名を検索すれば、一瞬にして端末の画面は膨大な情報で溢れ返る。

 いわく、猟奇殺人犯、連続殺人鬼、無秩序型児童誘拐殺人犯、鬼畜、怪物、戦後最大のシリアルキラー……。

 恐ろしい異名で溢れ返る中、一番相応しいと思われるのが、「現代のアンドレイ・チカチーロ」であろうか。

 アンドレイ・チカチーロは、ロシア連邦とウクライナがソビエト社会主義共和国連邦であった頃、52人もの少年少女を凌辱の果てに惨殺した、歴史上最凶最悪のシリアルキラーだ。性的不能者で、かつては教師だったという。

 

 

 まず、結城安里の殺人歴を見てみよう。

 

 最初の事件。

 愛知県名古屋市で、同じ組に属していた同業者の傭兵・輔 理恵(22)を殺害。

 絞首で息の根を止められた後、ソウルジェムを砕かれた。

 

 次に、同市で、魔導管理局員の全民瑠美(18)を殺害。

 不意打ちで、首をナイフで一突きされた後、動けなくなったところでソウルジェムを砕かれた。

 

 以降は、各地を転々としながら、魔導管理局所属の魔法少女をターゲットに絞っていく。

 

 静岡県、新潟県、埼玉県、千葉県、神奈川県……

 順調に殺人を重ねていく結城安里だったが、東京都では失敗した。

 同じように管理局員を不意打ちで殺害を試みたものの、反撃に遭い、負傷した。だが、逃走ルートは確保していたらしく、管理局員は取り逃してしまう。

 

 

 これがきっかけとなったのか。

 結城安里は、殺人のターゲットを切り替えた。

 

 

 実力のある魔法少女ではなく――――無垢な児童に。

 

 

 大阪にて、暁 真由ちゃん(6)を誘拐し、殺害。

 死体はバラバラに切り刻まれた後、駅前の繁華街の路地裏のゴミ箱に袋詰めで投棄されていた。

 

 次に同府内にて、鈴木辰樹くん(5)、篠崎海斗くん(3)、佐藤玲央くん(4)を誘拐し、殺害。

 遺体は廃ビルの中で血に染まった状態で発見された。三人とも全ての指が切り落とされ、眼球をくり貫かれ、口腔内の歯も砕かれていた。性器は抉り取られ、その傷口に石や異物などが詰め込まれていた。

 

 神戸駅では6人の児童の肉塊がコインロッカーから発見された。

 殺害した児童達を解体し、それぞれのパーツをコインロッカーに並べて配置するという異常な猟奇殺人方法だった。

 

 そして京都では、13人の児童を誘拐し、殺害した。

 遺体は、見るも無残な状態だった。全員が両足が切り落とされ、鼻を削がれ、顔面は陥没し、前歯のほとんどが折られ、眼球が破裂していた。男子児童にいたっては陰茎を切り落とされ、口に突っ込まれている状態で発見された。

 

 この時期になると、結城安里の名が全国で連日取り沙汰されるようになり、世間が震撼した。

 そして、結城安里が、各動画サイトで、チャンネルを開設したのも、同じ頃だった。

 内容は、文に表すのも憚られる程の悍ましいものだった。

 殺害した子供達の肉や、内臓を網で焼いて喰らい、鮮血をワイングラスに注いで飲むというカニバリズム動画をアップし続けた。

 当然、動画やアカウントは即刻削除されたが、結城は懲りずに配信を続けた。

 そして、動画のアップすら弾かれると、今度は裏サイトを使って配信し続けた。

 

 

 「絶好調だ」

 

 「誰も私を止めることはできない」

 

 

 ――――これらは、結城がアップした動画の解説文の一部である。

 

 

 彗星の如く現れた“連続児童殺人鬼”の名は、一気に世間を騒がせた。

 特に魔法少女の殺人鬼、というのは今まで前例が無かっただけに、児童を持つ各一般家庭は恐怖に陥り、各幼稚園、保育所等の教育施設は、混乱に見舞われた。

 

 全国の警察も総力を上げて、善意の魔法少女達と結託し、行方を追っていたが、一向に足取りは掴めなかった。

 特に結城には血縁者がおらず、今まで親しい人間を作らなかったことも捜査を難航させた。

 

 その間に関東に上がった結城は新たに26人もの児童を誘拐し、残酷に殺した。

 凄絶な死に顔だったと記録されている。全員が、真っ向から頭を斬り割られていた。

 頭頂から額にかけて、柘榴のように割れ、赭黒くひらいた傷口から頭蓋骨が白く覗いていた。

 カッと見開いた両眼が、血まみれの顔面から飛び出したように見えたという。

 結城の猟奇性は正に、現世に舞い降りた死神そのものであり、「現代のアンドレイ・チカチーロ」と称するに相応しいものであった。

 それでも全国の警察や魔法少女達は結城の痕跡一つ見つけることができなかった。  

 その頃、結城が動画を裏サイトにアップし、このように話した。

 

 

「『絶好調だ。誰も私を止めることはできない』……ずっと、そう思ってましたけど、一人だけ、止められそうな人を見つけました。七海やちよさんです。三日後に、逢いに行きます」

 

「三日後、小さい子を6人誘拐します。七海やちよさんには、助けに来てもらいます」

 

 

 神浜の英雄に向けての、宣戦布告であった。

 この動画に於いて、結城のしゃべり方はいつも通り淡々としていた。

 その声色と顔から読み取れそうな感情の色は、わからない。

 

 

 

 

「――――以上が、我々が知る限りの結城安里の情報だ。これまでも、殺人を犯した魔法少女は存在したが、いずれも、両親からの虐待やネグレクト、学校でのいじめ、社会への恨みといったものが原因で、同情の余地はあった。だが、この結城安里は違う。明らかに異常だ。彼女が児童を狙う理由は無い。そして、明確に断言できるのは、人殺しをゲームのように楽しんでいる」

 

 結城安里に対する合同捜査本部は東京都・警視庁に設置され、実に1都8県からなる広大な規模となった。

 捜査本部に趣き、刑事部長から指令を受ける百人規模の刑事に混じって、魔法少女も複数人いた。

 その中には、神浜市役所属治安維持部長・七海やちよと副部長代理・都ひなの、調整課長・八雲みたまの姿もある。

 全員、その内容に驚きはしなかった。

 結城安里の存在は、既に社会全体に影響を及ぼしている。

 先の26名の児童の犠牲者が出た後、事態を重く見た政府は、全国の教育機関に一斉に休業要請を発したが、安全策とはいえない。

 

「3~6歳の将来ある児童の多くがたった11日で生命を奪われた。極めて残虐な犯行だ。我が国の犯罪史上、稀な重大事件だ。よって……結城安里の射殺を許可する!」  

 

 射殺許可。

 つまり、警察は―この国は―もう結城安里を今後一切“人間扱い”しないと決断したのだ。

 結城安里は熊や猪と同様の“害獣”であり、一刻も早く“駆除”しなければ、日本の子供たちに未来は無い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――神浜市役所。

 

「特殊部隊SITの投入か……」

 

 作戦会議から戻った三人の中で、眉間に皺を寄せたままの都ひなのが呟いた。

 梓みふゆが辞職し、行方知れずとなった後、以前より交流の有った七海やちよに推薦される形で、副部長代理に抜擢された。

 現在、やちよの実質的な右腕として、今回のように警察から重要案件があった際には、やちよやみたまらと同席するのが常となっている。

 

 SITとは、『警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査班』のことで、誘拐事件の捜査と人質救出が主な任務だ。

 正式名称は、Special Investigation Teamであり、俗にシット、エス・アイ・ティーとも呼ばれている。(なお、呼び方としてはエス・アイ・ティーの方が正しい)

 通常は、人質籠城事件が発生した際、特殊犯の専門家が交渉を担当。それでも犯人が説得に応じない場合、重火器と防弾装備を構えて強行突入を行う部隊であるが、それ以外は、社会的影響の大きい事件をなるべく目立たず片付ける少数精鋭の隠密部隊として活動している。

 

 SITは、念入りの捜査の末、結城安里の現在のアジトを補足。既に誘拐した6人の児童も、そこでまだ生きていると判明した。

 しかし――

 

「海外で訓練を受けるレベルのエキスパートが“こっち”の応援に一人も無しとはどーいうことだっ!!」

 

「落ち着いて、ひなの」

 

 烈火の如く憤慨するひなのをやちよが宥めながら語る。

 

「彼らは対人戦のプロであって、害獣駆除の専門家ではないわ。寧ろ素人同然。だからこそ、私達が直接奴を対処しなくてはならないのよ」

 

「そうはいってもなあ……」

 

 溜め息を吐くひなの。

 やちよの言う事も一理あるが、納得できる訳がなかった。

 

 捜査本部が魔法少女(やちよたち)に下した指令とは、囮役だ。

 警察側は既に結城安里の徘徊ルートを把握していた。人が少ない場所でやちよたちが結城安里を引き付けている間に、SIT隊がアジトに突入、子供たちを救出するという作戦だった。

 魔法少女は、日夜命がけで魔女を駆除している。

 つまり、“害獣駆除”に関しては、魔法少女以上にエキスパートと言える役職は、この世には無い。

 そう考えれば、捜査本部の指令は合理的に思えなくもないが……

 

「警察組織の中でも、特殊部隊は最強の戦闘部隊だ。 だが、相手が百戦錬磨の魔法少女であれば、相当な犠牲者が出ることは必定だ。時間と『金』を掛けて育てた優秀な人材は、なるべく一人でも失いたくない。だから、極力こっち(魔法少女)の努力で結城安里をなんとか抑えてほしい――――というのが警察上層部の意向だろうな」

 

 ひなのは、治安維持部屈指の頭脳派であり、参謀としては非常に優秀だ。

 だが、頭が良すぎるが故に、深読みしすぎてしまうところが玉に瑕だった。

 

「確かに上層部の意向はそうかもしれないけど、現場は違うわ」

 

 余計な心配事を増やして、士気が下がるのを避けたかったやちよがひなのの皮肉を指摘する。

 結城安里から児童を救出できたケースは0だ。

 結城は捕らえた児童を確実に殺し、解体処理を行い、自由に好きな場所へ遺棄している。

 何より、結城安里の固有魔法さえ、どんなものなのか未だ不明である。

 

「つまり、アジトには罠が仕掛けられている可能性が高い。SIT隊は決して安全策を取る訳じゃなく、命がけで任務を完遂する腹つもりよ」

 

 表情を変えないまま言うやちよに、ひなのが溜め息混じりに指摘する。

 

「……だが、奴が以前殺害した各地の管理局員達は、いずれも強者ばかりだぞ。優秀な人材を失いたくないのは、こっちだって同じだろう?」

 

 いくら、治安維持部の魔法少女達の能力が高くても、七海やちよが無双の実力者だとしてもだ。

 史上最悪のシリアルキラーが相手では、相当の犠牲を覚悟して挑まなければならない。

 結城安里の抵抗次第では、治安維持部の機能が一時的に麻痺する可能性さえあり得る。

 

「勿論、全力を尽くすつもりだ。……だが、SITに援助して貰わんと、割に合わないぞ」

 

 警察組織が所謂官僚社会であり、上の意向に絶対なのは百も承知だ。

 だからといって、危険な役を魔法少女にばかり押し付けるのは、極めて理不尽としか思えなかった。

 みたまもひなのの気持ちを察したのか、その指摘に深くうなずいた。

 

「都副部長代理。心配はよく分かるわぁ。でも、だからこそ、塚内さん達もできる限りの武装や人員を用意して、こちら側を支援するって言ってくれたじゃない」

 

「しかし……」

 

「ひなの、あれこれ心配してやらなくなるより、やってからあれこれ心配しなさい」

 

「『囮作戦』を、か……正直、気乗りはしないが、やらないよりはマシだな」

 

 隣に立つやちよの瞳は既に決意に燃えていた。

 はあ、と溜息を付きながらもひなのは、改めて端末に映る情報に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一部 FILE #01より半年前の時間軸となります。
以前、Xに挙げたものを一部再構成しました。

まさかの七海やちよ魔法少女ストーリー 第二部です。
なお、こちらは不定期連載となります。
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