魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #03 青雉とヘリファルテ

 

 

 

 

 

『情報は捜査の生命線だ。刑事はそのためならなんだって、やる』

 

 

 

 

 ――塚内直正警部の教えが、今になって身に染みる。

 

 

 <治安維持部の魔法少女達は全て、『特別司法警察職員』であり、“魔法少女に関してのみ”逮捕権や捜査権が付与されている>――――

 そういうことになっているが、それが可能になる時期は、『警察組織の依頼があってから』だ。

 基本的に、七海やちよ以下の少女達は、役所務めの公務員と同等の権限でしか働けず、警察組織の巡査と同じ仕事はできないように定められている。

(但し、特例として、目の前で犯罪事件を起こした女性が魔法少女だった場合、現行犯逮捕が可能である)

 

 警察組織にとって、魔法少女への依頼は、あくまで最終手段。

 刑事が念入りに捜査をして、鑑識や科捜研があらゆる技術を尽くした結果、『これは“人間”の所業ではない』と所轄の刑事部長が判断した時に限り、治安維持部に協力要請が回る、という仕組みだ。

 その時にようやく、やちよ達魔法少女が対策本部に出向し、捜査に参画できる。

 つまり、動けるのは後手の更に後手、という訳で――魔法少女が事件の犯人(ホシ)だった場合、長期間の逃げる余裕を与えてしまっている訳だ。

 他県に逃げられでもしたら、その時点で捜査は難航しかねない。

 

 そんな事態を防ぐ為にも。

 治安維持部長・七海やちよは日常的に情報を得ることが必要だと考えていた。

 つまり、情報通の確保だ。

 それは例えば、コンビニの従業員だったり、ガソリンスタンドのアルバイトだったり……あらゆる業種、業態が対象になる。

 こうした地域の人々と懇意になり、常に情報を仕入れることが必要だった。 

 つまり、警察でいう「檀家まわり」である。

 

 七海やちよは既に、スマートフォンを3台所持し、1300件もの電話番号を登録していた。

 だが、それでも。

 殺人・強盗等の重罪を犯すレベルの魔法少女をマークする為には、より深い“沼”へと、足を踏み入れなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『S』を確保できたのは、僥倖だった。 

 

 七海やちよは、蒼海グループ代表取締役・(ワン) 海龍(ハイロン)と、姉妹の契を結んでいる。

 海龍経由で、裏にも精通する情報通と繋がることができた。

 

「白夜会?」

 

「関東を中心に勢力を拡大している新興の広域暴力団組織……と、謂われている」

 

「謂われている、とは?」

 

「神出鬼没だ。通常の暴力団みたいに、事務所を構えていない。アジトも事あるごとに引き払って移転してしまう……実態を掴めたヤツはまだ、誰一人もいないだろうな」

 

 夜。

 林道に停められた真っ暗な車内で、二人の女が物騒な会話をしていた。

 後部座席に座るのは七海やちよ――なのだが、今は変装して『青雉』と名乗っている。海龍に個人的に雇われた私立探偵と偽って動いていた。ファッションとメイクもアウトロー系で決めて、腕にはタトゥーのシールを貼っている。元々大人びた容姿なので、違和感を抱かれることは無い。

 運転席に座る女は、『ヘリファルテ』と名乗った。

 金髪の美女であること以外、素性は不明。ただし、裏社会の大物や重罪事件の前科者達とも強い繋がりを持つ“切れ者”だと海龍は言っていた。

 おそらく、魔法少女だろう。

 

「海外の巨大カルテルとの繋がりも噂されており、高精度の麻薬や覚せい剤を仕入れて市場に流通させているとのことだ」

 

 白夜会は、未だに謎が多い。

 そのトップと幹部たちの情報は一切不明。

 一方で、幅広い事業も展開しており、中には福祉も存在するという。

 

「福祉……?」

 

「株式会社『クラシオン』、聞いたことある?」

 

「最近CMでもやっている企業ですよね……まさか」

 

「連中のフロント企業だと、一部じゃ噂になってるよ」

 

「確か、クラシオンの理念は……」

 

「『公正と平等の精神を育む』、だったかな?」

 

 公正と平等――――

 やちよの胸がざわめいた。ありえない筈の可能性が脳裏に浮上してきたからだ。

 

「クラシオンが運営する児童養護施設では、親がいない子供、虐待を受けた子供たちを、“保護”という名目で居住させ、再教育を行っているというんだ。白夜会の兵隊としてな」

 

「…………」

 

 やちよ――青雉は静かに聞いている。

 

「最近では、私人逮捕系動画配信者や、水商売、闇バイトの斡旋も行っているそうだ」

 

「身寄りの無い子供たちを使って? ……悪質ですね」

 

 それを、()()()が主導しているなどと、信じたくなかった。

 

「カルテルが福祉事業を隠れ蓑にするのは常道さ。行政との深いお付き合いもできるしね」

 

 クラシオンはその理念にちなんで、教育熱心なところを売りにしている。

 施設の出身者には外資系企業に就職し、海外に移住した子も多い。

 施設には、その外資系企業のOBが度々施設の研修に呼ばれて帰国しているそうだが……、

 

「その外資系企業は、調査すると怪しい点が多いんだ」

 

「つまり、そこがカルテルだと?」

 

 多分ね、とヘリファルテは返事をする。

 

「魔法少女の素質がある子は、海外の支部に就職させ、麻薬の取扱い方を指導するという話だ」

 

 そして、独り立ちした彼女らが、施設に戻り子供たちを教育する。

 悪夢のような循環。そして新たに悪魔が生み出される……その悍ましい負の連鎖を想像するだけで、青雉の身の毛がよだつ。

 

「以前、立政町で起きた人身売買事件。あれも黒幕は白夜会という話だ」

 

 あれは、都ひなのらチーム・カグツチのチームワークが目覚ましかった。

 犯人グループとその主犯・柿崎組組長は逮捕されたが、実は彼らも白夜会の出向職員から、仕事を斡旋されていたのだという。

 

「他にも大東区の港に多くの海外難民を流し、麻薬密売の手駒にしているのも白夜会の仕業だという話だ」

 

「何故、わざわざそんな真似を……?」

 

「単純に安くこき使えるからだろう。そして、難民は金の為ならなんだってやる。股を開くことだって、人殺しだって……つまり、お互いWIN・WINの関係って訳だ」

 

「…………」

 

「……ウチが知ってるのは、こんなところさ。何か質問は?」

 

「いえ」

 

 やちよは軽く会釈して、微笑んだ。

 

「本日はありがとうございました。支払いは後で口座の方に」

 

「いや、別に大した話じゃないよ」

 

 そう言われて、はい、そうですか、と答えてただ帰るのは愚の骨頂である。

 『S』とはこれからも、繋がりを深めていく必要がある。

 

「では今度、私の知人の料亭でご馳走しましょう。ふぐ料理は如何です?」

 

「ふぐか。嬉しいねえ……!」

 

 ヘリファルテの舌が肥えてるのはリサーチ済み。

 やちよの返しに、ヘリファルテはお気に召してくれた様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 ――――ヘリファルテと別れて、一時間後、神浜市役所の屋上。

 

 変装を解いたやちよは、そこで独り、黄昏れていた。

 柵に身を預け、中央区の綺羅びやかな夜景を眺めている。

 不意に空を見上げると、いつになく美しい夜空が見えた。煌めく星々の中心で、大きな満月がくっきりと白く輝いている。だが、気持ちは暗澹としていて、感動する気にはなれない。

 

 ――――白夜会。

 実態の掴めない広域暴力団。

 ヘリファルテの話から、正に悪の巣窟と称するに等しい。

 幹部以上の素性が全員不明というのも、非常に気になった。

 彼らがサンシャイングループ、そして、件の「蠅」達を使役している黒幕なのか――可能性はあるが、まだ信憑性は低い。

 しかし、警戒すべき危険な集団には変わりない。

 『青雉』として、調査を続けるべきだろう――――

 

 そう考えていた矢先だった。

 

 

 

 

 

アンシャンテ(はじめまして)、『英雄』」

 

 

 

 

 

 猟奇を孕んだ女のねっとりとした声が聴こえてくる。

 殺気!!――

 

「!!」

 

 ――を察したやちよの行動は迅速だった。

 刹那、女の半径180度を、蒼い槍の群れが間断無く取り囲む!

 

「貴女がコルボーね」

 

「! 『乙女』から聞いたか……」

 

 振り向きざまに問うやちよ。

 黒いタイツの下半身に白いフードを被った、鴉の仮面の女――『コルボー』は、ニィッと笑う。まるでやちよの先制が期待通りの反応といった様子で。鋭利な刃先を全身に向けられているにも関わらず、その感情に怯えは無い。

 戦い慣れてる――やはり、“傭兵”か。

 

「質問に答えなさい。貴女は『白夜会』の人間?」

 

「なんのことかな?」

 

 飄々と答えるコルボー。

 瞬間、槍が一斉に距離を詰めてきた!

 

「はぐらかさないで」

 

 寸止め。

 既に鬼神と化したやちよの声に怒気が孕む。

 コルボーは脅迫を意に介さず、愉悦を浮かべたまま答える。

 

「焦るのは禁物だと、和泉十七夜(師匠)に教わらなかったのか?」

 

「……」

 

 やちよは揺らがない。

 強靭な意志を示す蒼い眼光でコルボーを睨み据えている。

 だが、

 

「私を攻撃したら、市役所の人間が全員死ぬぞ?」

 

「っ!?」

 

 それは、どういう――

 一瞬だが、やちよの顔に苦悶が走る。それを見逃すコルボーではない。

 

「フッ……、私はただの“メッセンジャー”だよ? 殺し合いに来た訳じゃない」

 

「沢山の人の命を握っておいて?」

 

「そこまでしなければ、話を聞いてもらえないと思ってねぇ」

 

 精神的な意味でマウントを取り、コルボーは余裕綽々といった様子だ。

 愉悦に嘲りを含みながら、言葉を続ける。

 

「勘違いしてるようだから、教えに来たのさ。私達の事を……」

 

「なに……?」

 

 月光を背に浴びながら、コルボーは愉悦を更に深めて、答えた。

 

 

 

 ――――我々は、マギウスの翼。解放を望む者達――――

 

 

 

「マギウス……? 解放……?」

 

 詠うように紡ぎ出された言葉に、やちよは瞠目。

 

 

「お前の親友、梓 みふゆもそこにいる……」

 

 

「……っ!!」

 

 わざとらしくねっとりとした低い声色が、嫌に耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

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