魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #04 躊躇った者の末路

 

 

 ――――3ヶ月前まで遡る。

 

 

 

 

 

 ――――マギウスの翼。

 

「手を出すなと言った筈ですっ!」

 

 ドンッ、と叩きつける音が漆黒の回廊に響く。

 実働部隊統括責任者・梓みふゆは酷く荒れていた。

 原因は目の前の女、実働部隊長・双樹ルカにある。

 組織の中でも反目し合っている事で有名な二人だが、今回はいつもより雰囲気が違う。

 すれ違い様にルカが挨拶した途端、胸ぐらを掴まれ、勢いよく壁に背中を叩きつけられた。うっとうめき声を挙げるルカ。

 みふゆは明らかに、キレている。

 

「っ……! 七海やちよは敵の旗印……」

 

 絞り上げるように放つルカの声は苦しそうに聞こえたが、

 

「戦う前に、相手の牙を早々に抜くのが肝要と、オーナーも常々仰られていた筈……っ!」

 

 その瞳と口元は嘲りの愉悦に満ちていた。

 神経を逆撫でされたみふゆの形相がより険しくなる。眉間に深い皺が刻まれ、瞳孔がぐわっと開く!

 

「やっちゃんは敵ではありません!」

 

 何故、双樹はいつも……いつもいつもいつもいつもいつも…………自分に逆らうのか!?

 実働部隊統括は自分。当然、彼女を行動も自分の権限の範疇にある筈……なのに、何故。

 双樹はいつもいつも、勝手な行動ばかり取る。

 自分や組織が下した命令よりも、主観で良かれと思った行動しか取らない。

 協調性が無く、共感性も低い、自己中心で暴力的なこの女を……何故、祖父とプロフェッサーは買っているのか。

 

 みふゆには理解できなかった。

 今回だってそうだ。

 『七海やちよ暗殺計画』――白羽根の天音姉妹からその密告があった時、みふゆは血の気が引いた。

 正に、七海やちよの説得に向かおうとする矢先の事態だったのだ。

 

 凄腕の傭兵を雇い、みかづき荘へ潜入させる。

 七海やちよを毒殺、そして黒羽根達によるみかづき荘の爆破――――

 

 なんてことだ。

 自分が行くよりも早く双樹は、()()()部隊を動かし、七海やちよに攻撃を仕掛けてしまった。

 これでは、もう後の祭りだ。

 初手で暴力的手段に訴えた以上、みふゆが今後如何なる説得を試みたとしても、懐柔は困難を極める。

 やちよはあの性格だ。

 自分や組織に対する懐疑心を解くことはないだろう、決して。

 そして、命がけで徹底抗戦を唱える筈だ、絶対に。

 

 つまり、みふゆが“今更”何を言った所で、逆効果にしかならない。

 お互い、平行線は必定。亀裂はより深まる一方。

 

「……お言葉ですが、たかが対話一つ行うまでに時間を掛けすぎでは?」

 

 双樹の態度はどこまでも涼しげだ。

 事態をより悪い方向に拗れさせておきながら、悪びれる様子は微塵も無い。

 

「では貴女は? 攻を焦った結果、見事に仕損じたではありませんか!」

 

「度々ご無礼ですが……七海やちよは、貴女の説得に応じる相手では無いかと?」

 

「貴女……!」

 

 そう仕向けさせたのは、一体誰のせいだ。

 ルカの頬を張ろうと、みふゆが腕を振り上げた――

 

 

「……双樹の言う通りだと思うが……」

 

 

 ――瞬間。

 暗闇から、低い女の声が聞こえて、二人は振り返る。

 ドス黒い闇から参上したのは、銀色のフードの下に、純白の衣装を纏った、鴉仮面の女。

 常に浮かべるその邪悪な薄笑いが、身の毛をよだつ程の生理的嫌悪感をみふゆに齎す。

 厄介な相手が来た。 

 

「“怪人”コルボー!?」

 

「これはこれは、梓みふゆ統括……」

 

 恭しく頭を垂れて挨拶するコルボーに、みふゆは鋭い視線を向ける。

 双樹と並んで苦手だった。何を考えてるのか分からない不気味な雰囲気、好戦的な性格を伺わせる猟奇的な笑みが、双樹とよく似ていたからだ。

 

 “銀羽根”。

 通称“怪人コルボー”。

 プロフェッサー・マギウス個人に雇われた傭兵。

 その実力は未知数。

 そして素性を知る者、その素顔を見た者は、誰もいない。

 

 ……確かに、戦力の確保は必須だ。

 しかし、みふゆは不思議でならなかった。

 “魔法少女の解放”という希望の為に戦う組織の中に、どうして双樹とコルボーの様な危険分子が混じっているのか。

 

「先程、定例会議で決定した。作戦は間もなくフェーズ2に移行する」

 

「えっ」

 

 寝耳の水だった。

 定例会議は、組織の運営方針を決める重要な会議。

 基本的に、梓 みふゆ、日秀源道、里見灯花の最高幹部会で合議する――筈だ。

 なのに、みふゆには一切、声が掛かっていなかったのだ。

 

「ど、どういうことですか!? 定例会議が開かれたなんて話、ワタシには全く……」

 

 狼狽するみふゆを意に介さず、コルボーは話を続ける。

 

「そこで、『ウワサ』の実戦投入が決定した」

 

 その一言で、みふゆの瞳が驚愕に見開かれる。

 

「なんですって……!? しかし、アレの試験運用はまだ……!!」

 

「これからは極力人員を『ウワサ』に割り当てて、感情エネルギーの大量確保を優先させる。以上だ」

 

「危険過ぎます! 『ウワサ』をその方向で運用すれば、何人もの犠牲者が出るか……!」

 

「プロフェッサー・マギウスがご決断されたことだ」

 

 定例会議は合議制ではあるものの、最終決定権は、里見灯花にある。

 つまり、みふゆが今更何を言っても、覆る筈が無い。

 

「ですが!!」

 

「いいのか反論して? 私は“メッセンジャー”だぞ?」

 

「っ! ……くっ」

 

 そう返されたら、何も言えない。

 コルボーは里見灯花の私兵に過ぎない。自分の部隊を持っている訳でも無い。つまり、本来、彼女の権限は最高幹部であるみふゆの足元にも及ばない。

 ――筈なのだが、実際は違う。

 コルボーは、里見灯花の“メッセンジャー”としての役目も背負っている。

 つまり、今のコルボーの発言は、里見灯花の言葉であり、組織のトップと同等の権力がある――故に、誰も意見できない、という訳だ。

 

 その事実に、みふゆは心底忌々しく思いながらも、くっと口を結んだ。

 ――――ならば。

 

「? どこへいくつもりだ?」

 

 急に踵を返して、歩き始めるみふゆに怪訝な表情で問うコルボー。

 

「今すぐやっちゃんを説得に向かいます」

 

 振り向かずに答えるみふゆ。その声色は静かだが、焦燥に満ちていた。

 フッと笑い、コルボーは言う。

 

「残念なお知らせだ」

 

 嘲るように聞こえてきた次の言葉に、みふゆは足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どういう意味ですか……!?』

 

『まだ分からないのか、これはれっきとした降格処分だよ。梓みふゆ』

 

『馬鹿な。羽根の指揮は、私に一任すると……プロフェッサーもお爺様もそう仰ってくださった筈……』

 

『いい加減現実を見たらどうかな? 碌に動けない者が実働部隊統括に相応しい筈も無いだろう? 当然、プロフェッサーがご期待を抱かれる筈も無い。それだけの話だ』

 

『ですが、後任がアリナ・グレイとは……』

 

『他者を気にせず、行動に迷いも無い。プリミティブな奴だよ。その点ではここで引き籠ってグズグズしてるだけのお前より、よっぽどマシな人選だとは思うがな……。まあ、全ては済んだことだ。新しい仕事場でせいぜい業務に励めよ。()()()()と一緒にな』

 

 

「…………」

  

 コルボーに言われた事を思い返しながら、渡された端末を握りしめる。

 そこには、“新しい仕事場”の末端作業員である二人の魔法少女の顔と、個人情報が映されていた。

 

 ――――降格処分。

 

 それが意味することは一つ。

 みふゆに、もう独自の判断で動ける権限は無い、ということだ。

 今までは、最高幹部の立場上、比較的自由だったが、今後はそれも不可能になる。

 組織において、最高幹部以外の者は、『指示が無い限り、外出禁止』という規則がある。

 つまり、七海やちよを説得に向かう手段は、完全に封じられてしまった。

 

 “新しい仕事場”は、言ってしまえば閑職だ。

 そこで製造しているものを思い出して、みふゆは顔を顰めた。

 これは、祖父ではなく、プロフェッサー・マギウスのご意思だろう。いい加減、現実を見ろ、と。

 

 

 しかし、それでも――――!

 

 

 

 

「『ウワサ』によるエネルギー確保は分かります。しかし、随分と性急ではありませんか?」

 

 ――――しばらくして。

 

 みふゆは、里見灯花と謁見していた。

 本来、許されぬ立場なのだが、祖父を通して、特別に許可されたのだった。

 

 主への直談判――それがみふゆに残された最後の手段だった。

 

「そんなことないよ」

 

 眼下で跪き、冷静に意見するみふゆに対して。

 玉座に座る主は、背を向けたまま答える。声色はやけに素っ気ない。

 

「……ワタシには普段は論理的な分、『ウワサ』が関わってくると、感情的になっているようにお見受け致します」

 

「ふーん」

 

「ただ、プロフェッサーの主張が誤りだとは思っておりません。これは、ワタシの意見ですが……『ウワサ』は試験運用を兼ねて、恒常的に増やすのが良いと思います。魔女と違って、周知はされませんし、悪い『ウワサ』に用いなければ、危険視されることも無い……つまり、破壊される事も無い筈です。とても緩やかにはなりますが……人員を多く割くことなく、安全に、犠牲者の少ない方向で感情エネルギーの回収が可能と存じます」

 

「うん! そうだねー」

 

 主の声に喜色が宿る。

 

「みふゆの言い分は、もっともだと思うよ。長い目で見れば、そういう方向でウワサを用いた方が堅実だから」

 

「! ではっ!」

 

「でもね、みふゆ」

 

 玉座ごと、主が振り向いた。その顔に浮かぶのは、満面の笑み。

 

「それじゃあ、困るんだよ」

 

「えっ」

 

 カツカツ、と主は階段を降りて、みふゆに接近していく。

 

「くふっ」

 

 含み笑いに、みふゆが息を飲んだ。

 跪くみふゆの白頭をそっと撫でながら、穏やかに告げる。

 

「殺したくない、殺し合いたくないって考えは、日本人として正しいと思うよ、みふゆ」

 

「……っ!?」

 

 そして、顔を覗き込む。 

 みふゆの全身がぞっと震えた 

 鮮血の如き紅眼の妖しい瞬きが、自分の心中を見抜いているのかのようで。

 

「けど……“わたくし”の前で許されると思う?」

 

「そ、それは……!」

 

 反射的に目を逸らすみふゆに、灯花は、くふっとほくそ笑んだ。

 

「じゃあ、人を殺せる簡単なおまじないを教えてあげようか」

 

「え……」

 

「それは、『差別』することだよ、みふゆ。とにかく相手を『敵』だと思って憎むの」

 

「憎むって……やっちゃん相手に、そんなことは……」

 

 目を伏せたまま、みふゆは小声で弁明するが、灯花は無視して続ける。

 

害獣(ネズミ)でも害虫(ゴキブリ)でもいい。とにかく相手を“人間以下”と思えば、殺しやすくなる。例えば……米国の軍隊が、中東の男性を『ラグヘッド(ぞうきん頭)』と罵った様に。米国の白人主義者が、黒人を『ニガー』と忌み嫌う様に……」

 

「ひっ……」

 

 できない、そんなこと。大切な親友に、そんな真似は、決して――!

 肩を震わすみふゆの瞳には、涙が浮かんでいた。

 穏やかな笑みのまま、感情を消した声で灯花は語り続ける。

 

「彼女達は、わたくしの黒羽根を攻撃した。わたくしが丹精込めて創り上げた黒羽根達を。わたくしはその行為を許せないと思ってる。……さて、その後に起きるのは何だと思う?」

 

「ぇ……えっ……と……」

 

「戦争だよ、みふゆ。七海やちよは、わたくし達を受け入れない。つまり、これから起きるのは熾烈な殺し合いだよ。彼女達の理想か、わたくしたちの理想か、勝者を決める為の争いが始まる。……最高幹部だったあなたがそんな風じゃ、困るかにゃー?」

 

「……!? 待ってください! もう暫く時間を、猶予をワタシにください!! やっちゃんを説得さえできれば、そんな事態には……!」

 

 怯えを堪え、みふゆは精一杯声を張り上げて、反論する。

 しかし、

 

「みふゆ、わたくしは貴女のことが好きだよ」

 

「……っ!?」

 

「どれだけ手を血に染めても、優しさを失わないその心が好き。でもね」

 

「っ!」

 

 ひっ、とみふゆが呻いた。

 その顔を両手で優しく包みながら、主は血染めの如き真紅の瞳で睨み付ける。

 

 

「あんな()()……一人ぐらい舞台から降ろして貰わないと、困るよ」

 

 

 

 

 ――――ああ、終わった。

 

 みふゆは全てを諦めたように、ただ項垂れた。

 里見灯花は――プロフェッサー・マギウスは、最初からそのつもりだった。

 

 彼女は、頭がとても良いだけの少女ではない。

 歴史上の独裁者と同じ性質だった。

 

 

 適当な理由を付けて、戦争がしたかった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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