魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済)   作:hidon

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FILE-2 #05 選ばれし者達

 

 

 

 ――――秘密結社・マギウスの翼。回廊。

 

「…………」

 

 果てしない漆黒の闇の中をみふゆは進んでいた。

 向かう先は、アリナ・グレイのアトリエだった場所だ。

 本来は、違う目的で使われていた部屋だが、プロフェッサー・マギウスは、“アレ”のデザインを任せる見返りとして、自由に創作をさせていた。

 

「…………」

 

 進みながら、みふゆはこれまでを振り返る。

 

 一体、自分は何だったのか。

 実働部隊統括責任者だった頃は常に気が張り詰めていたが、理想に燃えていた。

 魔法少女の解放という未来の為に、必死で働いていた。

 個性的な部下が多かったので、コミュニケーションが特に難儀したが、充実していたと思う。

 しかし、もう、そんな日々は二度と来ない。

 プロフェッサー・マギウスは、目的の為に殺戮を決意した。祖父も同意した。自分はその決定に抗えなかった。

 ……否、抗ったからこそ、閑職に飛ばされた。

 

 結局は、思い上がっていたのだ。

 自分は、祖父の依怙贔屓によって、最高幹部なんて分不相応な役職を賜っていただけ。

 能力が認められたからじゃない。

 プロフェッサー・マギウス(独裁者)にとって、自分は所詮、代替品に過ぎなかった。

 

 今はもう、何も無い。

 諦念だけが心に虚しく残っている。

 虚脱感が全身に伸し掛かっているようで、酷く気怠い。足取りも鉛を引き摺るかのように、重い。

 

 

「…………」

 

 しばらくして――――。

 虚ろの表情のまま、みふゆは、『ガーデン』へと辿り着く。

 そこで、暗闇が晴れた。

 視界全面に映されたのは、今までアリナが描いてきたと思われる、アート。四方八方、天井一面、床一面まで、摩訶不思議サイケデリックな世界観が広がっていた。

 

「っ!? ……!?」

 

「「あっ……!」」

 

 異様な光景に、感動も恐怖も示せなかった。

 ただ戸惑うみふゆだったが、不意に声が聞こえたので、振り向く。

 

「ん?」

 

「「あ、あの……っ!」」

 

 見ると、オドオドした様子の小さな二人組の少女が、並んで自分を見つめていた。

 

「あなた方は……」

 

 一目でみふゆは分かった。

 先程、コルボーから渡された端末にデータが記されていた二人組の魔法少女である。

 

「えっと……“ひまわり畑”で……っ、アリナ様の、お手伝いをさせて頂いてました……っ、宮尾しぐれ、です……っ」

 

「あっ、安積はぐむ、ですっ!」

 

 ライトグリーンの前髪で左目を隠した、見るからにインドア系が宮尾しぐれ。

 茶色の長髪をポンパドールにまとめた幼い顔つきで、わたわたとテンパってる方が安積はぐむだ。

 元最高幹部様のご到来に、緊張感最高潮で深々と頭を下げる二人に、みふゆは、

 

「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ……。これからは同じ立場なのですから……」

 

「「えっ!?」」

 

「こちらこそ、よろしくお願い致します……」

 

 生気の無い瞳を向けながら、穏やかな笑みを浮かべて、二人よりも深々と、頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全なる黒を、アリナ=グレイはまだ見たことがない。

 

 

 なお、“世界で一番黒いもの”は、スーパーブラックバードの羽根だ。

 光のほぼ全てを吸収してしまう、正にブラックホールそのものだと聞いている。

 

 アリナは、その鳥を知っていたものの、見たことは無かった。

 ジーニアス・アーティストを自称する身としては興味津々だったが、パプア・ニューギニアに旅行する機会も無く、半ば諦めていた。

 でも……多分、目の前に広がる光景がそうなのだろうと。

 

 黒よりも暗い暗闇。

 漆黒よりも深い漆黒。

 暗黒の中枢。

 

 ――――深淵。

 

 ブラックホールに飲み込まれた者が果てに見る景色とは、恐らく、こんなものなのだろう……。

 

『聞いているのか、ミス・ペインプランター』

 

 物思いにふけっていると、頭上より叱責が聞こえてきて、アリナ=グレイはハッと上を仰いだ。

 天井―そこも一面漆黒だが―の中心に、巨大な組織のエンブレムマークが太陽の如く光輝いている。

 聞こえてくる声色は3種。

 全員、少女のようだ。

 

(ずっとクエスチョンだったヨネ……。唯一人のマッドサイエンティスト(天才科学者)が、なんで“東方の三賢人(マギウス)”を名乗っているのか……)

 

 今、合点がいった。

 『プロフェッサー・マギウス』とは、里見灯花個人の事では無いということだ。

 彼女以外の声――おそらく、もう2人のマッド(天才)を含めた3人のチームのことだろう。

 或るいは聖書でいう、三位一体説(トリニティ)を踏襲しているのかもしれない。

 

 だからこそ、別の疑問が湧いてくる。

 何故、灯花は、トップシークレット・エージェントを自分に紹介したのか?

 最高幹部のみふゆや、日秀源道でも無く、何故、自分に――?

 

『聞いているのか。ミス・ペインプランター』

 

 そんなことをボンヤリ考えていると。

 先よりも大きな叱責が聞こえて、アリナはふうとため息。

 

「oh,sorry.三賢人様のご高説は、みふゆの言い訳より退屈だヨネ」

 

『プロフェッサーの御前だ、口を慎め。跪き、頭を垂れろ。ペインプランター』

 

「No.あと、アリナの事はジーニアス・アーティストと呼んで欲しいワケ」

 

 アリナは誰の言いなりにもならない。

 アリナの全てはアリナだけの物だからだ。

 つまり、自分の意思と行動を決める権限は自分自身にしかない。故に自分こそが最善であり、絶対者。

 それは、アーティストを志した頃から決めていた“信念”。今まで揺るぐ事のないポリシー。

 それに、自分は、みふゆ達とは違う。

 マギウスとは雇用関係を結んだ覚えは無く、あくまで協力関係に過ぎない。ギブアンドテイクという奴だ。

 つまり、“彼女達”と自分の立場は対等で、命令される謂れは無い。なのに――

 

『身の程を弁えろ。貴様如き俗物が、プロフェッサーの前で天才を誇れると思うか』

 

 ――“こいつ”は、いちいちうるさいな。

 アリナは、ぷいっと顔を背ける。あからさまな態度で不満を示す。

 

『やはり、永久にアレの創作を押し付けておいた方が適任だと思われますが……』

 

『ううん、490。彼女、アリナ・グレイはフェーズ2に必要だよ』

 

 490と呼ばれた少女より更に幼い女の声が会話に加わる。

 里見灯花だ。

 あっけらかんとしているが、三人の中でもマッド中のマッド――アリナの肩が強ばる。“こいつだけ”は要注意だ。 

 

『それとも、わたくしの決定が不満かにゃー?』

 

『……いえ、全てはプロフェッサーのご意志のままに……』

 

 自分には“虎”だったのに、主に睨まれたら“狐”に豹変する490に、アリナは失笑を漏らす。

 つい先程まで威厳たっぷりだった声も、今では消え入りそうだ。

 

『……確かに、計画のフェーズ2を任せられるのは、彼女しかおりません……』

 

『そうだよ896! 世界を救えるのはわたくしたちと同じ“天才”だけ!!』

 

 ――なにやら、勝手に盛り上がり初めてきた。

 アリナは再びハア、と溜め息を付くと、天に向かって腹の底から不満をぶち撒ける!

 

「それよりもー!! どーしてアリナがコマンダー(実働部隊統括責任者(最高幹部))なのかっ!? 死ぬほど意味不明なんですケド!?」

 

 そもそも、話が違う。

 本来その役目は、みふゆがやると、日秀源道(オーナー)が言っていたじゃないか。

 アリナは常にオンリーワン。コマンダーなどインポッシブル。

 そんなのは、皆をまとめられそうな奴がやればいい。なのに、なんで――

 

『梓みふゆでは実力不足だ』

 

『それに、制作者にアレを直接運用してもらった方が効率が良いから……』

 

 490、896が答えた後、灯花がはっきりと答える。

 

『何より、あなたは人を傷つけることに、躊躇が無い』

 

「ハア? アリナがアナタ達と同じ“マッド”って言いたいワケ!?」

 

 無性に腹が立ってきた。

 酷い誤解だ。

 自分はファミリーもフレンドも、大切に想ってるし、傷つけた事だって一度も無い。

 確かに、それ以外の他人は今まで気にしたことも無いが……だからって、マッドども(こいつら)と同類扱いなんて、あんまりすぎる。

 死んでもゴメンだ。いや、寧ろ死んだ方がマシレベルである。

 

『その指摘は不適切だ』

 

『貴女は私達と同じ“天才”。つまり、選ばれた者であり、大衆を導く資格がある……』

 

 490、896が答え、灯花が問いかける。

 

『ねえ、アリナ=グレイ。今は自分を満足させるためだけに使ってるその頭脳を……』

 

 

 ――――()()()()()()に、使ってみたくは無い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……結局、アリナ・グレイから、良い返事は無かった。

 最後までマギウスに、「NO」を突き付けた挙げ句、「しつこいんですケド!」と怒って退散した。

 

 

 

「プロフェッサー」

 

「うん?」

 

「何故、あのような恥知らずを重用なさるのです」

 

 深淵の空間。

 里見灯花に、白衣を来た少女の一人、490が問いかける。

 灯花は純粋無垢な笑みを浮かべて、答えた。

 

「みふゆじゃ実力不足だって、490も同意してたでしょー? 他にいなかったし。それに、彼女は私達と同じだからねー」

 

「ですが!」

 

「490」

 

 反論の口は、一瞬で閉ざされた。

 灯花の紅眼に睨まれ、490の背筋がぞっと怯える。

 

「…………申し訳ありません。プロフェッサー」

 

「彼女は自らの習性に従っているだけだよ。光に虫が群がるように……素晴らしいと思わない? 彼女は進化どころか目覚めてすらいない……」

 

 そう、全ては“解放”の為に――――

 

 アリナ・グレイの封じられた記憶が呼び起こされた時、何が起きるか――――

 

「想像するだけで、ワクワクしてこないかにゃー? ワルツでも踊りたいくらいに……!」

 

 漆黒の虚空に両手を伸ばし、恍惚に満ちた愉悦で灯花は語った。

 

 

 そう、全てはマッドサイエンティスト(天才科学者)の興の為に――――

 

 

 

  

 

 

 

 




 難産でした。
 これにて、プロローグは終了です。

 来週は本編はお休みです。
 代わりに番外編を描く予定。
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