魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
――――秘密結社・マギウスの翼。回廊。
「…………」
果てしない漆黒の闇の中をみふゆは進んでいた。
向かう先は、アリナ・グレイのアトリエだった場所だ。
本来は、違う目的で使われていた部屋だが、プロフェッサー・マギウスは、“アレ”のデザインを任せる見返りとして、自由に創作をさせていた。
「…………」
進みながら、みふゆはこれまでを振り返る。
一体、自分は何だったのか。
実働部隊統括責任者だった頃は常に気が張り詰めていたが、理想に燃えていた。
魔法少女の解放という未来の為に、必死で働いていた。
個性的な部下が多かったので、コミュニケーションが特に難儀したが、充実していたと思う。
しかし、もう、そんな日々は二度と来ない。
プロフェッサー・マギウスは、目的の為に殺戮を決意した。祖父も同意した。自分はその決定に抗えなかった。
……否、抗ったからこそ、閑職に飛ばされた。
結局は、思い上がっていたのだ。
自分は、祖父の依怙贔屓によって、最高幹部なんて分不相応な役職を賜っていただけ。
能力が認められたからじゃない。
今はもう、何も無い。
諦念だけが心に虚しく残っている。
虚脱感が全身に伸し掛かっているようで、酷く気怠い。足取りも鉛を引き摺るかのように、重い。
「…………」
しばらくして――――。
虚ろの表情のまま、みふゆは、『ガーデン』へと辿り着く。
そこで、暗闇が晴れた。
視界全面に映されたのは、今までアリナが描いてきたと思われる、アート。四方八方、天井一面、床一面まで、摩訶不思議サイケデリックな世界観が広がっていた。
「っ!? ……!?」
「「あっ……!」」
異様な光景に、感動も恐怖も示せなかった。
ただ戸惑うみふゆだったが、不意に声が聞こえたので、振り向く。
「ん?」
「「あ、あの……っ!」」
見ると、オドオドした様子の小さな二人組の少女が、並んで自分を見つめていた。
「あなた方は……」
一目でみふゆは分かった。
先程、コルボーから渡された端末にデータが記されていた二人組の魔法少女である。
「えっと……“ひまわり畑”で……っ、アリナ様の、お手伝いをさせて頂いてました……っ、宮尾しぐれ、です……っ」
「あっ、安積はぐむ、ですっ!」
ライトグリーンの前髪で左目を隠した、見るからにインドア系が宮尾しぐれ。
茶色の長髪をポンパドールにまとめた幼い顔つきで、わたわたとテンパってる方が安積はぐむだ。
元最高幹部様のご到来に、緊張感最高潮で深々と頭を下げる二人に、みふゆは、
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ……。これからは同じ立場なのですから……」
「「えっ!?」」
「こちらこそ、よろしくお願い致します……」
生気の無い瞳を向けながら、穏やかな笑みを浮かべて、二人よりも深々と、頭を下げたのだった。
☆
完全なる黒を、アリナ=グレイはまだ見たことがない。
なお、“世界で一番黒いもの”は、スーパーブラックバードの羽根だ。
光のほぼ全てを吸収してしまう、正にブラックホールそのものだと聞いている。
アリナは、その鳥を知っていたものの、見たことは無かった。
ジーニアス・アーティストを自称する身としては興味津々だったが、パプア・ニューギニアに旅行する機会も無く、半ば諦めていた。
でも……多分、目の前に広がる光景がそうなのだろうと。
黒よりも暗い暗闇。
漆黒よりも深い漆黒。
暗黒の中枢。
――――深淵。
ブラックホールに飲み込まれた者が果てに見る景色とは、恐らく、こんなものなのだろう……。
『聞いているのか、ミス・ペインプランター』
物思いにふけっていると、頭上より叱責が聞こえてきて、アリナ=グレイはハッと上を仰いだ。
天井―そこも一面漆黒だが―の中心に、巨大な組織のエンブレムマークが太陽の如く光輝いている。
聞こえてくる声色は3種。
全員、少女のようだ。
(ずっとクエスチョンだったヨネ……。唯一人の
今、合点がいった。
『プロフェッサー・マギウス』とは、里見灯花個人の事では無いということだ。
彼女以外の声――おそらく、もう2人の
或るいは聖書でいう、
だからこそ、別の疑問が湧いてくる。
何故、灯花は、トップシークレット・エージェントを自分に紹介したのか?
最高幹部のみふゆや、日秀源道でも無く、何故、自分に――?
『聞いているのか。ミス・ペインプランター』
そんなことをボンヤリ考えていると。
先よりも大きな叱責が聞こえて、アリナはふうとため息。
「oh,sorry.三賢人様のご高説は、みふゆの言い訳より退屈だヨネ」
『プロフェッサーの御前だ、口を慎め。跪き、頭を垂れろ。ペインプランター』
「No.あと、アリナの事はジーニアス・アーティストと呼んで欲しいワケ」
アリナは誰の言いなりにもならない。
アリナの全てはアリナだけの物だからだ。
つまり、自分の意思と行動を決める権限は自分自身にしかない。故に自分こそが最善であり、絶対者。
それは、アーティストを志した頃から決めていた“信念”。今まで揺るぐ事のないポリシー。
それに、自分は、みふゆ達とは違う。
マギウスとは雇用関係を結んだ覚えは無く、あくまで協力関係に過ぎない。ギブアンドテイクという奴だ。
つまり、“彼女達”と自分の立場は対等で、命令される謂れは無い。なのに――
『身の程を弁えろ。貴様如き俗物が、プロフェッサーの前で天才を誇れると思うか』
――“こいつ”は、いちいちうるさいな。
アリナは、ぷいっと顔を背ける。あからさまな態度で不満を示す。
『やはり、永久にアレの創作を押し付けておいた方が適任だと思われますが……』
『ううん、490。彼女、アリナ・グレイはフェーズ2に必要だよ』
490と呼ばれた少女より更に幼い女の声が会話に加わる。
里見灯花だ。
あっけらかんとしているが、三人の中でもマッド中のマッド――アリナの肩が強ばる。“こいつだけ”は要注意だ。
『それとも、わたくしの決定が不満かにゃー?』
『……いえ、全てはプロフェッサーのご意志のままに……』
自分には“虎”だったのに、主に睨まれたら“狐”に豹変する490に、アリナは失笑を漏らす。
つい先程まで威厳たっぷりだった声も、今では消え入りそうだ。
『……確かに、計画のフェーズ2を任せられるのは、彼女しかおりません……』
『そうだよ896! 世界を救えるのはわたくしたちと同じ“天才”だけ!!』
――なにやら、勝手に盛り上がり初めてきた。
アリナは再びハア、と溜め息を付くと、天に向かって腹の底から不満をぶち撒ける!
「それよりもー!! どーしてアリナがコマンダー(
そもそも、話が違う。
本来その役目は、みふゆがやると、
アリナは常にオンリーワン。コマンダーなどインポッシブル。
そんなのは、皆をまとめられそうな奴がやればいい。なのに、なんで――
『梓みふゆでは実力不足だ』
『それに、制作者にアレを直接運用してもらった方が効率が良いから……』
490、896が答えた後、灯花がはっきりと答える。
『何より、あなたは人を傷つけることに、躊躇が無い』
「ハア? アリナがアナタ達と同じ“マッド”って言いたいワケ!?」
無性に腹が立ってきた。
酷い誤解だ。
自分はファミリーもフレンドも、大切に想ってるし、傷つけた事だって一度も無い。
確かに、それ以外の他人は今まで気にしたことも無いが……だからって、
死んでもゴメンだ。いや、寧ろ死んだ方がマシレベルである。
『その指摘は不適切だ』
『貴女は私達と同じ“天才”。つまり、選ばれた者であり、大衆を導く資格がある……』
490、896が答え、灯花が問いかける。
『ねえ、アリナ=グレイ。今は自分を満足させるためだけに使ってるその頭脳を……』
――――
☆
……結局、アリナ・グレイから、良い返事は無かった。
最後までマギウスに、「NO」を突き付けた挙げ句、「しつこいんですケド!」と怒って退散した。
「プロフェッサー」
「うん?」
「何故、あのような恥知らずを重用なさるのです」
深淵の空間。
里見灯花に、白衣を来た少女の一人、490が問いかける。
灯花は純粋無垢な笑みを浮かべて、答えた。
「みふゆじゃ実力不足だって、490も同意してたでしょー? 他にいなかったし。それに、彼女は私達と同じだからねー」
「ですが!」
「490」
反論の口は、一瞬で閉ざされた。
灯花の紅眼に睨まれ、490の背筋がぞっと怯える。
「…………申し訳ありません。プロフェッサー」
「彼女は自らの習性に従っているだけだよ。光に虫が群がるように……素晴らしいと思わない? 彼女は進化どころか目覚めてすらいない……」
そう、全ては“解放”の為に――――
アリナ・グレイの封じられた記憶が呼び起こされた時、何が起きるか――――
「想像するだけで、ワクワクしてこないかにゃー? ワルツでも踊りたいくらいに……!」
漆黒の虚空に両手を伸ばし、恍惚に満ちた愉悦で灯花は語った。
そう、全ては
難産でした。
これにて、プロローグは終了です。
来週は本編はお休みです。
代わりに番外編を描く予定。