魔法少女いろは☆マギカ 第2部 RE:Ms.Pain Planter(休載中 第二章一部完結済) 作:hidon
――月の綺麗な夜だった。
このまま死んでもいいくらいに。
FILE-2 #06 紅に染まる二人
――――2018/10/21(水) PM19:30
紅に染まった男を慰める者は、もういない。
「……」
慶治町・新西区にある一見の民家。
その縁側に腰掛け、男は煙草を吹かしていた。年齢は中年に差し掛かったくらいだろうが。
髪は黒の短髪で中肉中背。どこにでもいる平凡な男性のようであった。
「はぁ……」
煙を吐くと自然に顔が天を仰ぎ、夜空に煌々と浮かぶ星空と満月が視界を満たす。
ああ、綺麗だな、と男は思った。やはり憂鬱な時はこれに限る。
煙草の銘柄はセブンスター・ボールド・ブラック。ガツンと来るニコチンと、幻想的な世界が不安や後悔、怨恨といったネガティブな感情を安らいでくれる。
「グッドイブニング」
「……?」
不意に聞こえてくる流暢な英語に、男は振り向いた。
(え……? 誰だっけ……? こいつ)
いつの間にか、少女が目の前に立っていた。
ライトグリーンの長髪が夜風にはためく。先の言葉遣い、鼻が高く色白の顔立ちから西洋人だろうか。年は背恰好からして、中学生から高校生ぐらい……?
雑誌とかテレビで見たことがある。結構有名なアーティストだった筈……。でもなんで、そいつがこんなところに。
男は吹かしきった煙草を地面に棄て、加えた新しい一本に火を付けながら、そんなことを考えていた。
男は全く動じなかった。
自分以外の誰かがここにいて、彼の
にも関わらず、男は冷静だった。
それは彼の心に、“絶望”という自殺的な観念があるからではないだろうか。
これがドラマか映画の世界だったら、俺は少女を見た瞬間に何か危害を加えていたに違いない。
だって俺は呪われたサディストだから――
「Hey Mr.何してるワケ?」
「何って、見てわかんないのかよ?」
随分と図々しい奴だな。
そう思いながら、男は後ろ指で自分の背後にあるものを示した。
少女は座敷部屋に広がっている光景を直視。同時に鼻が曲がるような異臭が漂ってきて、うっと鼻を摘む。
「うっわ、イッツァクレイジー……」
呆然とした風に言いながらも、少女の声色は随分と淡々としているように聞こえた。
彼女が
或いは、ショックで言葉を失い、男に例えようもない恐怖を抱き震え慄くか、慌てて逃げるかするのだろう。
だが生憎、彼女は普通ではなかった。
これは彼女がサイコパスでも、生来感情に乏しい人間性な訳でもない。
「……驚かないんだ?」
「うん、別に」
――――彼女は“天才”だった。
頭の回転が異常に早すぎるが故に、感情が表に出るよりも早く“答え”を叩き出していた。
“これは全て彼の問題であり、自分には関係の無いことだ”、と。
だから、別に驚く必要も無いし、何も問題は無い。
恐怖、混乱、不安といったネガティブよりも遥かに早い合理的な理解と、状況の把握。
故に、少女の心はフラット。要は刹那的、爆速ともいえる割り切りの速さ。
「で、ミスターはこれからどうするワケ?」
「どうもこうも無いだろ。俺はもう
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。どんどん大きくなっていく。
アイシー、アイシー、と頷きながら少女は続ける。
「ふーん。一度終わったってことは……ポジティブシンキングすればこれからトランスフォームできるってワケだヨネ」
「“良く考えれば、何にでもなれる”って?」
「Yes,that's right.そういうこと」
少女の口角がニタリと吊り上がる。
「ねえミスター。もしも、今から魔法少女みたいなパワーが手に入るとしたら、どうする?」
「? そうだな……」
何気ない質問にしては、随分様子がおかしい。
頬を赤らめ、心底嬉しそうなニヤケ顔で尋ねる少女に、強烈な違和感を覚えながらも、男は答える。
「“自由が欲しい”」
――――冗談のつもりだった。
「OK.アリナの
「ハッ、なんだそりゃ? こんな状況で心理クイズか?」
「いいから。answer quickly.さっさと答えて!」
「?? あ、ああ。分かった……良いよ」
「very good! Please listen!」
恍惚の表情を浮かべて、少女――アリナ・グレイは、男に願い出る。
「アリナのアートになって欲しいんですケド!」
「…………」
間違いない――と男は判断した。
(こいつは、狂ってる)
強烈な違和感の正体は恐らくそれだ。この場にいて、俺の後ろにあるものを見た癖に……。
彼だけでなく。
普通の人が今の彼女を見たら、誰もが“サイコ”と断じるだろう。実際、彼女がサイコと揶揄されたことは、これまで幾度もあった。
実際は違う。
アリナ・グレイはただの“天才”だった。
つまり、一般人とは頭脳の作りが根本的に違っていて、いつも一般人とは異なる判断や物の見方をするから、
天才であることを除けば、アリナはファミリーもフレンドも大事にするごく普通の少女に過ぎない。
その事実を知っているものは、もう誰もいなかった。
紅に染まった男を慰める者は、もういないのと同じように。
紅に自らを染め上げんとする少女の内幕を推し測れる者は、もういない。
元は5000字程だったのですが、前半と後半の雰囲気が全く異なるので、2つに分けました。
後半の方は、土曜日に投稿致します。
※補足説明
前話は3ヶ月前の出来事です。
つまり、空白の3ヶ月の間にアリナの中で何かがあった、ということです。