乱数の女神様が微笑んだり微笑まなかったり。
「ど、どうしましょう・・・?」
先ほど届いたばかりの段ボール箱を前に独りごちる玲。
いつかコンビニで
ライオットブラッド1ケース(24本)
まさか当たるとは思っていなかったし、家族もおそらく飲むことはないであろう。
であれば、玲のとれる選択肢は唯一つ。
深呼吸をして、携帯端末を恐る恐る操作する。
サイガー0:今、お時間よろしいですか?
サンラク:玲さん?いいけど、どしたの?
サイガー0:以前一緒に応募したライオットブラッドが当たってしまいました・・・!
サンラク:え?マジで?
サイガ−0:家族にも聞いてみたのですが、飲める人がいなくて、
もし、よろしければ楽郎くんにもらっていただければ・・・と。
サンラク:いいの?なら、ありがたくいただくよ!
サイガ−0:無駄にならなくてこちらこそよかったです。
箱も大きいですし、今度の土曜日にでもご自宅にお持ちしますね。
無事に約束を取り付けた玲は静かになった携帯端末を見つめほっと胸を撫で下ろした。
(まさか楽郎くんのお宅に伺う日が来るなんて・・・!)
嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになった玲は、ぼふん!とベッドに倒れ込み、すっかり赤くなった顔を枕に押し付けてじたばたするのだった。
時間が経つのはあっという間で、約束の土曜日がやってきた。
車を出してもらい、楽郎の家の前で降ろしてもらう。
「髪も服装も・・・変じゃない・・・ですよね・・・?」
身だしなみの最終チェックを終え、ふうと大きく息を吸って、インターホンに手を伸ばしたその時。
「ふひゃあ!!」
「きゃー!」
タイミングよく出てきた彼の妹と
「すいません・・・・・・!!!」
「いえ、私こそ勢いよく飛び出したので・・・って、もしかして『玲さん』ですか?」
「ひゃい!」
「兄がいつもお世話になってます。」
「ら、陽務くんと同じ学校の、しゃ、斎賀っ玲ともうしま・・・しゅ!!」
・・・・・・・・・・・・・思い切り噛んだ。
おそらくポカンとしているであろう瑠美の顔をまともに見ることもできない。
穴があったら入りたい。いやもうむしろ消えたい。
これ以上、失態を冒すわけにはいかない。
楽郎くんに会えないのは悲しいけれど、さっさと届け物を済ませてしまおうと思った矢先。
「兄から連絡ありませんでした?」
「・・・・へ?」
慌てて携帯端末を確認してみたが、特に楽郎からの連絡はない。
というか玲にとって、楽郎からの連絡は最優先事項に当たるので見逃すことなどあり得ない。
「多分、兄に用事があっていらっしゃったんですよね?」
「は、はい。届け物があって、今日伺うと伝えていたのですが・・・?」
「やっぱり・・・!実は、昨日から熱出して寝込んでるんですよね〜。昨日『玲さんに約束ずらしてもらえるか連絡しなきゃな・・・』って呟いてんですが、伝わってなかったんですね。」
さっきまでの自分の失態など、途端に些末なことに変わる。
ただ彼が心配で、反射的に玲は瑠美に問いかける。
「楽郎くんの具合は大丈夫なんです・・・かっ?!」
必死な形相の玲を見て、瑠美が「そういうことかぁ・・・!」と呟いて、玲のためにひと肌脱ぎましょ!と勝手に盛り上がったのを玲はまだ知らない。
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「なぜ、こんなこと、にっ・・・?」
玲は未だ自分の置かれている状況を飲み込めないでいた。
目の前にはすぅすぅと寝息を立てている想い人。
事の顛末はこうだ。
なぜか異常にテンションの上がった瑠美が、一応病人なので家にいてあげたいが、生憎これからバイトで家を空けなければならない。
1時間もすれば母親が帰ってくるはずなので、大変心苦しいがそれまでの間、兄についていてほしい(要約)と捲し立て、断る間もなく部屋に押し込まれてしまった。
想像していたよりも片付いた部屋を見渡す。
特別仕様のVR筐体と棚に並ぶゲームソフトの数々。そのどれもが知らないものだったり、玲にはクリアできなかったタイトルばかり。
岩巻さん曰く、脳みそにクソゲーカセットがブッ刺さっている楽郎と少しでもいいから接点が欲しくて購入しては挫折して、落ち込んでたのが懐かしい。
きっかけを求めて闇雲に探し回り、伸ばした手は今、ちっぽけだけれど確かに楽郎という光に届いていた。
(諦めなくて、よかったー)
そんなことを思いながら、ベッド脇に腰を下ろす。
楽郎はよく眠っているようで、特に目を覚ましそうな様子はない。
「らく、ろうくん、よく眠って・・・ますね・・・」
寝顔を見ているうちにうるさかった心音も静かになる。
状況から考えればパニックになってもおかしくないのに、不思議と落ち着くのはなぜだろう。
平静を取り戻した玲の耳に聞こえてくる雨の音。
サーーーーーーー・・・
視線を外に向けると、初めて彼を見つけたあの日と同じような天気雨が降っていた。
静かな部屋で聞こえるのは穏やかな寝息と優しい雨音。
まるでこの部屋が世界から切り離されたような感覚。
「本当は
そっと眠っている楽郎の手に触れ、届かないと思って吐露した気持ち。
だったのに。
「・・・・・玲さん?」
乱数の女神様は意地悪だーーーーー。
このタイミングで楽郎が目を覚ましてしまったらしい。
「こっ、これは・・・・!!事故っ!というか!あの!ちが、くて・・・!」
「俺も一緒にいると楽しいし、頼りになるし。」
「一緒、というのは、ですね!他意はっ!なくて!その・・・・」
「だから・・・これからも玲さんさえよければ?」
触れた手が握り返され、大好きな声が、自分の名前を呼んだ。
「くひゅっ!!!!!!!!」
前言撤回。
乱数の女神様はいつだって微笑んでくれている。
リアル食いしばり発動。
HP1の玲が這うように部屋から出ていったのと、なぜか笑顔の楽郎がもう一度眠りについたのは、ほぼ同時のことだった。
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雨の音に混じって、玲さんの声が聞こえた気がした。
でも、ここは家でしかも俺は自分の部屋で寝ているので、玲さんがいるわけがない。
寝る前にメール送ったりしてたし、そのせいで夢に出て来たのだろうか。
「はは、夢の中でも玲さんバグってたなぁ」
体を起こして、まだぼんやりする頭でさっきまで見ていた夢の内容を思い出す。
妙に再現度の高い夢だったなぁと思いながら、寝起きの乾いた喉を潤すため1階に移動した俺は玄関に置いてある段ボール箱に気づいた。
「母さーん、なんか荷物きてるけど?」
「それ、斎賀さん?っていう子があなたに届けにきたのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「私が外に出てる間に瑠美が会ったらしくてね、寝込んでるあなたが心配だからって私が帰るまで留守番してくれたのよ」
「・・・・・・・・・・」
「さっき、入れ替わりになって帰っちゃったけど、すごく慌ててた感じでゆっくりお礼も言えなかったから、楽郎からも改めてしっかりお礼しておいてね」
ちょっと待ってくれ、状況が飲み込めない。
玲さんがうちに来るのは明日だ。
仮に何か急用があったとして、真面目な玲さんのことだ、何の連絡もなしに突然押しかけるようなことはしないだろう。
と、すると考えられる選択肢は唯一つ。
「日程変更のメールが・・・送られてない・・・・?」
慌てて部屋に戻って携帯端末を操作すると、俺が寝る前に送ったはずのメールは「未送信」のままだった。
・・・・・・・・・やらかした。
汗でボタンが押せてなかったのか、それとも熱でボーッとしてて送ったもんだと思い込んでたのか。
いやもうそんなことはどうでもいい。
問題は、さっきまで夢だと思っていた一連の出来事が全部現実だったということだ。
「だあああああああっっっっ!!!?何やった、俺!!??」
雨の音に混じって聞こえた、かき消されそうな玲さんの声が魔法みたいに心地よくて、軽率にシャンフロのことだと思い込んで答えた自分の言葉に下がったはずの熱が戻ってきて、顔が赤くなる。
だって、玲さんみたいな可愛い人が、理由もなく一緒にいたいだなんて俺に言うとか、夢でもなければおかしいし、いや仮に夢だとしても・・・・ちょっとまて俺。
「俺、玲さんのこと無意識に可愛い人だなぁって・・・思ってたわけね・・・」
思考が僅かだが冷静さを取り戻す。
気づいてしまった事実を俺は素直に認めるしかないのだ。
「・・・好きなんじゃん、俺」
くくっと小さく笑いながら、これからのことを考える。
とりあえずお詫びとお礼のメールを送らなきゃだな。
「明日、改めてちゃんと返事させてくれるかな、玲さん」
素面の俺の返事を聞いた玲さんが盛大にバグって熱を出すのはまた別の話。
「玲さんってあれじゃん!お兄ちゃんが服まで新調してJGE一緒に行った人じゃん!!しかもすごく好かれてんじゃん!!仕方ないあの
こんな感じでいい仕事した瑠美さんGJ
ちなみに楽郎が玲さんの手を握り返したのは、単純に反射的なやつですが、その後普通なのは「まぁ夢だし、いっか!」と思ってるからです。
無自覚ゆえのモーションで玲さんにクリティカル入ってますけどね(のちに自分にも跳ね返る)