ジョウ100〜成仏するために消したい100の未練〜 作:リビングデッドの歌声
ゾンビを殴る上で、重要なこと。
それは勿論、相手の習性を知ることだ。
奴らは周囲のゾンビが襲われると、好戦的な個体以外は大抵逃げる。散り散りになられると、こちらもその分走ることになるので面倒だ。
なので、『誘い出して』殴る。
もしくは『どれだけ逃げられても関係ないくらい沢山いる場所へ出向いて』殴る。などの方法が有効だ。
そしてそれらを併用すれば、より確実である。
では、『誘い出す』ためにはどうすればいいのか。
『沢山ゾンビがいる場所』とはどこなのか。
『場所』に関しては、考えれば分かる。
ゾンビは元になる生物が確実に存在するのだ。そしてその多くは人間である。つまり『都市部』だ。今私が居る『新宿』などが該当するだろう。
『誘い出す方法』についても、考えればいくつか仮説を立てられる。後は実際に実験・観察して確かめればいい。
ゾンビは人を襲って食べる。これは実験するまでもなく、嫌でも何度だって視界に入ってくる光景だ。……たまにカラスも食べられてるので、正確には『生き血』『生肉』を狙っているのだろう。
つまり奴らに『生物がいる』と思わせることができれば、ゾンビはその方向に引き寄せられていく──と、予想ができる。
経験上、奴らは音に敏感で臭いに鈍感。
臭いに反応しにくい理由はおそらく、既に外界が自分達の血と腐肉とその他諸々の悪臭で満ちているから。
そして『音』については、特に『不自然の音』に敏感だ。臭い同様、常に外界で満ちている『うめき声』のような『低い音』には意外と鈍い。
──よって
「…………ふむ。しかしこれは
車が燃えている以上、中に人は居ないのだろうが……。
私のようにゾンビを積極的に減らす勢力がいるのだとして、こんなひらけた場所では……ゾンビを集めたところで、効率良く一網打尽にする方法は思いつかない。車を爆破する程度では焼け石に水だ。
「──ん?」
水音。他のゾンビは派手なクラクションばかり気にして全く気にも留めていない──車のすぐ近く、『Hotel Z』という看板のある場所から、ずぶ濡れの人間が出てきているというのに。
「──よし」
「…………なんと」
いやいや、何も『よし』じゃないと思うのだが。自分がどれだけ大勢のゾンビを引き寄せたか、解っていないのか……? あっ、車が爆発した。そして青年が、慌ててホテルに入っていく。
「『物資の補充』が目的ってワケじゃ、ないですよね……」
本当に読めない。何をしたいのだろうか、あの人は。
「……まぁ、いいでしょう。『袖振り合うも多生の縁』です」
ちょっくら、助けてやるとしよう。自殺志願でもない限り、命は惜しい筈だ。
*
「──ごめんケンチョ!!
お前が言ってた通り、あんな会社すぐに辞めればいいだけだった!!!
なのに俺は、お前のアドバイスに耳も貸さないで……! 楽しそうなお前に嫉妬して、イライラして、八つ当たりしてっっ!
友達なのに……!! 本当に、ゴメン!!!」
「……お前……そんなことを伝えるために、わざわざ……?」
「うおおんそうだよおおおお!! ホントにごめんなあああああ!!!」
「い、いや……なんつーか、俺の方こそ……スマン」
「なんだよおおお! お前が謝るコトなんて何もないだろおおお!?」
「…………いや、実際……自分でも、俺は嫌な奴だったと思うよ。ベラベラ自慢話ばっかして、見栄っ張りで……」
「そんなんもう気にしてねえよぉ!!」
「…………そうか」
「──よっし!!! 言いたいことも言えたし、さっさとこんなとこ出ようぜ!? ケンチョ!!」
「……あぁ、そうだな!」
「────で、無警戒に入ってきた扉から出てくると……危機意識が足りていないんじゃあないですか? お兄さん達」
「「…………え??」」
「その様子だと、『
「……なぁアキラ、これは俺の幻覚か?」
「……いや、たぶん俺も同じのが見えてる」
まず、『赤』が印象的だった。
返り血の血化粧で全身を染めた、修羅。特に拳は、今も鮮血が滴っている。
しかし顔立ちは整っていて、ゾンビ特有の浮き出た血管や傷などは極端に少なく……生前の美しさが損なわれていない。目蓋さえ閉じていれば、非感染者との区別はつかないだろう。
その美しい修羅の背後には、屍山血河があった。
全てが、元ゾンビではあるのだろうが……。
俺がケンチョと話して出てくるまでの短い間に、どれだけ暴れたのだろうか。今の慇懃な雰囲気からは、想像もつかない。
──『分からない』というのは、とても恐ろしい。
「あぁ、安心してください。私が殴るのはゾンビだけです。余程の悪人でもない限り、生存者は殴りませんよ」
「……信用できると思うか?」
「信用はしなくていいですよ
「──ッ!? テメェ、どうして俺の渾名を!?」
「いやどうしても何も、アキラさんがさっき叫んでましたし」
「あ」
「あぁ……」
なんとも言えない空気を断ち切るように、修羅が「コホン」と咳払いをする。
「私がここで暴れず、ゾンビを散らしてなかったら……今頃このホテルは、ゾンビの鮨詰めになっていましたよ?」
「……それは、たぶん本当なんだろうさ。
──で、アンタの目的はなんだ? 俺達を助けて、その見返りに何かしろってことなんだろ?」
「いえ、別に要求とかありませんが。気まぐれに拾える命を救っただけなので……」
「「…………」」
再び気まずい空気が流れ、その沈黙を破ったのも同じく彼女だった。
「……しかし折角ですし、一つお願いをしましょうか」
反射的に身構えた俺達に向けて、彼女は「とって食おうというワケじゃない」と前置きする。実際彼女の頼みは、そう難しいことではなかった。
「バイクの乗り方、教えてくれません?」
これが俺達と『喋るゾンビ』──『