ジョウ100〜成仏するために消したい100の未練〜   作:リビングデッドの歌声

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四頁目:『帰ろう』

 

 東京某所。某ビル屋上にて。

 一斗缶に詰め込まれた焚き木が燃え盛り、文明の消えた夜闇を原始的に照らしていた。

 

「なー、クオンって軍人の家系か何かなの?」

「いえ、ごく普通の母子家庭で育った一般ゾンビですよ?」

 

「どっからツッコめばいいんだこれ……?」

 

 喋るゾンビ(クオン)と出会ったその日に打ち解けている親友(アキラ)の適応力に驚けばいいのか、『一般ゾンビってなんだよ』と言えばいいのか、『日本に軍は無いぞ』とガチレスすればいいのか……。

 難問を前に憲一朗(ケンチョ)は天を仰ぎ、缶ビールを流し込んで思考を止めた。

 

「いや、お前ツッコミじゃなくてボケ担当だろ。裸芸人なんだから」

「黙れ天然ボケ。このメンツで俺がボケに回ったら、ブレーキが無くなるだろうが。それと『裸芸人=ボケ』とは限らねぇし、裸芸だけが俺の技ってワケでもねえよ」

「…………? おかしいですね……私お二人の前で、そんなにアクセル全開な言動してましたっけ……?」

 

「……ケンチョ、絶対俺よりクオンの方が天然ボケだと思う」

「ノーコメントで……」

 

 『一日百体ゾンビを殴る』日課があると公言している時点で、彼女の『言動(発言と行動)』はアクセル全開(ぶっ飛んでいる)評し(言っ)ていいだろう。

 ……しかし『そこ』以外は基本常識人(マトモ)なのが、ややこしいところだ。

 

 ──『埼玉にある実家へ帰り、家族の安否を確認したい』

 

 彼女がバイク(自動二輪車)を求めたのは、そういう(ワケ)らしい。

 ……となれば、『リスト』に『実家で親と過ごす時間を作る』と書いている(アキラ)が彼女に仲間意識(エンパシー)を抱かない道理(ワケ)もなく。二人はすぐに意気投合したのだ。

 

「しかしクーさんよ……本当にイイのか?」

「……? 何がです?」

 

「『群馬まで、お二人(俺達)を護衛します(してくれる)』っつー話のことだよ」

 

「あぁ、そのことですか。今のところ、発言を撤回しなければならないような理由はありませんが」

 

「……まぁ、本人が『問題ナシ』ならイイんだが」

「…………埼玉まででもイイんだぜ? クオン」

 

 位置的に、埼玉県は群馬県への道中にある。その先まで、彼女が同行する理由はない筈なのだ。

 

「…………ゾンビが現れてから、もう何日も経っています。実家が今も『家』としての機能を果たしているとは、思っていません。

 家の中に伝言が残されていれば万々歳。逆に、最悪の場合でも──この手で弔いを。

 ……いずれにせよ、一分一秒を惜しむほど差し迫ってはいないのです。……その段階は、もう過ぎ去ってしまいましたから。

 なので私は、貴方達の安全を確保して、スッキリしてから……心の準備をして、帰ろうと思うのです」

 

「……そうか」

「……ありがとな」

 

「お礼はご実家に着いてからで結構ですよ。

 ──対価は、『戸加下久遠(わたし)』という『(シカバネ)』を忘れないでいてくれたら……それで構いません」

 

「無欲だな……」

「……忘れようと思っても、忘れらんねぇよ」

 

「ふふっ。では現時刻をもって『契約成立』……ということで、問題ありませんね?」

 

 肯定の言葉が二つ、静謐(せいひつ)な夜を彩った。

 『パチパチ』と(はじ)ける薪の音が、拍手の代わりに──三人の(えにし)を、祝福しているようだった。

 

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