雪の降る季節、冬になると手が悴んでとても冷たく感じる。
日向の方へ向かうと、いつもの時間にいつもの場所で、ホライゾンが死んでしまったあの日の翌日にこの武蔵にやって来た女の子。
グレーテル・真桜が待っていた。
「(やっぱり、きれい)」
正確には、待っていたと言うよりは【舞っていた】。
その様子をわざわざ朝早く、その日だけ早起きをして眠たい気持ちを抑えながらも、彼女の舞をひたすら耳で聴き取り感じる事に専念する。
少女。向井 鈴は目が見えない。その代わりに聴覚が発達し、更には耳につけている音鳴りさんによって準バハムート級航空都市艦『武蔵』。
その艦橋の中心に居ればほぼ全方位三十キロメートル近い距離を知覚出来ているのが、【武蔵の至宝】と呼ばれし彼女…向井 鈴その人である。
真桜が舞をひたすら踊る。だと言うのに息切れ一つせずに、降る雪すらも舞…名称、【
術式を極める事は引き算を極める事であり、本来は呪詞、掌印など、術式を構成、あるいは発動させるまでの手順をいかに省略する事ができるかで術師の腕は決まり、学生時代の友人も呪詞と掌印の省略について触れている。
しかし彼女は一切を省略せず、この創作術式を儀式という形に昇華させる事で常に120%の効力を得たり与えたりする事が出来ると教えてくれた(正直、呪詞やら掌印やらは分からなかったが)。
すごいと思った。彼女が自身で創作術式を作ったと知って、でも浅間神社を始めとした人たちはそれに酷く腹を立てて怒ってたというのに、当の本人はどこ吹く風で逆に「暇じゃ無いんで」と煽り返す始末。
「(でもなん、で、だろ? 何か、悪いこと、したの、かな?)」
「気になりますか?」
「ひゃ!!」
気づけばいつの間にか舞を終えてこちらに来ていた真桜が、鈴の目線に合わせるために膝立ちしていた。
「こんな寒い日にそんな格好ではお風邪を召しましょう。これをお使いなさい」
「わ、あり、が、とう。真桜、ちゃん」
「いいえ。お気になさらず……あとちゃん付けはおやめください」
テキパキと自身にモコモコの上着や肩掛けをかけられる。
その間にも「全くもう」やら、「そんな格好で来て」やら、お小言を溢しながらも暖かくなる様に手を摩ってくれる。
「毎度のことですが、無理に起きて来なくて良いんですよ?
冬場は寒い上に場所によっては雪も降り積るやもしれません。貴方がそれに付き合う理由など、無いのですよ?」
「う、ん。でも、とっても、き、れいだった、よ?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ」
呆れた様な、返事の様な、曖昧極まる返しではあれど、鈴はそれが嬉しかった。
彼女と仲の悪い人物は多い。それこそクラスメイトの浅間 智に、キヨナリ・ウルキアガも、宗教観の違いで衝突が多い事を武蔵の誰もが知っている。
「いえ、話が逸れましたね……えー、そう。ぶっちゃければ身共の創作術式は既存の術式とは大きくかけ離れているんです」
「かけ、離れ……?」
「ええ。普通の創作術式は流体を加工し使用する術式の一つ。
詳細は省きますが、使用者が創った術式を契約する神社に登録し、使用する際に地脈接続して呼び出すもの。
1.「創作」術式と言っても完全なオリジナルではなく、神道に元からある術式をアレンジする。
(ノリキの術式であれば、相手の術式を壊すための術式といった具合)
2.作ってもこの術式は神社として、神道として実行しても良いか審査がある。
(違法な術式の作成を防ぐため)
3.管理者が居る。(神社関係の第三者など)
と、大まかに分けるとこんな感じですが、ここまでは良いですね?」
その問いに頷き返す。
「Jud. だいじょ、ぶ」
「ですが、身共の創作術式は神道もへったくれもない一点物で、神社関係者などを百%ガン無視で作ったものです。
「でも、そ、れって」
「……そうですね。そもそもが無神論者ですし、目で見て信じる派ですし居てもいなくても頼る気無いので居る意味ありますかって話、だからこそ通神とか使えないんですけど、別に構いませんし、なにより」
嫌われるのには慣れてますと告げる彼女に、違う。そう言いたかった。
自分の知る彼女は、とっても強くて、とっても優しい人で。
今もこうして風邪をひかない様に寒くないように、術式を使って買って来てくれたお茶をくれて、他にもたくさん。
たくさんの優しさをくれた。
わざわざ他人に嫌われる様な発言も、誰かの為なのだと知っているから、だから──。
「わた、し。真桜、ちゃんが、大好き、だよ!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はぁ」
本日二度目のはぁ。
ありありと伝わってくる「もういいや」感がとても凄かった。
そんなことはつゆ知らず、鈴はただ自分で言ったのに恥ずかしがって照れている。
そんな姿にすら呆れを通り越して「もういいや」と思うことにした。
「ほら、そろそろ修道……じゃなく、教導院に行きますよ。しっかり掴まってくださいな」
やっぱり優しい。元々、鈴の身体能力は高くは無くむしろ貧弱と言ってもよく、転けただけでも怪我をしかねないほどに弱いと自信を持って自他ともに言う事が出来る。
なんならこの武蔵において総長兼生徒会長であるあの【
それを知っているから、背負ってくれようとする。
「Jud. お、願い」
「では【蒼】で跳びます」
「……っあ、待っ!」
その日、今日も今日とて
どうもお餅です。今回は二つ程
次は本編3話くらいにブラザーの術式を解禁する。目指せ三千字!!
誤字脱字があったら教えてくだちい。