今日という日を持って、
たとえそれが親しき友の終わりで始まる、
業を背負いて、歩くのみだと笑うのだ。
《配点》「どう足掻いても地獄ですね」「違いない」
その日、黄昏れ時の時間帯……人影が静かに立って居た。
「総員、それぞれの状況を開始しなさい」
指示と呼ぶには少々雑に過ぎる言葉ではあるが、それ故に動きは早かった。
街中を、森の中を、山の中を駆け回り、所定の位置にて待機する自動人形たち。
三河消失事件、その序章が産声をあげた。
一人、また一人、静かな夜に息を引き取る。
「こちらB2-P3担当、非常に宜しい結果と判断できます」
『こちらB1-P3担当、同じく』
それを行う張本人達は、何の感慨も浮かべずにその場を後にする。
その速度は常人の比ではなく、異常ともいえる速度で駆け回り目的の半分を超える成果を叩き出していた。
「やはり真桜様の術式をお貸し頂いて正解でしたね、作業効率が段違いに進んでいます」
「アイツ所々でイカれてんだか天才なんだか分かんねえ奴だしなぁ……」
「それでも良いのでは?」
「……まぁ、そうだな。我らは我らの仕事をする。んでアイツはアイツの仕事をする。そんであとの事を全部丸投げすりゃ終わりだ」
「……真桜様には、苦労をおかけする羽目になりますね」
鹿角の言葉に、確かにと納得する忠勝は「あの餓鬼、いつかハゲんじゃねぇの?」と密かに思える仕事量をこなしていたのを知っている身としては、ちょっと可哀想な事したかなとか思う。
「(いや待てよ? そういえば我、あのクソ餓鬼に散々ボコされた事あったよな?……やっぱ可哀想じゃねぇやザマァみやが)ッテェ!!!?」
「何だか蹴った方が良い気がしましたが、正解だった様ですね」
「ふざけんなお前マジで、イッタ! マジでイッタイわふざけんなお前」
「ハッ! 何の話か分かりませんね?」
真面目になりそうな雰囲気から一転、ぐだぐだ極まるやり取りが始まった。
自分の主を蹴る鹿角然り、自分の侍女に蹴られる忠勝然り、コイツら真面目にやると死ぬ病気にでもかかってんのかってくらいに本筋から脇道に逸れまくるなオイ。
閑話休題
「さて、馬鹿話はコレくらいにして、そろそろ真桜様が仰った
視線を向けた先には、武神二機を先頭に多数の戦闘員が押し寄せて来ていた。
先んじて真桜から聞いていたのと同じ、おおよそ一個小隊と思しき人数を伴って。
「マジでアイツ何なん? 先読み得意ってよりかは未来予知っつった方が正しくね? 気持ち悪いくらいにドンピシャで我引くんだけど」
「はいはいそうですね。そのお陰で都合数十回もボロ負けしておりましたね忠勝様は」
「おい狡いぞそれ禁止カードだろ!! てか負けてねぇし? 引き分けに持ち込んだだけだし? まだ決着着いてねぇし!??」
「その言い訳が酷く哀れであり墓穴を掘っている事に気付かないとは、惨めですよ忠勝様」
「……今だから聞くけど、お前って基本的に目につく全てを舐め腐ってるだろ」
「ハッ! 今更すぎて笑えますね」
「認めたどころか開き直りやがったよこの野郎」
つか何だその笑い方、すげぇ腹立つ。
真桜様に教えて貰った甲斐ありですね。
元凶アイツかよ。
「ハァ……そろそろ参りますか」
「だな、いつまでも駄弁って時間無駄にする訳にはいかねぇよ」
一歩踏み出し笑ってみせる。
《配点》大人の覚悟
「始まったね」
「えぇ……思えば長くもあり、短くもあり」
「今日の為だけに準備をし続けたからね、あっという間だったよ」
赤く燃える聖連の詰め所を遠くから眺める二つの人影があった。
片や極東武蔵が誇る現最強、グレーテル・真桜。
片や
此度の事件、その黒幕と言っても過言ではないほどの策と道具、移動ルートの確保をして三河の地から自動人形と自分たち以外を避難させた。
「ふはっ、くふふふふふっ!」
「?……どうかしたかい?」
「いいえ、何となく、そう。何と無しにこれで終わりなのだと思ってしまって」
「確かにそうだけどね。これが新しい始まりに、新しい未来を作るきっかけになるんだ」
こんなに誇れる事は無いさ。そう微笑む松平は夜空を見上げる。
後悔が無いといえば、少なくとも若者達に背負わせてしまうモノについて申し訳ないと思う。だがそれが無ければただ何も出来ずに世界が、文字通り全てが終わってしまう。
「だからこそ、あとは任せたよ」
「御安心を、重たい尻を引っ叩いてでも働かせますから」
「……やっぱり君をお嫁さんにする人は苦労するんじゃごめんなさいごめんなさい!」
「まったくもぅ……にしても、凄いですねコレ」
軽口を叩く松平公に向けて拳を握れば、雷よりも早く謝罪を口にする姿を見て溜め息を吐いて、立ち昇る流体を見上げる。
「流石の
「じゃあ残りの五割は?」
「もちろん
「それ、だいぶヤバいやつだよね? ここで君が死んだらこの後が凄く困っちゃうんだけどなぁ〜???」
「
「なら良いんだけど、本当に頼むよ?」
心配性だと思いつつ、まぁ教師だしと改めてから前の景色に再び目を向ける。
少なくとも人間が持てる量の流体ではないが、この地脈を捨てるのは些か惜しい気がしなくもない。
「(でもそうしないと話進まんしなぁ……面倒極まり無い)」
さて、ここで突然なのだがこの『グレーテル・
彼女の産まれは武蔵ではなく、どちらかといえば名も無い野山の中にある小屋で意識を取り戻した。生まれ変わったのもその時に気づいた。
ズキズキと二日酔いの様に痛む頭を抱えて、何とか現状の把握に努めた彼女はまず小屋の中を探索し始めた。
そこには多種多様な文献や資料が所狭しと棚の中に本として詰められており、古いのから真新しいものまで順繰りに置かれていたことから、何かの手掛かりになるのではと読み漁る事にした。
結果は知識が増えただけであって自身に関係するアレコレは無かったわけだが。
「ふむ、『流体』を加工し使用すると術式が使える。
詳細は不明だが、使用者が創った術式を契約する神社に登録し、使用する際に地脈接続して呼び出す……次いで、代演なるものを
この娘、神嫌いであった。いやまぁ嫌いだといえども全部の神を嫌っている訳では無い。
ただ、こう、何というか。普段は請い願っても助けなんぞ寄越さないクセに、物貰ったから「はいパワーあげるね?」とかふざけてんのかって思うんだよ。
あと自分知ってる。神様って基本ろくでなしだって事を。
そんなこんながあった為に、神道だの
とはいえそれを他人に押し付ける気は毛頭無く、人は弱いから縋るものがなければ生きられないというのも知っている。自身からすれば酷く惨めな、それこそ人様には言えないことを内心で思うことが多くあった。
知恵を付け、食事に気を遣い、体力と技術向上のため鍛練を繰り返し、術式の作成に勤しむ。凡そどころか全力で女とは呼べない生活をして生きて来た。
そんな時に出会ったのが本多・忠次率いる四天王だった。
まぁ……、その時はTHE・野蛮人というか、一時期野生の獣みたいな精神に堕ちていたので四天王と
「それじゃあ、そろそろ流体炉がヤバくなってきたから早めにね」
「えぇ、なんだか寂しくなりますね」
「君、そういうの気にするタイプ「殴るぞ」OKごめんね」
本当にくだらない話だなんて、そんな事は分かってる。
でももう会えないから、もう話すことも出来なくなるから、一秒だけでも良い。なんならコンマ数秒だけでも良いから────。
「松平・元信公」
ばさりと羽織をはためかせ膝を突き深々と頭を下げそう呼ぶ声は、雑談をするでもなくおふざけでもない。
正真正銘、真剣な声だった。
だからこそ、松平・元信は真剣に返す。
「何かな? 極東アリアダスト教導院所属、番外特務兼副総長代理。グレーテル・真桜君」
大きくなったと感じる。物理的に言えば、身長は自身の倍……少なく見積もっても2メートルは確実にある背丈に加えてその戦闘センスと技術力を持つ彼女と出会って、もう数年も経つのかと。
発想力は武蔵の民を総じてもなお足らぬ程、物作りの才にも恵まれもひたすらに努力を怠らないその精神力。
本当に子供かと思える様な発言の数々に度胆を抜かれた事は数知れず、特に大総長と呼ばれた生徒のセクハラを何度も拳という形で制裁が行われるなんて日常茶飯だった。
────本当に、大きくなったね。
「此度、今日この日に至るまでの日々。
貴方様含めた三河四天王の皆々様方と出逢えました事を。このグレーテル・真桜生涯の宝といたます。
何の御恩も返せぬ不孝者では御座いますが、御身の願いを叶える為、我が全ての知恵と力、そして才を惜しみ無く奮わせて頂きますことをお赦しください」
「あい分かった。
そして気にすることはないよ、真桜。
確かに私はここで死ぬ。しかしてそれは始まりに過ぎず、新たな時代。引いては世界を救う一歩に繋がるのだから。
その為には君の力が何よりも必要不可欠なのだ。
だからこそ命じよう。────世界を救え!」
「
ここまでご覧頂きありがとうございました。
真桜ちゃんと元信らの関係をちょっと入れて見たかったのと、真面目にやるとこんな感じかと思い書かせていただきました。
次回、「別れと始まり」
誤字脱字、あったら教えてくださいね。