人妻ではなく、未亡人でもありませんよ   作:お餅もっちもっち

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 前回の予告、嘘よ! 今回は幕間物語にございます。

 ホライゾン(P-01s)視点のお話になりますので、本編とはあんまし関係無いかと思われますが、それでもよろしければご覧ください。

 あと話が長くなりました(原作カップリングの方は申し訳ねぇ)

 誤字脱字がありましたらご連絡下さい。……下の後書きにある予告がマジっす。





幕間【境界線上の貴女に】

 

 

 それはある日の事だった。

 グレーテル・真桜様に拾われ、お世話になって数ヶ月と早く日々が過ぎて行く。

 最初はあちらこちらに話を通して、戸籍の確認等を行いP-01sの住所や親族などを調べて頂いたものの、家もなく家族も居ない。

 何も分からずじまいでその日が終わろうとしていた時に真桜様が、そういえばと思い出したように言い出したのがキッカケでした。

 

 

「ちょうどですが身共(みども)の家が広いような気がしてまして、貴女が良ければですが、その……住んでも、良いんですよ?」

 

 

 そのあまりのツンデレ気味な言い方に対して断るかどうか、少し悩んだものの……いえ、実際に断ろうと思っていましたが、その横顔を見てしまった時には申し出を受けていました。

 

 さて、話は最初に戻ります。一緒に住むことになってから数ヶ月が過ぎて段々と家事や仕事が身に付いて来た頃のこと。

 いつもならP-01sよりも先に起きられて朝食を作って居られるはずの家主……グレーテル・真桜様がいない事に疑問を感じてお部屋にまで来たその時。

 

 

「………っ、…………あ……ぅ」

 

「………………………真桜様?」

 

 

 部屋の中から、ほんの少しだけ聞こえて来た声の様子がおかしいと思い中に入ると、布団に包まる真桜から小さな嗚咽が聞こえてきた。

 急いで駆け寄ると、まるで赤子か幼子のようにギュッと頭を抱える様にして毛布を掴んでいた。

 

 

「真桜様……真桜様?」

 

「ぅあ………………っ、う………………」

 

「大丈夫ですか、何か、ございましたか?」

 

 

 何を言っても話しかけても反応が無く、ただ静かに泣きじゃくる真桜の姿は初めて見るものだった。

 今日は仕事の日だったが、流石にこのまま放置は出来ずに青雷亭(ブルーサンダー)の店主に、世話になっている家主が体調を崩してしまったという事で(店主様と真桜様は仲が良いので)快くお休みを貰い、真桜様が通う教導院の方にも連絡を入れ体調不良の為お休みするという旨を伝えた。

 

 その際、担任と思しき方が大笑いをして体調不良が嘘である事を見抜かれ、何があったのかを説明する様に要求されました。

 とはいえ全てを語るわけにもいかず、かと言って話さねば済まない状況になってしまい、やむを得ず説明。納得はしてもらえた。

 

 

「(ただ、終始無言だったのが気がかりですが……)」

 

「ぁぅ………」

 

「(ようやく泣き止みましたね、泣き上戸というやつでしょうか)」

 

 

 いやそれは酒飲んだ時のやつ。しかしそんなことをP-01sが知るよしもなく、それよりも朝から何も食べておらず時既に昼の時間だった。

 通神が終わってからずっと宥めつつ、今やっと泣き止んで寝付いたのでその隙に食事の支度をしている。

 

 とはいえ調理中に考えるのは真桜の事。

 

 

「しかし、一体なぜ泣き出したのでしょう。真桜様が恐れるものなど無さそうですが、そうでなくては泣きじゃくる様な事はない筈」

 

 

 脳裏に浮かぶのは、基本的に唯我独尊を地でいくのがグレーテル・真桜という存在。

 神道、旧派も何するものぞと全力で突っ走っては喧嘩を真っ向から売っていくスタイルを崩さず、その度に浅間神社の娘「浅間・智」と相対を行い勝利を捥ぎ取り高笑いをする。

 

 要するに我が道を行く人物というのが真桜である───だが。

 

 

「真桜様とて、恐れる物があるのですね」

 

「……当然でしょう? まだ人間やめてませんよ」

 

「あっ……お加減は宜しいのですか?」

 

 

 手すりを掴みながら階段を降りてくる家主の姿に安堵を感じるも、やはりどこか足取りが覚束ない。

 近付いて自身よりも大きな身体を支えて、近くのソファへと歩く。

 

 

「ごめんなさい。無様を晒しましたね」

 

「いえ、珍しい真桜様のお姿が見られたので大丈夫です。しばらくはコレで弄らせて頂きます」

 

「少しは心配なさいな、家主ですよ?」

 

「? これでも酷く心配したのですが?」

 

「……やっぱり自動人形にも表情筋を付けるべきでは?」

 

 

 まぁいいでしょう。ゆっくりと腰を落ち着ける真桜に麦茶の入った湯呑みを渡すと、ぐいっと一気に飲み干し一息吐く真桜。

 

 次いで、少し躊躇ったようにP-01sを見る。

 

 

「……聞かないんですか?」

 

 

 その問いに聞きたいとは思うものの、何故だかまだ、その時ではないような気がして、問い返した。

 

 

「……お話に、なられたいのですか?」

 

「…………………………ごめんなさい」

 

「謝ることはないかと、いつも仕事に励んでらっしゃる様ですし」

 

「いえ、そうではないの……それだけではないの」

 

 

 もう一杯、ください。Jud.

 

 差し出された湯呑みにもう一度麦茶を注いで持って行き渡すと、真桜は何かを覚悟したかの様な表情をP-01sに向けた。

 

 

「いつまでも逃げる訳には行かない……だから、いつか話せるようになるその日まで、待っていてくださいますか?」

 

Judgement(ジャッジメント)P-01s(わたし)で良ければ、いつでもお聞かせください」

 

「……ありがとうございます、P-01s」

 

 

 ところでご飯って。───あっ。

 

 言われて見れば、泡が溢れ返りコンロの火を駄目にしてしまった上に焦げたお粥が出来ていた。

 

 

「……ンっ、ンフフ!」

 

「……笑わないでください」

 

「あぁ、ンフっごめんなさいP-01s。

 ほら、一緒に作りましょ? ね?」

 

「Jud. 今度はあっと言わせて見せます」

 

 

 いつか貴女が話すまで、待っていますから。

 

 その言葉は、胸の奥に仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 貴方のその身に宿った()の数

 

 貴方の手に入れられた()の数

 

 貴女は一体、何を持ち得ぬのか

 

 

 《配点》全てでしょうね

 

 

 


 

 

 

 

「それは兎も角、気分転換は必要と思いまして」

 

「だから買い物って、ちょっと安直では?」

 

「まぁそうですがちょうど欲しい物がありまして、率直に言うと買ってください」

 

「……もぅ、分かりました。何が良いんですか?」

 

「ありがとうございます。おねだりの成果は上々です」

 

 

 どこから覚えてきたのやら。とため息吐きつつしょーがねぇなぁと思ってる時点で分かってたろお前? という言葉は無視してあちらへ、こちらへと歩き出す二人の姿は、身長差のせいかどことなく親子に見えなくも無い。

 

 やれこちらが良いのでは。やれあちらの方が良さげだ。やいのやいのと会話に花を咲かせつつ、品物を見て回る様は何とも楽しげであった。

 時々足を止めては甘味処によって茶菓子を食べて、服屋に入れば互いに着せ替えあって、金物屋に寄っては鍋や包丁を買うか否かで頭を悩ませ。

 

 まぁ買った殆どの荷物は筋力膂力が圧倒的に勝る真桜がその両の手に多く持つことになったが、そこは得手不得手という事で。

 

 日が落ちてきた頃には、家路について夕飯は何にするのかと話し合う二人は、ふと沈む太陽に視線を向けた。

 

 

「今日も終わりますね」

 

「えぇ……、時が経つのは早いものね」

 

「お年寄りくさいですね」

 

「引っ叩きますよ?」

 

 

 ど突いたろかとも思ったが、両手が塞がっているので断念しつつもとりあえず今日は食卓から御数が一品減ることは確定した。

 そんな極悪非道(真桜家のみ)を知るよしもなくP-01sは脚を止める。

 

 

「真桜様」

 

「? どうしましたP-01s」

 

「おかしな事を一つ、伺ってもよろしいですか?」

 

「えぇ、まぁ、どうぞ」

 

 

 では、お聞きします。普段の様子からは珍しく伺いをたてるP-01sに対して、何を聞きたいのかは分かっていた。

 今朝の事では無い。話せるまで待って欲しいと言ったのはこちらで、この子はそれ(約束)を踏み躙る事はしない律儀な娘だ。

 

 ならば何か。

 

 

「貴女が望むものは、何なのですか?」

 

 

 やはり、賢い子だ。人を見る目があるということは、代え難い貴重な才能だろう。

 だからこそ、この子はきっと身共を、"私"を、大事な人物の一人に数えてくれているのだろう。

 可愛い子、素敵な子、時折り頑固で強情な意地っ張りで、それでも誰かを想える優しさを待ち合わせている、眩しい子。

 

 だからこそごめんなさい。

 

 

「……謝ってばかりね、私

 

 

 こればかりは、言う事が出来ない。

 

 貴女達を欺くばかりの私を、どうか許さないで。

 

 

 

「真桜様?」

 

「身共の望みは、そう。今日と同じです」

 

「今日と、同じ?」

 

「正確には、今日の様な時間を……ですね。それさえあればもはや何も要らないんです。最強ではありたいですが」

 

「それは、やる事が多くて大変ですね」

 

「えぇ! 多過ぎて手が回りませんとも。だから、貴女にも手伝って貰わなきゃ」

 

 

 この方はきっと、一つの嘘を吐かれたのだろう。自身にも言えず、恐らくは武蔵の……いえ、世界の誰にも話せないだろう自分自身の真実。

 それを誤魔化し騙して生きて来た。

 

 そんな人間は楽な死に方をしないと自分でも分かっているだろうに、それでも真桜様は進んでいく。

 ただひたすらに真っ直ぐと、歪みながらも迷う事なく──ならば。

 

 

「Jud. お店が休みの時であれば、いつでもお手伝いいたします」

 

「休日限定とは、ありがたやありがたや」

 

「さぁ、馬鹿な事をやってないで帰りましょう。今日のお夕飯は多分豪勢になるかもしれませんよ?」

 

「……今の話でちょっと不安になりましたね」

 

 

 そんなくだらない話をしつつも、この時間が長く続いて欲しいと願ってしまう私の、何と浅ましいことか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 二人で出かけた日から一月経った夜、真夜中の12時過ぎ。

 のそりと身を起こしたP-01sは布団から出て、部屋を出た。

 

 行き先は当然真桜の部屋で、その手には毛布が抱えられている。

 

 

「真桜様、失礼します」

 

 

 一言断ってからスー……と静かに戸を開くと、机に突っ伏して寝息をたてる真桜の姿があった。

 やはり、というか。ここ最近ずっとこの調子で何かに没頭し食事も疎かにしているため、少なくとも握り飯と野菜たっぷりの汁物を作って出してはいるものの流石にそれだけでは心許無い。

 

 まぁ、それは置いておくとしても、何か焦りの様なモノを感じあーでもないこーでもないと頭を悩ませているのが最近の真桜だった。

 

 

「(何かお手伝いをと思いましたが、術式のあれやこれやについては門外漢も良いところですし……細々とした事しか出来ないのは、歯痒いものですね)」

 

 

 事実P-01sは術式の知識がそれほど無い。

 それが真桜の作る術式ともなると門外漢どころか蚊帳の外、そう言えるほど複雑怪奇極まる式の創り方だったため早々に断念した。

 

 

「(せめて集中出来るようにと身の回りのお世話に専念してみましたが、そこまで手のかかる方ではなかったですね……)」

 

 

 毛布をかけながら考える。頼られていない訳ではないだろう。

 と言うのもよく「ついでにコレお願いします」と洗濯物を片付けさせたり「あっちょうど良い所に、肩揉んでください」と肩を揉ませ、しまいには「……背中にも乗ってもらって良いですか?」と、なんかすごいお婆さん地味た事を言っていることが多い気がするが、気のせいという事にしないと拳骨が飛んで来るので言わぬが花というもの。

 

 まぁとにかく頼られてはいる。それでももう少し力になりたいと思うのは、自動人形の(さが)なのか?

 

 

「……真桜様。鈴様から、お聞きしました。また浅間様やウッキー様と喧嘩をなさったそうですね」

 

 

 ぽつりとこぼす言葉に、返答は無い。今は、それで良い。

 

 聞かれていない事が、重要だった。

 

 

 

「他の皆様とも、折り合いを悪くしているとか。

……それは、何故なのですか? どうしていつも、一人になる様な真似をするのですか?」

 

 

 

 返答は無い。

 

 

 

「店主様は言っておられました。真桜様は望んでそうしていると。

 ただ、何を考えているのか分からないと、武蔵の皆様は言っています」

 

 

 

 一方通行の言葉、その背に(ひたい)を当てて。

 

 

 

「梅組の皆様や、オリオトライ先生、酒井様を含め武蔵様方はそう思ってはおられない様ですが、相談くらいして欲しいと言っていました。

……信頼されていないのかと、残念そうに」

 

 

 

 深く眠る真桜には、聞こえていない独白(ひとりごと)

 

 

 

「貴女様に拾って、助けて頂いたあの日から、何一つ恩を返せていない気がして……いいえ、真桜様の背負う物を、少しでも軽く出来ていない事が……」

 

 

 いや、違う。"コレ"は御為ごかしで、でも本心で。

 

 

 

 脳裏に浮かぶ、真桜の笑った顔はいつも一人の時にだけ。

 その笑顔の先には、武蔵のみんなが居て、そこにはP-01sの姿もあるもののなぜか。どうしてかは分からないが、真桜だけが居ない気がした。

 

 それが酷く、嫌で、許せなかった───だから。

 

 

 聞いていない、聞こえていない彼女に、本音をぶつけることにした。

 

 

「いつか必ず、貴女の心を貰います。

 境界線上から消えたとしても、必ず探し出して、私の隣にいて貰います。

 拒否権は……無い感じでお願いします」

 

 

 言いたいだけ言ったP-01sは、優しく抱き締めたあと、静かに立ち上がり部屋を出る。

 

 

 生まれて間もない自動人形は一つの目標を手に入れて、生まれ変わって17年の()は、まさかの発言(こくはく)に、心臓を鳴らす。

 

 

「…………………………どうしろっていうのよぅ」

 

 





 なぁんでこうなった?

 でもごめんなさい百合が好きなんです。……でも真桜が答えてないからワンチャン告白未遂って事でお願いします。

 次回「三河の大花火」

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