アクタージュ続   作:九十九春香

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天才達の共演篇

     天才達の共演篇 第一クール

 

 夜凪(よなぎ)(けい)、十八歳。高校三年生。職業、役者。それが我が〈スタジオ大黒天〉の誇る唯一無二の女優だ。そしてこれは、女優夜凪景が世界にその名を轟かせる話だ。

 

 

 私の名前は〈柊雪(ひいらぎゆき)〉。スタジオ大黒天で助監督をやっている。景ちゃんとは丁度一年程前に出会った。

 高校二年生の時に、私の師であり、大黒天の監督でもある〈黒山(くろやま)墨字(すみじ)〉にその才能を発掘され、約一年間、才能の限りを尽くし、今じゃ日本にその名を知らない人はいなくなった。

 最初こそその才能を上手く扱いきれず、出演者を蹴ったりしてしまっていた景ちゃん。けど、日本トップの芸能事務所である〈スターズ〉の手掛ける〈デスアイランド〉という映画や舞台に参加したことで、それ以降景ちゃんと、友として、ライバルとして、共に成長していく役者達にに出会えたんだ。

 

 

 一人目の子の名前は〈百城(ももしろ)千世子(ちよこ)〉。〈スターズの天使〉と呼ばれ、その可愛らしい容姿とカメラワークすら操る技術力で、景ちゃんを圧倒した。最初こそその実力差に圧倒された景ちゃんだったけど、徐々に共演者や、監督と共鳴していき、千世子ちゃんに迫っていった。

 おかげで、映画が終わる頃には景ちゃんも撮影というものがどういう物か、役者とは何かを少し掴む事になった作品になったと思う。

 

 

 次に出会う事になったのは、日本史上最高の舞台演出家とも呼ばれたあの〈(いわお)裕次郎(ゆうじろう)〉と、その男の最高傑作とも呼べる演劇界の奇人〈明神(みょうじん)阿良也(あらや)〉の二人だ。

 黒山さんと巌さんが知り合いだった事もあり、巌さんの最後の作品と題していた舞台、〈銀河鉄道の夜〉に参加することになった景ちゃん。映画と舞台の演技法の違いに戸惑いながら、阿良也くんや巌さんのアドバイスを受け、徐々にその存在感を見せていった。

 けど、舞台初日の朝、突然ニュースで巌さんの緊急入院が発表された。実は稽古の段階から病を患っていて、もう永くないと本人は分かっていたらしい。更に言うと、関係者の中で景ちゃんだけが、その事実を知っていたのだった。

 当然客席はパニック状態。舞台は失敗かに思えたけど、結局、巌さんの育てた〈劇団天球〉の人達と、景ちゃんの熱演で、舞台は大成功に終わった。

 景ちゃんはこの舞台を通して、役者として更に突き進めたんだと思う。

 

 

 そして、丁度半年程前、かつて共演した二人と舞台で勝負することになる。

 演目は〈羅刹女〉。小説家〈山之上(やまのうえ)花子(はなこ)〉の原作小説を舞台化した作品。

 景ちゃんは、かつてスターズに所属し、現ハリウッドスターである〈王賀美(おうがみ)(りく)〉とタッグを組み、阿良也くんと千世子ちゃんと勝負することになったんだ。

 最初こそ、景ちゃんの鬼気迫る演技で、〈サイド甲〉が有利に思えたけど、少しずつ山之上さんと景ちゃんの過去の関係のせいで、演技が制御出来なくなってしまう。

 何とか舞台を上手く進めようと、共演者の〈烏山(からすやま)武光(たけみつ)〉くんや、〈朝野(あさの)市子(いちこ)〉さん、〈白石(しらいし)宗《そう》〉さんなどが工夫するも、良い方向には転ばず。結局、芝居の溶けた景ちゃんを、王賀美さんが手で止めてしまう事件になってしまった。

 おかげで景ちゃんの役者としての才能は守られたけど、舞台は失敗。不完全燃焼のまま〈サイド乙〉の勝ちが決まったかに思えた。

 けど黒山さんはそれを許さなかった。

 二日目、千世子ちゃんは黒山さんの指導の元、かつて捨てようとした〈天使〉としての自分と、景ちゃんに勝とうとして手に入れた〈悪魔〉の自分とを上手く演じ分け、観客を魅了していく。そして、最後にはサイド甲で勝手な行動だったはずの景ちゃんの制止。それを演出に組み込んでしまったのだ。

 多分、黒山さんの中には色んな考えがあったんだと思うけど、この結果、サイド甲のミスはミスじゃなくなり、しっかりとした形でサイド乙が初日を演じ終えた。

 この作品は、色んな人の思惑とか、感情が入り混じっていて、関わった私としてはちょっと複雑な気分だ。けど、千世子ちゃんや景ちゃんの、役者の成長が見れた良い作品だったとも思う。

 

 

 それから舞台は千秋楽を終え、結果はどうであれ、景ちゃんは日本中にその名を知らしめた。その甲斐もあり、トントン拍子でCMが決まって行ったんだけど、一番の転機はその後。十数年ぶりとなる女性の主役で話題を集めた大河ドラマ、〈キネマの詩〉。かつて、日本を沸かせた天才女優〈薬師寺(やくしじ)真波(まなみ)〉、その半生を描いた作品だ。

 景ちゃんはその薬師寺真波の学生時代を演じる事になったんだけど、そこでまた運命の出会いをする事になる。

 景ちゃんと同じ薬師寺真波、その成人後を演じる事になった〈(たまき)(れん)〉。この人がまたすごい人で……。これまで出演した作品は少ないけど、かなりの成長を見せた景ちゃんは、一年間の大河ドラマの約半分しか出演しない。その中で、環さん以上の存在感を見せるのが私達の計画だった。

 結果、景ちゃんは最高の演技をしたし、これ以上ないとも思ったんだけど、それでも甘かった。

 環蓮、そして薬師寺真波の実の娘の〈薬師寺(やくしじ)真美(まみ)〉。この二人の後半戦にほぼ全てを持っていかれる事になってしまった。圧倒的存在感にその役者としての技術すら景ちゃんの上を行った二人は、最早景ちゃんを意に介していないようだった。

 ……私としては、景ちゃんが成長出来たし悪くはないんじゃないかなって思ったんだけど、黒山さんと景ちゃんの計画は結果的に失敗に終わってしまったのだ。

 

 

 

 そんな、またしても不完全燃焼に終わった景ちゃんが今何をしているかと言うと……。

 

「むむむぅ……」

「……夜凪、あんまりテレビに近いと弟や妹に示しがつかないんじゃないのか?」

「はっ! ごめんなさい。私ったらてっきり環さんの演技にかぶりついちゃったわ。……ありがとう武光くん」

「いや、俺は構わんが、まさか今の夜凪でも勝てない人がいるとは、全く世界は広いな!」

 

 そう言うと、武光はハッハッハと高笑いをした。それに吊られるように夜凪の弟〈ルイ〉も笑い出す。妹の〈レイ〉は少し苦笑いだが。

 夜凪も少し苦笑いはしたものの、少しするとまたテレビに釘付けになってしまった。

 そう、今景ちゃんは絶賛環さんの演技を盗み中なのである。結果、負けてしまった作品を見るのは最初こそ不満気だったものの、今では録画までして研究している。ホントはここで黒山さんと一緒に反省会と言いたい所だが、その焚き付けた本人は何だか忙しい様で、私に雑用を押し付けるとどっかに出ていく毎日だ。

 

「くっそー、あの髭め。いつかストライキ起こしてやろうか……!」

 

 私としても最近は景ちゃんに付きっきりで、ろくに映画の勉強が出来ず、ストレスが溜まっていた。そんな時、ガチャッと事務所の扉が開く。

 

「……なんで武光がいるんだよ」

「黒山さん! どうもお邪魔してます! 夜凪に弟達の面倒を見てくれと頼まれたので入れてもらいました!」

「……そうかよ。相変わらず声がデケェ」

 

 武光の存在に少し不満そうな黒山に、柊は勢いよく詰めていく。

 

「おめぇ、今までどこほっつき歩いてんたんだよ! 私に雑用ばっか押し付けやがって! 大体黒山さんは出会った時からさあ……」

「悪かったよ、落ち着け。取り敢えず色々片付いたんで、顔出したんだ。……てか雑用は弟子なんだからやれよ」

「私は助監督で、弟子じゃない!」

「わーったよ。……それより夜凪。お前は何してんだよ」

「えっ? はっ!」

 

 柊のあまりの勢いに呆気に取られていた夜凪は、思い出したかの様に立ち上がった。

 

「……黒山さん。私仕事がしたいわ。CMとかイメージキャラクターとかじゃなく、役者の」

 

 ずっと考えていた。環さんに負けたのは単に実力不足だったのだと。ならば話は簡単だ。もっと色んな作品に出て実力を磨くしかない。そう思っていたから環さんの演技をずっと見ていたのだ。

 夜凪のの様子から意図を読んだのか、黒山は夜凪と柊の間に入り、内ポケットから何かを出した。

 出てきた封筒は二つ。一つは夜凪宛。もう一つは柊宛だった。

 

「え? 私も?」

「……開ければ分かるよ」

 

 黒山に促される様に、二人は封筒から中身を取り出す。武光も気になるようで、夜凪の中身に目を向ける。すると、中から出てきたのはある依頼書だった。

 

「舞台〈ダンガンロンパ〉の出演オファー?」

「ああ、そうだ」

 

 いつの間にか自分の席に座っていた黒山は、書類をまとめながら話を続ける。

 

「それは俺の監督仲間の〈虹村(にじむら)海渡(かいと)〉の演出でな。前々回の羅刹女や、この前のキネマの詩で夜凪を知ったらしく、是非出てくれないかって渡されたんだよ」

「……ちょっとまて夜凪。これ劇団天球の協力って書いてあるぞ!」

「そうだ。そいつは巌の爺さんと仲が良くてな。爺さんが死んでから偶に天球で演出を、やってんだよ」

「……て事は、また阿良也君達と演技が出来るって事なのね!」

「まあ、そうなるな」

 

 かつての仲間とまた共演できる喜びに打ちひしがれる夜凪を横目に、柊は自身の手紙を見つめていた。

 

「……これって、どういう事?」

「どうもこうもそのまんまだよ」

 

 柊の言葉に、二人は恐る恐る手紙を除く。するとそこには、「舞台〈ダンガンロンパ〉演出補佐の依頼」と書かれていた。

 

「柊さん、これって!」

「ああ! 演出補佐の依頼じゃないですか! 凄いですよ!」

 

 映画監督を目指している柊にとって、舞台演出家としても映画監督としても高く評価されている虹村海渡の演出補佐は、かなりレベルアップに繋がるだろう。それを知っている二人は柊をよそにかなり盛り上がっている。

 だが当の本人の柊はまだあまり現実を受け入れていないようだった。

 

「な、なんで私? 何もしてないのに……」

 

 そう。柊は今でこそ黒山の助監督として手伝いをしているが、まだ二十一歳。映画学校を卒業してまだ三年も経っていないのだ。そんな自分に突然演出補佐の依頼が来るのはおかしいと、感じるのも無理はない。

 柊の困惑した様子に、黒山は少し申し訳さなそうに話し始めた。

 

「あー、実はな。海渡は俺の古い友人でな。今度舞台をやるから誰か手伝える奴はいないかって聞かれたんだ」

「……それで私?」

「……まぁ、一応夜凪の次はお前だって言ったしな」

「……った」

「あ?」

「やったぁあああ!」

 

 柊のいきなりの叫びに黒山だけでなく、そこにいた全員が驚いた。柊は感情表現の豊かな性格だが、基本的には落ち着いた性格なので少しびっくりした。だが、その叫びは喜び故と言うのは全員が知っている。だからこそ夜凪も同じ様に叫んだ。

 

「やったぁあああ!」

 

 これまで私の役者人生に常に横にいてくれた柊。右も左も分からぬ中、黒山の無茶振りからずっと私を守ろうとしてくれた。そんな柊の夢が一歩進むというなら嬉しいに決まっている。

 二人のあまりの騒ぎ方に、黒山は少し不満気だが、今日だけは文句は言わないと決めていた。

 三人ははそのまま、レイに煩いと怒られるまで喜び続けた。

 

 

 その日の夜。夜凪は武光と駅まで歩いていた。

 

「武光くん! 今日はありがとう!」

「いや! 今日は俺も楽しかったからな。また是非呼んでくれ!」

 

 二人は駅への通りを歩きながら今日の事を振り返っていた。

 

「今日は凄く良い日だったわ。また天球の皆と共演できるし、初めて柊さんの助監督で演技ができるのだもの。今からすごく楽しみよ!」

 

 夜凪が興奮気味に話しているのを武光は少しはにかみながら聞いていた。

 

「……俺は羅刹女の時、夜凪に追いつく事ばかり考えていた」

「……!」

「あの舞台から何個かオファーはあったが、それでもまだ夜凪の背中さえ見えていなと思っている」

 

 突然の武光の告白に夜凪は黙って次の言葉を待っていた。

 

「……だからこそ。今回のダンガンロンパの舞台、オーディションを受けようと思う」

「……えっ? そうなの!?」

 

 羅刹女の後、夜凪はトントン拍子に仕事が決まっていき、他の共演者の事は正直何も知らなかった。ましてや友人である武光にそんな風に思ってもらっていたともまるで気づいていなかった。

 

「ああ、そして今度は追いつく(・・・・)のではなく、追い越し(・・・・)ていきたいと思っている」

 

 そしてそう思ってもらっているのは素直に嬉しかった。自分の演技を認めてもらえている様で、何よりまた武光とも演技ができるかも知れないとういのも含めて。

 

「……ええ。こちらこそ、その挑戦状受けるわ! 一緒に良い舞台にしましょう!」

 

 夜凪の真っ直ぐなセリフは、武光にとっても嬉しいものだ。二人は向かい合い、決意を新たにする。

 

「まぁ、俺が受かればだがな」

「はっ! そうね、じゃあまずどの役を受けるかよね」

「はははっ。俺より積極的だな!」

「……!」

 

 二人はそのまま駅まで楽しそうに話しながら歩いていった。

 

 

 

 夜凪が武光を送っているのと少し前の時間。黒山と柊はスターズに来ていた。

 

「チビどもは家に送ったし、夜凪は駅まで迎えに行きゃあ良いよな」

 

 事務所の一室のドアを開けながら、黒山はそう訪ねてきた。

 

「まぁ、景ちゃん一人暗い道を歩かせる訳にはいかないしね。連絡しとく」

 

 自分の返答の後の黒山の表情見て、多分正解だったなと思った。これでも高校生の頃から四年弱一緒にいるので、なんとなく()()の言いたい事は分かってきたと思っている。

 

「てかなんでスターズなの? 星アリサも今回スタッフに入ってたっけ?」

 

 柊はまだ二人しかいない部屋でそんな質問を投げかけてみた。というのも、演出補佐のオファーの紙にスタッフの名前が載っていたものの、星アリサの名前は入っていなかったのだ。だからこそ自分は今何故星アリサに会いに来ているのかが分からなかった。

 柊の当然とも言える質問に、黒山は少し面倒くさそうに答えた。

 

「まぁ今、夜凪は星アリサに預けてるからな。それにお前も海渡と会っておきたいだろ。ウチの事務所じゃ狭えからここに呼びつけたんだよ」

 

 黒山の返答に少し驚いた。この面倒くさがりが私に気を使って虹村海渡と対面させてくれるとは全く考えていなかった。……一応次は私というのを意識してくれているのかもしれない。

 そう思うと少し嬉しく、柊は虹村海渡と星アリサが来るまで少し上機嫌のまま待っていた。

 

 

 それから数分ほどで星アリサと虹村海渡、そして何にかのスタッフであろう人達が現れた。虹村とは一度も会ったことは無かったが、雑誌の取材などを何度も読んでいるので顔を見た瞬間にわかった。

 

「こ、こんにちわ!」

 

 憧れとも呼べる虹村に会えた喜びと驚きで、声が上ずってしまった。柊は顔を赤くしながら席に座り直す。

 

「はははっ、はじめまして~。虹村海渡です」

 

 虹村の口調は想像の通り緩やかで、どことなく安心する。髭とは大違い。

 

「遅れて申し訳ないわね。少し立て込んでて」

「あ、いや、大丈夫です。こちらこそ髭の突然のお願いを聞いていただきありがとうございます!」

「んだそりゃ。俺のせいかよ」

「はははは! お前随分世話になってんだなぁ」

 

 不満気な黒山と愉快そうな虹村を横目に、アリサはスミスさんの出した椅子に腰を掛ける。

 

「まず、今回劇団天球を使った舞台、ダンガンロンパをスターズが協力する形なのだけど、それはいいわね?」

 

 突然話を切り出したので柊を含め三人共驚いたものの、星アリサという人物の性質と忙しさを知っているので、それぞれ聞く姿勢を取った。アリサはそれを確認するように三人を一瞥すると、続ける様に話し始めた。

 

「総合演出は海渡、演出補佐は柊さん。黒山は一応スタッフだけど、基本は口は出さないわ」

 

 知ってはいるものの、実際にスタッフとして呼ばれると嬉しいものだ。

 柊は嬉しさを噛み締めながらメモ帳とペンを握った。

 

「私は今回スタッフとして参加はしないわ。他の仕事もあるし、今回はスターズの代表として伊知地が入るから、宜しく」

 

 そう言われると、先程アリサと共に入ってきた一人の男性が頭を下げた。

 多分この人が伊知地というのだろう。見た目は優しそうで細かく指示をする様には見えないが、星アリサ直々に指名されるくらいだから相当優秀なのだと思う。

 

「そして参加キャストの事だけど、それは海渡からでいいかしら」

 

 その言葉に促される様に海渡は何個かの資料を手にする。

 

「はいはーい。了解です。改めまして今回の舞台で総合演出をします虹村海渡です。宜しく〜」

 

 軽く頭を下げる海渡に吊られるように柊と伊知地も頭を下げる。

 

「今回の舞台ダンガンロンパは、大人気ゲームの実写化と言う事になるんだけど、主に登場人物は十六人。場所や道具を提供してくれる劇団天球からは明神阿良也と〈三坂(さんざか)七尾(ななお)〉の二人が参加します」

「二人だけですか?」

「あー、演者はな。何人かはスタッフとして手伝いをしてくれる事になってる」

 

 手伝いとは驚いた。あの(・・)劇団天球が協力すると言うのでキャストの半分程は天球の人だと思っていた。まぁ興行やら色々理由があるのだろう。

 柊はそんな自問自答を頭でしながらメモの手を動かす。

 

「そんで、基本線はキャストはオーディションで決めるんですが、俺やアリサさんからのオファーで何人か既に決まっていたり交渉してたりする人物がいます」

 

 その一人が景ちゃんということか。流石に景ちゃんだけがオファーという訳ではないと思っていたが、何人ほどいるのだろう。

 

「えー、まず、主演の苗木誠役にスタジオ大黒天、夜凪景」

 

 主演!? まさか景ちゃん主演だったのか!

 主演のキャラが男と知っていた柊は夜凪の役から勝手に外していたので、少し驚いている。

 そうとは知らず海渡は話を続けた。

 

「で、先程言った劇団天球の明神阿良也はモノクマ。同じく三坂七尾は朝日奈葵の予定です」

 

 モノクマといえば、作品のラスボス的キャラで、白黒の熊のぬいぐるみだったはず。阿良也くんも新たに挑戦するという事だろう。

 続けてくる予想外のキャストに柊は何とかメモの手を止めずに書いていた。しかし、次に呼ばれた四人のキャストに、柊だけではなく、それ(・・)を知らなかった人は誰もが手を止めてしまった。

 

「そ、それホントですか? ホントにその四人がこの舞台に参加するんですか?」

 

 あまりの驚きに言葉を詰まられる柊に、黒山はさも当然のように返す。

 

「ああ。俺も最初は無理だと思ったが何とかなったらしい。……頑張れよ」

 

 黒山は聞いても尚驚きを隠せていない柊に、少し軽笑を送くってくる。その態度に少し苛ついたものの、柊は()()は無視して、海渡の次の言葉に耳を傾ける事にした。

 

「オファーによる出演はこの七人です。他のキャストは既にオーディションの日程を各事務所に伝えてあるので時期決まります。あー、ではこのまま舞台の細かい日程などの話をしていきます。まずは……」

 

 海渡はそのまま詳細に舞台の情報を伝えていき、話が終わる頃には既に深夜を回っていた。

 海渡の話が終わるのを確認したアリサは、それぞれに少し挨拶をしたあと解散を命じた。柊もそれに伴い部屋を去ろうとした所、海渡に呼び止められる。

 

「柊さんは話があるから残ってくれる?」

 

 話?演出補佐だからなのだろうか。だが仕事内容は先程のミーティングですでに伝えられている。

 柊は訳のわからないまま、部屋から人がいなくなるのを待つことにした。

 それから数分ほどでスタッフは出ていき、部屋には柊、海渡、アリサ、伊地知、黒山の五人が残っていた。

 五人以外の最後の一人が出たタイミングで海渡が話を切り出す。

 

「ごめんな残ってもらって、ちょっと黒山から話があるから聞いてくれ」

「黒山さんから?」

 

 残れと言ったのが海渡だったので、少し驚いた。

 しかも黒山の残した理由も全く想像ができなかったので、柊は黒山の言葉を待つ。

 

「……柊。お前映画は撮りたいか?」

「……は?」

「いいから答えろ。撮りたいか?」

 

 何故黒山がそんな事を今聞いてくるのかは分からない。だが自分の答えだけは分かっている。

 

「当たり前じゃん。撮りたいよ。その為に黒山さんの助手をやってるんだから」

 

 そう言うと黒山はニヤリと笑った。馬鹿にした笑いではなく、少し嬉しそうに。

 

「今回の演出補佐、お前を選んだには理由がある」

 

 何かしら理由があるのはなんとなく分かっていた。でなければ特に何もしてなかった私に声がかかる訳がない。

 

「勿体ぶらずに言ってよ」

 

 柊の不満そうな顔に、黒山はまた少し笑うと、ゆっくりと喋り始める。

 

「今回のダンガンロンパの舞台は、オファー組だけでも個性的な役者が数多く参加してる。ただでさえ〈殺し合い〉なんてもんを題材にしてる作品だ。オーディションの奴らも一癖二癖ある奴が選ばれるはずだ」

「……それが?」

「今回のお前の仕事はさっき言った海渡の演出補佐ともう一つ、あの個性的な役者共をまとめるのが仕事だ」

「役者のまとめ? それでそれが私の映画のどこに関係するのさ」

「最後まで聞け。良いか、この作品はあの(・・)()アリサ(・・・)のスターズと()裕次郎(・・・)()()した(・・)劇団天球が協力する作品だ。ということは当然スターズのスタッフはいつもより多く見学に来る。ましてや今、星アリサプロデュースである夜凪が主演なんだ。更に来るだろうよ」

 

 いつの間にか柊の鼓動は徐々に早くなっていた。次の言葉にもなんとなく予想がついていたからだ。

 

「その中でお前があの個性豊かな奴らを纏め、日本の映画・演劇界でトップレベルに君臨する海渡を完璧にサポートすれば、お前は大勢のスタッフにその実力を認めさせられる」

 

 柊の鼓動は更に早くなり、体温も上がってくる。

 

「俺達の作戦は一つ。スターズのスタッフ共を認めさせろ。柊雪の映画に協力しても上がりが取れるという事を証明するんだ。そうすりゃ星アリサも金を出すと言ってる」

 

 柊は星アリサの顔を除く。アリサは眉一つ動かさずただ頷くだけだった。

 

「で、出来るかな。私に」

 

 自然に出た言葉だった。だが真実にも思えた。最近は好きな映画の鑑賞も禄に出来ていない。映画も学生の頃に一本撮っただけ。そんな自分にそんな事ができるのかわからなった。

 しかし、黒山の答えはシンプルだった。

 

「出来る。誰が教えたと思ってる。昔言ったはずだ。映画監督にそれを証明する資格は無い。なら何が監督と証明するのか。それは……」

 

「映画監督を名乗る覚悟、だったね」

 

 既に不安は無くなっていた。

 これは女優夜凪景が世界に名前を轟かせる話だ。だが同時に柊雪が世界一の監督を目指す物語でもある。

 

 

 

 

       第一クール 完

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