双輪の猛獣が常闇の都市を猛々しい怒号を張り上げながら疾走する。
V型四気筒1400ccのエンジンが轟かす改造されたそのモンスターマシンはフードを被る男が駆る騎馬だ。
その男が追っているのは遥か前方───ターゲットを乗せた車だ。
普通のバイクでは比較にならないほどの風を切る疾走感。
先行する車との距離はどんどん近づいてきている。もうそろそろ自分達の追っ手が来たと勘付く頃合いだ。
と、耳もとの無線イアホンからデジタル音声が響く。
『曲がって2500m先に高速がある。彼奴等、このまま高速に乗るみたいよ』
「了解」
相棒にして最強のハッカー様からの情報だ。彼奴等が高速に乗る前に片付ける。
「──────」
そして男はスロットルを開く。
この都市───科学都市ガレオンの入り組んだ街路は、このモンスターマシンにとっては大きな足枷だ。しかも、ターゲットに追いつく為に極限の加速力で走行しているおかげで、ほぼドラッグレース仕様も同然であり、旋回性など皆無に等しい。が、”速くては曲がれない”というその条理は騎乗しているこの男にとっては意味をなさない。
カーブに差し掛かるたびに減速するどころか逆にスロットルを開き、さらに過剰なトルクを後輪へと注ぎ込む。
そして身体の全身を使ってバイクの車体を強引に傾け、破壊的なまでの直進性を半ば捻じ曲げるようにして方向転換を成し遂げていく。
そしてついにターゲットの車に追いついた。
「なっ!?おい嘘だろッ!?」
後部座席に乗っていたスーツの男が驚愕で目を見開ける。
だがそんな予想外に対しても、男は驚愕しながらも拳銃を取り出した。
パンッ!パンッ!と空気の乾いた音とバイクのやかましい排気音が夜の都市に鳴り響く。
バイクに乗る男に向かって放たれたその弾丸を男はバイクの車体を無理矢理持ち上げ、後輪だけで疾走することによってその弾丸の直撃を防いだ。
「なんだよそれ!?巫山戯んのもいい加減にしろよ!」
そんな現実味のない現実に理不尽だろと男は叫ぶ。
そしてその瞬間をフードの男は逃さなかった。
モンスターマシンが一気に加速し、そのまま車を追い抜かす。そして一瞬だけアクセルを踏むのを止め、車体を急速旋回させた。
ギャリギャリギャリッ!!
と、火花とタイヤの焼ける臭いが鼻を擽る。
そしてそのまま車にめがけてアクセルを踏み、そのままのバイクごと、”宙へと飛んだ“。
「・・・・は?」
運転席に座っていた男が目の前のありえない光景に呆然とする。
そしてそのままモンスターマシンの車体が車のフロントガラスをぶち破った。
「──────ッ!」
そしてそれと同時に、フードの男も乗り上げた勢いを利用して車の後ろへと着地する。
運転手を失い、制御を失ったその車は勢いよく建物へと突っ込んでいき、そのまま停止した。
『あーあ。被害を広げてどうするのよ。一応だけどあの車にお姫様がいるのよ?』
「俺に助けてもらおうと、自分から拉致されにいくアホのことは知らん」
『それ、お姫様の前で言ったら不敬罪になるわよ』
俺達はそんなやりとりをのしつつ、フードの男は停止した車に足を進めた次の瞬間、後部座席の後ろのトランクが開いた。
「あー死ぬかと思った!ジャック!貴方、私がいたのにわざとバイクをぶつけたでしょ!?」
そう怒りながら此方へと向かってくる少女───黒のセーターに黒の上着、そして黒のタイツにヘッドホンをつけた彼女はこの科学都市ガレオンの王族第二のプリンセス───イーディス・クロノ・ガレオンである。
そんな怒り浸透の彼女にフード男──ジャックは言った。
「お前が下らん理由でテロリスト共に捕まりにいったからだろうが。毎回毎回お前につきあわされるこっちの身にもなってみろ」
バイクだったものの残骸を見つつ、ジャックはゴツンとイーディスに拳骨を落とす。
「酷いわジャック!!お父さんにもぶたれたことないのにッ」
「嘘をつくな嘘を」
その言葉にイーディスはまぁねーと返事を返すと、そのまま彼に振り返り言った。
「まあ助けてくれてありがとね。ジャック。それにシャルちゃんも」
「そのお転婆は誰に似たんだろうな」
『王妃様じゃない?あの人昔はかなりアレだって話だし』
あははは・・・っと言って目を逸らすイーディス。
本当、コイツには昔から振り回された記憶しかない。
「いやだってさ。もうすぐじゃない?海魂の儀式」
「・・・・・」
『・・・・・』
その言葉に二人は口を閉じた。
王として認められる儀式。それが海魂の儀式。
「海魂の儀式が終わるともう皆と遊べなくなっちゃうからさ。美雨ちゃんと澪ちゃんとも会えなくなっちゃうし。だからそうなる前に派手にバーッ!って皆とやりたかったから・・・」
海魂の儀式が終わると、彼女は王族として振る舞わなければならなくなる。
そうなれば俺達平民達とは一緒に遊んではいられなくなるのだ。
そんな暗い顔をするイーディスにジャックは言った。
「・・・別に会えなくなる訳じゃない」
「・・・えっ?」
顔を上げるイーディスに今度はシャルが言う。
『そうよ。あたし達はいつも一緒。サイバースの一員でしょうに。依頼があるなら何時でもきなさい。あたし達がうけてあげるから』
「ジャック・・・シャルちゃん・・・ありがとー!!」
泣きながらイーディスにジャックの胸に飛び込んだ。
「なっ!止めろイーディス!美雨と澪に俺が殺される!」
『ジャック君・・・浮気は駄目だよ?』
『ジャック・・・あとで話があるから』
と、シャル以外の声が耳に響く。
「み、美雨?澪?こ、これは───」
『あーあ。ヤンデレ姉妹に聞かれちゃったね。あたしは知らない。修羅場にかかわりたくない』
シャルに見捨てられた。
あとはもうイーディスしかいない───が、イーディスは駄目だ。俺と一緒に怒られるパターンしかならない。
泣きつく王族のイーディスとヤンデレ双子の美雨と澪、そしてカタカタとキーボードを打つ天才ハッカーのシャル。そして俺。
俺達の物語はこれから始まる。
これは俺達の旅。
イーディスを───王族にする為の物語だ。