「おっまたせー!」
イーディスが手を大きく振りながら城の中から勢いよく飛び出して俺達が乗る車に遠慮なく飛び込んできた。
「どーん!」
「きゃっ・・・!」
「お、お姫様っ!」
後部座席に乗り込んだイーディスに先に席に乗っていた美雨と澪が悲鳴を上げる。そして揺れる車内の中、助手席に乗ったシャルが目をノートパソコンの画面から後ろの座席にその目を向ける。
「元気ね、イーディス。そんなに海魂の儀式が楽しみかしら?それとも儀式が終わった後のイベリアの王子様との結婚が楽しみなの?」
「んー・・・どっちも嫌だ!」
おい。このお姫様どっちも嫌だって言ったぞ。
そしてお転婆なお姫様が後部座席から顔を出す。
「ぶっちゃけた話、私は王族の儀なんてやりたくないし、結婚も相手は自分で決めたい。けど、こうやって笑っていられるのは皆と旅に出られるからだよ」
「イーディス・・・」
イーディスのその言葉にジャック達は小さく笑うと、車の鍵を回すと、エンジンがかかる。
そしてジャックはハンドルを握ると、助手席に座るシャルに言った。
「それで?最初の目的地は何処にある?」
そう言うジャックにシャルはパソコンに目を向ける。
「そうね・・・一番近いのはここから大体七百キロ先のゴルドバ火山ね」
「一番近い所で七百キロ・・・」
「両隣の大陸にまで儀式の神殿があるのよ?最初の場所がこのガレオンの領域にあるだけまだマシよ」
そう言うシャルに対し、ジャックは口を開く。
「都市の外は美しい景色や古代の遺跡が眠っているが、都市の外には危険が多い」
魔物に天災。外にはそういうものが沢山ある。だからこそ王族である彼女が儀式を行う際は護衛が必要だ。
「ええ、そのお姫様の護衛が私達サイバースの初仕事よ。しかもそこにいるお姫様から直々の・・・ね」
「うん。よろしくねー皆!」
本来護衛に任せるこの儀式をあの気難しい王様は良く許したものだ。そう思うジャックに澪が身体を乗り出した。
「ジャック君。疲れたらいつでも言ってね?私達が運転したり、マッサージしたりするから・・・」
運転席でハンドルを握るジャックの頭に彼女の胸がのる。
「澪・・・当たっているんだが・・・」
「ジャック、こういうの好きでしょ?」
「いや、まあ・・・けど今は止めてくれ」
運転中で危ないし、それに何より美雨とイーディスもやりたそうな目をしていた。
「澪、抜け駆け禁止」
「ふーん?ジャックってそういうの好きなんだー?」
おい後ろ二人。何か企んでそうな顔は止めろ。特に美雨。
「私の隣でイチャイチャしないでくれる?口の中が甘くなってくるのよ」
「そう言うシャルちゃんも実は混ざりたいのであった」
「バッ!?違うわよ!?」
ふざけるお姫様の言葉にシャルは顔を赤くする。
そんなシャルを見てイーディスは言った。
「いっそのことジャックハーレム作ったらどうかなー?私はいつでも歓迎だよ!」
その言葉に美雨と澪のハイライトが死んだ。
「馬鹿言え」
「それ、婚約者がいるセリフじゃないわよ」
そんな会話をする同級生に放置された美雨と澪が割り込む。
「あのシャルさん。海魂の儀式とは一体なんの儀式なのでしょうか?私達はジャック君とシャルさんに拾われてからもう十二年経ちますが、王族の儀式としか知らないので出来るなら説明をお願いします」
ハイライト消して話題を変えるなよ。
そんな美雨にイーディスも話題を逸らすように説明を始める。
「まあ一般公開されるようなモノじゃないし、知らないのも当然といえば当然ね」
「そもそもこの科学都市に対して王族が魔法を使うっていう明らかにこの都市に喧嘩を売っているようにしか見えないんだがな」
科学都市の王族が魔法を使う。
科学に喧嘩を売ってんのかと思いたくなる所業だが、これには理由がある。
それに答えたのはイーディスだった。
「私たち王族は代々召喚魔法の使い手なの。神々や神話に出てくる空想の存在と契約を交わし、この土地を豊かにし、侵略するものがあれば撃退する。それが王族の役目であり存在義務でもあるの。でもそれだけでは限界がある。だからえーっと何代目だっけ?まあ、その何代目かの王様が民達に神オーディンの神託とその知識を使い技術とその科学を広めたっていうのが始まりかな」
「だからと言って召喚神が未だに科学で解明出来ないのが一番ムカつくわ」
未知な物を解明したくなる。そしてその未知を解明する為に何度もトライ・アンド・エラーを繰り返すのが科学だ。
今や最高の科学力を持つこのガレオンでも王族の召喚神を解明出来ていない。
「まあ、そう言うものだから。・・・で、その神々達と契約するための旅がこの海魂の儀式。神殿は十五個あって確か神様によっては力を示さないといけない神もいるの。だから国一番の護衛が必要になるわけ」
「そ、そんな儀式にジャック君達が・・・」
「正直な話役不足だと思うのは同感だ」
「でもイーディスにとって一番信頼出来るのは私達ってことなの。儀式には一番信頼出来る仲間が必要になるから」
「そう!だからジャック達を選んだの。下手したら何年も続く旅になるのにシャルちゃんがね・・・」
「言うな馬鹿」
シャルはそう言ってイーディスの口にお菓子を突っ込んだ。
「もごっ!?」
お菓子を突っ込まれ口篭るイーディスに対し、シャルが代わりに儀式の続きを説明する。
「それで最初に行くのはゴルドバ火山。召喚神は・・・火の神アグニだった筈よ」
「フェニックスも一応火の神の筈だが」
「フェニックスは火の神さまってよりもどっちかって言うと輪廻とか再生の神様なんだけどねー」
「・・・いっぱいいるんだ」
その言葉に二人は驚いたような顔をしていた。
「他にもいるよー。智慧と戦の神オーディンに破壊と調律の竜バハムート。大地の豊穣の女神アスタルテ、海神リヴァイアサンとか・・・」
「竜二匹に関しては最早厄災だろ」
大昔、バハムートとリヴァイアサンは天災を撒き散らしたと書物で見たことがある。
「まあリヴァイアサンはともかく、バハムートは一種の抑止力みたいなものだから・・・」
「増え過ぎた人間はいずれ信仰を忘れ、欲に溺れる。故に天災を神を敬い忘れることなかれ・・・だったかしら?天災の竜バハムートが必要なのは」
「巻き込まれた人はたまったものじゃないですよね」
「富も与えれば災いも与える。神々はそういうものなの」
そうこうしている内にもう検問所だ。ここを出て長い橋を渡ると外の世界である。
「外にも都市や街はあるわ。イベリアやアルヘイムのように巨大な都市もね。ただ、外のお金はこのガレオンと違ってキャッシュレスがないから気をつけてね。あと気をつけることは・・・」
「長旅確定だから金も稼がないといけなくなるな」
「仮にもお姫様を働かせるのはどうなの?ジャック君?」
「いいよー?わたし、そういうの好きだし」
時々大都市のお姫様なのかと思いたくなるが、これでもイーディスはお姫様だ。
ただ、その活動範囲がすごいだけで。
「野宿用にキャンプグッズも揃えてあるから安心はしろ」
「えっ、キャンプ出来るの!?やったぁ!お父さんは良いって言ってくれたけど、お母さんはキャンプをやらせてくれなかったから一度やりたかったの!」
「最悪何度もキャンプするはめになるぞ」
「大丈夫!お風呂に入れないのはわかってるから!」
「お、おう」
本当にお姫様か?コイツ?
そんな話をしながら検問所を通り長い長い橋を渡っていく。
都市以外の空気はとても新鮮だったと言っておこう。