樹木化した女エルフ 作:天元擬き
「わぁ凄いね。生きてるの?」
「あぁ……このところ雨が降っていなくてね。少し喉の乾きを覚えるが至って健康体さ」
その日は資金集めの一環で、少し遠出していた。
三つぐらい盗賊団を襲撃したあと、そろそろ冬だし狼系のモンスターでコートでも作ってみようかと狩りをしていたんだけど聖域って言うのかな?
やけに魔力の流れが澄んでいる空間を見つけたんだ。
これは伝説の武器とか魔王の封印を維持している大妖精でもいるのではないかと探索すると、樹齢600年ぐらいありそうな大樹に半身が呑み込まれた女の人がいたのだ。
「これって、下半身が呑み込まれているって言うより、人間の姿をした枝と会話してるって感じなのかな?」
「どうだろうか?この木と一体化してから何百年も経った。未だに己を人間だとは認識しているが、その間に何も口にしていない。この木から流れる養分でこの身を保っているから広い意味では間違いではないのかもしれないね」
「樹木と一体化か……面白いことをするね」
「おすすめはしないよ。三大欲求からは解放されるが、この通り、日光浴ぐらいしかすることがなくなる」
「成る程、一度同化したら分離出来ないタイプか。確かにデカすぎるデメリットだ。よく今まで退屈で死ななかったものだ」
「それまでがあまりに悲惨すぎてね。それでも昔は野心に燃えていたが、どうでもよくなってしまった」
彼女は数百年前から生きるエルフであった。
金髪で碧眼、彫刻のように整った美形、そして木と一体化しているという異形の姿でありながら、本人の美しさと浮世絵離れしたその精神力から神聖的な雰囲気も感じさせる。
感じる魔力量は並……だけどそれは人間部分に限った話で、もしこの魔力を高圧縮させた巨木の魔力まで操れるなら僕の数百倍の魔力を持っていることになる。
物語だと、間違いなく根幹に関わってくる重要人物だ。
「いいね!──提案なんだけど、本とかパズルとか持ってくるからさ。ちょっと僕のお遊びに付き合ってくれない?」
「お遊び?」
「うん。僕と一緒にこの世界の裏に潜む悪意と陰ながら戦って欲しいんだ」
この異世界に転生して念願の魔力を手に入れ、陰の実力者ムーブに励んでいる僕が、そんな彼女に声をかけない訳がなかった。
▲▽▲▽▲
こうして僕はこの世界の均衡を人知れず維持し続ける聖域の守護者として彼女を迎え入れた。
勿論、彼女は俗世の空気に嫌気が差して田舎に逃げ帰ったエルフ娘なのだから、そういう設定として。
蔓をケーブルのように伸ばせば10メートルぐらいは巨木から離れる事が出来るのだそうけど、大胆に動くことは出来ない。だから彼女の役割は定期的に僕の陰の実力者としての活動報告をそれっぽい雰囲気で聞いて、時折予言めいたことを喋ることになった。
対価は僕との会話。あとたまにボードゲームで彼女の暇を潰してあげること。
僕がモブ式剣術の練習をしていると、アドバイスしてくることがあって、それで彼女が剣術の経験者だと分かったが、剣を交えたことはない。
僕以上の魔力の持ち主だ。一度ぐらい本気戦ってみたかったが、戦いは嫌いだと言われたので仕方ないと納得する。
「ここが……聖域。全身から活力が溢れてくるみたい。流石は聖母マリアのお膝元ね」
マリア。名前は遠の昔に忘れてしまったそうなので僕が勝手にそう読んでいるが、いつからか、この演劇にはアルファ達も参加するようになった。
幼くして家族から見捨てられた彼女達は、最初はマリアの姿を見て怯えるように僕の背中に隠れていたけど、いつの間にか懐いて母親のように慕っていた。
マリアは昔、人間とのハーフで子供が何人か居たらしい。その子供は寿命で亡くなってしまったそうだが、手慣れてるのか、あのおバカなデルタですら彼女の前ではお利口さんになる。
正直、超常の存在である彼女と唯一対等に話せる陰の実力者ムーブを楽しみたい僕としては、家族ごっこに現を抜かされるのは少し面白くなかったが、悪魔憑きから助けた責任やらなんちゃらをアルファ達から押し付けられるのが怖かったので、そういうのは全部マリアに任せることにした。
「……あの……最近。あの子達が私のことを伐採しようしてるのだけれど、何か心当たりない?」
「なんて?」
だけど流石に放任主義が過ぎたのか、ベータ達がとんでもないことを仕出かそうとしてきた時は焦った。
「退いて下さいシャドウ様。マリア様は私たちの領域に移します」
「ここままだと、聖域はディアボロス教団に見つかる。そうなったらマリア様を守れない。封印の代用は、このアーティファクトでする。マリア様がするよりはずっと不安定になるけど、分かって欲しい」
あんまりにもマリアのことが好きになりすぎて、一緒に暮らしたくなったのだそうだ。
それっぽい僕好みの設定まで広げて本人達はかなりやる気だったけど、人間の部分だけ伐りとっただけだと彼女は死んでしまう。
根っ子からくり貫こうにも、辺りは木々で生い茂っていて運び出すのは容易ではない。
みすみす親代わりを殺させるわけにもいかなかったので、その時は全力で阻止した。
「マリアには大義がある。それを自分等の私情でないがしろにしようとは恥を知れ!恥を!」
まぁそれだけでは止まらず、何とかマリアの説得により、号泣しながらも理解してくれたようだが、こんなことが二度、三度、起きないとも限らない。
そこで僕たちは話し合い、一芝居打つことにした。
内容は、マリアは神樹と同化することで、この星の終わりゆくまで【孔】を閉じる役目があった。その役目を全うする為、マリアは不死の存在となったが不老ではなかった。
ただ老いる分には問題はないが、ある一定以上彼女が歳をとると、神樹はマリアの肉体を作り替え高次元の存在に進化させようとする。
そうなってしまえば、マリアの人間としての意識は消滅し、この星の人々を守る為に【孔】を閉じ続けるという情が消え、より上位の視点に立って考え、惑星レベルの変革の為に意図的に【孔】を開けかねない。
それを防ぐ為に、本来なら若い肉体を持つ適合者との新たな同化が必要だ。だがマリアは誰かが犠牲になることを悲観し、【孔】を閉じることだけに全力を注ぐことで千年の時間稼ぎをすることにした。
それをやってしまえば今までのように僕たちと会話することは不可能になる。だがマリアは僕たちに希望を見て、未来に全てを託した…………と、そういう筋書きで一旦彼女達とは距離を置くことにしたのだ。
子供につく嘘にしては少し残酷なような気もしたが、大人になれば気づいちゃうレベルの幼稚な嘘だし、流石に大人になれば、一緒に暮らしたいなんて我が儘も言わなくなるだろうと、マリアとそれを決行した。
「……マリアは長い眠りについた」
「……ウソ」
「マリア!マリア!お願い!目を開けて!」
「嫌、嫌!」
「マリア様!目を開けて下さい!」
その結果大成功。
最悪、勘の鋭いアルファなら見破ってくるかと思って、彼女らが諦めるまで狸寝入りして貰うプランもあったが、多分アルファは最初からこの事が分かった上でベータ達が納得するまで黙ってくれていたんだと思う。
この一件以降、彼女達がマリアを無理に伐採しようとすることはなくなった。
それで安心してマリアとの陰の実力者の会談を楽しむ。アルファ達が同席する時は、未来に全てを託して眠りについた彼女へと語りかける。一つで二度美味しい僕の黄金ルーティーンが確立した。