銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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日間ランキングで少しの間ですけど1位になれました
これも全部皆さんのおかげです!
これからも皆さんに楽しんでもらえる話をのせたいと思いますので、よろしくお願いします!



今回はその名の通り絆というか…そんなん…かな

えっとね、スグちゃんヒロイン回ですよ


では、どうぞ


第十五話:絆

「二コ…なんで、なんでだよ二コ!!!」

 

体の硬直はいつの間にかおさまり、ハルユキはスカーレット・レインを睨みつける。

しかし彼女は彼の問いに答えることなく、大破した≪不動要塞≫のスラスターを動かしてクレーターの縁側まで進んでいく。

 

――このままでは最悪のことが起きるかもしれない…

 

ハルユキはその羽をはためかすと、彼女より早く縁側に飛び、その惨状を目にした。

 

クロム・ディザスター達を攻撃した主砲は、小さなクレーターを新しく作り出していた。

また、そのまま抜けたらしい砲撃は、その先の建築物までも根こそぎ倒していた。

 

そんな中、ハルユキは見覚えのある姿を見つけた。

 

「せ、先輩!!黒雪姫先輩!!」

 

夢中で抱え上げると、全身の各所から黒い破片が零れ落ちる。

ブラック・ロータスの姿は、悲惨なものだった。

四本の剣のうち、左腕と左脚の二本が半ばから砕け、その装甲にはところどころヒビが入り、無残に焼け焦げている。

 

彼女の痛ましい姿にハルユキが胸を痛めながらも、もう一人の黒いアバターはどこに行ったのだろうと辺りを見渡す。

すると、ガシャリという金属音が聞こえた。

顔を上げると、先ほどのアバターが、クロム・ディザスターに掴みあげられているのが見えた。

どちらの姿もボロボロで、クロム・ディザスターの方も赤黒い≪自己修復≫の光が包んでいるのが見える。

 

――あんな姿になってまで、戦いをもとめるのか…

 

クロム・ディザスターの執念というか、怨念のようなものに圧倒されかけながらも、ハルユキは掴みあげられているアバターを見る。

鎧はいたるところがひび割れていながらも、どこも砕けていない。

まるで、砕けるのを拒んでいるかのように。

クロム・ディザスターのフード型ヘルメットの下から、鋭い牙を生やした≪口≫が現れる。

 

―――まさか、食べる気か…!?

 

ハルユキは戦慄した。デュエルアバターを食べる?

噛まれ、体を引き裂かれるアバターにはどれほどの激痛をもたらすかなんて、ハルユキは想像したくなかった。

ディザスターの≪口≫が、黒いアバターに近づいた時、彼の腕がピクリと動いた。

 

 

衝撃音

 

 

まるで、≪口≫を≪剣≫で弾いたような音がするとともに、ディザスターの≪口≫部分がノックバックする。その際に、ディザスターの腕から離され、地面に倒れ込んだアバターに、リーファが駆け寄り、その体を担ぎながら離脱しようとした。

だが、クロム・ディザスターが怯んでいたのは少しだけだ。

足を進めたリーファの背後で、態勢を立て直したのが見える。

 

 

このままでは、二人ともあいつにやられる

黒雪姫は動けない。リーファも黒アバターを担いでいて手一杯だ。

二コは先ほどのこともあるし、まだこちらまで来ていない。

 

つまりアイツを止められるのは―――

 

 

「…僕、だけか……」

 

ごくりと生唾を飲み込む。

一瞬だけでもいいんだ。あいつに攻撃して、そのまま離脱すればいい。

黒雪姫をそっとおろし、背中のフィンを動かし、足に力を込める。

 

 

「う―――――おッ――!!」

 

己を鼓舞しながら、今出せる最大の速さで敵に突っ込む。

こちらに気づき、鍵爪を伸ばすディザスターの爪の先を、全神経を集中させて見切り、体を捻って躱す。

そしてがら空きの腹に、捻った動きに逆らわずに動き、威力を増した全力の左脚を打ち込んだ。

 

渾身の力を込めた一撃は、クロム・ディザスターを多少だが吹き飛ばすことに成功した。

 

 

そのタイミングで、スカーレット・レインがクレーターの縁から姿を現した。

 

「二コ…!お前、わかってるだろ!!君に倒されたら、先輩…ブラック・ロータスはポイントを全損してしまうんだ!なのになんで…!!僕らは…」

 

「仲間だ、とでも?」

 

ハルユキの糾弾に、赤の王は無感動な声で答えた。

絶句するハルユキに、ガシャンと大型外装を解除したスカーレット・レインが続ける。

 

「お前らの甘さには反吐がでるんだよ。仲間、友達、軍団…≪親子≫の絆?そんなもん、加速世界じゃあ信じるモノじゃねえ!…アイツを始末したら、次はお前らだ。それが嫌なら今すぐ逃げな。次に会うときは、敵同士だ」

 

寒々しい声音で告げた赤の王は、腰のハンドガンを抜き、クロム・ディザスターに向けて歩き出す。

ディザスターは、全身の損傷から血の色の光を出しながら、這いずっている。

黒雪姫たちの連携を受け、二コの攻撃も受けて、ハルユキの蹴りも受けてなお、動けるとは、驚異的な耐久力だ。しかし、それでも動きは遅く、あっという間に二コに追いつかれたディザスターは、彼女に蹴り倒され、そのハンドガンを突き付けられていた。

 

 

≪断罪の一撃≫を放つのだろう。

同じレギオンの仲間を、不本意な形で全損させる。

 

その光景を見ていられなくて、ハルユキは視線を下ろし、やがて訪れるであろう銃声を待った。

 

 

 

しかし、銃声は鳴り響くことはなく、代わりに、弱弱しい声が彼の耳に聞こえた。

 

「まっ…たく……、これだから子供は嫌い……だ…」

 

「先輩…!」

 

意識を取り戻した黒雪姫に駆け寄り、その体を抱きかかえる。

それと同時に、ぎゃりいいいん、という金属音が聞こえた。

 

慌てて視線を向けると、そこには状態を反転させて左手を振りぬいたクロム・ディザスターと、ハンドガンを弾き飛ばされたスカーレット・レインの姿だった。

そのまま回復したディザスターに喉首を掴まれる。

二コは抗うこともなく、ただぐったりとぶらさがっている。まるで、全てを諦めたように

 

「な、何で……」

 

あの状態から武器を弾かれるなんて、まるで止めを躊躇していたとしか考えられない。

先ほどハルユキ達に、あんな言葉を投げかけた彼女自身が躊躇するなんて―――

 

 

「…あの小娘はな…、あんなことを言ったが……実は、誰よりも……信じて、求めているんだよ…バーストリンカーの………最後の…絆をな…」

 

 

ハルユキの胸に渦巻く疑問に答えたのは、黒雪姫だった。

漆黒のゴーグルの中で、仄かにヴァイオレットの光を瞬かせながら静かにその言葉は続く。

 

 

「私にはわかる…。あの二人は、≪親子≫だ……赤の王は…≪チェリー・ルーク≫の≪子≫なんだよ」

 

それを聞いたハルユキの頭の中で、一つの謎が解けた。

何故、二コが現実世界のチェリー・ルークの位置がわかっていたのか。

最初はレギオンマスターとしての特権なのかと思っていたが、それは違う。

二コは、知っていたのだ。チェリー・ルークの≪リアル≫を。己にブレイン・バーストを分け与えた≪親≫として…

 

「ほら、何をしているんだクロウ…私は大丈夫だ。キミは…赤の王を…、我々の仲間を……助けにいくんだ…」

 

「先輩………はい!」

 

黒雪姫の言葉を聞いて立ち上がると、隣でリーファも立ち上がる気配を感じた。

コクリと頷きあうと、二人は一斉に、クロム・ディザスターに駆け出した。

 

 

仲間を、スカーレット・レインを助けるために―—―――

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!しっかりして!!お兄ちゃん!!」

 

 

体を揺さぶられる感覚で目を覚ます。

 

「…スグ…?俺は…っ…」

 

目の前のリーファを見て起き上がろうとするが、体に走る痛みに呻く。

確か…そうだ、あの黒いのと獣を攻撃していたら突然ピンク色の光が目の前を包んで…

 

気が付けばこんな状態だ。気を失っている時、何かをした気もするが、覚えていない。

≪ミッドナイト・フェンサー≫の鎧もボロボロだ。これがなければ、もっとひどいダメージを受けていたんじゃないだろうか?

 

 

「よかった…お兄ちゃん、大丈夫…?」

 

「…わるい、今は少し…それよりスグ、あの怪物は…?」

 

「クロム・ディザスターなら今赤の王が…っ!?」

 

状況を説明しようとしたところで金属音、その方向を見たリーファが息をのんだのが見える。

視線を向けると、赤い小さなアバターが獣―――クロム・ディザスターとやらに掴みあげられている。

 

「助けに…いかなきゃ……」

 

「お兄ちゃん、無理しちゃ駄目だよ…!………私が、行くから…」

 

「だが…あいつは…!」

 

危険だ。そう言おうとして、リーファが首を振る。

 

「お願い。行かせて?…いつまでも、お兄ちゃんに甘えてる私じゃないって…証明したいんだ」

 

その顔は、まるで全てを知っているような、悲しさを堪えた表情で…

 

「スグ…お前………」

 

「わかるよ。…だって、お兄ちゃんだよ?いつも見てるから、わかるもん…」

 

「……………ごめん、俺は…」

 

その次は、兜越しにであるが、口に指を当てられて止められた。

 

「先に言っておくね。どんな事情があっても、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから。だって、私の事、助けてくれたもん」

 

「……全部終わったら、ちゃんと話す」

 

「うん……じゃあ、行ってくるね」

 

リーファはそういうと立ち上がり、どこか見覚えのある銀色のアバターと頷きあうと、クロム・ディザスターに向かって走り出していった。

 

二人の攻撃を受けて赤いアバターを離したクロム・ディザスターは、超ジャンプで、≪無制限中立フィールド≫内の渋谷の町並みの中に飛んでいった。

 

リーファは銀色のアバターに捕まると、二人で空を飛んでそれを追い、赤いアバターはその銃を拾ったあとに走りながら彼らを追いかけていった。

 

そして空を飛んだ銀色のアバターを見て、ぽつりと呟いた。

 

 

「……ああ、シルバー・クロウか…………」

 

「…彼のことを知っているような口ぶりだな。桐ヶ谷和人」

 

その呟きに答えるように、凛とした声が響いた。

すうっとホバー移動をしながら近づいてきたのは、先ほどまで一緒に剣を振っていた黒いアバターだ。

 

「……さあ、誰の事かな」

 

「とぼけても無駄だぞ。先ほどの動き、VR空間で見た動きとそっくりだった」

 

「……なら、あんたは黒雪姫、か…。なんだ、姫っていうからもっと姫っぽいアバターを想像してたんだけどな…」

 

「ふん、期待に添えなくて悪かったな。…で、質問に答えろ。何故シルバー・クロウのことを知っている。返答によっては…」

 

「ここで斬る…か?」

 

険悪な雰囲気が場を包むが、別に争う気もないので、俺はため息をついて彼のことを話す。

 

「…前に対戦したことがあるだけだよ。それだけだ」

 

黒雪姫は暫く俺を睨んでいたが、俺がこれ以上話さないとわかったのか、「そうか」と呟くと、俺に突き付けていた剣を下ろした。

そこで会話は終わり、俺たちの間に沈黙が落ちる。

 

 

 

 

 

 

「………その…なんだ。レディオの攻撃の時と、クロム・ディザスターとの戦闘の時…お前に助けられたからな。礼くらいは言っておいてやる」

 

 

 

 

「………ああ、こっちも、あんたのおかげで助かったよ」

 

 

 

 

照れ臭そうにそう言った黒雪姫の言葉に、俺は苦笑しながら頷いたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!無事です…っ!?…マスター、彼は…?」

 

「ああ、援軍だ。一応な」

 

「どうも、一応援軍です」

 

「は、はあ…………」

 

 

 

 

それから少し経って青のアバターがやってきたのを確認した黒雪姫は

 

「さて、では行こうか」

 

と言って、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タクム君メイン盾で可哀想だよね…

ライトニング・シアン・スパイクとか好きだよ

スグちゃんはGGOの時もALOからキリトいなくなったのすぐ気づいたし、今回も気づいたんじゃないかなーって
じゃあなんで今まで聞かなかったの?って…そりゃ………ええと…はい。そういうことです(ごり押し)
助けに来てくれた時は嬉しかったけどよくよく考えたら≪ミッドナイト・フェンサー≫って一刀使いだったよねとかいろいろ考えたんだよ、多分!!





…次回はディザスターに止めさして、キリト君がスグに打ち明けて災禍の鎧編はおしまいかな

では、また次回!



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