銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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こんばんわ

気が付けばSAOⅡもマザーズ・ロザリオ編ですね

戸松さんのOPも映像も良くて感激です



では、どうぞ



第二十四話:ハルユキの決意

「ぐぁあああっ!!」

 

 

リーファの必殺技を受けたダスク・テイカ―は声を上げながら吹き飛ばされた。

彼の体力ゲージを見ると残り一割ほど。

 

―――――これで、トドメだ!!

 

それを好機と見たリーファはダスク・テイカ―に向かって地面を蹴る。

必殺技で吹き飛ばされたダスク・テイカ―は地面に倒れている。

彼が奥の手を隠していようと、この距離なら剣の方が早い。

 

 

「せやぁっ!!」

 

 

烈風のように気合を込めながら振り下ろされた剣は

 

 

 

「ストップ、です」

 

 

この状況でも余裕の声を出した能美の一言で止まってしまった。

 

何か聞こえたとしても、リーファは剣を振り下ろすつもりだった。

しかし、彼の声を聞いた瞬間に堪らない不気味さのようなものを感じたと頭で思考した瞬間、彼女の動きは止まっていたのだ。

 

 

「……なに…?この状況で何か言うことでもあるの…?私が剣を振り下ろせば、あなたの負けは決定するのに」

 

 

剣を突き付けながらリーファはダスク・テイカ―に問いかける。

その質問にダスク・テイカ―は「ええ」と普段通りの言葉で応えると。

 

 

「一応、簡単な確認をしておこうと思いまして」

 

 

と言ってきた。

その言葉にリーファが口を動かす前に、能美は次の言葉を発する。

 

 

「僕があなたとの勝負に負けたら、大人しくここから出ていく…それで良かったですよね?」

 

彼の口から出たのは先ほど、デュエルする前に決めた口約束の話だ。

直葉が勝てば能美は梅郷中から出ていき、逆に能美が勝てば直葉は卒業するまで彼にバーストポイントを捧げるという約束。

 

「…そうね。だから、あなたには出ていってもらう!!」

 

 

リーファはダスク・テイカ―の言葉に頷くと、再び剣を振り上げる。

今度こそ、トドメを刺すために。

 

 

「なら良かったです」

 

 

「っ!?」

 

しかし、その剣は再び動きを止めた。

今、彼は何と言ったのか?

 

 

「どうしたんですか?早くトドメを刺してくださいよ。…まさか、疑ってるんですか?酷いなぁ…流石に傷つきますよ。金輪際あなた方に手出しはしないし、ちゃんと出ていきますって。あなたのおかげで梅郷中は僕の魔の手から逃れて元通り。何も変なところはないでしょう?」

 

 

いや、そもそも何故こんなに余裕なのか?

今、彼がこの学校から出ていくことは彼にとって不都合なことばかりの筈だ。

フィジカル・バーストを使うためのポイントを安定して手に入れることができないのだから。

 

「…どうして…そんなに余裕なの?」

 

だからだろうか。思わずリーファは彼に問いかけていた。

 

「言い方は悪いけど、クロウからポイントを安定して手に入れることができるのっていう状況を作ったのに…」

 

「余裕って…そりゃあ余裕ですよ」

 

リーファの質問にダスク・テイカ―は何を聞くのかと言わんばかりの声で返答する。

 

 

「だって、今の僕には飛行アビリティ(・・・・・・・)があるじゃないですか。これがあれば殆ど無敵ですよ。他の学校に行って、新しい飼い犬を作るなんて、造作もない」

 

その言葉を聞いた瞬間、リーファの思考は固まった。

飛行アビリティ?シルバー・クロウから奪ったその能力のことを言っているのだろうか。

 

「ちょっと待って…私が勝ったら、学校から出ていくって…」

 

「出ていきますよ?ええ。あ、もしかして有田先輩のことを心配しているんですか?大丈夫ですよ。僕がいなくなったら別にポイントを捧げてもらわなくても構いませんし。…あー……でも参ったな…僕、有田先輩の飛行アビリティは有田先輩が卒業するまでちゃんとポイントを上納したら返還するって約束しちゃったんですよ。でも、そうする前に僕が学校から出ていっちゃうんだから、返そうにも返せませんね…だってもう手出ししないって桐ヶ谷先輩と約束しちゃったわけですし…」

 

 

「な、何よそれ!!そんなの…聞いてない!!」

 

わざとらしく、心底残念そうな声を出した彼にリーファは声を荒げる。

しかしダスク・テイカ―は肩を竦めながら。

 

 

「聞いてないって…そんなの、聞かれてませんし…え、もしかして今更約束を変えろって言うんですか?流石にそれはずるいですよ。お互い合意してデュエルしたわけですし…」

 

何を言うんだとばかりに返答する。

怒りに震えながらリーファは剣を振り上げるが、シルバー・クロウの翼のことが頭をよぎり、唇を噛む。

 

「あれ?どうしたんですか桐ヶ谷先輩。ぼうっと立ち尽くしちゃって…とどめを刺さないなら、反撃しちゃいますよ?」

 

動きを止めたリーファを見たダスク・テイカーは不思議そうな声を上げた後、左腕の触手を動かしてリーファに襲い掛かる。

慌てて回避しようとするリーファだが触手攻撃の方が早く、彼女の体はその触手で拘束されてしまった。

 

 

「ぐ…ぅ…っ」

 

 

剣を取り落し、睨むことしかできないリーファを見てダスク・テイカーはククク、っと笑い。

 

「あーあ、折角のチャンス、無駄にしちゃいましたねぇ…仲間なんて、そんなの気にしなきゃ良かったのに…所詮僕たちは一人なんです。自分の知らないところで誰かが不幸になったって、気にしないでしょう?皆、赤の他人なんですから」

 

吐き捨てるようにそう言ったダスク・テイカーは大型カッターを打ち鳴らしながらリーファに近づく。

その姿はまるで死刑囚に近づく処刑人のようだ。

彼はリーファの片腕を大型カッターで挟み。

 

「というわけで……。反撃、させてもらいますね」

 

 

ガシャンと、その間を閉じた。

 

 

 

 

 

 

後は簡単だ。

切断耐性が強くない≪ヒューマン・アバター≫である≪リーフ・フェアリー≫は敗北した。

 

 

能美に敗北した直葉は、彼にポイントを差し出す。

ハルユキのように能力を奪われたわけではない。

ただ単に仲間を人質に取られ、負けた。

 

「それじゃあお疲れ様でした。有田先輩から奪った力の使い方もわかってきたし、桐ヶ谷先輩っていうポイントを持ってきてくれるペットが増えて僕は満足ですよ。今日は良い夢が見れそうだなぁ…」

 

能美がご機嫌な様子で立ち去っていった後、一人取り残された直葉はその場に座り込んでしまった。

胸の中は彼の卑劣な行いに対する怒りと、悔しさ。そして…

 

 

「…お兄ちゃん……っ…」

 

 

自身の兄への罪悪感が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グ…………スーグ…?」

 

 

「……え…?」

 

「え?じゃないよー。お箸で卵焼き持ったまま固まってるから、どうしたのかなって思って」

 

 

次の日、直葉は所謂上の空という状態だった。

気が付けば昼休みで、友人に声をかけられてようやく自分がぼーっとしていたことに気付いた。

自分の手元を見るとに自分で作った卵焼きがお箸に挟まれている。

周りの友人も心配そうな表情でこちらを見ているので、長い間そうしていたのだろう。

 

 

「あ…あはは……お兄ちゃん、どうしてるかなーって思ってさ、ぼーっとしちゃってた」

 

「ほんと、スグってお兄さんと仲良いよね。私なんかこないだ弟がさー……」

 

「ナツこそ口を開けば弟のことばかりじゃん。ほんとは好きなんでしょ?」

 

「ちょっ!?ヒヨ何言ってるの!?」

 

「ツンデレってやつだね」

 

「スグまで…」

 

とりあえず卵焼きを食べ、口に広がる甘みを感じながら直葉は談笑に混じる。

この友人たちは直葉が一年生だったときからの友人だ。

弟のことで弄られているのは通称ナツこと園田夏美。

ヒヨと呼ばれているのは高野日和といい、二人とも直葉と同じ剣道部員だったりする。

二人とも剣道は中学から始めたのだが、直葉の目から見ても筋は良いと思う。

 

話しながらネガ・ネビュラスのメンバーの方に視線を向けると、ハルユキはフルダイブ中で、チユリは他のグループで食事を取っているようだ。

タクムについては見あたらないので、どこかにいるのだろう。

 

 

 

「…あ、そういえば今日体育じゃん!うわ…面倒くさい…」

 

「ナツ、ダンス苦手だもんね」

 

「決まった振り付けを踊らされるっていうのがどうにも…」

 

ナツミが頭を抱えながら机の上に倒れこみ、ヒヨリが苦笑いしながらそういうと呻くようにナツミが返す。

 

 

 

「き、桐ヶ谷っさん!!」

 

 

その光景を見て苦笑していると、後ろの方から上擦った声で直葉の名前が呼ばれた。

振り向いた先にいたのは丸っこい体を必死に小さくしている少年…有田春雪であった。

フルダイブを終えて話しかけに来たのだろう。恐らく能美の件について。

 

途端に友人二人の視線が鋭くなるのを感じた気がした。

 

昨日、女子シャワー室からカメラが見つかったことによって一時的にシャワー室が使えなくなったことは恐らくこの学校中で知れ渡っている事実だ。

女子というものの情報網は恐ろしいモノで、案外簡単に情報が手に入ったりする。

情報を流したのは恐らく能美…そして同じ剣道部員である彼女達が能美からその情報を聞いている可能性は高い。

 

 

「有田君…だよね?」

 

「スグに用事?じゃあ私たちは邪魔そうだから先いってるよ」

 

こちらに意味深い視線を向けながら先に体育館に向かっていった友人二人を見つめながら、そのことが奇遇だったと溜息を付く。

恐らく自分らのグループに急に入ってきたことによる警戒と、友人である自分に話しかけたハルユキを見定める視線だったのではないか?そう、例えば娘との結婚の許可をもらいに来た男を見定める頑固親父のような……

 

 

 

「いや!?なんか二人とも勘違いしてない!?」

 

 

そんな思考が浮かんで思わずそう言うが既に二人は教室をでた後。

この状況を作り出した少年に恨めしそうな目で振り向くと、ハルユキはまるで蛇に睨まれた蛙のような表情になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で…何の用かな?大体は推測できるんだけど…能美、のことだよね?」

 

「う、うん。…というか、桐ヶ谷さんもあいつと戦ったの!?」

 

「昨日の放課後に…ね。勝てなかったよ」

 

驚くハルユキにそう答えた直葉は、視線を逸らす。

それを見たハルユキは俯きながら。

 

「…じゃあ、俺の…≪飛行アビリティ≫があいつに奪われたことも…」

 

その言葉に力なく頷く直葉。

仲間が人質に取られたようなものなのだ。

彼女にはそれを割り切って敵を倒すほど非情にはなりきれない。

 

「…………桐ヶ谷さん」

 

俯いた直葉に、ハルユキの声がかかる。

顔を上げハルユキを見ると、彼の顔は何か、決意に満ちた表情だった。

 

「桐ヶ谷さん。オレに、力を貸してほしい。能美を…ダスク・テイカーを倒して、

梅郷中を…あいつの魔の手から救うんだ」

 

「…え…?能美を倒すって…有田君!それがどんな意味なのかわかってるの!?あいつを倒したら、君の翼は…」

 

「構わない」

 

驚いて彼に問いかけた直葉に返された言葉は、酷く簡潔なものだった。

 

 

「気づいたんだ。≪飛行アビリティ≫は僕の全てじゃないってことに」

 

「…?何を言っているの?」

 

「……その…今まで僕は、翼っていう形に拘っていた。でも、ある人に教わってわかったんだ。その翼に執着することで、僕は僕自身…シルバー・クロウを小さな枠に押しとどめていたんだって」

 

最初こそ直葉に話す言葉を選んでいたような様子だったが、そう口にしたハルユキは直葉を見る。

 

 

 

「翼が失われるのが悲しくないかって言われたら嘘になる。でもこれ以上あいつの好きにさせちゃいけないんだ。一人のバーストリンカーとして…能美は倒さなくちゃいけないんだ。だから桐ヶ谷さん、オレに力を貸してくれ!!」

 

 

「………っ…」

 

 

―――凄い

 

ハルユキの決意に満ちた声に、直葉は素直にそう思った。

自分の大切なモノを奪われてなお戦おうとするハルユキの言葉は彼女の心に響いた。

 

だが、本当にそれで良いのだろうか。

ハルユキは本気で自分の翼が無くなっても良いと思っている。

≪飛行アビリティ≫―――幾多のバーストリンカーが求めてやまなかったその力を捨ててまで、彼は能美を倒す決意を固めている。

バーストリンカーとして、加速の力を使って好き勝手する者を倒そうとしている。

そして相手を倒しても奪われた力は戻ってこないのだ。

 

 

 

―――そんなの、悲しすぎる

 

 

 

「………私は…」

 

 

 

 

直葉が口を開いた瞬間、予鈴のベルが鳴り響いた。

直葉の視界にも授業開始までのカウントダウンが現れる。

 

 

「…返事は、また後でいいよ。多分能美は今週中は何もしないと思う。黒雪姫先輩や、タクに挑むにはまだ時間が必要だって言ってたから…」

 

そう言ったハルユキは授業に向かうために走り出した。

 

 

 

「…お兄ちゃん…私、どうしたら…」

 

 

ポツリと呟いた言葉に答えてくれる者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




能美君のゲスさが伝わったかななんて

脳内ボイスで能美君が喋ってくれてたので結構楽しかったです

本人がいくら大丈夫だって言っても気にする人は気にしますよね
そんな感じです

ハルユキ君の一人称がちょくちょく変わってますが仕様です
こう…力強く言うところはオレにしてみました

ではでは、また次回!

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