銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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文章が浮かんだので思ったより早くお届けできました

それではどうぞ


第三十一話:柔よく剛を制す

「倉嶋君からメッセージが届いた」

 

 

 

突然告げられた黒雪姫の言葉に、俺はお昼のゴーヤーチャンプルーを口に含みながら目をぱちくりさせた。

ちなみに今は自由時間。

俺達修学旅行生は各々の時間を過ごしているのだが、目の前の真っ黒いお姫様に呼ばれた俺はこうして二人で食事を取っているのである。

 

 

ゴーヤの苦味を味わいながら、俺は頭のなかで先程の言葉を反復する。

《倉嶋君》とは十中八九《ライム・ベル》の倉嶋君だろう。

メッセージが届いた……と言うことをわざわざ俺に話してきたと言うことは一体どういうことだろうか?

 

 

「えっと……数少ないメル友ができたみたいで良かった…な?」

 

「ん?よく聞こえなかったな」

 

「ナンデモナイデス」

 

見るもの全てが凍り付くような笑みを浮かべられ今の返しは不味かったようだと冷や汗をかく。

 

いやでも誰だって思うだろ?

黒雪姫と言えば何処となくミステリアスな空気を醸し出し、周りから崇められてるみたいな。

そのせいで実際メールのやりとりをしてる人は多くない孤高のぼっち(ソロプレイヤー)みたいなさ。

 

 

まあ、俺も人のこと言えないんだけど。

 

 

 

「んんっ、いまとても不愉快な想像をされた気がするが置いておこう。割りと急を要する話だ」

 

咳払いをした黒雪姫は、真剣な表情でこちらを見る。

 

 

「実は今、ネガ・ネビュラス、引いては梅郷中にいるハルユキ君達に大きな危機が迫っているらしい」

 

「……何だって?」

 

 

黒雪姫が言うには俺達が旅行に行く直前まで話題に上がっていた剣道部の新入生、能美がバーストリンカーだったようで、彼との戦いに敗れたシルバー・クロウの翼を能美のアバターの必殺技により奪われてしまったらしい。

 

そのあと色々あったらしく、近いうちに無制限中立フィールドにて互いのバーストポイントを賭けた戦いをすることになったとか。

 

チユリは自分の能力を活かして能美の仲間になったフリをしつつ情報を探っていたらしく、今回黒雪姫に助けを求めてきたと言うのが事の顛末だ。

 

 

「そんなことになってるなんて……っ、そうだスグ…!」

 

「落ち着け和人君、今直葉君に連絡を取ったところではぐらかされるに決まってる」

 

彼女の言葉に反論しようとするが、スグの性格を考えると確かに一理ある。

焦る気持ちを抑えながら、俺はコップの水を飲み干した。

 

 

「それで、だ。彼女からのメッセージによるとハルユキ君達は無制限中立フィールドで能美と戦う際に邪魔が入らないように戦う時間を調整するらしい。わかるな?倉嶋君は助けを求めてきた……」

 

「でも無制限中立フィールドで戦う以上現実とは違う時間の中で戦う……俺達が助けに行っても戦いが始まってない…もしくは決着がついているって可能性があるってことか」

 

黒雪姫の言葉を続けるように答えると、彼女はそうだ、と肯定して箸を置く。

 

いつの間にか二人ともご飯を食べ終えていたようだ。

 

「まあ時間に関しては倉嶋君が教えてくれるらしい。実に遺憾だが、私たちはそれまで待機だ」

 

 

「……でも場所や時間はわかってもどうするんだ?ここは沖縄だ。無制限中立フィールドに入ってもここと本島じゃとんでもない距離だ」

 

 

そう、仮に時間を合わせることができても、距離という概念は覆せない。

ALOならまだしも、ここで空を飛べるのは限られている。

そんな俺の疑問に黒雪姫はニヤリと微笑む。

 

「なに、宛はあるぞ。こないだクリキンから面白いことを聞いたのを覚えているか?」

 

「クリキンって……ああ、あの赤いネジの。……って黒雪姫さん?……マジで言ってます?」

 

「ああ、大マジだぞ私は」

 

黒雪姫はふふん、とどや顔を見せたあと席を立ち上がるとおもむろに俺に指を突きつけ。

 

 

「さあ、レッツテイミングだ」

 

なんて、とんでもないお言葉()を仰ったのだった。

 

 

 

 

アンリミテッド・バースト、の言葉と共に無制限中立フィールドに降り立つ俺達。

 

 

クリキンの言葉によれば目的の空飛ぶエネミーは沖縄エリアの北の方とのこと。

幸い北の方とやらには苦もなく辿り着くことができたし、件のエネミーも見つけることはできた。

 

 

そう、見つけることはできのだ。

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!?」

 

 

「おいキリト!ちゃんと動きを止めろ!!」

 

 

「無茶言うなぁぁぁぁあ!!!」

 

 

自分でも情けない声を上げながら俺は迫りくる空飛ぶエネミーに向き直る。

その姿は有り体に言えば天馬だ。

 

黒雪姫が持つテイム用アイテム、《幻想の手綱》でこの天馬をテイムするというところまでは良かったのだが、いざテイムするにはどうするのか?と言う話になった。

 

ブラック・ロータスは全身が剣で出来ているため、下手を打てばエネミーを傷つけてしまう。

何でも斬り裂く黒の王の名は伊達ではないのだ。

 

そんなわけで俺が天馬を抑え、そこをブラック・ロータスがテイムするといった形になったのだが、この天馬、空を飛びながら助走を付け突進してくるというとんでも攻撃をしてきたのだ。

 

その速度はかなりのもの。

普通のボス戦なら回避確実のものである。

これを受け止めるなんて俺にはできない。

 

 

「俺はタンクじゃないんだぞ!!!」

 

 

「私もこんな体じゃなかったら手助けできるんだがな、いやあすまない、本当にすまない」

 

逃げ回る俺が面白いのか、言葉の節々で笑いを堪えるように声をかけるブラック・ロータスに、こいつ覚えとけよと心のなかで叫んだ。

 

 

「……あの勢いを止めるにはどうすれば…」

 

 

呟きながら考えを整理していると、ふと、とある考えが頭に浮かんだ俺は、少し考えたあとその考えを実行することを決めた。

 

 

仕方ない、これより良い方法が浮かばなかったんだ。

 

俺は悪くない、悪くない。

 

 

 

迫りくる天馬を再び回避した俺は、真っ直ぐにある方向を目指して走り出す。

無論、天馬も再び上昇しながら、俺を追いかけるために進路を取っていることだろう。

 

目指す方向はもちろんーーー

 

 

「おいキリト、何で此方に走ってくるんだ……?おい!どういうことなんだ!!やめろキリト!!おい!!」

 

その聡明な頭で俺の考えてることが理解できたであろう裏切り者(ブラック・ロータス)のもとである。

 

 

 

必死な声を上げるロータスの肩を叩き、サムズアップをした俺は彼女を抜き去ると、背中の剣を抜き放ち方向転換。

ちょうど天馬、ロータス、俺と直線上になる立ち位置になったのを確認する。

 

天馬のスピードはかなりのもので、突然の出来事にあたふたしていたブラック・ロータスが俺の後ろに下がることはできない。

俺と天馬の両方を交互に見た後、ぐぬぬ、と唸った彼女はその両足を地面に突き刺し、誤って天馬を倒して仕舞わないように両手の面を重ね合わせて受けの姿勢をとった。

 

 

「き、キリト!!覚えておきたまえよ!!《オーバードライブ》、《モード・グリーン》!!」

 

 

俺に恨みの声を上げながら高らかに叫んだブラック・ロータスの装甲の継ぎ目から、緑色の光が漏れる。

恐らく防御技だろう。

 

 

技の発動はギリギリ間に合い、ブラック・ロータスの剣に天馬が激しい音を立てて衝突した。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

突撃の勢いによって、地面に突き刺したロータスの剣はそのままフィールドを斬り裂くように下がっていく。

 

 

如何に黒の王、レベル9と言えどあの勢いの攻撃を受け止めるのは至難の技のようだ。

 

 

「…しかし、上半身は勢いに押されていて、下半身は動かないように踏ん張る形となると腰ヤバそうだな」

 

ブレイン・バースト内で腰をやったらどうなるのだろうか。

逆にリアルに復帰した際に違和感がありそうである。

 

 

まあ、そんな黒雪姫の腰を守るために俺がいるのだが。

 

 

必殺技ゲージが十分な事を確認した俺は、徐々に下がっていくブラック・ロータスの背後に近づくと、その背中部分に交差させた二本の剣を押し当てた。

 

「お、おいキリト!!何をするつもりだ!!」

 

「何って、手助けだよ手助け。《クロス・ブロック》!!」

 

「ん"ん"っ!?!?!?」

 

声にならない悲鳴を上げるブラック・ロータスの腰がイカれないようにしながら、俺は襲ってきた衝撃に歯を食い縛る。

 

 

天馬の勢いが弱まるのが先か、ロータスの腰が壊れるのが先か。

 

「根比べだ……っ!!」

 

「ふざけるな!!おい!キリトっ!!私の腰っ、背中がっ、んんんっ!!」

 

 

頑張れロータス、シルバー・クロウや梅郷中の皆の無事は、お前の腰に掛かってるんだ……っ!!!

ここでお前がやられたら、危険を犯して連絡してくれたライム・ベルに会わす顔が無いだろう……!!

 

 

 

「くぅぅぅぅぅっ!!も、う……限界っだ……っ!!」

 

「何を言ってるんだロータス!!お前が踏ん張らなければ俺達が皆を助けられ……」

 

 

ホバー移動するためのスラスターを展開したブラック・ロータスの声を聞いた俺は、彼女を激励するために声をかける。

 

 

しかしその瞬間、信じられない事が起きた。

 

スラスターの勢いを利用したブラック・ロータスが地面に突き刺していた剣を抜き放つと、高く跳躍。

面の部分で擦り合わせるようにしつつ、天馬を受け流して回避したのだ。

 

 

「ちょっ、ロータスぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 

前に俺も彼女とのデュエルで受けた《柔法》と呼ばれる技術の応用だろうか。

そこまで考えた瞬間、俺の両手に大きな衝撃が襲いかかってきた。

言わずもがな天馬である。

 

 

貴様は絶対に仕留めると言った目で此方を見る天馬の迫力に気圧されそうになるが、俺にも退けないモノは存在する。

 

 

「こん………のぉっ!!!」

 

 

渾身の力を込めて剣を上に振り上げると、《クロス・ブロック》によって拮抗していた力が分散され、天馬の顔が弾かれるように上を向いた。

 

あまりの勢いに俺の剣も吹き飛ばされてしまったが、今回は天馬を倒すことが目的ではない。

 

「《閃打》っ!!」

 

痺れる腕を無理矢理動かし、必殺技をがら空きになった天馬の体に打ち込む。

 

攻撃が効いたのか苦しげな声を上げる天馬に、先程攻撃を回避したブラック・ロータスが走り込んで《幻想の手綱》を使用。

 

鮮やか(?)な連携プレイに天馬はなすすべもなくテイムされたのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあ…テイムできて良かったな」

 

「……」

 

「あ、あれしか思い浮かばなくてさ、そ、そうだ。相談せずに巻き込んだお詫びはいつか精神的にさ、払いますので……」

 

「…………」

 

 

テイム完了後、天馬に跨がり乗り心地を確かめているブラック・ロータスに恐る恐る声をかける。

しかし、彼女は俺の声が聞こえていないかのように返事を返さない。

 

参った、彼女の機嫌を治すにはどうすれば良いんだろうか。

 

 

 

「……大体梅郷中までこれくらいの時間か」

 

「え?」

 

 

女性を怒らせてしまった際にどのように接するべきかと脳内シミュレーションをしていた俺に先程まで返事を返さなかったロータスの声が聞こえた。

 

 

「何だその間抜けな声は……私が梅郷中までどれくらい時間がかかるか計算していたって言うのに」

 

「あ、ああ……悪いていうかその…あの……怒ってないんです…か?」

 

「何を怒っていると言うんだ?ああ、確かにあれは急すぎたが最初に煽った私に責任はある。君がああいう行動を起こすことを予測できなかった私にも落ち度はあるだろうな」

 

思わず敬語になりながら聞いた俺に、彼女は首を傾げながらそう答えた。

俺はホッと息をつきながら、数歩先にいる彼女に近づいていく。

 

 

「そ、そうか。それで、どれくらいの時間がかかーーーー」

 

 

俺の言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

 

次に理解したのは鳩尾の痛みと、俺の体が空気を突き破り吹き飛ばされているということ。

 

 

「ーーああ、すまん」

 

 

地面を転がり、激しく咳き込んだ俺にまるで日常会話をするようにかかる声。

見上げた先には後足を振り上げた天馬と、心配そうに首を傾げたブラック・ロータス。

 

 

 

「天馬の制御が上手く出来ていなかったみたいだ。先ほど殴られた恨みを晴らしたかったんじゃないか?」

 

 

 

「うそ……つけ…」

 

 

先の会話を思い出したが、彼女は怒っていないなんて一言も言ってない。

現にほら、その手綱の位置が動いている。

 

絶対わざとだろ!!という言葉は胸の奥に秘め、俺は痛みが引くのをジッと待つ。

 

 

「それと、天馬にロープを結んでおくから君はそれを掴んでくれ。先ほどの衝突で私は腰を痛めてしまったみたいでね、二人のりなんてしたら悪化してしまいそうだ」

 

 

 

「、……っ」

 

 

………痛みを堪えながら、次から彼女は怒らせないようにしようと俺は心に深く刻んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけで天馬のテイミング回
少しはっちゃけすぎてキャラがあってるか不安です

チユリが黒雪姫に連絡したタイミングがよくわからなかったですので、変な部分あるかも…

一度アイテムでテイムしたエネミーって一度プレイヤーがいなくなったらどうなるんでしょうね
メタトロンが居座ってたことからその場にずっと待機なんでしょうか

それではまた次回


※あのあとキリト君は謝り倒して二人のりを許してもらいました

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