銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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オーディナルスケールの特典小説読みました

色々と考えさせられました
エイジがARなら英雄になれると言ったような趣旨の言葉をいった理由とか
彼のVRでの悲劇から生まれた言葉だったんですね


次の話ができてストック完成したら投稿するんですが、ややスピードが遅いので投稿します

それでは、どうぞ


第三十三話:まだ倒れない

 「…クロウ!!」

 

 吹き飛ばされた壁にぶつかり動かなくなったダスク・テイカーを一瞥したリーファは、倒れているシルバー・クロウに駆け寄る。

 ブラック・バイスも勝負がついたからなのか走り出したリーファを見ても動く気配がない。

 

 

 「クロウ!クロウ!!しっかり!!」

 

 「は、はは…もうガタガタだよ……」

 

 疲れきった声でそう返すシルバー・クロウは、彼女に手を借りながら何とか立ち上がる。

 

 「悪いんだけどリーファ、テイカーのところまで連れていってくれるか?」

 

 ーー決着は、俺の手でつけないと

 

 そう告げたシルバー・クロウにリーファはコクリと頷き、未だ動かないダスク・テイカーに向かって歩を進める。

 あと数歩まで来たところでシルバー・クロウはリーファから手を離し、一人で歩き出した。

 

 「っ……」

 

 とたんに全身に襲いかかる疲労感。

 ふらついたシルバー・クロウを見て駆け寄ろうとしたリーファを手で制止ながら、残りの数歩を自分の足で詰めた彼は、その右手刀を揃える。

 

 「《光線……剣(レーザー……ソード)》」

 

 掠れた声でそう呟くと、本来よりも遥かに淡い心意光が彼の右手を包んだ。

 本来ならお粗末も良いところだが、今のテイカーならこれでも十分に倒すことができるだろう。

 

 「能美……何でお前こんなことしたんだよ……」

 

 動かない彼にハルユキは思わずそう言っていた。

 同じバーストリンカーとして、別の出会い方もあった筈なのだ。

 

 「誰でも良かったんだ…入学してきた時に対戦を挑んで、よろしくって言ってくれれば、良い関係が築けたのかもしれないのに…」

 

 たら、ればを話していればキリがない。

 ハルユキは雑念を振り払うように頭を振ると、決着をつけるためにその右腕を振り下ろそうとしてーーー

 

 

 

 「ーーあはっ」

 

 

 ーーその笑い声に動きを止めていた。

 

 「あはははははっ」

 

 

 ーー全身を震わせながら、ひたすら上げる笑い声

 

 

 

 「あははははははははははははははははははははははははははははははあはっははははは」

 

 

 「ーーっ!!うわぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 ーーそして彼の身体を負の心意光が包み込み始めた

 

 

 何もかもを飲み込む強烈な負の心意。

 反射的に右腕を前につきだしたシルバー・クロウの行動は果たして正しかった。

 例え淡くても彼が纏っていたのは正の心意だ。

 彼の心意はテイカーの体から溢れた心意とぶつかり、シルバー・クロウを激しく吹き飛ばしていた。

 

 

 「クロウっ!!」 

 

 いち早く動いていたリーファに抱き止められながら、ハルユキは目の前のダスク・テイカーの変化に目を見開いた。

 彼の体からはどこに隠していたのかというくらい負の心意があふれでていて、まるで前に戦った《クロム・ディザスター》のように感じられる。

 

 「テイカーくん、《逆流現象(オーバーフロー)》はないよ。まあ君ならそれを起こすのは予想できてたけどさ」

 

 そんな中、ブラック・バイスの淡々とした声が響く。

 聞き覚えのない言葉。しかしハルユキは心意を教えたスカイ・レイカーから直接的に無いにしろ似たようなことを聞いたことを思い出した。

 恐らくあれが自分の心意に呑み込まれた者の末路なのだろう。

 

 

 「■■■■■ーー!!!」

 

 声にならない咆哮を上げたダスク・テイカーは真っ直ぐにシルバー・クロウを睨み付ける。

 

 ーー奴の狙いは、僕だ……っ

 

 応戦しようとするが、今度こそ身体が動かない。

 限界を越えた心意の発動に加え、強烈な負の心意に充てられたシルバー・クロウの身体はハルユキがいくら動かそうとしても動かすことができない。

 

 それでも、ハルユキは必死に動こうとする。

 相手の狙いは自分なのだ。

 他の仲間を危険に晒すわけにはいかない。

 

 

 

 

 「……えっ」

 

 

 

 そんなシルバー・クロウの前に、出る者がいた。

 その象徴的な長刀を構えた彼女は、逃げたくなるのを堪えながらダスク・テイカーと相対する。

 

 「だ、駄目だリーファ…、危険だ……」

 

 弱々しく呟き、彼女の前に立とうとするがやはりシルバー・クロウは動けない。

 大丈夫、とリーファは全身を淡い光に包みながら返す。

 暖かい、何もかも包み込むような心意だとハルユキは呆然と考える。

 しかし駄目だ、今の状況を例えるなら真っ暗な闇の中でリーファは弱々しく光る蝋燭だ。

 吹けば、容易く消えてしまう。

 

 

 「■■■■■ー!!!」

 

 

 正の心意が気に入らないのか、ダスク・テイカーはリーファに狙いを定めると両腕を負の心意の爪に変えて駆け出した。

 

 「っ!!」

 

 その攻撃をリーファはブレる(・・・)ようにして回避した。

 次いで振り下ろされる爪も同じように回避、良くみれば彼女が動く度に残像のようなものが見えるのが分かる。

 

 「こ、これがリーファの心意……?」

 

 

 

 キリトの言葉を借りるとすればこの世界の桐ヶ谷直葉は、兄の背中を追いかけ続けた存在である。

 そのアバターは彼の近くにいたい、追い付きたいという願いが形取り、遥か遠くを目指す翼ではなく、蝶などのように一見不規則に飛んでるように見えながら目的の場所を目指す羽として彼女の背中に現れた。

 

 

 心意の基本的な分類に分ければ《移動距離拡張》。

 妖精が舞うようにステップを踏み相手を撹乱するその技は彼女自身によってこう名付けられた。

 

 「《妖精の舞(フェアリィ・ダンス)》っ!」

 

 残像を残しながら相手を撹乱するその技は瞬間的な戦いを主とする対人格闘では大きな効果をもたらす。

 攻撃したと思えばそれは彼女の心意が残した残像。攻撃がすり抜け隙ができたところを攻撃する堅実なヒット&アウェイ。

 しかし、シルバー・クロウやシアン・パイルのように部分的に発動する心意とは違い、リーファの心意には大きなデメリットが存在する。

 

 

 「■■■■ー!!!」

 

 

 「きゃぁっ!?!?」

 

 

 業を煮やしたダスク・テイカーががむしゃらに爪を振り回し、その内の攻撃がついにリーファを捉えた。

 そしてそのまま地面に叩きつけられる。

 

 残像を出すと言うことは彼女の心意によって、残像のようなものが出現している。

 自分と同じ姿形の残像を出すためには必然的に身体の全体を心意で覆わなければならないのだ。

 

 心意の攻撃は心意でしか防げない。

 

 この関係は何があっても覆すことができないモノであり、ダスク・テイカーの爪を受けたリーファはその負の心意を直接的に触れることになる。

 心意という精神力をかなり使う技、それを全身に均等に纏うという技術。

 しかもこれを心意を覚えたての存在が行うという状態。

 

 技を形にしたリーファは、赤の王スカーレット・レインから口酸っぱく言われていた。

 

 "心意同士のぶつかり合いになったら、決して相手に捕まるな"

 

 今のリーファの状態は湖に薄く張られた氷だ。

 ここにダスク・テイカーの爪という石が投げ込まれれば容易く壊れてしまう。

 

 

 叩きつけられた瞬間に逃げようとするリーファだが、それよりも早くテイカ―の爪が振り下ろされようとしていた。

 誰もが諦めかけたその時、聡明な声が辺りに響いた。

 

 

 

 「≪スプラッシュ・スティンガー≫ァァァア!!!!」

 

 

 

 それと共にダスク・テイカーに襲い掛かる金属の杭。

 しかしその杭は超人的な反応を見せたテイカーの心意が叩き落しダメージを与えた様子がないが、その攻撃は十分にリーファが逃げ出す時間を稼いだ。

 その声にハルユキは信じられない、と考えると共に声の主を見やる。

 ダスク・テイカーに両腕を斬り裂かれ、最早バトルが困難だと思われていた彼が、その足を地面に付けて立っている。

 

 ライム・ベルを背に胸部装甲を開いた≪シアン・パイル≫が、そこに立っていた。

 

 「いつまでも……ハルに良い恰好、…させられないからね」

 

 「た、タク!!駄目だ逃げろ!!!」

 

 そうシルバー・クロウに声をかけたシアン・パイルだったが、今の彼に心意の攻撃はできない。

 しかもその大柄なアバターでは恰好の的になってしまう。

 タクムは自分を犠牲にしてまでも仲間を守ったのだ。

 

 自分がレベル2になったばかりの時も、レディオとの戦いの時も、今回の能美の件だって彼に救われた。

 

 そんな心優しい彼を失うわけにはいかない。

 親友を失うくらいなら…

 

 「オレがやられたほうがマシだ…っ」

 

 そう吐き捨てたハルユキは重い体を動かし、立ち上がる。

 先ほどまであんなにも動かなかった身体は鈍重ながらも動いてくれた。

 心意は出せなくても、まだ動ける。

 

 動ければ、まだ可能性は存在する。

 

 「諦めて……たまるか……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よく言ったぞハルユキ君、それでこそだ」

 

 

 

 

 

 

 そう自分を鼓舞した瞬間、凛とした声が彼の耳に届いた。

 視線を向けると、≪月光≫ステージの満月を背に、一体の天馬が浮かび上がっていた。

 そしてその天馬に乗っている漆黒のアバター、瞬きをすれば消えてしまいそうな光景に、ハルユキは声を失ってしまっていた。

 何でここにいるのか、自分たちのことを何故知ったのか、そもそもどうやってきたのか。そんな疑問がハルユキの頭を駆け巡るが、そんなもの、こちらを向いてコクリと頷いた彼女の前に四散した。

 

 次いでシルバー・クロウの目の前に漆黒のアバターが降り立つ。

 全身を漆黒の服に包み、薄い水色の剣と漆黒の剣をぎゃりぃぃぃんと抜き放つ少年のようなアバター。

 見ただけで、かなりの戦士だとわかる彼は場の状況を眺め、飄々とした雰囲気で口を開いた。

 

 「悪いシルバー・クロウ、少し遅れた」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の黒が、戦場に参戦した。

 

 

 

 

 

 

 





またキリトが降ってきました

心意の逆流現象って精神が侵される状態に近いからこんなんかなって?
クロウがテイカー戦でディザスター化しかけた時みたいな

それでは、また次回

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