銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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今回はハルユキ君視点です

アクセル・ワールドってSAOみたいにキリト君一人称の描写みたいなのってないんですね

うん、多分見づらいことになってると思います…


第三話:壊れた現実

一体全体何が起きているんだろう

 

下校時間になり、下駄箱から靴を履きかえた少年――有田春雪は昨日今日と続いている奇妙な出来事に頭を悩ませていた。

 

ハルユキは梅郷中学校に通う1年生だ。

体はぽっちゃりとしていて、性格はやや内向的で温厚、彼をよく知る者達から見れば良い奴であることには間違いないだろう。

 

しかし、彼は入学してから半年間、あるグループからイジメを受けていた。

イジメの証拠を提出すればそのグループはすぐに罰せられるであろうが、その後の報復が怖く、行動できない彼は、休み時間になるとトイレに隠れてニューロリンカーを通して行う≪完全ダイブ≫によってできる学内サーバーのネットゲームに明け暮れていた。

そんなある日、いつものようにゲームをしようとしたハルユキの前にある少女が声をかけてきた。

 

『もっと先へ、加速したくはないか、少年』

 

少女は梅郷中学校に通う生徒なら誰もが知っている人物だった。

 

≪黒雪姫≫

 

本名はハルユキも知らないが、その美貌で有名な人物から声をかけられたのだ。

 

翌日、彼女の指定した場所、校舎一階の学生食堂に隣接しているラウンジを訪れたハルユキは、そこで黒雪姫本人と会い、あるアプリを渡された。

 

≪ブレイン・バースト≫

 

彼女曰く、このアプリをインストールした瞬間、今までの現実は破壊され、思いもよらない形で再構成されることになるらしい。

それを聞いたハルユキは考える。

 

鈍重な体。冴えない容貌。繰り返される苛めと、ネットへの逃避。

そしてその状況を変えようともしなく、変わらないと諦めている自分自身。

 

変えようのない現実、それが壊れるなら―――

 

『望む、ところです。この現実が…壊れるなら』

 

ハルユキはそれを受け入れることにした。

 

アプリのインストールも済み、説明に入ろうとした時、彼をイジメていたグループの主犯格――荒谷とその取り巻き二人が声を上げながら近づいてきた。

もう駄目だ、と思いながら近づいてくる彼らを見ていた時、ハルユキと彼らの間に入り込む影があった。

 

その影は一人の女子生徒だった。

肩のラインまでカットされた青みがかった黒の髪の毛の少女の名前は――同じクラスの桐ヶ谷直葉という生徒だった気がする。

何故彼女のことを知っているかというと、完全に偶然である。

とある剣道雑誌を見ていた際に、彼女の名前があり、それが同じ学校、同じクラスだったのだ。

直葉は荒谷に対してもうイジメは止めろと言っている。

 

自分を助けてくれる味方がいたことに若干の感動を覚えながらも、ハルユキは荒谷が内心怒り狂っているのを感じた。これでは彼女まであいつの犠牲者になってしまう。

 

それは駄目だ。

自分が殴られるのは嫌だが、それ以上に自分のせいで他人が傷つくのはもっと嫌だ。

彼女にいいから離れてと言おうと口を開く。

恐怖に震えながらも絞り出した声は、背後から聞こえた涼やかな声音によって中断せざるをえなくなった。

 

「キミは確か…アラヤ君だったな。有田君に話は聞いているよ。間違えて動物園からこの中学に送られてきたんじゃないか、とな」

 

 

黒雪姫の言葉はハルユキを呆然とさせ、それを聞いた荒谷は怒りに震えると目の前にいた直葉を押しのけてこちらに殴り掛かってきた。

荒谷の怒号に身を竦めたハルユキの脳内に、先ほどのやりとりで黒雪姫と接続しっぱなしだったニューロリンカーを通して伝えられた彼女の鋭い声が響く。

 

『今だハルユキ君!叫べ!≪バースト・リンク≫!!』

 

そのコマンドを自分の実音声なのか、ニューロリンカーで行う思考会話による音声なのかはわからなかったが、ハルユキには自分の体の隅々にまで、声が振動となって染み渡るのを感じた。

 

 

 

≪バースト・リンク≫!!

 

 

 

バシイイイッ!!

 

という衝撃音が世界を揺るがしたと思えばあらゆる色彩が一瞬で消滅し、透き通るブルーになった。

周りのラウンジも、成り行きを見守っていた生徒達も、目の前の荒谷まで、モノトーンの青色に染まったと思ったら、全てが静止した。

 

それには気づかず、殴られると思い一歩飛びずさったハルユキは、自身の体がニューロリンカーのローカルネットで使っているピンク色のアバターということに気が付いた。

 

驚愕しながら辺りを見渡したハルユキの疑問に答えたのは、同じく学内ネットで見かけたことがあるアバターの姿をした黒雪姫の姿であった。

 

彼女の言葉によると現在自分たちは≪ブレイン・バースト≫のプログラムの力によって思考を≪加速≫している状態らしい。

この青い世界は学内のソーシャルカメラが捉えた画像から再構成された3D映像を、ニューロリンカー経由で見ている世界だということを聞かされた。

 

その≪加速≫の原理を詳しく聞いている途中、何かに気づいた黒雪姫は苦笑しながら「そういえば現実のキミは今まさにぶっ飛ばされつつあるんだった」と言ったことにより、とりあえず加速についての講義はお開きになった。

 

この力を使えば、今ハルユキに襲い掛かってくる拳を避け、荒谷を返り討ちにすることは容易い。

 

しかし黒雪姫はこれをワザと受けることで、ソーシャルカメラに荒谷の暴力行為を映させ、正式な処罰を受けさせようと言った。

殴られるのは確かに痛い。しかし、本当に痛かったのはハルユキの心だ。

これまで受けたイジメは、彼のプライドをずたずたに引きちぎった。

荒谷に対する恨みは強い。≪ブレイン・バースト≫の力があれば簡単に倒せると聞ければそうしたいとも思う。今までの恨みを晴らして、仕返しする。

そう考えた後、ハルユキは殴られることを選択した。

 

それを聞いた黒雪姫は満足げに笑うと、この状態を解除する方法と、荒谷のパンチへの対処を教えて、≪バースト・アウト≫と言い、加速状態を解除した。

自分も解除しようと声をだそうとした時、先ほどの少女が気になった。

 

荒谷に押しのけられた直葉は、男子生徒に支えられている。

それを見て安心したハルユキは、≪バースト・アウト≫と呟く。

徐々に戻ってくる色彩と周りの動きを感じ取りながら、ハルユキはこれから起こす行動に全神経を集中していた。

 

 

 

 

…結果として、荒谷への対処は予想以上の効果をたたき出した。

荒谷のパンチを受け流しながら吹き飛んだハルユキの体はそのまま黒雪姫にぶつかり、倒れた黒雪姫の頭がラウンジの採光ガラスにぶつかり、その衝撃で頭を少し切ってしまうということになったからだ。

ハルユキも最初は混乱したが、直結されていたニューロリンカーを通して発せられた黒雪姫の思考音声によってなんとか平静を保つことができた。

その後は簡単だ。事態を聞きつけた先生達によって荒谷達は取り押さえられ連行。黒雪姫は病院へ、ハルユキ自身は保健室で軽い手当を受け、こうして下校している。というわけだ。

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら歩きだそうとしたハルユキは、別れる時に黒雪姫から言われた言葉を思い出した。

 

『明日登校するまで、ニューロリンカーは絶対に外すな。しかし、グローバル接続は一秒たりともしてはいけない。いいか、絶対だ。約束だぞ』

 

絶対に~するなと言われたらしたくなるのが人間と言う者だが、彼女を怒らせるのも怖いし、なにより彼女はイジメられていた自分を助けてくれた恩人だ。言うことを聞かないわけにはいかないだろう。

 

グローバルネットの接続を切り、再び歩き出そうとした時。

 

「ハル」

 

と小さな声が耳に届き、ハルユキは足を止めた。

 

「……チユ」

 

そこにいたのは幼馴染の倉嶋千百合、ハルユキがイジメられていたことを知っていて、昨日は彼を元気づけようとお昼まで作ってきてくれた少女だ。

しかし肝心のお昼は、荒れていたハルユキ本人が叩き落としてしまったため、今彼女に会うのはハルユキとしては少し…いや、かなり気まずいものであった。

 

しかし彼女の方はハルユキの傷を心配した後、一緒に帰ろうと誘ってくれた。

昨日のことも謝らなければいけないし、ここで逃げたら昨日と同じ繰り返しだ。

というわけで、ハルユキはありがたくその申し出を受けることにした。

 

 

 

 

とりとめのない会話を交わしながら帰り道を歩くハルユキとチユリ。

ハルユキの方は昨日の一件を謝ろうとするのだが、タイミングがつかめず謝ることができなかった。

 

「あの、チユ…昨日のことだけど…」

 

何回目かの謝罪チャンスに挑んだハルユキの声は、後ろから掛けられた声によってまたもや彼の喉奥に飲み込まれることになった。

 

「有田君?」

 

声は自分を呼ぶ声だ。足を止めて振り返ると、そこにはお昼休み、荒谷の前に立ちふさがってくれた少女、桐ヶ谷直葉の姿があった。買い物帰りなのか、私服のエコバックという彼女の姿は先ほどの彼女とはまた違った印象を彼に与えていた。

 

「え、あ、き…桐ヶ谷さん。どうも」

 

「有田君、怪我は大丈夫?荒谷の奴、おもいっきりぶん殴ってたじゃん」

 

「う、うん。保健室行ったし、あまり大したことなかったから」

 

怪我の心配をしてくれた彼女にそう答えると、「そっか、よかったよ」と安堵の笑みを向けられた。

それを見たチユリが訝しげにハルユキを睨む。

何やらよくない誤解をしている彼女に説明しようとするが、その声もまた、後方から聞こえる声に阻まれた。

 

「おーい、ハル、チーちゃん!偶然だね!今帰り?」

 

「あ…、タッくん」

 

隣のチユリがにっこり笑ったのを見ながら声のした方向を見ると、そこにいたのは爽やかという形容が似合っている美男子が手を振りながら近づいてきた。

 

「オッス!ハルにチーちゃん。それと君は…」

 

「ま…黛拓武さんですよね!?こないだの剣道の都大会で一年生なのに優勝した…。嘘、本物!?」

 

「うん。…そういう君は女子の部で準優勝した桐ヶ谷直葉さんだよね?君こそ凄いよ、一回戦から決勝まで一本も取られなかったっていう人から一本取ったんだから」

 

「いや、まぐれですよまぐれ。…それより、ええと三人は知り合いなの?」

 

タクムとの剣道話に花を咲かせていた直葉はハルユキ達を見るとそう問いかける。

そうだよ、と言おうとすると、チユリがズイッと前に飛び出して。

 

「そうよ、ハルもタッくんも私もみんな同じマンションに住んでる幼馴染。ちなみにタッくんは私の彼氏」

 

彼氏の部分を強調してるのは直葉を威嚇しているのだろうか。

直葉の方は「へえ、そうなんだ」と返し、全く気にしてないようだ。

 

暫く立ち話をしていると、直葉がそろそろ帰る趣旨を告げたため、話はその場でお開きとなった。

最初は威嚇していたチユリも、同学年の女子となるとすぐに打ち解けたようで、連絡先の交換までしていた。

 

女子って凄いと内心感心しながら三人で歩き出し、その後は何もなく帰宅した。

今日は色々なことがあったから疲れたようだ。

ベットに潜ったハルユキは、そのまますぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ハルユキは夢を見た。

 

いや、夢ではなく悪夢だろう。

小学校のころ、自分をイジメていた集団、荒谷やその手下AB。

彼らの暴力を受けている自分をタクムやチユリ、母親にずいぶん前に家を出ていった父親が現れて彼をあざ笑うのだ。

その数はどんどん増えていき、マンションの住人、クラスメートもその輪に加わる。

 

嫌だ。もうここは嫌だ。

 

そんな時、空を見上げるとそこには一羽の鳥がいた。

 

広い空をその翼で飛び回る鳥。

 

いつしかハルユキはその鳥を見つめていた。

僕もそこへ行きたい。もっと、もっと高く。

あの空まで、飛んできたい。

 

 

 

『—――それが、君の望みか?』

 

 

 

 

最後に、聞き覚えのあるような。それでいて聞き覚えのないような声が聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




AWの一巻を読みながらポチポチアレンジを加えながら打ってました。

直葉ちゃんの剣道の実力は高いです
中学三年で全国大会の上位ですからねぇ…

ハルユキ君はタクム君の活躍ののった雑誌を読んでた時にチラッと小さくあった直葉のページを見た感じです。

それではまた次回!

…いい加減バトルに入りたい……

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