トリックオアトリート!!!!
ギュンと風を切る音が耳を叩く。
自分の翼を使った高速飛行で慣れているとはいえ、自分の体で感じるモノとはまた違うもんだとハルユキは一人考える。
「クロウ!!もっとスピードを上げろ!!」
「鴉さん!!」
「無茶言わないでくださいぃ!!!」
と、現実逃避しかけたハルユキを引き戻したのは、超スピードの中にも関わらず背後からかかる二つの声であり、それに対して彼は悲鳴混じりの声を上げた。
バババババッ!と銃撃音が鳴り響くなか、ハルユキは必死に
上記のアクションからまるで車を運転しているように見えるが、その認識は正しい。
現在、ハルユキ達《ネガ・ネビュラス》のメンバーは加速世界の一大イベントである《ヘルメス・コード縦走レース》と言うものに参加しているのである。
《ヘルメス・コード》とは、東太平洋上に建設された《宇宙エレベータ》の名称である。
そのセキュリティシステムには日本のソーシャルカメラ・ネットが使用されており、ソーシャルカメラによる映像から作り出される世界で戦うバースト・リンカー達は新しいステージが追加されるのではないかと睨んでいたのだ。
その予感は的中し、見事《新ステージ接続記念イベント》として、五人乗りのシャトル十台によるレースが開催されたのである。
さて、こうしてシャトルに乗っていると言うことはハルユキ達もイベントに参加する権利を手にいれていると言うことである。
しかしシャトルは五人乗り、ネガ・ネビュラスのメンバーは先日ハルユキに《ゲイル・スラスター》を授けた旧ネガ・ネビュラスの一員であった《スカイ・レイカー》こと倉崎楓子が復帰したことで七人となっており、二人余ることになる。
そしてシャトルに乗っているメンバーはシルバー・クロウ、ライム・ベル、シアン・パイル、スカイ・レイカー、そして黒の王ブラック・ロータス。
つまりリーフ・フェアリーとキリトは乗っていないと言うことになる。
キリトからは近いところでお前達の活躍を見させてもらうよと言われているので、恐らくシャトルと共に上昇している観客席にいるのだろうとハルユキは考える。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
情けない悲鳴を上げながらシャトルを操作するハルユキであるが、こちらに攻撃を仕掛けてくる真っ赤なシャトル、パドさんこと《ブラッド・レパード》が率いる《プロミネンス》のメンバーはハルユキ達のシャトルに追随し、攻撃を続けている。
このシャトルレースは只のレースではない、攻撃あり妨害ありのデス・レースでもあるのだ。
そのためシャトルにはHPが設定されており、シャトルのHPがなくなればそれに乗っているメンバーは脱落ということになる。
自分達が一位になるためにどのチームもお互いのシャトルに妨害を仕掛けているのだが、射撃を得意とするプロミネンスのメンバーが遠くからシャトルを攻撃する戦法が上手く嵌まり、運転しているパドさんの技術も伴い、かなり有利に事を運んでいた。
既に青のシャトルがリタイアしているなか、次はお前達だと言わんばかりにシルバー・クロウが乗る銀色のシャトルに標的を変えてきたのである。
「くそっ……捌ける攻撃は捌くがこのままではじり貧だぞ…」
赤シャトルから放たれる銃撃をその剣で叩き落としながら、黒雪姫は悪態をつく。
現在の順位は赤と銀のシャトルがほぼ同率でトップを走っており、他のシャトルがそれを追いかけている形になっている。
どうすればこの状況を脱却できるかハルユキが思考を巡らせた時、自分達のシャトルの後ろから何かが近づいてくる音が聞こえる。
新たなシャトルがこのデッドレースに参加してくるようだ。
「……あれっ!?!?」
ハルユキ達より先にシャトルに乗っている人物を見つけたであろうライム・ベルは驚愕の声を上げた。
ハルユキも振り向きたい衝動を押さえながら、必死に運転に集中する。
と、ここで背後からシャトルに乗っているであろう人物の声が聞こえた。
「前方にシャトル二台!!」
「なのです!!」
「お、お兄ちゃん立ち上がらないで!!バランス!!バランスが!!!」
聞き覚えのある声が二つ、そしてもう一つ知らない声。
そう、少女のような声が聞こえた気がする。
「今の声……まさか…!!クロウ!シャトルを横に動かせ!!早く!!」
珍しく焦った黒雪姫の声に反射的に機体を動かした瞬間、先程まで銀色のシャトルがあった場所に
あ、危なかった…とハルユキが溜め息をついたと同時に、赤と銀のシャトルの間に鮮やかな白と緋色のシャトルが入り込んだ。
一体誰が乗っているんだとシャトルの搭乗者を見たハルユキは、運転を一瞬忘れるほど驚いてしまった。
シャトルを運転しているのは、これ以上にないほど慌てている顔のリーファ、そしてそのシャトルの席に立っている人物ーー
漆黒の長髪をたなびかせ、紫色に発光しているビームソードを持つ全身漆黒の服に身を包んだ人物。
見間違える筈がないあれは…あれはーーー
「き、キリーーー」
「謡!?!?」「ういうい!?」
ハルユキの驚愕の声は背後から発せられたそれより大きな声にかき消されてしまった。
黒雪姫とレイカーのここまで驚いた声など聞いたことがないハルユキは、キリトの後ろの席に立つアバターに視線を向けた。
白と赤の、まるで和風の着物のような装甲に身を包んだ少女のようだ。
その左手には自身の身長と同じほどの大きさの弓、そして小柄な体格からは信じられないほどの圧倒的な威圧感を感じる。
明らかに格上、果たしてキリトはどのようにして彼女を引き込んだのだろうか。
いや、彼が引き込まれたのだろうか?
というかそもそも彼がこのレースに参加していた事すら驚きである。
レース前はパドさんやアッシュ・ローラーと会話していたし、例の錆びた9番目のシャトルのこともあったからか確認することを怠っていたようだ。
しかしキリトも参加しているとなれば心強い。
単純に考えればネガビュのシャトルは二台ということであり、このレギオンが勝利する確率も上がったようなものだ。
「キリトさん!!」
ハルユキの言葉に美少女(?)らしい笑顔を向けたキリト。
その笑顔にどことなく安心感を覚えたハルユキであったが、一瞬でその安心は絶望に変わった。
なんとキリトは光剣を持っていない手で黒光りする銃を真っ直ぐ構えると、ハルユキに向かって躊躇なく発砲してきたのである。
「うわわわわわわ!?何しちゃってるんですか!?」
悲鳴をあげながら銃弾を回避し、車体を立て直したハルユキは、思わずキリトに叫ぶ。
「悪いなシルバー・クロウ!!このレース、優勝は俺たちが貰う!!」
そんな叫び声に満面の笑みを見せるキリト。
この人!!本気で一位取りに来てる!!
いや確かにレースなんだからそうなんだけどさ、と心の中で悪態をつくハルユキ。
と、ここで巫女型アバターが口を開く。
「サッちん、フー姉、この姿で会うのは久しぶりなのです」
「うた…メイデン、どういう事だ?君のアバターは今…」
「何事にも例外は付き物なのです。この場に来る条件は参加資格である《トランスポーター》を持った代表と、それに直結をしたメンバーのみ」
その言葉だけで悟ったのだろう、黒雪姫とレイカーは合点がいったように頷いた。
「あくまでもこの場は《初期加速空間》経由で訪れることができるフィールド…」
「システム的には無制限中立フィールドではない…ということね」
と、ここで赤のシャトルがキリト達のシャトルに狙いをつけ、攻撃してきた。
自分達の射線に入ってくれば遠慮なく攻撃するのは当たり前と言えば当たり前だろう。
しかしその弾丸は相変わらずどや顔で席に立つキリトが光剣でスパスパ叩き落とす。
黒雪姫とレイカーの言葉になのです。と頷いたメイデンは、流麗な動作で弓を構えると、銀色のシャトルに狙いを定める。
いきなり攻撃してくるのか!?
思わず身を強張らせるハルユキであったが、放たれた矢は黒雪姫の剣によって弾き飛ばされた。
「サッちんには大きな借りがあるのは承知なのです。ですが、その前にこれだけは……」
そう言ったメイデンはシアン・パイル、ライム・ベル、そしてシルバー・クロウへと視線を移す。
それと同時に襲いかかる途轍もない重圧。
それは視線を向けられた二人も感じているようで、緊張した気配が伝わってくる。
「あなた達がこれからのネガ・ネビュラスを担っていくに値するかを、このアーダー・メイデンに確かめさせてほしいのです!!」
凛として、そしてはっきりと意志を感じさせる声で、目の前の巫女はそう宣言したのであった。
朽ちた十号車は色々あって九号車になりました
一人で乗ってた人もいるわけだし、見知らぬ中堅レギオンには犠牲になってもらってキリト君たちが別枠で参戦です
メイデン参加は本文の通り、無制限中立フィールドで封印されてても、通常対戦はしてるとの発言や、初期加速空間からポータル使ってシャトル乗り場に行けるのでじゃあ直結すれば行けるんじゃね?といった感じですね
あとまあ折角のBBのイベントなんだから、参加権は一応誰でも参加できるようにするんじゃないかな運営サイドもといった考えです
それではまた次回!!