銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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祝四十話

だからよぉ…止まるんじゃねぇぞ…

お待たせしました、それではどうぞ


第四十話:革命の渦

 アーダー・メイデンの言葉を聞いた俺は並走する赤色のシャトルからの攻撃を捌き、拳銃で牽制する。

 赤のシャトルのメンバーは生意気な、と俺達を倒そうとしていたのだが、運転手の一声で渋々と言った感じで武器を収めると、グンと加速して二台のシャトルの前に躍りでた。

 

 

 先程のメイデンの会話からネガ・ネビュラス同士の潰しあいを狙っているのだろう。

 かなり強気なドライビングだと思う。

 前にGGOで《死銃》とデッドレースしたことを思い返してしまい、体がウズウズしてきた。

 茶化すように口笛を吹いた俺は、さてと並走する銀色のシャトルに視線を向ける。

 

 俺がこのレースに参加している理由、それは後ろに立つメイデンこと四埜宮謡のお願いを聞いたからである。

 一度ネガ・ネビュラスを離れた彼女は黒雪姫に再び声をかけられるまでは加速世界での活動を殆どしていなかった。

 それは彼女自身が抱えている大きな傷であり、そうしなければ自分を許すことができないという自責の念から来るものでもあった。

 

 

 『UI>ネガ・ネビュラスが壊滅した原因は、私にあるのです』

 

 

 そう言った彼女は第一次ネガ・ネビュラスが壊滅してしまった理由、そして自分のアバターが無制限中立フィールドにてMEKによる封印をされていることを俺に話した。

 それを踏まえて黒雪姫が再び声をかけ、自分を仲間だと思ってくれていたことは心の底から嬉しかったと言いながらも、やはり自分に戻ってくる資格は無いと考えていたらしい。

 

 その時にこのヘルメス・コードで開かれるであろうイベントに気がついた彼女は、もう参加枠は残っていないであろうと思いながらも当日にダイブ。

 するとなんと、驚いたことに最後の10番目のシャトル及びレースへの参加権利を手に入れることができたとか。

 

 他のレギオンの方とタッチの差だったのです。と苦笑気味に話した謡であるが、その一瞬を逃したくなかったのは何故なのかと考えた時、脳裏に浮かんだのは黒雪姫達の姿。

 

 そしてその気持ちを確かめるために出場することを決めた彼女は、こうして俺に力を貸してくれと頼んできたということらしい。

 

 そういうことならと直葉も誘った俺は今回のレースにネガ・ネビュラスとは別の枠で参加することになったのだ。

 この話が来た次の日にハルユキからレースの話を聞いたので、危うくレギオン内でレース出場を賭けた戦いが起きなくて良かったと内心思っていたりする。

 

 「ゲームのイベントに目がない君にしてはやけにあっさり出場を辞退したと思ったらそういうことか!!」

 

 「そういうことだロータス!こないだの仕返しはこれでさせてもらうぜ!!」

 

 俺はスグから運転を代わると速度を維持しながら銀色のシャトルに向かって距離を詰める。

 

 「き、キリさん!近いのです!これじゃ矢が…!」

 

 「あー…メイちゃん。多分お兄ちゃんスイッチ入っちゃったから無理かも」

 

 カーレースと言えば車体同士をぶつけ合うドッグファイトに決まっている。

 現に俺の動きを見た観客の熱気も高まっているのがわかる。

 

 「良いかデンデン!矢は至近距離で撃った方が当たるんだ!!」

 

 「デンデーー!?と、兎に角無茶苦茶なのです!!似てる似てるって思ってましたけどそこまで似ないで欲しいのです!!」

 

 「アイツが二人いるなんて考えたくないが…顔合わせたらどうなるのか想像がつくよ」

 

 メイデンの叫びとロータスの溜め息を尻目に、シアン・パイルがシャトルギリギリまで体を乗り出す。

 

 「この距離なら僕のパイルで!!」

 

 ガシュンッ!!と放たれた杭は真っ直ぐ俺たちのシャトルに放たれた。

 当たれば大きなダメージだろうが、その攻撃はギィン!!と甲高い音と共に上に弾かれる。

 

 「させないよパイル!!」

 

 その攻撃を防いだのは俺の自慢の妹であるリーファである。

 シアン・パイルの攻撃は予測済みであるため、領土戦でよくペアを組み、癖を知っている彼女に迎撃を任せたのだ。

 そしてこの距離はシアン・パイルの杭が届く範囲且つブラック・ロータスの剣が届かない距離なのだ。

 

 流石の俺も触れたら斬られる黒の王がいるシャトルにドッグファイトは挑まないよ、うん。

 人員が充実してるならまだしも、今は運転手を合わせて三人なのだ。無茶はできない。

 

 「くそっ、翼が使えたらあっちに飛び移れるのに…!」

 

 「翼…そうだよハル!!姉さん!!」

 

 シルバー・クロウの言葉に何かを閃いたライム・ベルは、スカイ・レイカーに駆け寄って何かを話す。

 その内容にレイカーは驚きの声をあげ、戸惑ったように首を振るが、ベルは更に首を振って何か言葉を投げ掛けた。

 その言葉にレイカーは深く俯いた後に頷くと、ベルの頭を撫で、抱き締める。

 レイカーは己の外装である車椅子をストレージに戻すと、シャトルの外枠に手をかけた。

 

 「レイカー!!何をしているんだ!!」

 

 先程キリトが言っていたように至近距離の矢を捌くのに集中していたロータスには突然レイカーが飛び降りるように見えたのだろう。

 慌てたように声をかける彼女に、レイカーは落ち着いた声で返す。

 

 「これが最善の策なのよロータス。座っているだけの私にできる、この状況を打開できる唯一の方法が」

 

 「だからって飛び降りるなんて私は認めないぞ!!お前がいないと優勝しても意味がないんだ!!」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 ロータスの言葉に思わず声をあげるレイカーとメイデン。

 メイデンも思わず攻撃を止めてしまったので、状況に気づいたロータスも動きを止めてレイカーのいるところを見る。

 ベルの手を借りながら移動し、シャトルの最後尾の車体に掴まったレイカーはロータスの勘違いに気づくとクスリと笑い。

 

 「全く、思い込みが激しいのは変わらないのね」

 

 「わ、私が姉さんに言ったのは、ハルの言葉から《ゲイルスラスター》でなら加速できるんじゃないかって言うことで……」

 

 困惑したベルの声にようやく自分の勘違いに気づいたロータスは、いや、その、と声をあげる。

 

 「確かに前までの私だったら飛び降りるように言ったと思うわ。はっきり言うけれど、私はあの時サッちゃんを傷つけたことによって生まれた負の心意が、この足のようにゲイルスラスターが動かないと思ってたの」

 

 少なくとも、レースが始まるまではね。と言葉を続けるレイカーは、シャトルに乗る仲間達に視線を送る。

 

 「でもね、この中で打開策を思いついてくれたベルや、これまでシャトルを守ってくれたパイルに鴉さん」

 

 静かに言葉を続けるレイカーの着ていたワンピースが光と共に解除され、そのアバターの姿が現れる。

 すらりとした空色のアバターの膝から下は存在しない。

 

 「それにこうして来てくれたメイメイがいる前でそんなことするわけないでしょう?」

 

 「フー姉……」

 

 「あと、最初に言った筈よロータス」

 

 《疾風召喚(コーリング・ゲイル)》と、言葉が紡がれると彼女の背中にブースターが現れた。

 ゲイルスラスター、空を駆ける彼女の翼。

 

 「私が出る以上、優勝しない選択肢なんてあり得ないって!!」 

 

 準備を終えたレイカーが力強くそう声をあげると、ゲイル・スラスターが力強く動きだして銀のシャトルのスピードをどんどん上げる。

 

 

 「お、お兄ちゃん!離されちゃうよ!!」

 

 「一瞬距離が開いただけだ!こっちは三人だしシャトルのスピードはまだ出る!!」

 

 「前方に…!あれはワープゾーンなのです!!」

 

 リーファの心配する声にアクセルを踏み込みながら俺はシャトルのスピードを上げる。

 次いでメイデンが発した言葉に、俺はニヤリと笑う。

 現実のヘルメス・コード自体とても大きいのだから、これくらいのショートカットポイントが存在していてもいいだろう。

 

 

 

 ワープゾーンに入るとこれまでの景色は一変し、上も下もわからないような世界をシャトルが走っているようになる。

 一息つけるのはここら辺だろう。

 

 「メイデン、どうだった?」

 

 運転しながら後ろに座っているメイデンに問いかける。

 あの三人が彼女の目にどう映ったのか気になったためだ。

 

 「シアン・パイルはとても思慮深い方の印象を受けたのです。ライム・ベルの閃きや、その行動力も良いものだと思うのです」

 

 「シルバー・クロウは?」

 

 「……まだ、良くわからないのです」

 

 少し考えてからふるふると首を振るメイデンに、だよなぁと返す。

 シルバー・クロウは運転していたこともあるし、彼という人物を知るためには実際に話したり、戦ってみないと解りづらいと思う。

 

 「ただ、サッちんとフー姉が変わったのはあの三人の影響があるのは事実なのです。あの人たちが、離れた私達の心を繋ぎ合わせてくれている、そんな気がするのです。サッちんとフー姉の間には、本当に大きな溝があったのです」

 

 そう、それだけは理解出来たかもしれないと頷いたメイデンの言葉を最後に、シャトルの中には暫しの沈黙が流れる。

 

 「……だってよ、スグ」

 

 「な、なななんで私に振るのかなお兄ちゃん!?」

 

 「……!も、勿論キリさんとリーさんの影響もあると思うのです!!今のは言葉の綾と言うかなんというか!!だからその…!」

 

 自分の言ったことに気づいたメイデンが慌てて訂正し、和やかな空気がシャトルを包む。

 

 「だったらメイデン。君も答えは出ているんじゃないか?」

 

 「それは……」

 

 「君に迷いや躊躇いがあるのは少しはわかるつもりだよ。だけどこうして現実で俺や黒雪に会って、次はバーストリンカーとしてロータス達の前に立ちはだかった。一歩だけじゃない。君はもう二歩踏み出している」

 

 本当は俺が言うべきじゃないってことは解っている。これは黒雪姫達の問題だ。

 ただ、それでも伝えなきゃいけないと思う。

 

 「伝えたい言葉を伝えられずに、大切な人に突然会えなくなることってあると思うんだ。…とりあえずそれだけ、今は兎に角レースに集中しよう」

 

 「…兄様」

 

 何か思い当たる部分があるのだろうか。

 ぽつりと呟いたメイデンはふるふると頭を振り、俺の言葉に頷いた。

 

 「お兄ちゃん!コースに戻るよ!!」

 

 リーファの言葉と共にワープゾーンの出口を抜けた俺たちを待っていたのは、宇宙の中に飛び込んだと言ったような光景であった。

 

 「おいおい最後尾かよ…!」

 

 前方にシャトルが五台あることに気づいた俺は、迷わずスピードを上げる。

 なんとか横一列に並んだ俺たちのシャトルはシルバー・クロウ達とは反対側の一番端である。

 

 「ねぇお兄ちゃん……」

 

 と、ここでリーファの戸惑った声が聞こえた。

 

 「あれは…九号機なのです。何時の間に…」

 

 メイデンも困惑しているようで、俺も視線を向けると、何時の間にかシルバー・クロウが乗る銀のシャトルの右側に、錆び付いたシャトルが現れていたのだ。

 

 それと同時に、何か嫌な予感が俺の頭をよぎる。

 

 そう、上手く話すことはできないのだが、この宝箱には罠がかかっているようなといった、アインクラッドで培ってきた危機察知能力がチクリと俺の頭を刺した。

 

 「…二人とも掴まってくれ!少し嫌な予感がする!!」

 

 言うが否やアクセルを踏み込み、シャトルのスピードを限界まで加速させる。

 

 

 二人の悲鳴が耳を叩く中、俺は先程のシャトルがいる方向を見て、目を見開いた。

 

 

 

 大きな赤い光の渦が、ヘルメス・コード全体を包むように展開されていた。

 

 

 

 

 




レパードの前での全力ではレイカーは落ちることを言うかもしれない

メイデンが参加したことに自分も思うところがあった様子
ベルはレイカーになついてるし、なんやかんや彼女の心を動かす言葉を言えそうと言うことから

メイデンが表舞台にまた出ようと思ったのも、キリトという話相手と、彼について黒雪姫と話すことで交流が原作よりも増えて、また会いたいという気持ちが強くなったからと、自分で勝手に考えてます

それではまた次回に!

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