皆様もお体には気を付けてください
それではどうぞ!
「こ、氷…だと……!?」
「綺麗……」
先程までハルユキ達を襲っていた全てを崩壊させるジグソーの心意技は、キリトが発動した心意技によってその形を大きな氷に変えていた。
驚愕の声を上げるロータス達の声を聞きながら、ハルユキはこんな状況を招いたジグソーに対して激怒していた。
シャトルはもう動きそうにないが、先程の心意技でシルバー・クロウの必殺技ゲージは溜まっている。
ジグソーのシャトルはキリトが作り出した氷に阻まれて動きそうにない。
「く、クロウ!?何をする気だ!!」
「キリトさんを助けに行きます!!」
そうと決まればと、考えるより先に体を動かしたハルユキはジグソーとキリトが乗るシャトルに向かって飛翔した。
「ジグソー!!」
元凶の名前を叫びながら、ハルユキはシャトルの後部座席に到着し、相手を睨み付ける。
沸々とした怒りはハルユキの視界を真っ赤に染め、今すぐ目の前の敵を倒せとハルユキに叫んでいる。
「クロウ、頼めるか…!」
呼吸を整えているキリトの言葉に、ハルユキはコクリと頷きながら右腕で心意技の発動をする。
「わかってます。アイツは僕が…オレが叩き潰します!!!」
光の剣に包まれた腕を構えながら、ハルユキはジグソーに斬りかかる。
ジグソーも心意光に包まれた腕で彼の攻撃を防いだ。
しかし、驚くことに彼の体に触れた瞬間にシルバー・クロウの右腕が錆び付いたように崩れ落ちた。
「なっ……」
「無駄だ。不可能だ。その程度の心意では」
こちらを嘲笑うようなジグソーの声。
途端に脳を刺激する右腕の痛みにハルユキは声のない悲鳴をあげる。
「な……ぐっ、な…めるなぁ!!」
右腕が無くなったのは自分の心意が相手の心意に負けたからだ。
なら次は負けないようにより強力にすればいい。
怒りで体を奮い立たせ、左腕に先程より一回り大きな光線剣を展開したシルバー・クロウの攻撃は今度こそジグソーを捉える。
激しいスパークを迸らせながらジグソーの腕を叩き斬ろうと力を込めたシルバー・クロウの腕が振りきられた。
「ぁぁっ!?」
しかし目の前のジグソーに傷はない。
そしてその答えは自身の左腕に走る激痛が物語っていた。
「絶望しろ。自分の無力を噛み締めろ」
単純な話、シルバー・クロウの腕と接触していた別の腕から放たれた糸ノコが彼の腕を切り落としたのだ。
ふー、ふー、と荒く息を整えながら、両足に心意イメージを集中させる。
そんな姿を見てジグソーはくっくっと笑いを浮かべる。
この現状を見ている観客席のバーストリンカーもアイツは何しに来たんだと困惑しているのが感じられる。
「何もわからないくせに…何も知らないくせに……!」
自分の力が通じないこと、ジグソーの思い通りに事が進んでいること、そして何も知らない観客への不満がハルユキの口から漏れる。
状況はかなり緊迫しているのに何でわからないのか。
今の彼にはバーストリンカーとしての心構えなんてものは浮かばなかった。
先程までジグソーに対して持っていたバーストリンカーとしての怒りは最早この場にいる全員に対して振り撒かれる怒りとなっていた。
「クロウ…!」
こちらを呼ぶキリトの声も、最早雑音でしかなく、ハルユキの怒りを余計助長させる。
僕に比べて色んなモノを持って、できて、まるで彼が主人公ではないか。
力だ、圧倒的な、全てを蹂躙する力が欲しい。
そうだ、あの加速世界全てを震え上がらせるような、破壊の化身のような力が。
ーーーグルル。我ノ力ヲ欲シテイルヨウダナ。
ドクン、とシルバー・クロウの体の中で何かが目覚める音がした。
鼓動はドンドン激しくなり、胸の辺りで何かが暴れているような感じだ。
今まで気にしていなかったが、そうか、この場所はあの時の戦いで奴のワイヤーが引っ掛かった部分だ。
姿勢を低くしながら、ラスト・ジグソーを睨み付ける。
ーーー求メヨ。ソシテ喰ラエ。何モカモ、加速世界の全テヲ。
心意光を纏った足には、気がつけば三本の鉤爪が装着され、力強くシャトルを踏みしめていた。
腕が無くなったからなんだ、このアバターにはそれを補う力が存在している。
頭の中で響く声は目の前の敵を倒せと繰り返している。
「まだ、やるのか。いい加減、諦めろ」
此方に向かって放たれた糸ノコは、シルバー・クロウの胴体に巻き付き、その体を引き裂こうとその細い線を心意光で光らせる。
瞬間、翼を展開したシルバー・クロウは、きりもみ回転するようにジャンプ。
そのまま振り上げた足で糸ノコを全て切断した。
驚愕の声を上げるジグソーであるが、クロウの攻撃はまだ終わらない。
翼で加速した勢いを付けた鉤爪が彼の頭を捉えた。
それはまるで獲物を捕まえた鴉のように、ジグソーをシャトルに叩きつける。
たまらずジグソーも先程クロウの腕を錆び落とした能力を使おうとするが、彼を拘束している足は何時までたっても錆びなかった。
何故と思考する瞬間に、ジグソーの両腕に衝撃。
片足は自分の顔を踏みつけているのにと視線を向けると、足で踏みつけていない部分の腕はいつのまにかクロウの背後から現れた尻尾によって串刺しにされていた。
「なあ…少し聞かせてくれよ」
投げ掛けられた声に視線を向けると、そこにいたのはシルバー・クロウではなく、一体の《獣》だった。
全身の装甲が彼を象徴する銀色から黒ずんだダークメタルに変貌しており、その頭部も分厚いヘルメットに覆われている。
「一方的に蹂躙していた奴にやられるのってどんな気分なんだ?」
その言葉に反応を返す前に、ジグソーの体はシルバー・クロウから伸びた尻尾によって持ち上げられ、ヘルメス・コードの表面に叩きつけられる。
何時の間にか再生していた両腕を開いて閉じたクロウは、尻尾でジグソーを拘束しながら、その体に拳を叩き込む。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
「なあ、おい、聞いてるのかよ」
コツン、とヘルメットをジグソーの頭部にぶつけたハルユキはそう問いかける。
しかし思った反応が無いことに舌打ちをすると、ジグソーの体をシャトルに叩きつけた。
「お前たちはいつも勝手だ。やられる人の気持ちも知らないで、ただ自分の優越感に浸りたいだけで弱いものに手をかけて、そいつらの人生を無茶苦茶にする」
再び叩きつける。
「その癖強い人には媚を売って、その鬱憤をまた弱者にぶつける。自分では戦う勇気も無いくせに!!」
ただ衝動のままに、ハルユキはジグソーを蹂躙する。
最早それは対戦でも、戦闘でもなく、見ている者が目を逸らしてしまうほどのモノだった。
四肢を切断され、頭と胴体だけの姿となったジグソーを掴みながら、ハルユキはふんっと鼻を鳴らす。
「クロウ…お前」
と、ハルユキの耳に声が届く。
視線を向けると、困惑した表情でキリトが立っていた。
「クロウ、いくらなんでもやりすぎだ。こんなの、こんなの…」
「こんなの、何ですか?先に無茶苦茶にしたのはこいつだ」
キリトの言葉を否定するように声を被せる。
そうだ、先にこいつがレースを壊したんだ。
なのに何でそんな顔をするんだ。
ジグソーを蹂躙していくらか落ち着いたからか、ハルユキはシルバー・クロウの体に何が起きているのかをようやく認識する。
その名を表す銀色の装甲は黒銀に染まっており、身体中が鋭利に尖っている。
まるで《クロム・ディザスター》だ。
そこまで認識して、ハルユキははっと自嘲の笑みを浮かべる。
ーーーグルル。奴ハ喰ラウ。必ズ喰ラウ。
ーーーアノ時、我ノ邪魔ヲシタアイツダケハ喰ラウ!!
そして再び溢れでる破壊衝動。
体の中の獣も暴れるのを望んでいるようだ。
ごめんなさい、先輩、皆。
僕はもうーーーーー
「クロウ……!」
「違いますよキリトさん僕はーーオレは」
ぐしゃり、とジグソーの頭を握りつぶしたシルバー・クロウは身体中から闇の心意を放出させる。
「六代目《クロム・ディザスター》だ……」
そう、はっきりと口にした瞬間、先程よりも体に力が満ちるのがわかる。
ただただ戦闘欲に身を任せたハルユキの眼前には、彼が自身をクロム・ディザスターだと認めたからか【YOU EQUIPPED AN ENHANCED ARMAMENT 《THE DISASTER》】の文字列が流れていた。
ぶっちゃけハルユキ君はキリト君を尊敬しつつ嫉妬してます
黒雪姫に近い実力を持ち、自分より強く、何歩も先を行く彼は劣等感を強く持つハルユキにとっては結構アレでして
僕に比べての部分が彼が心の奥で思ってることですね
名前呼ぶ前に鎧が展開しちゃってるのはこう…それだけ深く繋がってるということで……
ワイヤーが引っ掛かったのは原作と違って胸の辺りになりました
それではまた次回!!