銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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こういう文章はせこせこ書けるのにレポートとかで詰まるのは一体何でなんでしょうね

今日道歩いてたら太めの釘を踏んづけました
痛かったです(こなみかん)

それではどうぞ!


第四十四話:理由はその背に

 「なっ……クロウ!!」

 

 「ちょっとクロウ!!」

 

 《シアン・パイル》と《ライム・ベル》は、幼馴染みの思わぬ返答に声をあげてしまった。

 

 「……そら無理強いはできねぇけどよ…理由を聞かねえと俺様もアンダースタンドできねぇぜ」

 

 この返答は予想していなかったのだろう。

 困ったように頭を掻く《アッシュ・ローラー》に、ハルユキは苦笑いをしながら答える。

 

 「簡単な話ですよ、誰も僕みたいな化け物を望んでいない。たまたま戻れたから良いけど、僕はもう加速世界の時限爆弾だ」

 

 《クロム・ディザスター》の呪縛から逃れたとはいえ、彼がディザスター化した事実からは逃れられない。

 落ち着いたなら、もう何もしないで、できるなら迷惑をかけずに消えて欲しいと願っている筈だ。

 変わったと思ったのに、変われると思ったのに。

 いや、加速世界なんて無かったんだ。

 何も知らなかった、元のいじめられっ子のデブユキに戻るだけ。

 

 「NP」

 

 再び俯いた《シルバー・クロウ》の肩を叩き、声をかけたのは《ブラッド・レパード》である。

 彼女はハルユキを連れ添って観客席の近くに移動しはじめる。

 

 「や、止めてくださいパドさん…」

 

 罪悪感がある手前強く言えないが、これは完全に公開処刑だ。

 観客席から批判と暴言の嵐が飛んでくるに決まってる。

 そんなハルユキの心情を知らずに、レパードはすぅと息を吸い込み。

 

 「皆、聞いてほしい。私達は今から全員で協力してゴールを目指そうと思う」

 

 そう、普段物静かな彼女からは想像できないような、それでいて良く通る声で、観客席のバーストリンカーに話しかけたのだ。

 勿論観客は困惑した声を上げ始める。

 

 「シャトルはもう壊れちまっただろー!?」

 

 「どうするんだよー!?」

 

 やがて先程話題になったシャトルの話が飛びだし、周りの観客もどうするのかと期待に満ちた顔でこちらを見下ろしている。

 

 「ヘイヘイヘーイ!!お前達フォゲットしてんじゃねーか!!」

 

 レパードがその質問に答えようとしたとき、アッシュが割り込むようにして声をあげる。

 やがてハルユキの隣に来たアッシュはバシバシとハルユキの背中を叩き。

 

 「この鴉野郎は《飛行アビリティ》持ちなんだぜぇ!!こんなスモールなヘルメス・コードなんてベリーハイスピードでクライミングできるに決まってんだろ!!」

 

 レパードよりも大きな声でアッシュがそう言うとギャラリーも確かにそうだと次々と頷き合った。

 そして誰が言ったのか、最初に声をあげたバーストリンカーの声は否定でも、非難する声でもなかった。

 

 「確かにそうだ!!」

 

 「頼むぞカラスーーっ!!」

 

 「さっきは良く頑張ったぞーーっ!!」

 

 「私達も最後まで応援するからーーっ!!」

 

 どわあああっ!と沸き起こる歓声。

 アッシュとレパードはお互いに頷きあうと、どうだと言わんばかりにシルバー・クロウを見る。

 

 対するハルユキは思っても見なかった声援にただただ困惑していた。

 だけど、胸の奥が暖かくなっていくのを感じる。

 

 気がつけば視界がぼやけていた。

 

 「あれ…っなんで……」

 

 アバター姿のシルバー・クロウからは涙が出ないはずなのに、今確かにハルユキは、シルバー・クロウは泣いていた。

 

 「ありがとう…ございます……!」

 

 ペコリ、と観客席に頭を下げたハルユキはレパードとアッシュに向き直る。

 

 「ご迷惑おかけしました。あの、レースの件…僕も全力を尽くします」

 

 返答は「K」という短い言葉と、頷きながらトン、とシルバー・クロウの胸を叩くアッシュの拳だった。

 

 

 

 

 「それじゃあ僕のパイルをカタパルト代わりに、リーファが勢いを付けて飛んで距離を稼ぐ。そこからは二人に《壁面走行》していただいて、クロウ、レイカーさんの順に飛行してもらう形で良いですか?」

 

 「良いもなにも」

 

 「俺達は役に立ちそうにないからなぁ…ううむ、機竜が欲しい」

 

 「うー…何か歯がゆい」

 

 作戦プランを立てたパイルが確認を取ると、黒の王とキリトのダブルブラックコンビとベルはお手上げだと言わんばかりの返答。

 キリトに至ってはボソボソと何かを呟いていたが、よく聞こえなかったので今回はスルーしつつ、タクムは準備運動をしているリーファに声をかける。

 

 「リーファ、大丈夫?」

 

 「んー?んー…四人を抱えてジャンプするのは初めてだけど、多分大丈夫だと思う」

 

 「それもそうなんだけど、その…」

 

 違う、聞きたいのはそんなことではないのだ。

 《妖精》の異名で呼ばれる《リーフ・フェアリー》の背には、シルバー・クロウの翼程ではないにしろ、羽が生えている。

 しかしその羽は空を飛ぶモノではなく《跳躍力強化アビリティ》の際の細かな軌道修正や、ステップ回避の際の助けなど、小回りを利かせる為のモノであった。

 

 蝶のように舞い、蜂のように刺すと言った戦い方をできるのは確かに凄まじいが、純粋に空を目指す方向で見ると彼女の能力はあまりにも二人に比べて差が出ている。

 

 「…あー……もしかして、私がクロウとレイカーさんと一緒に跳ぶ(・・)のを気にしてないかって言う…?」

 

 「う、うん」

 

 タクムの歯切れの悪さに気づいたのか、準備運動を終えたリーファは困ったように頬を掻きながらパイルに振り向く。

 

 「ええと…パイルだから言うけど、私のアバターって昔あった出来事の影響を強く受けてるんだ」

 

 リーファ…桐ヶ谷直葉は兄の桐ヶ谷和人と従兄妹である。

 それを知ったのは本当に偶然であった。

 何時ものように兄を探して家のドアを開けようとすると、部屋の中から母と兄の話し声が聞こえた。

 和人が10歳だったので当時彼女は9歳。

 

 話の内容は和人が家の住基ネットから自分が養子であったことを突き止めたこと。

 

 幼い直葉にはよくわからなかったが、なんとか理解できたのは自分と兄が本当の兄妹ではなかったことだ。

 

ーーおにいちゃんは、わたしのおにいちゃんじゃないの?

 

 気がつけばドアを開けて二人の会話に入っていた。

 母と兄の驚いた顔も初めて見たが、それよりも当時の直葉は【本当の家族ではない=和人がいなくなる】だと本気で考えていた。

 

 思わず泣き出してしまった直葉に和人が駆け寄り、自分は直葉の兄だし、いなくなったりしないと安心させるように声をかけてもらったのを覚えている。

 

 「それから三年後…私が小六のくらいかな?お兄ちゃんが中学一年生になった時に《ブレイン・バースト》をコピーさせてもらって」

 

 それでその一年後に梅郷中に入学して今にいたると、そう話したリーファは黒の王の横に立っているキリトに視線を移す。

 

 「私の羽は、お兄ちゃんに追い付きたい、お兄ちゃんと一緒に居たいっていう願いが形になったんだと思う。ほら、蝶もひらひら舞いながら目的地に行くでしょ?多分、それと一緒」

 

 だからあまり気にしてないんだよと微笑んだリーファに、タクムは言葉を返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 「なあ、クロウ」

 

 「あ、キリトさん」

 

 先程はご迷惑を…と謝るハルユキに良いってと苦笑いを浮かべるキリト。

 一瞬の沈黙のあと、キリトはヘルメス・コードの上を見上げる。

 

 「なあクロウ、お前の翼は……」

 

 その言葉でハルユキは彼が何を言おうとしているかおぼろ気ながら理解する。

 全くこの人は何でも知ってるようで本当困る。

 

 「多分考えてる通りです。ちなみにどうしてそこまで考えたのか聞いても?」

 

 ハルユキの問いにキリトはううむ…と思案の表情。

 返ってきたのは昔のゲームで似たようなことを試したんだよという答え。

 なるほど昔のゲーム。

 《飛行アビリティ》について調べている時に、確か2020年代のVRMMOゲームで飛行を行うことができるゲームがあったようなと記憶している。

 

 キリトの過去については考えてもキリがないのでそういうもんだと思うことにしている。

 キリがない。キリトだけに。

 

 「僕の翼は空気を叩いて飛ぶわけで…空気の無い宇宙では恐らく飛べません。…キリトさん、僕がこのヘルメス・コードに師匠をどうしても連れていきたかった理由もそこにあるんです」

 

 「なるほどそうだったのか」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 ハルユキの言葉に頷いたキリトの返答が思っていたのと違っていたので困惑の声をあげると、キリトも同じような声をあげる。

 

 「ええと…キリトさんが言いたかったのは僕の翼は宇宙までは飛べないんだろう?…ですよね?」

 

 「厳密には違うというか…お前の翼はどこまで飛べる?って聞きたかったんだ」

 

 なるほど確かに厳密には違う。

 思わず早とちりしてしまったハルユキである。

 

 「そうかそれでレイカーさんを連れていきたいってこにょに…」

 

 「き、キリトさん!!」

 

 思わず大きな声を出したキリトの口を慌てて塞ぐ。

 いや別にこの場で言ってもいいんだけど、百聞は一見にしかずっていうし。

 あれ?そもそもヘルメス・コードはHPのロックが掛かってたんだから、必殺技ゲージを消費して飛ぶ《飛行アビリティ》は発動出来ないわけで。

 

 正常にレースが行われていた場合、どのようにして師匠にシルバー・クロウは宇宙空間で飛べないことを示そうとしていたんだ……?

 

 思考のスバイラルに陥りそうになったハルユキであるが、バシバシと装甲を叩いたキリトによって我に返る。

 

 「と、とにかく今はまだ師匠には伝えないようにしましょう!このままだと僕の目的が何一つ達成できないことに…!というか、嫌な思い出しかなくなります!」

 

 「お、オーケーオーケー…。……そうすると…よし、俺達も出来るだけのサポートをしてみるよ」

 

 「サポートって…具体的に何をするんですか?」

 

 どうみてもキリトの装備からはこちらのサポートをできそうなモノは見つからない。

 ヘルメス・コードに剣でも突き刺してクライミングするのか?

 いやそもそもあの壁は心意技じゃないと壊せそうにないし、キリトが登ってるうちにハルユキ達のほうがゴールしそうである。

 

 そんな疑問にどや顔で任せろと親指をつきたてたキリトに、ハルユキは不安しか感じないのであった。

 

 

 

 

 「フー姉、私達は信じて待ってるのです」

 

 「メイメイの言う通りだ。私達は着いていくことはできないが、ここで応援しているよ」

 

 「サッちゃん…ういうい…」

 

 思えばこのヘルメス・コードのレースは楓子にとって驚きの連続であった。

 もう会うことがないだろうと思っていた《アーダー・メイデン》が現れたり、シルバー・クロウが《災禍の鎧》を纏ったり、キリトがとんでもない心意技を発動したりなど。

 そしてこのレギオンの壁を越えた協力でヘルメス・コードを登ろうとする試み。

 

 加速世界のマイホームで空を眺めていた時と比べると劇的すぎる変化だ。

 あれもこれも全部、一羽の鴉が……いや、あの時新宿で黒の剣士に助けられてからこの事は決まっていたのかもしれない。

 

 「アッシュ」

 

 「う、ウィッス!」

 

 律儀にピシッと背筋を伸ばす骸骨戦士にクスリと笑いながら、車イスをカラカラと動かしながら近寄る。

 それでも、シルバー・クロウがあの場所を訪れなければ自分は再び加速世界に顔を出すことはしなかっただろう。

 そしてその要因を作り出したのは紛れもなく目の前の《アッシュ・ローラー》である。

 だからそう、屈むように言って恐る恐る屈んだアッシュの頭を、楓子は優しく撫でた。

 

 「ありがとう、アッシュ。あなたが鴉さんを連れてこなければ、私はこうしてロータス達とまた戦うことはなかった。あなたのお陰よ」

 

 「しししし、師匠……き、急に何してっ!?」

 

 慌てて立ち上がって距離を取るアッシュに、楓子はクスクスと笑う。

 本当、運命と言うのは面白いものだと思う。

 あの時、あの子に氷水を掛けられなければ、こうして出会うことがなかったのだから。

 

 「し、師匠がお礼を言うなんて、何かが起きるに違いねぇ…こりゃあスピアーがレインだぜ…いや、アローレイン…?」

 

 「もう、そんなことあるわけないでしょう!」

 

 何時もの言葉使いにもキレがないが、楓子にはアッシュがその仮面の下で、とても嬉しそうにしているのがわかった。

 そのアッシュが、こうしてレースを続けたいと言っているのだ。

 師匠としても応えてあげねばならない。

 

 

 「そろそろ行きますよアッシュ。頑張りましょうね」

 

 「…!ウィッス!!俺様の華麗なドラテクで師匠をゴールまでパーフェクトに送り届けマッシュ!!」

 

 「……アッシュが運ぶのは鴉さんじゃありませんでしたっけ?」

 

 「そこはこう…言葉の綾っつうか…勢いッスよ師匠!!」

 

 

 願わくば、あなたに出会えて良かったというこの思いが私の《子》にも伝わっていますように。

 

 




リーファの過去を軽く掘り下げました
聞こえちゃったモノは仕方ないよね

普通に壁面走行させても良かったけど折角だしリーファにも手伝ってもらいます
クロウ君もフラッシュ・ブリンク二回使ってるからね、ゲージが少し不安と言うことで

真面目にアッシュが居なかったらテイカー戦でクロウ詰んでたと思います
やはりグレウォ兼ネガビュメンバーのアッシュさんは違う

それではまた次回もよろしくお願いします

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