急激に寒くなってきましたね、皆さんも体調には気を付けてください
それではどうぞ!
「いよぉし!!それじゃあ俺たちの…あー…ファイナルレースをしかと目に焼きつけやがれぇー!!」
アッシュの大声と共に観客席のテンションも再びレース開始時まで復活している。
もうMCやっても良いんじゃないかなとハルユキはアッシュの隣で内心呟く。
「それじゃあ僕のパイルの近くに!リーファが跳ぶ時に合わせて打ち出すので、彼女の手をしっかり握ってくださいね!」
パイルの言葉にコクリと頷いた四人は、あらかじめ決められたペアに別れて待機する。
レパード、レイカーペアと、クロウとアッシュペアだ。
「おい鴉野郎!!おめぇ変なとこ触ったら容赦しナッシングだからな!!」
「さ、触りませんよ!!
リーファが四人を持ち上げた後に壁面走行を始めるため、クロウはアッシュにおんぶされていて、レイカーはレパードにお姫様抱っこである。
「はいはーい、それじゃあ僭越ながら私、《ライム・ベル》が開始の合図をさせていただきまーす!」
ブンブンと右腕の鐘を回しながら観客席に声をかけたベルは、ヘルメス・コードの外壁の近くに立つとビシッと指を三本立てる。
『3!!』
会場の全員が同じように指を立てた。
ロータスは剣だって?中の黒雪姫はちゃんと立ててるよ指。
『2!!!』
まだレースは終わらない、終われない。
よくわからない妨害にあったからといって、そこで諦めたらバーストリンカーじゃない。
滅多にないバーストリンカー全員が一丸となって楽しめるイベントなのだ。運営もっと仕事しろ。
『1!!!』
会場の声が揃った瞬間、ベルはその鐘を思いっきりヘルメス・コードの外壁に叩きつけた。
リンゴーン!!と大きな音が鳴り響く。
彼女からしたら右腕を鉄の壁にぶつけたようなものなので、わりと痛いが気合いで堪える。
こう言うのは盛り上がらなきゃいけないのだ。
すぅ、と深呼吸したリーファは待機しているパイルにコクリと頷き、両頬をパンッと叩く。
怖じ気づいてる場合じゃない。私は私の全力を出すだけだ。
「じゃあ、行きます!!」
そう言ったリーファが全速力で駆け出し、跳び箱のライター板のようにパイルの杭を踏みつける。
ガシュンッという音と共にハルユキの体は凄い勢いで引っ張りあげられた。
リーファの《跳躍力強化アビリティ》はパイルの協力もあってその力を大いに発揮し、普段より高く彼女達を打ち上げていた。
「うわわわわっ!!」
「フライッハァーイ!!」
思ったより強い勢いに声を上げるハルユキと、楽しそうに叫ぶアッシュ。
どうやらヘルメス・コードもこの辺りから空気が段々薄くなるようで、重力も軽くなっているようだ。
リーファのジャンプも普段より高くなっており、彼女自身も驚きの表情を浮かべている。
「あっ……」
しかしジャンプはあくまでもジャンプなのだ。
リーファでは重力には逆らうことができない。
徐々に減速していくリーファの表情からは歯痒さが読み取れた。
「ごめんなさい、後はーーー」
「いや、まだだぞリーファ!!」
地上から響くブラック・ロータスの声に全員が視線を向けると、なんと彼女はパイルバンカーを掲げたシアン・パイルの上に立っていた。
何をする気だろうとハルユキが考えていると、そこに向かって走る緑と黒い影。
考えなくてもわかる。ライム・ベルとキリトだ。
キリトとベルはパイルを足場にするようにロータスの剣に乗ると、彼女は剣を振るようにして二人を打ち上げた。
レベル9の力で打ち上げられた二人はぐんぐん加速するが、流石に届かない。
しかしキリトはベルの鐘を足場にすると再びジャンプ。更に腰の二刀を抜き放つと、背中に背負っていたアーダー・メイデンに声をかけた。
彼女はその言葉に頷くと先程ロータスの剣に乗ったキリトのように彼の剣に乗り、打ち上げられる。
「頼むぞメイデン!!」
「メイちゃん!!」
「リーさん!フー姉!皆さん!!これが私達ができる全力の支援なのです!!」
そう言いながら彼女はその弓を構えると、炎に包まれた矢を連射した。
勿論矢が飛んでくるこっちからしたらたまったものではない。
「し、支援って!!ただ矢を放ってるだけじゃないですかぁー!!あ、当たる!!当たる!!」
「リーファ!!!剣を!!!」
「っ!!」
ハルユキの叫び声の中聞こえるキリトの声。
まさか、いやあのやることなすこと滅茶苦茶な兄なら考えるだろう。
目尻に熱いものを感じながら、リーファは虚空に向かって声を上げる。
「《ソード・オブ・ミッドナイト》ーーー!!」
漆黒の雷鳴と共に現れた片手用直剣は、持ち主のリーファの両手が塞がっているためそのまま空中に投げ出される。
しかし、ただ落ちるだけの剣はガッ!!とメイデンが放った矢と衝突し、まるで足場のようにその場に一瞬だけ浮く。
「オーマイガー…マジかよ」
あり得ない奇跡の連続に驚きの声を上げるアッシュ。
「見えたのです!!リーファさん!!」
「リーファ!!」
「スグ!!!!」
出現した剣に気づいたメイデンは、全霊を込めて剣に狙いを付けた矢を放った。
リーファがその剣を蹴る瞬間に合わせて矢がぶつかる。
『跳べ!!!!!!』
リーファの背に、暖かくて懐かしい手の感触と声。
その声の主が自分を押し上げてくれる。
その一瞬だけ、確かな足場を手にいれたリーファは再びジャンプしていた。
皆の後押しを受けながら再び加速したリーファは、あははは、と思わず笑い声をあげる。
「空中の二段ジャンプなんて考えたこと無かったよ!!……ほんと!!お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから!!」
滅茶苦茶で無茶苦茶で、火の矢が彩るなか再び飛び上がったリーファの姿はまさに妖精のようで。
観客も思わず感嘆の声をあげる。
この空はリーファの一人舞台。
シャトルに追随する設定によってこれ以上動かない観客席にいるバーストリンカー達は、まだ彼らがゴールすらしていないのにゴールすると、全員確信していた。
まさかの二段ジャンプによる勢いも徐々に落ちはじめ、当初の予想より遥かに長い距離を稼いだリーファはクロウとレイカーに視線を向ける。
「跳べる私はここまでです。後は二人が飛んで、翔んでください」
「リーファ……」
「ええ、必ず。必ず辿り着くわ」
「GJ、貴女のおかげで成功する確率がグッと高まった」
「そう言うこった!後は俺たちにギガ任せろ!!」
四人の言葉にリーファは微笑むと、そっと手を離し、重力に身を任せる。
その間に《シェイプ・チェンジ》をしたレパードと強化外装であるバイクを取り出したアッシュは各々の《壁面走行アビリティ》を発動させて垂直のヘルメス・コードを進み始めた。
アッシュに捕まりながら、ハルユキは落ちていくリーファの姿をその目に焼きつけていた。
「次は……僕の番だ」
反対側でレパードの背に乗るレイカーを見た彼は、小さく、そう呟く。
当初の目的、ヘルメス・コードのゴールで、ハルユキはレイカーに伝えなければならないことがあるのだから。
「しっかしまあ、あの妖精ちゃんのお陰でかなり短縮できたな。クロウ、おめーのゲージも持ちそうだな」
「あ、はい。ええと…さっきのいざこざで思ったより消費していたんで助かりました」
アッシュの言葉にコクリと頷いたハルユキは、自身の必殺技ゲージを見ながらそう返す。
クロム・ディザスターがキリトと戦っていた際に使っていた必殺技である《フラッシュ・ブリンク》の二回発動はそれなりに必殺技ゲージを消費していたため、成功確率が落ちるなとぼやいていたのだ。
「NP、いざとなったらレイカーの心意攻撃でゲージを溜めてもらう予定たった」
「え、えぇっ!?ままま、マジですか!?」
外壁を登りながら伝えられる衝撃の事実にハルユキはレパードとレイカーに視線を向ける。
いや、でもあの二人ならあり得なくもないかも…とハルユキが顔を青ざめさせる。
「……冗談、プロミネンスジョーク」
一瞬、空気が凍った。
「……oh」
「……え、ええと……」
なんとか声を絞り出そうとするハルユキとアッシュだが、うまい言葉が見つからない。
バイクの音がむなしく響く中、レイカーの笑いを堪える声が重い空気を破った。
「鴉さん…っ、今のはレパードなりにあなたの緊張を解そうとしてたのよ…ふふっ、ああお腹が痛い」
「レイカー……こう言うのは言う必要ない」
「な、なるほど…?」
レイカーの言葉に抗議の声をあげたレパードを見ると、気恥ずかしいのか顔を背けているのが見えた。
「……ありがとうございます」
突っつくのは野暮と言うものだろう。お礼を言ったハルユキの耳に、短くNPの返答。
穏やかな空気に包まれたハルユキ達の向かう先に、やがてゴールらしきものが見えてきた。
「あーあ、俺様もここまでか。妖精ちゃんのガッツのお陰でゴールできるかと思ったけど、限界みてぇだな」
「こっちも」
悔しそうに唸る二人だったが、直ぐに納得したようにお互いの運んでいる相手に視線を移す。
「あとは任せたぜクロウ、そのなんだ。あの赤錆野郎とのバトルで起きたことは無くせねえけど、ヘコタレんじゃねーぞ。おめーはこの俺様とエターナルにライバルなんだからよ」
「は、はい…!アッシュさん、ありがとうございます!」
「レイカー。帰ってきてくれて良かった」
「ありがとうレパード。………いつかカレントも…」
「K、その時は必ず」
お互いに言葉を交わしたあと、ハルユキは背中の翼をはためかせてレイカーの手を握りながら、徐々に速度を落とすアッシュとレパードを見る。
「ところでここから落ちたらスカイダイビングの感覚味わえると思うんだけどよ。レパードの姐さんそこら辺どうシンキングしてる?」
「……NP、その前に大気圏突入で起きる熱か、落下によって起きるHPの減少でHPが尽きる筈」
その言葉に違いねぇと返したアッシュ達の必殺技ゲージがついに尽き、一瞬壁面で静止し、ふわりと離れた。
「分け前ネバーフォゲットだからな!それと師匠をきっちりエスコートしろよクロウ!!」
「楽しかった。CU」
重力に引かれ、アッシュとレパードはゆるやかに落下を始める。
レパードの言葉通り、システムによって再現されたダメージがロックされた二人のHPを削っていくようで、やがて緑と赤の光がハルユキ達の目に入った。
「行きましょう、師匠」
ええ、と頷いたレイカーの背中と脚に両腕を添えたハルユキは、背中の翼を震わせて穏やかに上昇し始める。
やっと、ここまできたとハルユキは心の中で過酷なレースを振り返る。
腕の中の彼女にあることを伝えるために一体どれだけの苦労をしたのだろう。
「鴉さん?」
徐々に速度を落としていくハルユキにレイカーの疑問の声がかかる。
それはそうだ、必殺技ゲージは尽きてないし、ゴールはまだ先であるのに何故止まったのだろうか。
「師匠、僕がどうしてあなたにこのレースに参加してほしかったのか。確かに師匠がいないと満足に戦えないと言う黒雪姫先輩の言葉も正解ですけど、僕個人があなたに伝えたかったことがあるからなんです」
無数の星々が光るこの静寂の世界で、ハルユキは心の内に秘めていた言葉をレイカーに告げた。
自分の翼は空気を叩いて飛ぶ。
空気の薄いこの場所ではシルバー・クロウは飛ぶことができない。
しかし、ゲイルスラスターはブースターであり、空気も関係なくこの場でも、宇宙をかけることができるのだ。
「あなたのアバターは、ここで飛ぶために生まれてきたんだ。スカイ・レイカー……あなたは本来、宇宙戦用デュエルアバターなんです」
長いようで、短いようで、だけどその言葉は長い間レイカーを縛っていた鎖を穏やかに紐解いていったのだろう。
やがてハルユキから離れたレイカーは、背中のブースターを使って宇宙の果てまで飛んでいく。
それはまるで流れ星のように、一筋の軌跡を描いてある一点、ヘルメス・コードのゴールへと辿り着いたのだった。
こうして、ヘルメス・コードは終了した。
しかし、この出来事が今まで続いてきた加速世界に大きな波紋を生じさせたのは消せない事実なのであった。
むちゃくちゃすぎた感じあるけれど皆で協力した感を出したかったので中盤はあんな感じになりました
ハルと師匠のやりとりはそこまで変化がないのでカットさせていただきました
それではまた次回…と言いたいんですけど、課題に追われてしまっているので投稿ペースが落ちるかもしれません
この場を借りてお詫びさせていただきます