題名考えるのが難しいこの頃
結構難産でした
第四十七話:七王会議
「あっはっはっはっは!!!!」
七王会議。
それはレベル9に到達した王と呼ばれるバーストリンカーが集まり、今後の加速世界をどうしていくか意見を交換する場。現実世界に置き換えれば世界の首脳が集まり、会議をする場所と考えればいいだろう。
緑の王《グリーン・グランデ》
紫の王《パープル・ソーン》
黄の王《イエロー・レディオ》
赤の王《スカーレット・レイン》
黒の王《ブラック・ロータス》
青の王《ブルー・ナイト》
白の王は代理を立てていたようで《アイボリー・タワー》というアバターが来ていたが、加速世界の王が勢揃いしているのである。
このような真面目な場所では間違っても笑いなんて起きないはずなのだが、現にこの場には笑い声が響いていた。
「やべぇ久しぶりにこんな笑った……」
息を整えた笑い声の主はそれで?と言葉を続ける。
「それマジで言ってるわけ?」
途端に襲いかかる凄まじい圧力。
俺は冷や汗をかきながらも動揺を顔に出さずに頷き。
「全て本当だブルー・ナイト。俺は現在加速世界から姿を消している
嘘も大嘘、全く身に覚えのないことを加速世界の偉い人たちが集まる場所で話していたのだった。
◆
「…桐ヶ谷君……キリトのことは上手く説明するしかないな。……どうしよう」
時はハルユキの家でヘルメス・コード祝勝会をしていた時まで戻る。
いつもの余裕綽々な態度を崩して悩む黒雪姫。
彼女をそうしてしまったのは俺の責任である。
七王会議で突っ込まれる謎のバーストリンカーキリトについてどう説明すれば良いのか考えているのだ。
重苦しい空気が部屋を包むなか、ここでチユリが手を挙げた。
「あの、心意?っていうのは私にはまだわからないんですけど、ハルが姐さんから習って、タッくんとスグちゃんが赤の王から習ったなら、桐ヶ谷先輩も誰かから習ったって形にしちゃうのはどうですか?」
その意見におお、とざわめく室内。
それが丸く収まりそうと言った空気になり、黒雪姫はやや考えたあとコクリと頷いて。
「よし、一応その形で持っていこう。だが桐ヶ谷君、君のバックグラウンドは色々と変えさせてもらうぞ。丁度良いことに我々の手札には六王…特に青らへんにアイツなら仕方ないと思わせられる奴がいるからな」
黒雪姫が視線を向けるのは楓子と謡。
彼女達は真顔でこくりと頷いて黒雪姫の案に賛成する。
【UI>いないのが悪いのです】
「いないのが悪いわね」
「あ、あまり複雑にしないでくれよ…?」
◆
そして訪れた七王会議当日。
楓子の車で会場の最寄りについた俺達は観戦者として対戦フィールドに出現し、指定された会議の場所に辿り着いた。
各王やその側近が集うなか始まった会議はヘルメス・コードについての話であり、心意の砂嵐→それを止めた人物→俺というように話が展開していき、俺が何者なのかという話になった。
そこで話すのがキリトの師匠は現在無限EKとなって封印状態となった《グラファイト・エッジ》と言う無茶苦茶なストーリー。
身動きできない自分が再始動した《ネガ・ネビュラス》の力になるために送り込んだ戦士が俺であり、当の本人は俺を送った後再び連絡が取れなくなった設定である。
つまりはまあ、弟子である筈の俺ですら彼の連絡先を知らないというとんでもないことになるのだが、それを質問すると黒雪姫達は三人揃って"アイツなら連絡先なんか交換しなくても会いに来るし気がつけば居なくなってる"と自信を持って言うのでそう言うことになったのである。
「おいロータス、こいつの言ってること本当か?」
暫く俺を見ていたブルー・ナイトは同行していた黒雪姫に視線を向けて問いかける。
他の王達やグラファイト・エッジを知っているバーストリンカー達も興味があるのか彼女に視線を向けているのがわかる。
対する彼女は肩をすくめて。
「まあ信じないだろうな、うん。だけどまあ言葉ではわからないこともあると思うぞ」
なんてふわふわした答えなんだろうと一同の心に同じ考えがよぎる。
特にツッコミ体質のシルバー・クロウからはその気配が如実に感じ取れた。
「それもそうだな。よしキリト」
黒雪姫の言葉に深く頷いたブルー・ナイトは席から立ち上がると俺の肩を叩き。
「俺と対戦しろ」
「は?」
「「わ、我が主!?」」
「すまん二人とも、俺の我が儘に付き合ってくれ!ポイントなら後で返すから。な?」
ブルー・ナイトの付き人の二人が慌てているが彼はそれを制して俺の返事を待つ。
「…っ」
これが王の圧力、まるで《死銃》に俺の正体を問いかけられた時に似ているが、体感的にはそれを上回る冷や汗が俺の背を伝う。
恐らくはまあ、俺がグラフの関係者と言うことをデュエルで証明してみろと言う感じだろう。
黒雪姫も言葉ではわからないこともあると言ったからそこも関係しているのだろうか、おのれ黒雪姫め。
だがまあ、答えは決まっている。
「……わかった。剣で語れと言うなら、存分に語ってやる」
俺の言葉に満足そうに頷いたブルー・ナイトは会議のホスト役を勤めている二人の女武者アバターに声をかける。二人はお互いに顔を見合わせるが王の言葉には従うようで、インストを操作し始めた。
通常対戦フィールドにおいて観戦者である俺達が対戦者になる方法はかつて梅郷中を襲った《ダスク・テイカー》とハルユキ達が行ったバトルロイヤル・モードともう一つ、連続対戦モードの二つがある。
その名の通り、通常対戦の勝者、引き分けの場合はどちらか片方が観戦者の中から対戦相手を選ぶ方法である。
ホスト役の《コバルト・ブレード》と《マンガン・ブレード》の対戦のドロー表示が起きたあと、続いてコバルト・ブレードとブルー・ナイトの対戦が始まる。
そして再びドロー表示が現れたところでブルー・ナイトがインストを開き、キリトのHPゲージと必殺技ゲージがブルー・ナイトの対面に現れた。
「さあ、どこからでもかかってきな」
「随分余裕だな」
対戦が始まったはずなのに動かないブルー・ナイトに皮肉をかけると、当の相手は心外だとばかりに肩を竦める
「おいおい勘違いするなよ?レベルの差を考えたら当たり前じゃないか」
そう言いながら佇むブルー・ナイトに俺は《黒の妖精》状態の武器である背中の漆黒の剣《ユナイティウォークス》を抜き、戦闘体勢を取ると相手を観察する。
どこからどうみても隙だらけである。恐らく彼の言っていることは本当なのだろう。
「だったら遠慮なくいかせてもらう!」
姿勢を低くしながらダッシュ。
先ずは小手調べとばかりにSAOで腐るほど使用した動きである上段からの斬り下ろしを打ち込んだ。
◆
初激を打ち込んだキリトに、ハルユキは思わずやったと声を上げていた。
レベル差があるとはいえ、キリトの技量なら判定勝ちに持ち込むことだってできるはずだ。だからこの攻撃には大きな意味がある。
「レイカー、どう思う?」
「剣士さんの全力を見たことがないからなんとも言いづらいけれど…それでも勝てないと思うわ」
「で、でもキリトさんなら…」
黒雪姫と楓子の会話に反応しようとしたハルユキの言葉は、激しい衝撃音と共にキリトのHPゲージが大きく減ったことによって飲み込まれた。
慌てて視線を移すと、吹き飛ばされる勢いに逆らわず転がったキリトに雷鳴のように近づいたブルー・ナイトが武器を振り下ろすところであった。
辛くも攻撃を回避したキリトの反撃がブルー・ナイトを捉える。攻撃の隙を突かれたことで、追撃のチャンスと見たキリトの武器が次いで水色に輝いた。
「やった!これでーーー」
ハルユキの喜びの声はキリトが必殺技を発動する前に再び吹き飛ばされたことによって最後まで発せられなかった。
どういうことだ?キリトの攻撃は確かに決まった筈だ。
攻撃の隙にダメージを与えられれば、大抵のバーストリンカーはよろめく筈だ。キリトもそれに乗っ取って攻撃をしようとしたのに、何故吹き飛ばされるのが彼なのか。
その疑問に答えたのは黒雪姫であった。
「前に話したと思うが、青色は近接特化の青だ。王であるアイツのポテンシャルは凄まじい」
「ブレイン・バーストの仕様上、レベル差は大きく関わってくる…。幾ら剣士さんが強くても加速世界最強の一人である青の王が相手では……」
「そ…そんな……」
ハルユキが震えた声を上げる横で、ブルー・ナイトの斬撃をキリトが必死にパリィしながら後ろに下がっていく。
「動けるパワー型が一番厄介なんだよ!!」
「それは誉め言葉として頂いておく!」
叫ぶような愚痴にそう答えたナイトの一撃がキリトを捉えた。
こうも一方的にキリトがやられているところを見るのは初めてである。
不安げなハルユキに答えたのはまたしても黒雪姫。
「だが、キリトもただ押されて終わる訳ではなさそうだぞ」
キィン!と一際大きな音を立てながらここでブルー・ナイトが初めて距離を取った。
視線の先には背中に背負っていたもう一振りの剣を突きだし、二刀流の姿になったキリト。
「とことん《
「まあ、さっきよりは楽しめると思うぜ」
思えばキリトが二刀流で戦ったところをハルユキはちゃんと見たことがなかった。
ファーストコンタクトはあれがキリトかどうかもあやふやだったし《ダスク・テイカー》との戦いでは自分が既に追い込んでいたこともあって殆ど消化試合のようなものだ。
バーストリンカーとして意識している存在の戦いが見れるのはまさに良い経験だろう。
「なら楽しみだ!」
キリトの言葉にそう答えて振り下ろされた大剣《ジ・インパルス》をキリトは二刀の剣でしっかり受け止め、反撃によって彼のHPゲージを削ったことで会場にどよめきが走る。
「…驚いた。見せかけと侮っていたよ」
「そりゃどーも!」
剣士型アバターでの二刀流は扱う技量も高く、やはり見せかけのようなものが多い。しかしキリトは慣れ親しんだように剣を使い、ブルー・ナイトの攻撃を捌きはじめた。
「なあ、アイツほんとにビギナーか?」
「疑いたくもなるが本当だぞ。まあ、他のVRゲームを相当やりこんでいたとは聞いてるが」
赤の王に問いかけられた黒雪姫が戦闘に混ざりたいようにうずうずしながらそう返す。
しかしキリト優勢に見えていた戦況は、ブルー・ナイトの言葉によってひっくり返ることになる。
「なら、少しギアを上げていくぞ!」
「なっ……!?」
突如勢いを増した攻撃に驚きの声をあげたキリトであるが、何とか攻撃を防ぐことに成功する。
しかしその場は凌いでも直ぐ様次の攻撃がキリトを襲うことで、彼は完全に後手に回ってしまっていた。
「そらそらっ!!」
ブルー・ナイトも楽しくなってきたのかどんどん攻撃速度が速くなっていく。
「ぐっ……っ!」
対するキリトの顔は険しい。
レベル差、装備の差、戦闘スタイルの差がキリトの技量を持ってしてもカバーしきれないのだ。
元々手数で押すダメージディーラーのキリトの攻撃を受けても怯まずに鋭く重い一撃を放ってくるブルー・ナイトはこれ以上になく戦い辛い。
何回目かわからない衝突の末、ついにキリトの剣が両方共弾かれた。
「あぁっ!!」
そのまま返すように振り下ろされた大剣がキリトを斬り捨てる姿を想像したハルユキは思わず悲鳴をあげてしまう。
しかし、ハルユキの耳に入ったのはギィンッ!と言うまるで攻撃を防いだような音。
「おいおい、あんた手品師か何か?」
「悪いが…ショーはここまでだよ…っ!!」
心の底から驚いた声をあげたブルー・ナイト。
キリトはいつの間にか出していた黄金の剣を使ってジ・インパルスを防いでいたのだ。
気合いの入った声と共に振られた剣はブルー・ナイトを後退させると共に、両者の間に再び距離を開かせた。
肩で息をするキリトと違い、ブルー・ナイトは流石と言ったところか、まだまだ余裕の佇まい。
HPゲージも明らかにキリトの方が減っており、必殺技を使う暇が無いほどの猛攻は彼の必殺技ゲージを最大まで溜めていた。
「一応聞いとくけど、ここまでにしておくか?俺としては十分お前さんがどんな奴なのかわかったつもりだ。まるで本人のようなその動きは弟子と言っても通じるよ」
「冗談。一度始まったデュエルは決着がつくまでやるのが礼儀だろ。こう見えても負けず嫌いなんでね」
そう答えたキリトに満足げに頷いたブルー・ナイトはジ・インパルスを構える。
最早キリトが何者なのかは関係ない、目の前にいるのはただのバーストリンカーで、自分もその挑戦を受けるバーストリンカーなのだ。
「《ノヴァ・アセンション》」
短く、それでいて力強く、全霊を込めるように吐き捨てたキリトの言葉はシステムに感知され、その剣をライトエフェクトで包み込む。
必殺技ゲージの八割を消費したその必殺技は、まさに今のキリトの放てる最高の必殺技だろう。
「《バッシュ》」
迎え撃つ青の王も剣を上段に構え必殺技の体勢をとった。
動き出したのはほぼ同時。
ジ・インパルスを掲げた青の王の上段斬りがキリトに襲いかかる中、それよりも速く放たれた黄金の剣と交差した。
しかし単純なパワーで押し負けているのか、キリトの剣は拮抗することもなく弾かれた。
「キリトさんっ!!」
「いやまだだ!!」
黒雪姫の鋭い声が示すように、キリトの剣のライトエフェクトはまだ消えていない。
二撃、三撃とキリトの剣とブルー・ナイトの剣はぶつかり合い、その度にキリトの剣は弾かれる。
しかし、徐々にだがジ・インパルスの勢いが弱くなっているのが目に見えてわかる。
「必殺技モーションは余程体勢を崩さない限りそのまま実行される……考えたなアイツ」
レインが合点したように呟く中、既に六度目の衝突に入ったキリトの剣はまたしても弾かれるが、直ぐ様七度目の衝突に入る。
「うぉぉおおっ!!」
八、九と弾かれたキリトがここで雄叫びをあげる。
十度目の衝突でついに二人の剣は拮抗状態に入った。
ーーーーのも一瞬だった。
「ぜぁぁっ!!」
一閃。
ブルー・ナイトが力を込めた瞬間、キリトの体はその剣ごと叩き斬られ宙を舞っていた。
「キ、キリトさぁーーーーん!!!!」
ハルユキの悲鳴が響くなか、キリトのHPゲージは無情にも右から左端まで吹き飛び、ゼロとなったのだった。
◆
ーーー完敗だ。
宙を舞い、視界の中央に浮かぶ《YOU LOSE》の表示を見ながら俺の体は粒子となり、死亡マーカーが浮かび上がった。
前に黒雪姫とデュエルをした際に善戦したと考えていた俺は心のどこかで他の王も倒せないことはないと考えていたのだろう。
だがこの様だ。
アンダーワールドで剣を交えた《アリス・シンセシス・サーティ》を思い出させる凄まじい速さで重い一撃を放ってくる青い騎士には防戦一方であり、二刀流も奴には通じなかった。
最後の必殺技のぶつかり合いも《アインクラッド》にて片手用直剣最上位ソードスキルに設定されていた《ノヴァ・アセンション》による連続攻撃で、かつてのウォロ上級錬士との戦いのように相手の攻撃を防ぎきり、且つ攻撃を当てようとしたのに打ち負けてしまった。
「キリトさん、大丈夫ですか…?」
対戦が終了したことで自動的に観戦者に戻り、再出現した俺にクロウが声を掛けてくる。
「剣士さん、青の王との対戦はどうでしたか?」
「…完敗だった。正直、デュエルには自信があったから良い戦いができると思ったけどまだまだだってことを思い知らされたよ」
次いで問いかけてきたレイカーに俺はそう返す。
向こうの世界でも負けたことはあったし、殆どの印象的な戦いも偶然や奇跡が重なって勝ち取れたようなものだ。
「なあ黒雪」
「なんだ?」
「俺とデュエルしたあの時、手を抜いてたか?」
その質問に黒雪姫は暫し沈黙した。
言葉を探しているのだろう。
やがて言葉が見つかったのか、彼女は俺の目を見て首を横に振った。
「私が対戦で手を抜くことは断じてない。勿論、心意や使っていない必殺技もあったから、その部分で言えば手を抜いていた…と言えなくもないだろう。だがなキリト、このゲームでは何があるかわからない。私だって何度も負けているんだ。今だって王と呼ばれているが場合によっては負けることもある。大切なのはーーー」
「大切なのは、敗北から何を学ぶか」
黒雪姫の言葉を引き継いだ楓子は言葉を続ける。
「今回が駄目でも、次がある。この世界で戦っていくなら王は乗り越えるべき壁だわ。今の剣士さんでは勝てなくても、未来の剣士さんならきっと違う。だからこの戦いは決して無駄では無かったと思うの」
「え、ええと、僕もその、前にアッシュさんに負けたことがあって…そこからどうやってリベンジするのか考えたりしていたので、その…お二人の言う通りだと思います。キリトさんならきっと、次は勝てますよ!」
三人の言葉を聞いて俺は思わず苦笑してしまう。
確かにそうだ。
ここはSAOやアンダーワールドのように負けたら終わりという訳ではない。
まだまだ俺は強くなれる。
青の王との戦いは良い経験になった。
この加速世界には俺より強いバーストリンカーが沢山いるのだろう。まだ見ぬ強敵達との戦いに思わず心を昂らせながら、目の前の黒の王もリベンジの相手だったと再確認する。
「……なら黒雪、まずはお前にリベンジするよ」
「受けてたとう。勿論、負けるつもりはないからな?」
今回負けた青の王にだって、今度は勝ってみせる。
「うし、ぼちぼち話も付いたみたいだし、会議を再開するぞ」
…………勝ってみせる。
キリト君実際パワー型嫌いそう
レベル差があったアインクラッドならクラディールとかに勝てたけど、アンダーワールドのアリス戦とか規格は違えどソードゴーレムとかにやられてたし
ブルー・ナイトの一人称と戦闘スタイルが安定しないけれど、入れたかったので戦闘させました
他の王は騙せてもグッさんにはバレバレな模様
ノヴァ・アセンションは負けフラグか何かでしょうか
それではまた次回もよろしくおねがいいたします