銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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今回でキリト君の現状がわかります

超理論満載と軽い鬱展開

読みづらくなったのは否定しません、すみません!!


では、どぞ


第四話:真実

昼休みに起きた事件の後、俺や直葉、その他周りにいた生徒は教室に戻され、通常通り授業を受けることになった。

 

殴られた二人のことが気にかかったが、頭を打ったであろう黒雪姫も、ちゃんとした医療機関で治療を受けただろうし大丈夫だろう。

 

放課後は直葉と真っ直ぐ帰り、家に帰った後彼女は「少し買い物に言ってくるね」と言って家を出て行った。

 

 

「……さて」

 

朝からバタバタしていて整理できなかったが、ようやく一人の時間ができた。まずは状況の確認だ。ニューロリンカーなど、自分には知らないことが多い。情報を集めることが必要と考えた俺は自分の部屋に行き、パソコンを付けてネットを開いた。

 

幸い、この世界は(俺がVR空間と仮定しているのでこの呼び方にする。)現実━━つまりリアルである二〇二六年頃の日本とそう変わりない。SAOやALO、GGOのような幻想的な、SFチックなのをモチーフにしたモノではなく、まさに俺たち人間が生きている世の中をそのまま再現している。

 

 

ここが独自の発展を遂げたファンタジー世界で、こういう現代機器のようなものがなく自らの手で木を切ったりして生活しているような場所だったらそれこそ、手に入る情報というのはとても少ない量になっていただろう。

それこそアンダーワールドのような…

 

「……」

 

木を切ると考えた時、とてつもなく大きな黒い巨木を、斧でえっちらおっちら傷を付けている少年二人と、それを眺めている金髪の少女がふと頭に浮かんだが、別に今気にすることではないので情報の収集のためにパソコンの画面に意識を向ける。

 

 

まず調べるのはニューロリンカーについてだ。

朝起きたときから首回りについていて、この一日の中でとても使う機会が多かった端末。

 

ここの住民はこの端末を利用することで日々の生活をより便利に過ごしている、というのが今日一日を通しての俺の見解だ。検索エンジンによって表示された結果から一番上に現れた項目をクリックする。

そこに表示された内容を見た俺は思わず目を疑った。

 

 

《ニューロリンカー》

西暦2031年発売

装着者の脳細胞と量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込んだり、逆に従来のヘッドギア型VR機器や、インプラント型のように現実の五感をキャンセルすることも可能。

勿論、完全ダイブシステムも内蔵。

 

 

とまあこんな感じの説明だったわけだが、発売日が自分が住んでいる世界より近かったこと、そして装着者の脳細胞と量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込めるというところが俺のことを驚かせたのだ。

いや、発売日が未来なのはまだ良い。そういう世界だと割り切ることもできるからだ。

しかし、従来のヘッドギア型の項目で、あの悪魔のマシン、ナーヴギアや、その後継機のアミュスフィアの画像が使用されていたこと。インプラント型の部分でブレインインプラントチップと言うモノの画像が使用されていることはどうしても割り切ることはできない。

ブレインインプラントチップというモノは、現在アメリカで開発されているはずの、STLとはまた別の視点の…ナーヴギアやアミュスフィアの正式な後継機になると俺が考えていたモノなのだ。

如何にこのVR空間がSTLによって作られたモノだとしても、未だ発売されていない物についてここまで詳細に説明することができるのだろうか。

 

そしてもう一つ

ニューロリンカーは装着者の脳細胞に量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込めるという部分だ。

量子接続理論は俺の時代にも存在している。STLや、前に奇妙な体験をすることになった《次世代型フルダイブマシン実験機》は量子コンピューターを利用した機械だ。

そこに接続し、映像などを送り込み、そこに存在させるということは、STLの原理と同じように『装着者のフラクトライトにその映像を書き込んで、そこに存在していると認識させているのではないだろうか』

これが合っているのなら、ニューロリンカーはSTLの小型化に成功した機械と推測できる。

つまり、この世界は俺が暮らしている世界の未来に存在している世界ということなのだろうか?

 

「……それなら…」

 

俺の世界の未来なら、あの事件の記事もある筈だ。

VRゲーム世界に革新をもたらし、また歴史に消えようのない爪痕を残したあの事件━━SAO事件

 

 

俺が中学二年の時に起きた事件。

しかし、今の俺の姿は中学二年だ。

何よりも桐ヶ谷家がこの時代に存在していて、家族の年齢が俺が中学二年生の時と同じというのが気にかかる。SAO事件が存在しているなら、それを終わらせたキリトの存在もある筈だ。自惚れになるかもしれないが、ヒースクリフを倒せるのは俺一人だと考えている。

 

記事の続きを見ようとスクロールをし、その文章が目に入った瞬間、俺の体は知らず震えていた。

 

 

「…な…んだこれ………」

 

 

≪世界を揺るがしたSAO事件、国の必死な対応に関わらず、10000人の命が失われた。開発者の茅場晶彦氏は全プレイヤーが命を落とした後に自殺。遺書には「あの城を踏破できた者は誰も存在しなかった。アインクラッドの崩壊は見届けられなかったのは残念だが、それを運命として受け入れよう。」と意味不明な言葉と、『ザ・シード』なるフルダイブ・システムのプログラムパッケージがインターネット上に配布されていた。政府は………≫

 

10000の命が失われた?

ちょっと待て、SAOは俺がヒースクリフを倒してクリアした筈だ。

 

目の前の文章が信じられず他のサイトを渡り歩いたが、内容は全て最初に見たものと一致している。

 

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!」

 

うわごとのように呟きながら他のページを見ては消しを繰り返す。

確かに犠牲者はでた筈だが、アインクラッドには生存者もいた。彼らはSAO生還者として俺や明日菜達と同じ学校に入って、授業を受けていたのだ。記憶はしっかりある。

なら何故クリアされていない。俺なら、≪黒の剣士キリト≫なら、ヒースクリフ―—茅場晶彦の野望を打ち砕いている筈なのだ。

 

一体どういうことなんだ……

 

呆然としながら俺は一つのことを調べた。

 

調べるのは俺の戸籍情報。

俺――桐ヶ谷和人はこの桐ヶ谷家の本当の家族ではない。

父と母は俺が幼い頃に事故で亡くなり、一人になった俺を桐ヶ谷家が引き取ってくれたのだ。

俺が10歳の時にしたように住基ネットの記録を探し当てる。そこに記されていたのは、俺が引き取られた年代は現在から数えて13年前。

つまり2033年に当時1歳であった俺は桐ヶ谷家に引き取られていたことになり、SAO事件には参加していないことになる。

そのことがわかった時、パニックになっていた脳は一先ず落ち着きを取り戻した。

SAOのことも気になるが、俺の記憶と住基ネットの記録の矛盾。その疑問が俺の頭を埋め尽くしたからだ。

 

俺の記憶では昨日、比嘉タケルの依頼でミニSTLの実験を行い、その後妹の直葉と外食し、眠りについた。

そして次に目を覚ましたら中学二年の姿になっていて、中学校生活を行うことになっていた。

SF小説ではあるまいし、目が覚めたら過去にタイムスリップしていたというわけでもない。

ニューロリンカーなどの情報からも、ここは未来の世界の可能性が高いからだ。

 

俺は首回りについているニューロリンカーを取り外し、しげしげと眺める。

パッと見た感じは首輪のようだ。それこそ比嘉の研究所で装着したミニSTLに―――

 

「…っ」

 

待て

何か、何か重大なことに気が付いた気がする。

 

手元のニューロリンカーと、研究所にあったミニSTLの形状はほぼ一致している。

人間の脳細胞に量子レベルで接続して、そこに映像を書き込むというのも、STLがフラクトライトに情報を書き込み、本来無いものを意識上ではあると錯覚させるということと同じようなことだ。

つまりニューロリンカーはSTLの小型化に成功した機械ということで間違いないだろう。

 

しかし、この結果がわかっても頭のもやもやは消えてくれない。

何かが引っかかる…もっと不安定な、もっとあやふやな…

 

 

『量子コンピュータってのは、平行世界に干渉する可能性があるって言われてるんス、昔から。……SFの世界では』

 

「あ…あぁ……っ!」

 

昨日とはまた別の実験の時、比嘉から言われたことを思い出す。

ダイブした先にオバケが出たとか何とかの話になった時、彼が言っていたのだ。

この量子コンピュータがパラレルワールドに存在する同種の量子コンピュータと干渉して、オバケの姿を見せているという…

実際に俺はその後のダイブで奇妙な体験を経験している。

よって経験論ではあるが量子コンピュータは稀に平行世界のソレと干渉し合うということが立証される。

 

昨日、俺はミニSTLでSTL本体に無線接続を行った。

それによりミニSTLは俺のフラクトライトを読み取り、上の階にあるSTL本体に俺のフラクトライトデータを送信した。

つまり俺のフラクトライトという情報データは、送信されている間、STL本体へ続く電波の海を流れているということになる。その際に、何らかの不具合で平行世界の量子コンピュータと接続してしまい、俺のフラクトライトがその世界に送信されてしまった。送受信自体は常に繰り返しているので、俺はSTLに接続することができたが、平行世界に送信されたデータは送信された先に存在する。

そしてそのデータは行き場を失ったが、飛ばされた先は量子コンピュータによる通信が頻繁に繰り返されている場所だ。なんにせよ、データ自身はミニSTLからSTLに送信されるという役割を果たさなければならない。

そして見つけたのだ。データの大本にになったフラクトライトに限りなく近い存在から発信される通信データを。

そしてその先に存在したフラクトライトに、『俺』というフラクトライトを上書きした。ということではないのだろうか。

 

 

つまり…

 

今ここに存在している『俺』は、平行世界の桐ヶ谷和人のフラクトライトに上書きされた存在なのではないのだろうか。

 

 

「…っ……」

 

動悸がおさまらない。

頭の方はとっくにパニックになっていて、そんなはずないと考えている傍ら、その推測に納得している自分がいる。むしろしっくりくるほどだ。

この世界の俺はSAO事件の際には生まれてもいないのだから…

 

俺という歯車がないことで、75層におけるヒースクリフの正体に気づく者はいなく、そのまま犠牲者を増やしながらも進み続けたプレイヤーは95層のタイミングでヒースクリフという絶対的なプレイヤーを失う。

俺の代わりに≪二刀流≫を手に入れたプレイヤーもいるだろうが、クリアされなかったということは殺されたということだ。

 

そして全滅した。攻略組が無くなったら後は緩やかな衰退だ。

現実の体は衰弱していき、隠れていたプレイヤーもいつかは死を迎える。

 

「…………………ぁ…」

 

そして気づいた。

俺がいないことでクラインはSAO内でのレクチャーを受けられず、シリカは迷いの森でピナと共に命を落とし、シノンは銃に対しての恐怖を克服できず、通っていた学校での苛めを受け続けるはずだ。

そして俺がアスナと結婚しないことでユイはその身にバグを募らせ続け、アスナは…

 

「あ…ぁぁ………」

 

あの栗色の髪の少女は無理に無理を重ねて、心身共に壊れてしまっていたのではないのだろうか…

 

そしてアスナが存在しないことで、黒髪の少女――≪絶剣≫の異名を持った彼女も一人孤独に命を落としてしまった筈だ。

 

いくらここが平行世界だからって、知っている人物、大切な人物が命を落としているというのは割り切れることではない。

しかも自分が関わって入れば解決できたことだ。

 

挙句の果てに平行世界の自分を殺したようなことまでしている。

 

 

 

 

 

「俺は…俺は……」

 

 

そして今回のことから出てきた結論は

 

 

 

 

 

「一人、だ…っ……」

 

 

 

 

 

元の世界に戻る手段など存在しなく、この世界で一人で生きていかなければならなくなったということだった。

 

 




はい、この小説のキリト君の正体は平行世界のキリト君のフラクトライトに上書きという形で憑依したキリト君でした。

直葉ちゃんとのご飯の前にフラクトライト飛んでんジャンと気づいたお方、正解です。
ミニSTLでの実験をする前にバイト料もらったら奢ろうと考えていたということで補完お願いします。
考えてたなら食事をして寝た筈ってなるのも納得できますよねっ!


SAOはクリアされてなかったということにしました
世界移動系の小説ではないので歴史は改変しなければいけないですし、自分的にキリト君がいないとSAOはクリアされないかなって考えてたので…
ちなみに茅場さんが≪ザ・シード≫をあちこちにばらまいてたのでALOもGGOも存在します。
妖精王須郷さんもまあ…ALOにSAOのサーバー流用してたわけですし捕まったんじゃないっすかねぇ(適当)
SAOがクリアされなかったこと以外は正史というかSAOの小説と同じです…まあ、設定的に無理そうなのも幾つかありますけどね…

それではまた次回、ぼっちキリト君に救いの手は差し伸べられるのか!?


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