銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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大変お待たせいたしました

色々見返してたら浮かんできたので初投稿です




第五十四話:切望

 悪夢を見る。

 内容はいつも同じ。自分の力が足りないから、大切な人を失ってしまうという夢。

 その夢を見る度に、生き残ってしまった自分への怒りが沸き起こる。

 

 だからあの子を生き返らせようと話を持ちかけられた時は何でもやると誓ったのだ。

 何もできなかったあの時とは違う。僕は英雄なんだって、その為に体を鍛えたし、力も手に入れた。

 

 だけどその試みも失敗した。

 どうやら英雄は真の英雄に勝てなかったらしい。

 全てを掛けて挑んだ戦いに僕は負け、そしてまたあの子を失った。

 

 全部終わって少しした後、英雄様が僕の前に現れた。

 どうやらあの子の虚像から助けを求められたらしい。

 無視することもできた。

 だけどそれを妄想だと切り捨てられるほど、僕は大人じゃなかった。

 

 旧SAOサーバー。

 すべてが始まり、そして終わったあの場所で、僕は再び戦った。

 戦いを終えた僕が助けたのはあの戦いの中で共に行動していた虚像の彼女だった。

 そして僕が生き返らせたかったあの子は…目の前で消えてしまった。

 

 虚像…YUNAはARアイドルとして活動するにつれて、自分のコピーを沢山生み出されてしまった。

 その結果自分自身の自我が崩壊し始め、助けを求めてきたということらしい。

 

 それから僕はAIである彼女…いや、彼女達を助けるためにあちこちを走り回った。

 時には崩壊寸前まで追い込まれたコピーの為にフルダイブを行い、彼女が消えないように尽力した。

 

 「ねえ、■■■はどうしてそこまでしてくれるの?」

 

 黒い衣装に身を包んだ彼女はある時そんなことを聞いてきた。

 僕はそれに対してそれが償いなんだと答えた。

 

 「でも、ずっとそうしてちゃ疲れちゃうよ」

 

 つくづく人間みたいなことを言うと思わされる。

 英雄様にくっついてたAIもまるで人間のような振る舞いをしていたし、これじゃあ誰が人で誰がAIなのかわからない。

 でもまあ、それももう終わりだ。

 自我崩壊の原因となった同一データのコピーは減りつつある。彼女の負荷も軽減されてきていた。

 これで少しはゆっくりできるだろう。

 

 「それじゃあ、頑張ったキミに歌を歌ってあげよう」

 

 それはいいね。と彼女の歌声をBGMにしながら缶ビールを開け、空を眺めた俺の目に、おかしな影が浮かんでいるのが入った。

 

 オーグマーの故障ではない。

 訝しげにそれを見つめていた俺は、ある違和感に気づいた。

 

 歌が聞こえない。

 

 「…ユナ?」

 

 絞り出した声はただ、虚無の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーんこれは…参ったね」

 

 《無限変遷の迷宮区》に閉じ込められたユナは、アインの顔をむにむにしながら辺りを見渡していた。

 気がついてから暫く時間は経つが、ここはエネミーが徘徊するダンジョンらしい。

 幸いエネミーの索敵外にいるため戦闘にはならないが、あいにくユナには戦闘能力が殆ど無かった。

 いや、あるにはあるのだが如何せん自分の力はサポート向きなのだ。

 

 なので先程キリトに聞かれたときは戦うのは無理と答えている。中途半端な戦いができると思われるなら、サポート向きと言われるのがいいのである。

 

 「いざとなったらお前を放り投げてやるぅ」

 

 嫌がるアインをこねくりまわしながら、ユナは自分がこの場所に来ることになった時のことを思い返していた。

 

 ARアイドルである自分はただのデータの固まりだ。

 このVR空間に集まったユナというデータの粒子をアインがまとめ、一つの存在として構築した。

 そのデータはARアイドルである《YUNA》だけでなく、かつて《白ユナ》と呼ばれていた存在や、SAOで命を落とした《重村悠那》の残留データも含まれており、今の彼女は以前キリトに話した通り全部のユナが集まった存在でもあった。

 つまるところ、巷で《オーディナル・スケール事件》と呼ばれていた出来事で行われる予定であった重村悠那の蘇生と同じ現象が起きたということになる。

 

 ただ何事にも元になった“素体”というものがある。

 この素体の部分は《YUNA》と言われていたARアイドルとして活動を行っていたデータが多かった為、今ここに存在しているユナの基本はいわゆる《黒ユナ》と呼ばれている存在となっているのだ。

 

 

 「エーくん……エイジ…」

 

 ぽつりと呼ぶその名前は、黒ユナと一緒に過ごしていた人物の名前。

 『ユナ』の全てに強く関わった存在。

 自分がエーくんと呼ぶのは何だか違う気がして、慣れ親しんだ名前で言い直す。

 

 この体の大部分を占めるデータログを参照すると、自身は最後までエイジと共に過ごしており、あの《ペルソナ・ヴァベル》が引き起こした際に起きた電脳世界の異常によって、ここへ引き込まれてしまったらしい。

 

 最初は自我なんてあるようで無かった。だけどキリトに残っていた残留データを収集したことによって、今ここにいるユナはある程度の思考能力を手に入れることができていた。

 

 自分で考え、行動する。

 

 歌を歌うという簡単な動機しか与えられていなかった自分が変わってしまうのは少し怖かったが、それでもこの変化によってエイジや父が喜んでくれるならこのままでいいかもしれないと考えてしまうのだ。

 例え白ユナや悠那が生き返るのを望まなくても。

 

 

 「あーあ、でも歌いたいなぁ」

 

 とはいえ本業はARアイドルであるYUNAである。

 早く戻って歌いたいと、地面に座り込みながら上を眺める。

 どこまでも広い空間だ。

 ここがSAOと同じようなダンジョンなのであれば、フロアボスのようなのを倒せばもとの場所に戻れるのかもしれないと、悠那の記憶が語りかける。

 

 「とりあえず皆と合流しなきゃ…ん?」

 

 自分を元気付けようとしてくれたのだろう。

 周囲をくるくる回るアインに微笑んだユナはしかし、耳に金属音を捉えて表情を変えた。

 誰かが戦っているのだろうか?

 びっくりした顔のアインをむんずと掴んだユナは、音の聞こえた方向へ走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ぐぅっ…!!」

 

 何度目の衝撃だろうか。

 力が抜けそうになる手に渇を入れ、もう一度《青薔薇の剣》を握りしめたユージオは未だ倒れる気配のないエネミーを睨み付ける。

 

 《エンドオブ・ザ・サムライロード》という名前の敵の《天命》は5本もの長い緑の棒で表示されていた。

 現在そのうち4本を黒く染めることに成功したが、残りの棒が減る度に敵の攻撃は苛烈になってゆく。

 

 「大丈夫ですか、ユージオ!」

 

 「はぁ…はぁ…、はい!!」

 

 こちらに声をかける整合騎士の声に頷きながら、一人で2本を削ったという彼女の強さに驚愕する。

 

 「あと1本です。気を抜かずに、集中して」

 

 アリスが自分に合わせてくれているとはいえ、即席のコンビネーションはそこそこ上手く機能していた。

 

 「グオオオオオオッ!!」

 

 ここで骸骨侍は雄叫びを挙げるとその武器を腰だめに構える。

 それと同時に光輝く刀身を見た二人は身を固くする。

 

 今までやつの攻撃は突進系のものが多かった。

 恐らく次の技もそれに近いものだろうと踏んだユージオは、刀の軌道を慎重に計算しながら剣を上段に構える。

 

 彼が放とうとしている技はアインクラッド流秘奥義《バーチカル》。これなら幾つかの突進系の攻撃にも対応できるだろう。

 

 しかし侍は刀を抜き放つように振り上げると、ユージオの予想を裏切り高くジャンプ。そのままの勢いで二人に斬りかかってきた。

 

 「ジャンプした!?」

 

 これまでとは明らかに違う挙動に二人の動きは一瞬止まる。

 しかしその一瞬はこの戦いの中では命取りであった。

 

 かの浮遊城にてカタナソードスキル《旋車》と呼ばれた重範囲攻撃技は地面を破壊し、その衝撃で二人を大きく吹き飛ばす。

 痛みが全身を走るなか、ユージオは侍の刀が光り続けているのを目にする。

 

ーーーまだ終わってない!?

 

 カタナソードスキル《浮舟》。

 真っ赤なライトエフェクトに包まれたその攻撃はユージオに止めの一撃を刺そうと放たれる。

 

 「エンハンス・アーマメント!!」

 

 直後、凛とした声と共に彼の目の前に金色の盾が出現し、その攻撃を防いだ。

 慌てて声の主を探すと、吹き飛ばされながらも刀身が無くなった金木犀の剣を構えたアリス。

 

 彼女が自分を助けてくれたのだと理解すると共に、ユージオはあることに気づいた。

 この盾は彼女の武器が姿を変えて作られたものだ。

 つまり彼女には自分を守る手段が存在しないということになる。

 

 現に攻撃を防がれた侍は怒りの形相を向けてアリスに向かって刀を振りかぶっている。

 彼女も必死に剣を引き戻そうとしているが、間に合いそうにない。

 

 「ディスチャージ!!」

 

 しかし彼女は諦めていなかった。

 光素を操り即席の盾を作りだし、少しでも攻撃を防ごうと試みる。

 盾は紙のように切り裂かれるがそれでも彼女が武器を滑り込ませる瞬間を稼ぐことに成功した。

 敵の刀はアリスの剣によって軌道を変えるも、その兜に攻撃は当たり彼女を吹き飛ばす。

 

 「騎士アリス!!!」

 

 九死に一生を得たユージオは慌てて彼女に駆け寄ろうとするも、目の前にエネミーが居るせいで動きを止めてしまう。

 

 「どうすれば……!」

 

 奴を倒さなければ彼女を助けにいけない。

 だが敵は二人がかりでなんとか倒せた相手だ。

 自分の技量では奴に勝つことはできないだろう。

 

 

 

 

 「ーーーーー♪」

 

 必死に思考を回すユージオの耳に、聞き覚えのある声と軽快な音楽が鳴り響いた。

 それと同時に体に力が張る感覚。

 

 「き、君はーーー!!!」

 

 「あいつは私が引き付けるから!早く!!」

 

 そこに居たのはその手に小さな楽器を携えたユナであった。

 彼女は敵のヘイトを高めるスキルを使うと同時に、エネミーにアインを投げつけた。

 

 アインはポヨンとエネミーにぶつかった後、その周囲を回りながら撹乱を行い始めた。

 その間にユナは手に持ったリュートをかき鳴らす。

 するとメロディーと共に光の球が生み出され、その球は次々とエネミーにぶつかっていく。しかしその攻撃はあくまでも牽制用でしかないのか、大したダメージにはなっていないようだ。

 

 「助かります!!」

 

 だがユナがその身を危険に晒してまで作ってくれた時間だ。

 ユージオは真っ直ぐにアリスに駆け寄ると、その体を抱き起こす。

 

 「騎士アリス!しっかりしてください!!」

 

 エネミーの攻撃はアリスの頭部に直撃していた。兜に守られていたとはいえ、彼女の意識を奪うのには十分な威力であった。パッと見は怪我などなさそうだが、中で何が起きているかはわからない。

 心のなかですみません、と謝りながらユージオは彼女の兜を取る。

 

 「……えっ」

 

 そうしてあらわになった彼女の顔に、ユージオは思わず困惑の声をあげる。

 見覚えのある金髪と顔立ち。

 そう、まるで記憶の中の彼女がそのまま成長したらそうなったようなーーー

 

 「ユージオーー!!」

 

 「っ!!」

 

 止まりかけた思考をユナの声が引き戻す。

 そうだった、固まっている場合じゃない!

 一先ず怪我を確認し、気を失っている彼女を物陰に移動させたユージオはもう一度彼女に視線を向け、しかしそれを振り切るように首を振ると戦線に復帰した。

 

 「ごめん!待たせた!!」

 

 「キリトは!?」

 

 復帰早々ユナに問いかけられたユージオは首を横に振ることで返答した。

 それだけで二人共彼と合流していないことがわかる。

 

 「あいつ…多分フロアボス。アレ倒せばここから出られるかもしれない」

 

 「ふろあ…?た、倒すにしたってあいつかなり強いんだ…!僕だけじゃ…」

 

 そうだ、整合騎士でさえやられたのだ。

 例えアレを倒せばここから抜け出すことができると言われても、キリトに及ばない自分がやつを倒しきることなんて不可能だという思考がユージオの頭に浮かぶ。

 

 力が欲しいのに今の僕ではその力を手に入れることすらできない。

 

 「僕だけじゃ無理だ…」

 

 そんな彼の言葉に、ユナは静かに口を開く。

 

 「私は…私は諦めないよ。だって…」

 

 えっ、とユージオが彼女に向けると、ユナは凛とした表情をしながら腕を大きくあげる。

 

 「だって私はまだ歌いたい!」

 

 そう、強く声を挙げ、頭上で大きく指をパチンと鳴らした。

 それと同時にどこからか流れる音楽。

 その発生源はアインだ。

 侍も突然のことに戸惑っているのか、その動きを止めている。

 

 「色んなところで歌って、そして皆に私の歌を届けたい!!だからこんなところで立ち止まれない!」

 

 特徴的なコーラスが聞こえた後、ユナは自身の思いを乗せるように歌い始めた。

 

 

 「ーーーー手に入れるよきっと……」

 

 

 

 

 




広げた風呂敷を畳めるか心配なんですけどOSSNo.2君ちょっと出したいと思ったので前半の部分をいれました

FBでも出てきたんですもんね
あの二人結構好きです

ユナの攻撃は魔法の玉みたいなのをぶつける攻撃です
攻撃手段が無かったので追加しました


ユージオはまだ覚醒を残しています
そして我らがキリトはいずこへ!!


感想書いてくださるかたいつもありがとうございます
また書こうとしていたときも感想を見返しながら元気をもらってました

お返事できてなくてすみません

相変わらず亀更新ですがよろしくお願い致します

また次回!!!!

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