銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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本日更新二話目です


第五十九話:その一点を

 「ッ」

 

 思わず上げそうになった声を飲み込めたのは奇跡に近かった。

 アビリティで強化した視力が捉えた光景は、先に立ち向かった三人を中心に起きた爆発。

 思わず視界の端に写っているPTリストに存在している仲間のHPが残っているのを確認して、ようやく息を短くついた。

 

 「…勘弁してよ全く……」

 

 悪態の言葉をついた少女ーーシノンは、現在戦闘エリアから離れた場所でブラック・ロータスのゴーストがいる場所を睨み付けていた。

 彼女に任せられた役割は遠距離からの一撃必殺。

 その為自分の存在を悟られるわけにはいかないのだ。

 

 煙が晴れた先では、別世界のキリトとユウキ、グラファイト・エッジが膝をついていた。

 止めをさすつもりなのだろう。ゴーストがユウキに向けて剣を振り上げている。

 キリトもグラファイトも反応が遅れている。

 ユウキが必死に掲げた剣も弾かれてしまい、身を守るものは存在していない。後は剣が彼女のHPを吹き飛ばすだけである。

 

 「ーーーーーーッ」

 

 ここで奥の手を切って助けるのは容易い。

 スカーレット・レインとの特訓で手に入れたアビリティでクリティカルをたたき出せばどんな相手でも屠れる自信がある。

 しかしそれは千載一遇のチャンスを逃すことになる。

 只でさえ強いゴーストを倒すための攻撃なのに、ここで使ってしまえば次は無いだろう。

 

 ーーーしかし。

 

 葛藤するシノンの気持ちは関係なく事態は進んでいく。

 例え攻撃されてHPが無くなるだけだとしても、目の前で仲間がやられるのはーーーーーーー

 

 

 「ぁ」

 

 

 その光景が、何時しか見た光景(・・・・・・・・)と重なった。

 彼女の心の傷。

 子供の頃、銀行強盗が現れたあの時と同じーーーー

 

 

 「《バレットオーダー》」

 

 

 反射的にアビリティを発動していた。

 光に包まれながら現れたのは普段使っている弓とは違う銃(ウルティマラティオ・へカートII)

 赤の王であるスカーレット・レインとの修行の最中発現したアビリティはALOの世界観をぶち壊すほどのシロモノをその手に呼び出すアビリティであった。

 まるでそうすることがわかっているように、スコープを覗き込みながらシノンは狙撃体勢に入る。

 

 弓よりも手に馴染むその銃はまるで長年の相棒のように彼女に狙う場所を示してくれる。

 しかし今はそんなことよりも重要なことがある。

 

 「…いけっ!」

 

 狙いをつけた彼女は短く息を吐きながら引き金を強く引いたのだった。

 

 

 

 

 

 「…やべぇな……」

 

 肩で息をしながら悪態をつくグラファイト・エッジは、自分の手に視線を向けていた。

 その理由は言わずもがな、先程ブラック・ロータスのゴーストの攻撃を無理矢理防いだ代償である。

 心意技を迎撃した結果、その手に収まっていた筈の剣は彼の手元を離れ、目の前に突き刺さっている。

 

 別に剣が離れたこと自体は大したことではない。再び握ることができれば戦えるからだ。

 しかし相手が悪かった。

 

 剣が本体と呼ばれるほど、グラファイト・エッジ自身のスペックは高いものではない。

 黒の王の目の前で剣を取り落としてしまった状況がまずいのだ。

 

 「きゃっ!」

 

 そうこうしているうちにユウキの剣が弾かれ、彼女に剣が振り下ろされようとしていた。

 

 「くそっ…!!」

 

 助けに入りたいが今の彼には剣を拾うというアクションを挟まなくてはいけない。

 だが動かないという選択肢はない。

 

 ーーーーーと、足を踏み出そうとしたグラファイトの耳に、聞き覚えのない音が響いた。

 いや、聞き覚えはある。

 BBで領土戦を行った際に何度か聞いたことがある音だ。

 赤のアバターが得意とする銃撃の音。

 しかもこの音はスナイパーライフルが撃たれた音だ。

 

 そう認識したのと、ヒュンッと風を切る音が聞こえ、ゴーストの左腕の剣が吹き飛んだのは同時であった。

 

 「っーーーー」

 

 驚愕の気配を見せるゴーストに隙を見いだしたグラファイトは、即座に剣を手に掴む。

 しかしその行動をしている以上、剣を取り必殺技のモーションに入ると一手が足りない。

 

 「ーーーユウキ!!キリト!!」

 

 二人に声をかけたグラファイトは抜いた剣をそれぞれに投げ渡した(・・・・・)

 

 グラファイトと同じタイミングで既に走り出していたキリトは、《ルークス》を受けとると即座にソードスキルの体勢に入る。

 

 「うぉぉぉぉっ!!」

 

 グラファイトを追い越し、ゴーストの間合いに入ったキリトは体を捻りながらソードスキルの光を纏わせた剣を叩き込む。

 

 二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》。

 それを放ったキリトの背後から、《アンブラ》を手に取ったユウキが躍り出る。

 剣を包み込む激しいライトエフェクトはどこか翼のようだ。

 

 「くらぇぇぇぇぇっ!!」

 

 雄叫びを上げながら放たれる十一連撃。

 Xを描くような突きを放った後、最後の一撃を叩き込む《OSS》。

 その名も《マザーズ・ロザリオ》。

 彼女の生きた証の象徴はゴーストの体に突き刺さり、その爆発と共に吹き飛ばしたのだった。

 

 「いよぉし!」

 

 手を叩きながら立ち上がったグラファイトは、二人から剣を返してもらうとゴーストが吹き飛んでいった方向に視線を向ける。

 ユウキの一撃が致命傷だったのか、ゴーストは仰向けになったまま動かなかった。

 

 「……ここ、は…」

 

 しかしその頭部がゆるゆると動き、周りを見渡す動作をした彼女はぽつりと声をあげた。

 先程までとは違い、理性のある声。

 王の影達は全て自分で思考し、話していたということなので、黒の王のゴーストもそうだというのが妥当だ。

 

 多分ヴァベルに何かされたんだろうな、と結論付けたグラファイトはゆっくりとゴーストに近づいていく。

 

 「…よっ、お目覚めか?ロッタ」

 

 「グラファイト…、……止めてくれ、私はゴースト…偽者だぞ」

 

 どうやら自分がゴーストである自覚はあるらしい。

 しかしそれはそれとして、目の前にいるのはブラック・ロータスなのである。

 

 「ヴァベルに何かされたのか?」

 

 「…この世界に生み出された瞬間にな。どこかで私の性格でも知っていたんだろうな。おかげで反逆すら出来なかったよ」

 

 はっと自嘲気味に笑うロータスに近づいてくるのはキリトとユウキである。

 

 「…ありがとう、私を止めてくれて。とてもいい戦いだった。…本当なら、心意技など使わずに戦いたかったのだがな」

 

 キリトとユウキに声をかけたゴーストは懐から一つの玉を取り出すとユウキに投げ渡す。

 王の影を倒すと手に入るキーアイテムだ。

 

 「…私を倒したんだ。ヴァベルの野望も止めてくれよ」

 

 そう言ったゴーストの体は徐々に透け始め、やがてクリスタルの結晶のように砕け散った。

 プレイヤー、エネミーのHPが0になったときと同じエフェクトだ。

 

 「…いこう、アスナ達が待ってる」

 

 ユウキはゴーストがいた場所を見ながら二人にそう言うと、アイテムボックスからポーションを取り出して飲み始める。

 戦いはまだ続いているのだ。早急に合流しなければならない。

 

 シノンと合流した三人は、バベルの塔に向けて走り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 「ルオオオオオオオッッッ!!!」

 

 「クロム・ディザスターは我々が引き受ける!!キリト、アスナはあの大ボスを仕留めてくれ!!」

 

 「わかった!!」

 

 雄叫びをあげるクロム・ディザスターを見ながら叫んだ黒雪姫は、共に戦う仲間達に視線を向ける。

 

 「《災禍の鎧》は確かに強力だ!しかし思い出してほしい!我々はかの鎧を討伐している!ならば次も可能な筈だ!!」

 

 「改めて伝えますが、注意するのは瞬間移動と剣の攻撃、相手を引き寄せるフック攻撃、それと自動回復です!!攻撃の未来予測も出来るので気を付けてください!!」

 

 「流石六代目!!相手の動きは完璧ってやつだな!」

 

 「…レイン、流石にそれはNG」

 

 相手の行動予測を叫んだハルユキに対して放たれたレインの軽口に珍しくレパードがそう言い、ハルユキは苦笑いを返す。

 

 「作戦通り(・・・・)に仕掛けるぞ!!」

 

 そんな中先陣を切るのは黒雪姫だ。

 勢いをつけたホバー移動でブラック・ロータスの右腕を振り上げながら、獣に斬りかかる。

 無論、それをただ見ている獣ではない。

 右腕の《スターキャスター》で迎撃するために足を踏み出した。

 しかしその足が何か水のようなモノに掬われる。

 

 「油断大敵、なの」

 

 その正体は《四元素》の一人、アクア・カレントである。

 彼女の攻撃ではディザスターの足を破壊することなどできない。

 だから彼女は自身の体を流れる水のように操作しながら水面蹴りを放つことで、まるで大きな波が足を取るような現象を引き起こしたのだ。

 作り出せる隙は一瞬、しかしその一瞬で十分。

 

 「《ライトニング・シアン・スパイク》!!!」

 

 「《フレイム・ボルテクス》!!」

 

 放たれるのはシアン・パイルの杭から放たれる強力な一直線攻撃と、アーダー・メイデンの業炎に包まれた矢である。

 

 「ルルォォオオオオ!」

 

 ディザスターは雄叫びを上げながらその体を粒子に変換し、攻撃を回避する。

 初代クロム・ディザスターが使用した《フラッシュ・ブリンク》だ。

 二人の攻撃を避け、出現したディザスターは黒雪姫に向けて剣を振り上げようとするが、直ぐに上空に飛ぶことで回避行動に入る。

 

 「ーーっ!!」

 

 つい先程までいた場所には《ゲイルスラスター》によって加速したスカイ・レイカーが急降下の蹴りを放っていたからだ。

 フィールドにヒビが入る程の威力の蹴りが命中していれば、只ではすまないだろう。

 

 「空中なら身動き取れねぇよなぁ!!」

 

 続いてレインが自身の武器でもある銃を放つ。

 放たれた弾丸がディザスターの体に命中すると、その体に大きなダメージを与える。

 放つ武器は小さくてもステータスはレベル9であるレインの攻撃は、見た目以上の威力なのだ。

 

 「ヒャッハァァァ!いくぜいくぜいくぜ!この俺様とレパードの姐さん、そしてベルの嬢ちゃんの合体技、《Vツイン拳・ブラッド・クワイアースペシャル》!!!」

 

 「そんな技はない」

 

 「おりゃぁぁぁあ!」

 

 ウィリーしたバイクのブースターを最大出力で点火することでロケットのように加速したアッシュ・ローラーがミサイルをばらまきながら空中のディザスターに突撃、ヒビが入ったそこをレパードとベルが攻撃することで地面に叩き落とした。

 

 『合わせなさいしもべ!』

 

 「わかってる!いくぞメタトロン!」

 

 自分の背後に現れたメタトロンとタイミングを合わせたハルユキは翼を展開、光を集めると拳を突きだした。

 

 「『《トリスアギオン》!!』」

 

 通常メタトロンの生命力を消費して放つこの技であるが、現在いるVR世界においては生命力を使うことなく、《似た魔法》として発動することができる。

 堅い装甲を持つクロム・ディザスターであってもこの攻撃ならダメージを与えることができるだろう。

 アスナと特訓することで編み出した光の光線を放ったハルユキは、ここに来るまでに仲間と話していたことを思い返していた。

 

 

 

 

 「バベルの塔に行くっていうことは…」

 

 「ああ、クロム・ディザスターも来るだろうな」

 

 「厄介なのです…」

 

 あれは会議が終わったあと、ネガ・ネビュラスの皆で会話していた時のことであった。

 紫の王のゴーストを倒したあと襲いかかってきたクロム・ディザスターとは必ずバベルの塔で戦うことになるだろうと、話題に上がったのだ。

 あの鎧を巡る話を知っているからこそ、再びこうして戦うことになった理由がわからない。

 サフラン・ブロッサムとクロム・ファルコン、二人の魂と共にあの鎧は眠りについた筈なのだから。

 

 「…あの」

 

 だからハルユキは覚悟を決めていた。

 ヴァベルに起こされたのか、それとも再び災厄をもたらしに現れたのか、どちらにせよ倒さなくてはならない。

 

 「僕が六代目クロム・ディザスターになってしまったことは皆さんご存じだと思うんですけど…だからこそ、あいつの動きであったり伝えられることがあると思うんです」

 

 「ハル…」

 

 「…あいつがまた現れた時、全員で総攻撃をして倒しましょう。それが多分、一番良い」

 

 そう呟いたハルユキは、自分が《災禍の鎧》を纏った際に使用していたアビリティや武器などを、実際に四代目や五代目と戦闘した者達を交え話し合い、対クロム・ディザスターの準備を整えていたのだ。

 

 

 

 「相手の未来予測や移動アビリティの使用を制限させて、目的の場所に追い込む…!」

 

 トレスアギオンを受けて吹き飛ばされたディザスターの先には《オーバードライブ》により装甲を赤い光が包んでいるブラック・ロータスが待ち構えていた。

 

 「はーーーあああっ!」

 

 雄叫びをあげた彼女の全身を心意光が包み込む。

 その光を剣に纏わせたロータスは正に閃光のように加速し、ディザスターに斬りかかる。

 

 「《光環連旋撃(ジ・イクリプス)》!!!」

 

 2.5秒で27連撃もの剣撃を放つ大技であり、彼女が持つ技の中でも高威力に位置する技だ。

 その攻撃は全てディザスターに突き刺さり、その体を大きく吹き飛ばした。

 

 「やった!!」

 

 「……ルルルル…」

 

 ここまで攻撃を与えても倒れないのは流石と言うべきか。

 しかしその鎧の至るところにはヒビが入り、自己修復の光が漏れ出ていた。

 その姿にハルユキは胸が張り裂けそうになるが、グッと右手を握りしめると背中の翼を羽ばたかせてディザスターに向かって突撃する。

 

 「うおおおおおおおっ!!」

 

 雄叫びを上げながら渾身の右ストレートを繰り出すハルユキ。

 もう良いんだ、もう眠ってくれ。

 災禍の鎧が再び災いを引き起こす前に、引導を渡す為に放たれた拳はーーーー

 

 

 

 

 『しもべ!!!逃げなさい!!』

 

 

 

 何かに弾かれたことで空を切った。

 いや、加速した思考がその何かの正体を正確に映し出す。

 ーーー剣だ。

 

 それもレイピアタイプの細剣。

 

 あんな細い剣でシルバー・クロウの拳を受け流したのだろうか?

 いや、そもそも攻撃を弾いた相手はーーー

 

 

 「ーーペルソナ・ヴァベルッ!」

 

 

 仮面を被り、漆黒のドレスに身を包んだ少女であった。

 

 ーーつまりこの戦いの元凶ーーーー!!!

 

 「…同胞よ、下がりなさい。ここであなたを失う訳にはいきません」

 

 「…!逃がすかーー!!」

 

 ヴァベルの言葉に悲しそうな唸り声をあげたディザスターは、彼女が開いたのであろうゲートで転送される。

 思わず駆け出したハルユキの前に立ち塞がるのは細剣を輝かせたヴァベルでーーーー。

 

 

 『しもべ!!!』

 

 

 ドドドドドッと体に衝撃が走る。

 途端に体に走る痛みにハルユキの思考は真っ白になってしまった。

 今何をされたのか?

 攻撃されたのはわかった。

 しかしその剣先すら見えないことなんてあるのか?

 

 まるでそう、トレスアギオンを習得するために訓練をお願いしたアスナのような素早く、正確な一撃。

 いや、あの攻撃は八連撃ソードスキルのーー

 

 「ぐ……っ、がぁっ!!」

 

 「ーーーー眠りなさい」

 

 続けざまにヴァベルの手に魔力が収束する。

 なにか不味い予感を感じるもハルユキは動くことができない。

 そのまま無防備な胴体に魔力の一撃を受けたシルバー・クロウの体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 「ハルユキくん!!!」

 

 「チーちゃん!!」

 

 「し、《シトロン・コール》!!」

 

 黒雪姫が声を上げるなか、すかさずパイルがベルに指示を出す。

 ライム・ベルは腕の鐘をりんごん、と鳴らすと倒れているシルバー・クロウに向ける。

 すると彼のHPは回復ーーもとい戦闘開始前に戻されていく。

 

 「ーーがはっ、はぁっ、はぁっ」

 

 あまりの衝撃に意識を一瞬失っていたハルユキだが、ライム・ベルのお陰でなんとか復活することができた。

 息を吐きながらふらふらと立ち上がると、ヴァベルを睨み付ける。

 

 「妾の邪魔をするとは……」

 

 ヴァベルはイライラとしながらそう呟くと、反対方向でキリト達と戦っている大型エネミーを見る。

 

 「…やつも存外大したことはなかったか……。なら、次の手を出すまで」

 

 そのまま指をパチンと鳴らすと、巨大な魔方陣がバベルの塔の近くに現れる。

 そしてそこから現れたのはまたも巨大なエネミー。

 

 まるで女神のようで、それでいて怪物のようなモンスター。

 

 キリト達も異常を感じてそちらの方向を向くと、現れたエネミーの姿を見て驚きの表情を見せる。

 

 「……嘘だろ」

 

 「あれって《OS事件》の…」

 

 呟いたのは誰だろうか。

 目の前に現れたエネミーはキリト達を見つけると戦闘体勢をとり、雄叫びをあげる。

 

 エネミーの名前が現れると同時に、その下には10本(・・・)ものHPバーが現れる。

 必死に目を凝らしたハルユキが捉えたその名前は《An Incarnate of the Radius》。

 

 「この時代の旧SAOサーバーからは消えていたとしても、貴様ら小妖精のいるこの世界の成り立ちを忘れたわけではないだろう?」

 

 「…ALO内のアインクラッドからデータを引っ張ってきたのか……っ!!」

 

 高らかに笑うペルソナ・ヴァベルの言葉に歯噛みしながらその言葉の答えを放つキリト。

 

 ヴァベルはボスに視線を向けたあとバベルの塔の中に戻っていく。

 

 追いかけようとするも目の前にいるボスがその行く手を阻んでいる。

 

 「…くそっ、全員戦闘準備!!」

 

 キリトはボスを睨み付けた後全員に声をかける。

 《オーディナル・スケール》というゲームを巡る戦いで戦ったのはつい最近のことである。

 自分達がかつてのアインクラッドで倒したストレアと融合した100層ボスとはまた別の、茅場がデータだけ作っていた100層ボス。

 あのときとはまた違う状況で再び勝つことができるのだろうか?

 

 ボスがキリト達に視線を向けると、その赤い瞳が禍々しく輝く。戦闘体勢に入った証拠だ。

 

 かつて戦った強敵との戦いの火蓋が再び下ろされたのだった。


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