銀翼の鴉と黒の剣士   作:春華

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第七十四話:閃光

 

 ストレアの声に一瞬毒気を抜かれてしまうが、彼女がブレスを防ぐことができるのも時間の問題だろう。

 …いや、あんな声を出しておいて暫く持ちそうな気もするが。

 

 『ユイの声、ちゃんと届いてたよ!まさかそんなとこにいるなんて思わなかったけど!』

 

 慌てて飛び込んだら私も懐かしい姿になってるし!と話すストレアに、やはり俺の見立ては間違いはなさそうである。

 ……しかしそれは懐かしい姿なのだろうか…。

 一体、彼女に何が…と明後日の方向に行きそうな思考を引き戻す。

 

 『大体の流れは過去の私と同期したから知ってるよ。こっちのユイは急に眠っちゃったんだ。多分過去からの上書きの辻褄合わせだと思う』

 

 「…それって」

 

 「私の人格が消えるか消えないか…そこが決まらない限り目覚めることはないでしょう」

 

 整理するがここはユイのコアプログラムの中である。

 現実世界→仮想世界→仮想世界の中のクローズドエリアのような場所になっている。

 

 ここでの決着が仮想世界のユイに影響を与えることになるのだろう。

 

 負けるわけにはいかない。

 …負けるわけにはいかないのだが、災禍の鎧とは複数回戦っている俺自身が奴に勝てるビジョンが見当たらない。

 

 あの驚異的な反応速度(未来予測演算)や鬼神のような猛攻は今まで俺が戦ってきた敵の中でも上澄みだ。

 俺が多種多様なソードスキルでも使えればまた戦い方が変わるのだろうが生憎持ち合わせは使いなれた片手剣、二刀流と体術。

 ニューロリンカーを用いて出力可能な心意技だ。

 

 初めてクロウが纏った時にダメージを与えた《バーチカル・スクエア》。

 後々彼から聞いたのだが鎧は膨大な戦闘経験から攻撃の予測を行うことができ、それを用いて攻撃に対応することができるらしい。

 例外が奴の反応速度を越えるほどの攻撃や、未知の攻撃。

 

ーーー反応速度を越えるほどの攻撃。

 

 二刀流の真骨頂はその圧倒的な手数でダメージを相手に与えるところにある。

 

 「どうにかして奴の防御を抜く。だからーー」

 

 「私がラストアタック…ですね」

 

 こちらの意図を理解したヴァベルがコクリと頷くと、その手のレイピアに視線を向ける。

 ふぅ、と息を吐いたヴァベルはブレスを放っている災禍の鎧がいる方向に視線を向けるとレイピアを構えながら姿勢を低く落とす。

 

 「ストレア!合図したらブレスを弾いて!3、2、…今!」

 

 『そりゃぁあー!!』

 

 気の抜けた声と共に両腕で地面をなぎ払ったストレアの攻撃は鎧のブレス攻撃を中断させる。

 なぎ払われた腕を鎧はその跳躍力で上空に退避することで避けるが、しかしその場所には既にヴァベルがソードスキルを発動させて走り込んでいる。

 

 あれは先ほども放っていた《フラッシング・ペネトレイター》だ。

 高速で相手に近づきながら強力な突きを放つその攻撃は、着地する瞬間の鎧の隙を狙うには十分だろう。

 

 狙いすまされた一撃はしかし、鎧がその姿を粒子のようにかき消したことで回避される。

 

 何度も使われた自分の体を粒子にしてテレポートする技だ。

 ヴァベルは大技を回避されて隙だらけだ。

 彼女の背後に現れたクロム・ディザスターがその剣を振り下ろす。

 

 「させるかーーッ!!」

 

 その一撃を心意の太刀で弾いた俺は、背中の翼で空気を叩きながら二本の剣を構えながら突進。

 同時にソードスキル発動のモーションに入る。

 

 今のディザスターは攻撃を防がれて隙を見せている。

 

 やつの防御を抜くには圧倒的な手数で攻撃を仕掛けるしかない。

 俺の二刀流を象徴する技。

 

 《スターバースト・ストリーム》

 

 星屑のような煌めきと共に放たれる16連撃を持ってこの戦いに決着をつけるーー!!!

 

 

 

 

 《スターバースト・ストリーム》

 

 二刀流を扱うキリトの代名詞とも言えるその技は、アインクラッド74層での戦いでボスを打ち倒し、その後のヒースクリフとのデュエルでも彼を追い詰めた。

 OSS事件の際もトドメの一撃に。そしてアンダーワールドでの決戦ではガブリエルを撃破するために使われた。

 

 光輝くライトエフェクトと共に振るわれる剣から放たれる圧倒的な攻撃はキリトが使うソードスキルの中でもかなりの信頼を置いている技でもある。

 

 「ーーーーっ!!?」

 

 「ルオオオオオオオッ!!」

 

 しかしキリトが放った攻撃は雄叫びと共に武器を振るうクロム・ディザスターによって防がれる。

 

 既に防がれている数は8連撃。

 システムアシストに逆らわないように自発的に体を動かすことで威力のブーストをし、どうにか相手の防御を越える速度を出しているがこれではダメージを与えることはできないだろう。

 

 動揺は一瞬、しかしその一瞬がこの戦いでは命取りだ。

 

 16連撃の最後の一撃でどうにか体勢を崩すことに成功するが、それも体を半身反らさせた程度。

 致命的な隙にはならない。

 

 「くそーーーっ」

 

 せめてもう一撃と17連撃目を放とうとするキリトであるが、彼が放つ17連撃の攻撃は心意を使ったことでシステムを越えた攻撃を放つものだ。

 動揺した彼は17連撃を放つことができず、そのままソードスキルを発動したあとの事後硬直に呑まれてしまう。

 

 「パパ!!」

 

 加速攻撃で飛び出したヴァベルが発動しようとしていたソードスキルを中断させてフォローに動くが、一手間に合わない。

 

 キリトを自身を打ち倒す可能性がある脅威として認識したクロム・ディザスターは彼を確実に倒すためにスターキャスターを腰だめに構えている。

 まるで何かの抜刀術でも扱うように。

 

 あれは先ほどキリトの心意のバリアを貫通した攻撃だ。

 

 加速世界にて剣豪の名を轟かせた《セントレア・セントリー》こと三代目クロム・ディザスターは《オメガ流合切剣》という詳しい説明は省くがほぼ防御不可の剣術を扱い、多くのデュエルアバターに打ち勝ってきた。

 

 その攻撃を一度受けたキリトの背中を冷たいモノが通る。

 アインクラッドで自身の近くにあった死の気配。

 

 未来から過去へ、そしてまた未来に移動しているキリトが負けた時、果たして自分はもといた2047年に戻ることができるのだろうか。

 

 あまりにも想像ができない事態、そしてこの状況で加速したキリトの思考は迫り来る凶器を視界に捉えながらも動くことができない。

 

 全てがスローモーションに見える中

 

 

 目の前に黒髪の少女が躍り出る。

 

 

 

 「ーーーあ」

 

 

 

 重なる。

 

 栗色の(金髪の)髪の少女が目の前で倒れる姿を幻視する。

 

 同じ過ちを繰り返さないようにと誓った足は、腕は、縛り付けられたように動かない。動かせない。 

 

 「ーーそれがなんだ…っ!」

 

 動かないからなんだ、動かせないからどうした。

 

 システムの壁なんていくらでも越えてきた。

 

 越えろ、加速しろ、剣を振れ。

 

 

 

 「ぐ…っ、おおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ソードスキルや魔法でのフォローが間に合わないと判断したヴァベルは、その身を挺してキリトのことを庇おうとその前に立っていた。

 

 AIらしからぬ、身体が勝手に動いたとでも言える動きだったと迫る死を見ながらヴァベルは考える。

 

 来る衝撃に目を閉じた彼女はしかし、その衝撃がいつまでも来ないことに気づく。

 それと同時に耳を捉えたのはギィィィィイン!!と武器同士がぶつかり合う音。

 

 「…っ!!」

 

 必殺の一撃を受け止めていたのは紫色の髪をした少女。

 それは彼女がたった今守ろうとしていた父親ではない。

 自分を姉と慕ってくれた、アインクラッドで出会えた妹だ。

 

 「ユイを傷つけるなんて、させないんだから!」

 

 「この!」

 

 「バカァ!!」

 

 紫色の装甲に包まれた拳を振りかぶったストレアは、クロム・ディザスターの顔面を殴りつける。

 ガァン!!と大きな音を響かせながらたたらを踏むディザスターの鎧は若干へこんでいるのが見える。

 

 「ストレア…」

 

 「ユイ!大丈夫?」

 

 こちらを見るストレアの姿はSAOやALOの時に着ていた服ではなく、ホロウストレアの姿を彷彿させる装甲が散りばめられていた。

 

 「その姿は…」

 

 「動きにくかったから!!」

 

 「うご…」

 

 動きにくかっただけで巨大なエネミーとして存在していたデータを変えることができるのだろうか…と目をパチクリとさせるヴァベルではあるが、状況は好転しているのは確かだ。

 

 ここで畳み掛ける。

 

 「パパ!!」

 

 「うおおおおおおーーーーッ!!!」

 

 ソードスキルの硬直から解き放たれたキリトは、雄叫びを上げながら再度その二刀にライトエフェクトを纏わせる。

 再度、キリトの剣が流星のような煌めきを放ちながら獣に襲いかかる。

 ストレアの反撃を受けたが、行動に支障が出る訳でもない。

 

 「ルオオオオオオ!!!!」

 

 対応の出だしが遅れてしまったが16連撃は先程も見ている。

 キリトがこちらの反応速度を越えてくる動きをしてくるのを獣は知っているため、彼の円を描くような斬撃による攻撃予測線が多少ブレ(・・)ているのは承知の上で迎撃を開始した。

 

 1、2、3、4、5

 

 怒涛の攻撃をパリィ、反撃に移りたいがまだキリトの攻撃は終わっていない。

 

 6、7、8、9、10

 

 叩きつけられた二刀の衝撃で一歩後ろに下がるが、この程度なら立て直しも容易だ。

 

 11、12、13、14、15

 

 「ルルオオオーーーー!!」

 

 16回目の剣撃も凌いだ獣は歓喜の声を上げながら武器を振りかぶりーー

 

 

 

 「ーーーッ!?」

 

 

 まだ動きが止まらない(・・・・・・・・・・)キリトに驚愕する。

 

 星屑のような煌めきは太陽のコロナのように吹き上がる。

 

 「まだだーーーー」

 

 17と続いた攻撃は18、19、20、21と止まることを知らない。

 

 「まだだーーーーーッ!!!」

 

 気がつけばキリトの攻撃は獣の反応速度を越え、その鎧にダメージを与え始めていた。

 止まらない、加速し続ける。

 雄叫びと共に放たれた渾身の一撃はその体を完全に捉えた。

 

 二刀流27連撃スキル《ジ・イクリプス》

 

 ソードスキルが命中したことによる激しい衝突音を響かせながら、災禍の鎧はその体を大きくのけぞらせる。

 それは待ちに待った千載一遇の機会。

 

 「スイッチ!!」

 

 「任せて!おりゃぁぁぁあ!!」

 

 スキルによる硬直で動けないキリトの前に立ったストレアが両腕にオーラを纏わせながら殴りかかる。

 

 「《バニシング・ホロウ》!」

 

 ストレアの一撃は激しいスパークと共に災禍の鎧を捉え、大きなダメージを与えた。

 ここを逃せば勝機は無くなるとばかりに全てを出し尽くす。

 

 「「スイッチ!!」」

 

 異口同音、完璧なタイミングでストレアの前に滑り込んだヴァベルは今度こそとレイピアを構えた。

 ソードスキルの構えをしながら同時に詠唱するのは攻撃魔法。

 

 「《ビフレスト・レゾナンス》!!」

 

 六属性の魔力を凝縮、反発させることで威力を高めた魔力弾を一気に叩き込む。

 キリトが行った心意による8つのエレメント光弾に似たそれは災禍の鎧を追い詰める。

 

 ダァン!と地面を強く踏みしめながら思い浮かべるは母の姿。

 

 

 彼女の切り札(マザーズ・ロザリオ)は結局ヴァベルには扱えなかった。

 正確には彼女と、その親友が生きた証として受け継いで欲しいとデータとして残されてはいたがヴァベルは受け継がなかったのだ。

 

 理由は幾つかあるが、彼女が親友から託されたものを汚したくなかったのかもしれない。

 それにヴァベルは既に母から多くのものを受け継いでいた。

 

 《閃光》のアスナが浮遊城でその渾名を知らしめたソードスキル。細剣ソードスキル、《リニアー》

 

 

 思い出の母と重なるように踏み込んだヴァベルの細剣は真っ直ぐ鎧に突き進む。

 

 「ルォォォォオオオッ!!」

 

 これを受ければ自分は消滅するのがわかったディザスターは、死に物狂いで《フラッシュ・ブリンク》を発動させる。

 しかしダメージのせいか転移出来たのはほんの数歩分。

 だがその数歩でリニアーの射程から逃れることができる。

 

 「ーーーーーッ!!」

 

 全てがスローモーションになる世界でヴァベルは歯噛みながら自分の細剣が届かないことを悟る。

 

ーーここまで追い詰めたのに!!

 

 ソードスキルを中止することはできない。

 したところで硬直によって大きな隙ができる。

 キリトも大技による硬直が解けることはなく、ストレアも同じく動けない。

 

 ここから繋げるソードスキルも、魔法も無い。

 彼女の細剣はアリスのような神器でもなく、武装完全支配術を扱うこともできない。

 何をしてもここから攻撃を届かせるなんてーー

 

 

 「ーーぁ」

 

 

 

 

 『整合騎士として、剣士として、純粋な剣術ではキリトに負けるつもりもありません』

 

 あれはいつのことであったか。

 《ユナイタル・リング》での出来事だったか、それともその後の記憶の情景であったか。

 

 自分も戦えるようにと教えを請い、その一幕だった気がする。

 

 『しかし…ええ、誠に…誠に遺憾ではありますが心意の扱い方に関しては彼の方が凄まじいと認めざるを得ません』

 

 最高司祭アドミニストレーターとの戦いで、キリトは僅かな時間で剣が届かない場所に待ち構える敵を倒さなければならない状況に追い込まれた。

 

 唯一遠距離攻撃が可能な彼女が決死の覚悟で攻撃を受け止め、ユージオが隙を作る。

 

 雄叫びと共にジェットエンジンのような音を放ちながら突き出された漆黒の剣は、その刀身を伸ばし敵を打ち倒したという。

 

 『エルドリエやファナティオ様のような記憶解放術で射程を伸ばすものはあるでしょう。キリトのアレは…ALOで私も扱いましたが伸ばすのは…無理…でしょう…いやでも…うん』

 

 そう言いながらうんうんと腕を組ながら唸り始めた彼女の言葉が脳裏をよぎる。

 

 

 そして実際にニーベルハイムの荒野で彼女は見たのだ。

 

 自身が配置したエネミーの目を貫いたキリトのソードスキルを。

 

 ーー原理は《ブラック・ロータス》が実現している。

 心意の第二段階。攻撃威力・射程距離拡張の複合技の《奪命撃》。

 《ブレイン・バースト》由来の心意とは厳密には違うのだが、何事も想像力が大事なのだ。

 閃光のイメージに、黒の剣士のイメージも重ねる。

 

 細剣を淡い光が包み込む。

 このコンマ数秒の世界でイマジネーションを練るなんて普通は不可能だ。

 だけどヴァベルはできると断言する。

 

 何度も、ずっと、見てたから

 

 

 「ーーーーやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ソードスキルは止めない。

 突き出された細剣の刀身はジェットエンジンのような音を響かせながら鎧への距離を詰め、まるで閃光のようにその体を貫いた。

 

 

 




大変お待たせしました!

マザーズロザリオでもいいかなと思ったんですが、リニアー伸ばしちゃおうとなりました
一応62話でアスナ自身が自分をイメージするくらいにはリニアーの癖などが似てるみたいな感じです

ストレアの姿はコードレジスタでホロウストレアと調べると出てくる鎧を着てる感じになります
大剣ではなく拳で殴ります

ジ・イクリプスとSBSの動きは違うのは重々承知なのですが、キリトの攻撃速度に攻撃予測が追い付いてないイメージです
活躍…させたかったので…


年内に更新できてよかったです
また次回もよろしくお願いいたします
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