「さて、と」
「俺達も帰るか~」
ユージオ達を見送った俺はグラファイトに視線を向けると、彼も頷きながらそう返す。
「キリトくん…」
「……君のキリトは、俺じゃないよ」
「でも…」
こちらを見つめるアスナを含め、元々こちらの世界にいた面々の表情は暗いままだ。
一番最初に説明していた、ユージオと同じ平行世界から来ていたという話はまさかの
だがそこはヴァベルが説明していたようだ。
俺の正体は、偶発的な事故によって平行世界の自分の記憶を手に入れた、2047年に生きている桐ヶ谷和人。
そこで《ブレイン・バースト》をプレイし、今回の事件に巻き込まれたこと。
STLとニューロリンカーによる魂の上書きについては説明してもややこしくなるため、そこは事故として一括りにしてくれたらしい。
「まあ、あっちではネガビュの皆と一緒にいるし何とかやってるよ。スグもいるし」
「え、わ、私も!?」
「おう、パイルと剣道の話で盛り上がってるよ」
「タッくん…?」
「へ、平行世界の話だから…!!」
俺の言葉に騒ぎだす数名。
世界の違いについて話続けたいところではあるが、俺達も戻らなければいけないのでここら辺で切り上げる。
「そう言えば、キリトさん達は七王会議の途中でここに来たんですよね?それならーー」
「ハルユキくん」
「で、でも先輩!」
「君の考えも良くわかる。だがな、無闇に歴史を変えるのは良くないと思うんだ。特にキリトは実力者だ。彼なら様々な状況を打破できるだろう。そうしたらーー」
「例のケーキ入刀できないものね」
「アツアツなの」
「クーさんとサッちんの危機なのです」
「あー、恋路の邪魔になっちゃまずいよな」
真面目な言葉でハルユキを諭そうとする黒雪姫に襲いかかるエレメンツ(内一人は平行世界の同一人物とする)の言葉は彼女の心を大いに傷つけた。
「ぐっ…私は皆の成長がだな…!」
「実際、変えては行けない“流れ"というのはあります。私が自身を消そうとして歴史を変えようとしたように、後の歴史に響くこともありますから…」
まあ、私が言えた話ではないんですが…と苦笑いをしながら、黒雪姫の言葉を引き継ぐように、ヴァベルが話す。
「…わかった」
なんなら俺もこの世界のキリト達に今後のことを話そうとはしていたのだが、まあどうにかなるだろう。
…ユージオは……セーフだろう。あいつなら上手くやってくれる。
だがこれだけはどうしても聞いておこう。
「その…ケーキを買うタイミングとかあるか?」
「うーん…戻ってから一週間くらいかしら?」
「キリト、キミってやつは…!!!楓子も真面目に返すな!!!」
◆
グラファイト・エッジと『キリト』を見送った後、キリトはふぅ、と一息をつく。
事件に巻き込まれているのは慣れているが、今回もまた大きな事件であった。
別のVR世界だけでも大変なのに、平行世界だとか未来だとか。
ついこの間はSA:Oのβテストでも大変な目に遭ったばかりである。
「そういえばシノンがやりたいって話してたゲームって…」
「何で今その話を…。あぁ………治安は悪いとこは悪いみたいけど事件なんて起きないわよ。……多分」
近いうちに皆で遊ぼうとしているVRMMOでも一波乱起きそうである。
「黒雪達ももう戻るのか?」
「そのつもりだが、ヴァベルの見立てだとあのゲートが消えるのは少し時間があるらしい。もう少し観光していくつもりだよ」
それに、と黒雪姫が一歩後ろに下がると、入れ替わるようにシルバー・クロウがキリトの前に出てくる。
「キリトさん!僕、キリトさんにお願いしたいことがあって!」
「…奇遇だな。実は俺もハルユキに頼みたいことがあったんだ」
「多分、僕たちが考えていることって…」
「ああ!同じだと思うぜ」
ゲーマーが揃ったらやることは一つ。
「「デュエルだ!/デュエルしましょう!」」
2人の言葉にワッと盛り上がる仲間達。
そんな彼らを見ているヴァベルにアスナとユイが近づく。
「こっちのユイちゃんも未来に戻るのは直ぐじゃなくてもいいんだよね?」
「それなら一緒に見ましょう!」
「…はいっ!」
◆
こうして様々な世界を巻き込んだ戦いは、彼らの活躍によって解決した。
ペルソナ・ヴァベルは未来に戻ると、再び仮想世界の為に尽力する。どんな困難があっても、彼女の周りには頼れる仲間達がいる。
恐らく今回のようなことは起きないと見ていいだろう。
ちなみにキリト達は今回の出来事を
「いやそれはプレミア達にも色々…あるだろ…?」とキリトは話すが「愛人を放っておいてそれはない」と言われ、変な空気になったらしい。
そんなことをセブンーー七色・アルシャービンから送られてきたメッセージを読んだ青年ーー
文の末尾に自分が知りたかった情報もキチンと書いてあるあたり、目も当てられない。
「鋭二くん、こんなところに呼び出して…話とはなんだい?」
都内にあるとある個室カフェ。
話したいことがあると、かつての共犯者でもあり恩師でもある重村徹大を呼び出したエイジは、コッブの水を飲んだ後、口を開く。
「今日呼び出したのは…あることをお伝えするためです」
そう言ったエイジの隣に立っているのは今は亡き娘と瓜二つの姿をした少女。
「YUNA…?」
「…お父、さん」
まさかまた何か事件でも起きたのだろうかと問いかけようとした言葉は、彼女から発せられた思わぬ一言によって発せられることはなかった。
やや不安そうに、どこか気恥ずかしそうに自分のことを呼んだ少女はどこかそわそわしている。
慌ててオーグマーを外すと目の前の娘は消え、掛け直すと再び目の前に現れる。
そう、データの存在として彼女は存在している。
しかし彼女は自分を父と呼んだ。
エイジは冗談でもそのようなことはする相手ではない。
驚きと戸惑いと、それらを含めた視線を彼女の隣にいた青年に向けると、彼もぎこちない微笑みを浮かべながら口を開く。
「…話せば長くなるんですが、とあるVR世界での出来事がきっかけで、データとして四散していた悠那の記憶。それがYUNAとアインを通じて一つに集まったんです」
そうして青年ーーエイジがあるオブジェクトを取り出す。
キャンディケースのような容器。
かつて白ユナと呼ばれた存在のメモリーがキャンディ型のデータとして保存されていたその容器は空になっていた。
ARアイドルYUNAの自己崩壊を防ぐ為に有効なモノとして使用していたことは確認しているが、そんな無くなる量ではなかったはずだ。
「…白ユナのメモリーは悠那の記憶です。集まった記憶とここに保存されていたメモリー、ディープラーニングを駆使して、悠那はAIとして復活しました。七色博士からも99%限りなく本人に近い存在だろうと報告をいただきました」
「…そうか」
「ただし」
間髪入れずに言葉を続けたエイジは、悠那の肩に手を乗せる。一度視線を逸らし、しかし決意した表情で口を開いた。
「元になったYUNAの意識は健在です。彼女は重村教授、あなたの娘の記憶を持ったARアイドル、YUNAなんです。…あなたの娘ではない」
勿論、僕の幼馴染みでもない。と小さく呟かれたその言葉は、徹大の耳にも届く。
「…お父さん」
しかしそんな中、鈴のような声が名前を呼ぶ。
「…その、私は、重村悠那じゃ…ないんだと思います。確かに記憶はあるけれど、それよりもARアイドルとして過ごしてきた自分っていうのが強いから…」
でも、とYUNAは不安げに瞳を揺らしながらも言葉を続ける。
「でも、お父さんはお父さんだし、エーくんはエーくんだって私は思ってるの。…だから、もし二人が良ければ…悠那として…」
その笑顔はどこか痛々しげで、その表情を見た徹大の脳裏に、かつて悠那と過ごした日々が甦る。
音楽が好きな悠那。いつも明るい悠那。
自分に夢を語る悠那。
…そうだ、彼女の夢はーーー。
「…いいや、いいんだYUNA。…君は、歌うのが好きなんだろう?その気持ちに蓋をしなくていいんだ。ただ…たまにその元気な顔を見せに来ておくれ」
「…!…うん、うん!!」
自然と涙が溢れてくる。
そうだ、悠那はもう死んでしまった。
彼女の十字架をYUNAにまで背負わせる必要はない。
「…鋭二くん、君ももう…」
自由になっていいんだと言う言葉は、その前に彼が首を横に振ることで発せられることはなかった。
「これは僕の償いでもあるんです。悠那を守れなかった僕はYUNAのことも守らなければならない。…だけど、彼女の夢の邪魔をするわけにもいかない」
「…エーくん……」
名前を呼ばれたエイジはんんっと咳払いをした後、明後日の方向を向きながらどこかわざとらしく声をあげる。
「…そうだな。…どこかのアイドルがマネージャーを募集しているのなら、それをしてもいいかもしれないな」
「……それって!!」
「…これからが大変だぞYUNA。アイドルは生半可な覚悟じゃできないんだから」
「エイジ!!ありがとう!!」
「…鋭二くん……」
徹大の言葉に、エイジは恥ずかしそうに頬をかく。
「じゃあ新曲考えなきゃ!どんなメロディが良いかな?~♪~♪」
楽しそうに歌い始めるYUNAを見ながら、徹大とエイジはこれからの未来に想いを馳せる。
空は、そんな行く末を示すかのように晴れやかだった。
お待たせして申し訳ありません
元々エイジとユナはこの話に参加させることはなかったのですが、エイジにも救いをあげたかったので参戦してもらった背景がありました
フラクチュアード デイドリームでも活躍されてるみたいですね…
ムービーだけ見ましたがエイジも色んな格好で活躍してるようで…
◼️◼️の◼️◼️編も次で終了かなと思います
災禍の鎧の戦いに戻っていく…はず…
またよろしくお願いいたします