オルステッドコーポレーション一次面接が無かったら   作:まりん!!! in ICE

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4. 龍の髭

『龍の髭』ーーーーここは、アスラ王国北端の関所と、『赤龍の上顎』という渓谷を繋ぐ鬱蒼とした森だ。アスラ王国側は関所を備えた城壁でこの森をすっぽりと覆っており、魔物が国内へ侵入するのを阻んでいる。関所を一歩くぐれば、命の保障はされない。

 そんな魔窟に好き好んで足を踏み入れるクレイジーな輩が居る。一人は『狂犬』と魔大陸に名を轟かせる剣士、エリス・グレイラット。一人は『黒狼』と名高い剣王、ギレーヌ・デドルディア。そして最後は、その二人の手網を握る魔術師こと俺、ルーデウス・グレイラット。二つ名は募集中である。

 久し振りの冒険らしい冒険にやる気満々なエリスを筆頭に、俺たちは一本道を突き進んでいた。

 鬱蒼とした森と言っても、ここ『龍の髭』は道が舗装されている。アスラ王国と北方大地を繋ぐ交通路として、ある程度の人通りがあるのだ。今回俺たちがこの森に足を踏み入れたのは、そんな交通路に出現した危険な魔物を駆逐するという依頼を受けたからである。

 

 「『エビルドッグ』の初依頼よ! 腕が鳴るわね!」

「エリス、あまり一人で先に行くな。」

「わかってるわ!」

 

 エリスは既に何体かの魔物を屠ってご機嫌である。それも、舗装路から離れた森の中の魔物の気配をわざわざ追って仕留めている。そのうち索敵スキルでも身に付けそうである。

 ギレーヌはと言えば、そんなエリスに万が一が無いようにピッタリと背後に着いている。未だにエリスの護衛というつもりなのかもしれない。尤も、今のところエリスに危なげな所は無い。流石は魔大陸を踏破した剣士である。

 更にその背後に着いている俺は、ギレーヌが更に取りこぼした危険を後ろから警戒するつもりで後衛に立っているが、今のところ活躍の機会はない。森の浅い所を進んでいる現時点でそんな危険があっては困るのでこのまま出番が無くても良いと思っている。俺は二人と違って戦闘狂って訳じゃないしな。

 

 そんな感じで、依頼の魔物が出現する前に何となく前衛、中衛、後衛と隊列が決まった。エリスはご機嫌なハイテンションで舗装路を闊歩しているが、少しでも魔物の気配を察知すれば森の中へ飛び込んでいく程度には周囲に警戒しているし、ギレーヌは言わずもがなだ。俺はそこまで周囲の気配に敏感な方じゃないが、予見眼を開いてエリスを注視していれば万が一を防げる。デッドエンドの頃とは少し勝手が違うが、あの頃やっていた事と大きく役割は変わらない。いつも通りのイージーオペレーションだ。

 そんな感じで進行すること一日。途中、旅人の休憩用の野営地で休息を取ったのち、エリスを筆頭に更に進撃する『エビルドッグ』。少し魔物の出現頻度の増加を感じ始めた頃、先頭のエリスより先に、ギレーヌがピクリと反応した。

 

「待て、エリス」

 

 鋭い声が飛べば、エリスは従順に足を止める。ワガママで猪突猛進な彼女だが、冒険者として愚かではない。

 俺も予見眼を全開にしてギレーヌを見る。彼女もまた、眼帯を外し魔力眼で周囲に注意を飛ばしていた。

 

「前方に複数の気配を感じた。魔力量がそれなりに多い魔物が一体。それから……二十体以上の別の魔物を従えて西に移動しているようだ。あれが依頼の魔物で間違いないだろう」

「西ね。わかったわ!」

 

 ご機嫌な頃の勢いはそのままに、エリスは注意深く剣の柄頭を固く握っている。今の「わかったわ」は、本当にわかっている時の「わかったわ」だ。速度を少し落とし、相手に悟られぬよう、慎重に歩を進める。

 前衛としてのエリスの動きは堂に入っている。冒険者として熟練したものだ。ギレーヌもそれ以上は注意の言葉を放つことなく、音も無くエリスの後ろを着いて行く。

 既に敵さんの気配を捉えているらしい二人を視界に収めつつ着いていく俺は、まだ何の気配も見付けられていない。獣族で剣王でもあるギレーヌはともかくとして、エリスの神経はいつの間にここまで研ぎ澄まされるようになったのだろうか。人族の生活圏に入ってから戦闘らしい戦闘が無かったからエリスの成長について俺はピンと来ていなかったのだが、やはり目を見張るものがある。気配を察知するやり方はルイジェルドに習ったのだろうか。彼がエリスを戦士であると認めるのも納得がいく。

 

「あれね」

 

 殆ど声に出さないような囁きとともにエリスが腰を落とすと、漸く俺にも木立の向こうに蠢く影や、魔物の息遣いが聞こえた。

 魔大陸であれば通常サイズと言えるであろう巨大な猪と、その周囲を固める様に隊列を組んでいる狼の群れ。ターミネートボアとアサルトドッグで間違いないだろう。

 ターミネートボアは通常、単体ではDクラス程度の魔物だ。多くのアサルトドッグを引き連れることでCクラスにもBクラスにもなり得るポテンシャルを持っていると言われるが、魔大陸レベルの巨体を誇るあの個体なら、単体でCクラスにランク付けられるのでは無いだろうか。

 その強力なポテンシャル故か、引き連れているアサルトドッグの数も依頼書の通り相当多いようだ。アサルトドッグは、ドッグとは名ばかりで最早凶暴な狼だ。ウチの犬連中とどちらが凶暴かは分からないが、時折人里に下りては家畜や人間に甚大な被害をもたらす事もあるということで、アスラ王国で最も恐れられる魔物の一種だ。

 

「どうする、ルーデウス?」

「一気に奇襲を掛けましょう。僕が一発デカいのをターミネートボアに撃ち込みます。殺しきれなければエリスが追撃を。僕の一撃で殺しきれたなら、周囲のアサルトドッグは混乱に陥るでしょうから、それに乗じて蹴散らしてください」

「あたしはどうすればいい」

「エリスの背中を守ってください」

「当然だ」

「僕は、取り零したやつを仕留めます。一匹残らず逃がさないつもりで、行きましょう」

「わかったわ!」

 

 最後の返事を言い終える前にエリスは飛び出していた。俺は即座にバスケットボール大の岩砲弾を形成、彼女を追い抜かす勢いで射出する。「ドガーーーーン!!!」と爆撃の様な威力でターミネートボアに着弾するのを見て、エリスは即座に目標をアサルトドッグの群れに切り替えた。

 群れのど真ん中へ駆け入って、鋭く身体を捻ると、ほぼ同時に三体のアサルトドッグの首が飛んでいる。混乱しつつも、群れはまだ戦意を失っていない。多数の獣の影が一斉にエリスへと飛び掛るが、舞でも踊るようにエリスが剣を凪ぐと、次の瞬間、周囲にはぽっかり穴が空いたように獣の姿が消え失せ、遅れてドサドサと死骸が地面へ落ちる音が聞こえてくる。

 ギレーヌはエリスから少し離れた位置で、エリスの死角から飛び出してくるアサルトドッグを次々と屠ってゆく。エリスはギレーヌに一瞥もくれず、自分の間合いの狼どもを蹴散らし続けた。背後の存在への圧倒的な信頼が、彼女のやるべき事を単純化するのだ。三年間のブランクなどそこにはなく、ほぼ初戦だと感じさせる危なげな様子も微塵も無い。ルイジェルドとの旅路で培ってきた戦法の繰り返しだ。

 ものの三十秒足らずで、彼女たちは群れの半数以上を地にひれ伏せさせた。そうなると、流石の魔物どもも、相手のヤバさに気付いたらしく逃げ出す個体が出て来た。漸く俺の出番である。一先ずエリスとギレーヌが飛び回っている範囲外をドーナツ状に泥沼化する。数体のアサルトドッグが沼に足を取られるその隙をついて、胴体に風穴を開けていけば俺の仕事は完了だ。気付けばドーナツの範囲内に立っているのはエリスとギレーヌただ二人だけだった。

 

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