TS厄ネタ血統チート転生者、古代文明の遺産の人型超兵器で無双する 作:六畳仙人(ハーメルン)
「どどどうしよう……」
たった一機の鎧兵器の出現によって形勢が完全に逆転した。
鎧兵器"フェンリル"。
アウルゲルミル公爵が所持していた無限に適応進化する強力な鎧兵器。
絶対防御と言っても過言ではない次元断層障壁をも破れるこの鎧兵器の登場は完全に予想外のものだった。
リンダの座する"フリングホルニ"の艦橋では、威勢がよかった状況から一転し、焦り始めたフリッカの情けない声が響いている。
「……いや、もう後戻りできないんだ。こうなったら私が"スルト"に乗って迎撃するしかない」
リンダが聞いたフリッカの声は確かに震えていた。
さっきまでのフリッカの声は自信に満ち、余裕さえ感じさせるものだった。しかし今、その声はまるで別人のように、脆く、頼りなく変わってしまっていた。
それでも、フリッカは腹を括ってスルトに乗る決意をしたようだ。
唯一の対抗手段、"スルト"本体による"フェンリル"の迎撃を選択しようとしていた。
"フェンリル"さえ倒してしまえば、確実に帝国の皇太子シグムンドを殺す、あるいは捕虜とすることができるからだ。
それを達成できれば、ミズガル王国にとっては間違いなく大勝利と言っていい。
「お待ちなさいフリッカ」
けれど、リンダは腹を括ったフリッカの"スルト"本体による出撃を制止した。
「ケルムト前線基地の施設と人員の回収という当初の目的は達成しました。ここは一度退きましょう」
リンダが選択したのは、迎撃ではなく戦略的撤退だった。
リンダは思い返す。
フリッカに出会った日。
フリッカ・アグナル・アースガルズという存在の秘密を知った時のことを。
リンダもその一員であるミズガル王家には代々受け継がれている言い伝えがある。
その昔、ミズガル王家の祖ともいえる存在は、古代アースガルズ人だったということ。
それも、普通の古代アースガルズ人ではなく古代アースガルズ文明の
古代アースガルズ人という神話の存在。
その中でも特に高貴な血を引く存在の末裔であるがゆえにミズガル王国の王家は、古代アースガルズ人の血が薄まってなお高位の起動権を維持し続けることができていたのだ。
それでも、リンダの中に流れている血はあくまで古代アースガルズ王家の端くれの血。
神の如き力を持っていたとされる古代アースガルズ王族の本家——
アグナル家の血筋こそ真なる王家の証。
銀河をも征した古代アースガルズ文明。
その
リンダはフリッカから本来の名前を告げられ、その青い双眸に見つめられた瞬間全てを理解した。
フリッカこそ、古代アースガルズ文明の正統なる王家——アグナル家の末裔であると。
瞬間、リンダの中を流れる血も、その考えを全力で肯定するように囁いた。
——平伏しろ、祝福しろ、そして、求めろ。最も星で価値ある血が、今、目の前にいる!と。
リンダの呼びかけにはまるで応じなかった"フリングホルニ"もフリッカが呼びかけるとフリッカのことを祝福するように起動した。
そして、フリッカは虚空に向かってよく話しかけていた。
"スルト"という名を口にして。
つまりそれは、フリッカは"フリングホルニ"を起動できるリンダを上回る起動権と"スルト"という最強の鎧兵器を既に所持していることを意味している。
本当に、世界最強のムスペル帝国を討ち滅ぼすことができる力をフリッカは持っているということだ。
けれど、その後フリッカと話している内に、リンダはフリッカのことで確信したことがあった。
フリッカは、力こそ神の如き奇跡を起こせる力を持っているが中身はごく普通の人間だということだ。
『お願いがあります、リンダ姫殿下。どうか私の起動権のことは秘密にして頂けないでしょうか』
フリッカが望めば、どんなものでも簡単に手に入るだろう。
巨万の富も、支配者としての地位も、想像も絶する天上世界の全てを統べる権利だって望めば("スルト"によって)叶えられるだろう。
それでも、フリッカが求めたのはとりあえずの自分の身の安全だった。
自分の起動権のせいで戦争の火種になってしまったリンダとしては確かに理解できる望みだ。
けれど、古代文明の遺産の力が国力と戦力に直結するこの世界では高位の起動権を持つ者にとって最も難しい望みでもある。
リンダは国を背負う王族として育てられた。
だから、いざという時には自分の全てを諦めて国のために身を尽くす覚悟はある。
自分の身を顧みず、国を守るためなら矢面に立って犠牲を出す非情な覚悟も、敵を悉く滅ぼす決断だってできる。
リンダには、いわゆる王の資質というものが備わっていた。
今回もフリッカの起動権を誤魔化す為に矢面に立つことをすぐに了承する程に覚悟は決まっていた。
けれど、フリッカにはまだその覚悟が備わっていない。
時代が違えば、フリッカは星を、銀河を背負う程の立場に立つ存在として育てられていたかもしれない。
だが、フリッカはミズガル王国の田舎の村で、普通の村娘として育てられた。
ゆえに、フリッカはまだ非情な決断を下す覚悟が備わっていない。
今回リンダに正体を明かし、力を貸したのだって一時の情と勢いに身を任せてようやく出来た衝動的な決断だった。
あくまでかなり危うい精神状態での突発的なものだったのだ。
そして、フリッカの覚悟が完全に決まっていないことをリンダはおよそ察していた。
「リンダ姫殿下……」
撤退の命令を下したリンダに対して、フリッカが複雑そうな顔を向ける。
「フリッカ。今の貴女に"スルト"に乗る覚悟が本当にありますか?」
そんなフリッカに対して、リンダは諭すように言葉を続けた。
リンダにとってフリッカは恩人だ。
神格化したい程の敬意を持つレベルといっていい。
そして、その力もめちゃくちゃアテにしている。
でも、だからこそリンダはフリッカのことを最大限尊重すべきだと考えた。
「"スルト"の力は諸刃の剣です。その力を示した時点でもう後戻りはできません。それにおそらくここで皇太子シグムンドとアウルゲルミル公爵を討ち取っても戦争は終わらないでしょう」
敵国ムスペル帝国のことはリンダもよく理解している。
特に、強欲なことで有名なムスペル帝国の皇帝は、例え皇太子であるシグムンドとアウルゲルミル公爵を犠牲にしてでも"スルト"の確保を優先するはずだ。
ムスペル帝国皇家もまた古代アースガルズ
"スルト"とそれを起動できる存在の価値をよく理解している。
手に入れるためならどんな犠牲だって払うだろう。
「それに、"スルト"に乗るということは、"スルト"の力を奪われないために帝国を——力を狙って介入してくる可能性のある敵を全て討ち滅ぼす覚悟が必要になります」
"スルト"の力を使うなら覚悟が必要だ。
当然、敵に奪われる訳にもいかないし、下手に精神的に不安定な状態で乗せて暴走でもされたらどんな厄災を引き起こすかわからない。
アースガルズ文明史上最強の鎧兵器"スルト"。
その力が暴走すれば、最悪、星全体から見ると点のように小さなミズガル王国など簡単に滅びてしまうかもしれない。
加えて、フリッカの身に何かあった場合にもミズガル王国はムスペル帝国に対する対抗手段を完全に失ってしまう。
ゆえにリンダはフリッカに告げた。
フリッカが、自分の意思で、スルトの力を奪われないように戦い続けられる状態でなければ"スルト"に乗るべきではないと。
それは、ミズガル王国の未来とフリッカの身を案じてのリンダなりの思いやりの言葉だった。
「……」
そのリンダの覚悟があるかという問いに対して、フリッカはすぐに答えることができなかった。
ちなみにリンダ姫の本名は、リンダ・ローズル・ミズガル。
皇太子シグムンドの本名がシグムンド・ゲイルロッド・ムスペルヘイムです。
名前+昔からの一族の名前+国から与えられた家名って感じですね。
二人ともちゃんと優秀な王の資質と血の厄ネタを併せ持っています。