TS転生鬼畜難易度RPGセーブロード縛り原作主人公育成系予言者エルフ 作:説くMay
どこまでも緑の絨毯が広がる開けた静かな草原にて。
二人の少女が重圧さえも伴うほどの魔力を放出し、向き合っていた。
常人であれば威圧感だけで気絶しかねない濃度と密度を兼ね備えた剣呑な沈黙が漂っている。
「君に勝つことができれば魔法学院への入学を認めてくれる、そうだよね?」
先に口を開いたのは、挑戦者たる紺碧の髪と緋色の瞳を持つ長身の女。
名はクレイ。姓はない。
彼女自身は与り知らぬ話であるが、近い将来、聖剣によって勇者と認められ聖女よりプレイアーツの姓を賜るこの世界の中心人物。とある
「……概ねその通りですが、勝てばではありませんよ。クレイ。あなたの実力をわたしが認めれば、です。あなたが魔導学院の門を叩くのはわたしに勝つためなのでしょう? ここで勝利してしまっては意味がないのでは?」
応えたのは、尖った長い耳と銀髪に結ばれた青いリボンはためく金瞳の少女。
名と姓をノインノルン=セイヴァンドロード。
長命なエルフの予言者一族たるセイヴァンドロード家の唯一の生き残りである。また同時にクレイを拾い、剣術、弓術、槍術、斧術、格闘技、魔法、一般教養などを叩きこんだ師でもあった。
「それならそれで問題ない。目先の目標が君に勝つことから世界の頂点に立つに変わるだけ」
クレイはいつものように表情を動かすことなく挑発する。
それにノインは小首をわずかに傾げて、静かに問いを返す。
「なるほど。今のあなたはわたしを打破し得ると?」
一言で、首筋が粟立ち背骨から底冷えする。
どこまでも冷淡で冷酷で、滔々と真理諳んじる声色。
ゾワリとその何でもない一声で全身が恐怖に打ち震えた。
理性は身体を、技量を、魔力を、持ち得る全ての力を研ぎ澄ましている。
今日までの研鑽は彼女に打ち勝つためであるので、自然そうなるように仕上がっている。
クレイの魂は眼前の敵を討ち下すマシーンと大差ない。
けれどもっと根源的な、命とは不可分の本能が叫んでいる。
今すぐ逃げろ、さもなくば殺されると。
お前程度の矮小な存在は、ソレを前に一欠けらもの勝機はないと委縮する。
「思ってる。思わないなら手合わせには意味はない」
萎んだ本能を鞭打って、過分に震える声帯を努めて絞り語気を強める。
腰に佩いた鉄剣を引き抜き、切先を色白の鼻柱に突き付けた。
「道理ですね。では、始めましょう」
だが、そんなこと歯牙にもかけずに彼女は小さく笑みを深めた。
一切の動揺はそこにはない。驕りや油断ではなく、正しく脅威と認識されていない。
悔しい。途方もない彼我の差に苦いものが戦う前から込み上げてくる。
それでもノインに拾われた夕暮れのあの日。
傷ついた己の身体を抱きしめられたそのときに誓ったのだ。
自分は絶対にあの背中に追いつき、遥か遠くの彼女の隣に並び立つと。
そのいつかを思うだけで、この魂は万物が及ばぬ熱量の興奮に支配される。
この戦いも胸中に根を張る歯がゆさすらも将来必ず来たる日への糧なのだ。
「ああ、今日まで君から学んだ全てを君にぶつける」
「ええ。死力を尽くしなさい。適当に処理しますので」
そんなクレイの心情を知ってか知らずか、ノインは低く呟き石ころを宙に放った。
二人がこれまで幾度なく繰り返してきたお決まりの決闘開始の合図。
両者の間にほんのわずか、凪いだ空白を作り出し、地に落ちる。
「
「
瞬間。落下から間髪入れず、ほぼ同時に二人は略式詠唱を用いて魔法をなす。
クレイは構えた剣に青い炎を付帯させ、ノインは札を手繰り宙に浮かぶ杖に装填した。
次の刹那。クレイがその場からノインに向けて突撃し二つの術理が覇を競う。
炎と札が舞い、刃と杖が激突し、瞬く間に土埃を巻き上げ大地を抉る。
そのなかでクレイの成長を感じ取ったノインは表には出さず、内心一人思う。
(ここまで、直々に鍛え上げ来ただけあって、あるいはこれならなるかもしれない。
詰み寸前に至ってしまったこの世界をあるべき形に戻す救世の勇者。
ルナティックセーブロード縛りをこなす最強のツヨツヨ勇者ちゃんに!!)
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この
もはや王手をかけられていて、このまま行けばチェックメイトを宣告される。
危ういどころでなく、ほぼ終わった状態にある。
絶望的な事実に気が付いたのは、ノインノルン=セイヴァンドロードことわたしが齢百を超えたときのこと。
あの日、家は盗賊に襲われ、焼け、家財は大よそ略奪された。
まあこうなることは
この
三つ子の魂百まで。前世よりも長いとき経ても、なんなら性別が変わったとしても軟弱な気質は変わらないようだった。
原因はほとんど人と関わることなく屋敷に籠り切りだったせいかもしれないが。
ともかく甘さ故かわたしは大きな取り返しのつかない失敗をした。
失われた家財の中に失ってはならないものが、一つあったのだ。
転生先のセイヴァンドロードに代々伝わる家宝『
万人の記憶から森羅万象、世界の終わりや始まりまでをも記す、全知の書。
もしくは
それがね、どこ探してもないねん。恐らくね、焼失したか、盗賊が盗んでったかした。
重要なのは『
将来、この世界の命運を背負う原作主人公はクソムズ鬼アホ死にゲーで、難易度ルナティックセーブロード縛りなんて変態プレイをせざるを得ないのだ。
はっきり、言ってケジメ案件では?
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『
おそらくわたしが転生したのはSF的な要素を一滴混ぜた剣と魔法のファンタジー的な世界観の、シリーズの第一作目。
ここまで文化文明が成熟していないには一作目の舞台であるダイボスだけだし。
魔法少女たちが永遠に殺し会う物騒な第三作や完全なポストアポカリプスである第八作なんかに転生しなくて本当によかった。
で、内容はというと魔導学院に通う庶民の
なのだが……このゲームとにかく死ぬのだ。
誰がって主人公と愉快な同級生たちが、である。
特別な理由があるわけではなく、単純にゲームとしての難易度が高い。
わたしもプレイヤーであったときに何回コントローラーを投げたか覚えていないくらいに。
一応作中内で最高の学院だけあって貴族の嫡子とか非凡な平民とかが集められてはいるが結局は学生。その辺の野盗の方が強いのは道理である。
え? 筋力が劣っていても魔法があればなんとか、なるだろって?
無理無理。無詠唱も詠唱破棄どころか略式詠唱さらも基本不可の
その間に囲われて、数の利でぶん殴られたら一発で死ぬよ。人間は。
特に魔法を専攻にしてるようなヒヨッコ、モヤシッコなんかはすぐ死ぬ。
戦いは数だよ、っていうのは至言だよね。
数の利を持ってるのはこちらじゃなくて、徒党を組んだ野盗の方だけど。
もちろん優秀な人間が集められているという設定だけあって、しっかり育ててやれば普通に盗賊ぐらいは片手で倒せるようになるよ。
とはいえ、人間をボコボコ出来るようになったころには、初見殺しのスキル持ちが一気に増えるから無双感はあまり楽しめないんですけれどね、初見さん。
それにその時には最低でも魔物、最高で悪魔や神なんていう、高次的かつ概念的な存在と戦う羽目になるのだ。普通にやられるよね、ヒト如きは。勇者とか亜人とかそうでないとか、関係なく。皆すぐ死ぬ。
というわけで主人公となって、バターを裂くように命を散らしていく同級生たちを、上手く生かし活かしつつ勇者の責務を果たすのがこのシリーズの醍醐味である。
まあ、難易度ノーマルならゴリ押しでなんとかなる。それに、ルナティックだって敵だけ楽しそうな猛攻からトライ&エラーで攻略法を見出していけばいい。
アドベンチャーパートでは
それもこれも、『
そんな有能アイテムを原作主人公に届けることなく、失くした無能がいるらしい。
誰かな? わたしだよ。
…………マジで、どないしよ。
いや、あれなんですよ。これには山より高く、海より深い事情があるんですよ。
我が家は滅んでいるのだ、原作では。最初の盗賊の襲撃で。
なので、セイヴァンドロード家の情報は断片的にしかない。
加えて原作でのノインノルン=セイヴァンドロードも本編ストーリーでの登場はシリーズを通しても数えるほど。内数回がDLC追加ボスや理由なく戦える裏ボスな辺りお察しである。
いや、正確にはゲーム本編の外側でやたら出ててくるけどそれはどうでもいい。この世界はゲームでない。DLC含めあれはゲームであったからこそ成立し得た演出や出番なので意識の外に追い出してもいいはずだ。
ともかく朽ちた屋敷になった我が家に、度胸試しで来ていた主人公一派がたまたま家宝である『
数年後、
しかしすべてが終わった後、一応探知魔法をかけてみればものの見事に『
何だかんだいって、家宝ですし? そこらの盗賊ごときでは突破できないような魔法暗号を多重にかけてて、そもそも一級の魔法使いでもなければ認識すらできないはずから慢心していた。
どうしたって、無理だって。難易度ルナティックセーブロード縛りなんて変態プレイ。
最初の盗賊戦で全滅でも全然おかしくない。最初の盗賊、数とレベルが普通におかしいし。
どんな地獄だよ。
これは回避しなくてはならない。前世から事なかれ主義だったけれど、どうにかしなくては。
ぶっちゃけるなら、原作主人公にしか撃破する手段のない
そうして、わたしは一生懸命、頭を悩ませました。
頭痛を痛めつつも論理を理詰めした。原作の情報を覚えている限りで精査した。
どうすれば原作通りの結末を迎えられるのか。
どうすれば最初の盗賊戦を楽に突破できるか。
結果、至った結論は単純明快。
つまり原作開始前にめちゃくちゃ鍛えておけば、何の問題もないということである。
例えるならばみんなのトラウマと呼ばれるような強敵も案外レベルを過剰に上げておけばどうにでもなる。
あるいは、予めレベルが限界に至っている配布キャラで無双すればいい、そういう話だ。
というわけで、件の魔女集会のごとくわたしは路上で浮浪生活している
ああ分かったよ! 連れてってやるよ! どうせ
がんばれ
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ここまでです。クレイ、帰りますよ」
剣を折られ、魔力も枯れ果て尚も残った身一つで突貫するクレイ。
クレイをノインは魔力で編んだ鎖を以ってやすやすと拘束した。
クレイが全身全霊の攻撃を仕掛け、ノインがそれを難無くいなす。青から茜に空が染まりまで続いた決闘という名の壁打ちめいた繰り返しは鶴の一声で幕引きとなった。
「……っ! まだ私は──」
「──まだ? なんです? これ以上見るべきものはありません」
ついぞ土を着けるどころかただの一度も届かなかったクレイがそれでもと食い下がる。
が、想いだけの言葉を聞き届けるようなノインではない。間髪入れずにその気力さえも棄却した。
わかっている。
クレイはとうに限界で、火事場の馬鹿力すら使った上での現状なのだ。
そして、自分の全てを作り上げたノインがそれを把握していないはずがない。
彼女の停止命令に理があることは明らかだ。わかっている。わかってはいるのだ。
でも、それは所詮、理性の論理に過ぎない。
本能を諦めさせるにはまだ不足しているだろう。
「
不思議と詠唱の声が衝いて出た。
魔法は本質は認知にある。
認知の仮想が実体としての現実に波及し歪曲させる。それが魔法という学問だ。
であるならば、できると信じ抜ければ魔法は自ずと応じるものである。
クレイという存在の芯ところで揺らめき燃え立つ一条の焔を想起すれば、その熱が容易く縛る鎖を溶解するのに何の疑いがあろうか。
「な」
流石に想定外だったのだろう、ノインから驚嘆が漏れ出す。
なにせ、出した当人だって半分以上なんと詠唱したのかわかっていない。
底を突いた魔力でなぜこれほどの魔法が紡げたのかもまったくの不明なのだ。
驚くに決まってる。
ノインの変化に乏しいすまし顔に一泡吹かせられて心地がいい。
このままその隙に拳に宿った熱で二泡目も頂いていこうか。
「
ただし泡銭めいた全能感はノインの詠じたものに弾き飛ばされた。
利き手を引き、構えたところでクレイは地面に向けて頭から盛大に崩れ落ち転んだ。
疲労の末のものではない。限界以上の酷使をしているとはいえ戦場で転ぶようなやわな鍛え方をした体幹ではない。
気が付けばクレイの地面から伸びる鎖と枷に足が囚われていたのだった。
彼女は札を用いることでたった二節の詠唱で魔法を振るう。魔法士の苦手な近距離戦を速射性で補うための手法で、発動までの間隔は土壇場の拳を凌駕する。
熱に浮かされて短絡的になりすぎたのが敗因か。
「終わりと言ったでしょう。撤回はありません」
「どうしても? さっき君の拘束を抜け出したの、できれば再現したい」
クレイは再び先程の魔法で脱出を試みるが、うんともすんとも、鳴かず飛ばず。
単なる魔力切れか、特別な条件があったのか。
後者だとしたら認知に基づいて出力される魔法の子細な発動条件を探るのは難儀だ。
心の内にあるだけ錠に対応する鍵を脳内で紡ぎあげるに等しい。
実物を解体せずに行うリバースエンジニアリングとも言えようか。
酒の席で作った霊薬が素面に戻ると生涯賭しても再現できないなんてのが笑い話ではない。
そのためにもう一度ぐらい感覚を忘れぬうちに、挑みかかって検証してみたいのだが。
ノインは我関せずと杖と枷とを連結させてクレイを担ぎ上げると自宅方面へ歩みを進め出した。
彼女の細い腕にいったいどこにそんな力が。
当然として魔力で筋力を増強しているのだろうけれど、終日通して戦闘をしておいてそれだけの魔力が残っていることに驚嘆する。
「相も変わらずあなたのその諦めの悪さはわたしに比肩するほどですね」
「諦めが悪い? 君が?」
自身も諦めが悪いとするノインの発言。
どうにも当人の立振る舞いと結びつかずクレイは聞き返した。
「ええ。わたしは致命的な失態をしてしまっています。諦めてしまえば楽になれるかもしれませんが、どうにも手放せず足掻いている。あなたにどう見えるかは存じませんが、今のわたしの全てとはそういうものなのです」
「…………私を拾ったのもその足掻きの一つ?」
「察しがいいですね。あなたのこれからの生涯がわたしのために必要でしたので」
「ふうん。なら、悪かったね。君の目標点に到達できずにいて。学院も魅力的だけれどまた君の下で鍛えるのも悪くない。かえってそちらの方が私には合っているかもしれないし」
学院への入学条件はノインが現在のクレイの実力を認めること。
そして此度の決闘の成果は認める認めないの二元論ならば、認めるに足るものではないだろう。最後の最後のワンシーンを除いてクレイの強襲はすべて想定通りと言わんばかりに軽々と対処されたのだから。
「え、まさか、魔導学院へ入学したくない、と? 学院は悪くないところですよ? あそこ以上に資料や設備の整っている環境はほかにないかと。それにわたしを打倒するというのなら、一も二もなく門を叩くべきです。これまであなたとは縁遠いものであった、友人や恋人などもできるかと思いますし。もしや学院での生活に何か不安などが? わたしも悩みがあれば相談に乗りますよ?」
クレイとしては確認するまでもないことを言ったに過ぎないのだが。
何故かこれまで彼女と生活してきて、かつてないほどノインは動揺していた。
「? 私は君に認められていない」
「いいえ、何を言ってるのですか。いつわたしがあなたを認めていないと? 先の決闘はあなたの現状を把握し終えたので打ち切ったに過ぎません。学院への入学でしたら今のあなた程度でも不足はないでしょう。有り体に言えば合格というやつです。以後も弛むことなく練達に励みなさい」
「一太刀も浴びせられなかったけど?」
確かに認めていないとは言っていないが、認めたとも言っていない。
ノインは時折余人には信じられないぐらいに言葉が足りなくなる。
未来を知るものと知らぬものでの視座の差なのか、それとも単に抜けているのか。
なんだか、クレイは最近後者な気がしてならない。
「大きな思い上がりですね。己の身の丈というものを学院で学びなさい。それより、あなた、大きくなりすぎです。この間までわたしより小さかったのに、担ぐのが面倒なほど成長しないでください」
ノインの外見は人間でいうところの十代後半に突入したての少女である。
それは頭髪などまで含めて出会ったときから人の目に映るような変化はない。
「無茶を言う。それなら下ろしてくれても構わない。なるべく早急に」
「そうするとあなたはまた挑み掛かってくるでしょう? まったくどうしてこんな戦闘狂いに」
一方のクレイは発達の段階は成長期まで到達し体長はノインを優に上回った。
妹と間違われていた過去も今は昔。ノインの方こそが妹と判じられる時代なのだ。
もっとも戦闘面での力量は逆転していないので誤解されるたび惨めな気持ちとなるのだ。
「君みたいなのと十年以上も過ごせば、そうもなる。むしろ君は変わらなすぎ。あとどれだけ生きるつもり?」
「わたしはエルフとしては百ばかしの若輩の身ですし、千年万年といった具合でしょう。そのころには今のあなたなんて目ではないほど大きくなっておきますから」
「へえ、言ったね。そのときは──」
「どうかしましたか?」
唐突にクレイは言葉を失って、そのうちにノインが問いかけてくる。
「そうか、私は君が大人になった姿を見ることはないのか」
「今更何を当たり前なことを」
「いや、今まで考えたこともなかったから」
ノインはクレイの世界の主であった。
クレイにとってノインは戦闘のための技量や諸藩の教養を注いでくれた教師であり、追いつき追い越すべき目標でもあり、路上生活から拾ってくれた恩人である。
あの日からのクレイの人生はノインによって構成され、彼女を中心に回っていた。
自分とノインを分けて考えたことなど、ただの一度だってなかったということだ。
「時の刻み方の個人差というものです。諦めなさい。これほど露骨でなくてもどこにでもあるものです」
「…………」
冷たく言い捨てるノインに返す言葉が見当たらない。
非常に数の少ないエルフの内の、さらに少ない浮世俗世で生きるエルフであるノイン。
重ねた百という年を短いと本人は語るが、人間の尺度では大きなもので変わらざるを得ない長さだ。ここまでの間にあまたの邂逅があって、それだけの数だけの離別があったのだろう。
そしてクレイもまた、いつかその一つに埋葬される。
ずっと認識外にあった避けがたい現実。
初めて直視した理想とは違う形をした関係。
戦闘能力とはまったく別個の根本からの隔絶。
突きつけられたそれらに夕立のような唐突さで軽やかに断頭台の刃が落ちてきた気すらして、クレイは目を伏せる。
「まあですが、あなたの魂がこの世にある間ぐらい、わたしはあなたと共にいますよ」
死がふたりを分かつまで。
だというのにノインは何でもなく、人間ならば告白にも思えるようなことを言う。
けれどおそらくは彼女らにとっては当たり前のこと。手慰みに砂時計を見つめるとの大差ない絶対者の感覚なのだから。
「………………それも足掻き?」
思わず聞き返す。
彼女と自分の接点が目的だけに終始するのならば、クレイはいずれ来る別れに堪えられる。
ノインにとってクレイなど道具に過ぎないのだと割り切れたならば。
あの日からの憧れの全てをを捨て去れる。
彼女の全てを手にできないことを受け入れられるはずだ。
「いいえ。足掻く気さえ起きないようなわたしの運命ですよ」
そんな、自分の心を守るためだけの理屈は。
やはり何でもないかの如く粉々に打ち破られた。
「……君は自分の運命が生涯の序盤でいいの?」
まだもっとノインノルン=セイヴァンドロードの命の灯火が燃え続ける。
長ければ万の時が彼女の身体を流れる。
九つの命を持つという猫になったってようやく一割に届くか届かないかの次元の話。
彼女の言うように、クレイとノインでは命の時計が不揃いである。
きっとそれを運命と呼ぶには、あまりに
「セイヴァンドロードは運命を見渡す予言者の血筋。そういうものと了解しています。もしや、わたしがあなたと居て何か不都合が?」
「ない。けど、私もできる限り長生きする」
ゆるんだ心にあの日と同じ誓いをかける。
クレイというものの全存在を賭して、彼女と並びその手を取るのだ。
今自分を担いでいる自分よりも強大な彼女の運命を無為に消してしまわないために。
「ええ、そこらに蠢く野盗から財宝を抱く竜、魂を浚う悪魔、独善を翳す神まで。あなたの前に立ちはだかるすべてを退けて生きていきなさい。いずれ見つかるあなたの運命へと挑むために。その術を授けるために、わたしはあなたを拾ったのですから」
「承知した。でも一つ訂正。私の前に立ちはだかるものの最後は、どこの馬の骨とも知れないカミサマじゃなくて君だ。私の最後の相手は君で、そのときに君の全てを貰い受ける。それだけは忘れずにいて」
これは、宣誓だ。
彼女の運命が自分だというのなら。
自分の運命も彼女除いて他にない。
どんな因果に翻弄されることになろうとも必ず最後にノインに並び立つ。
だからそれを運命と呼ぶには、どうしようもなく覚悟の形をし過ぎていた。
「そうですか。期待はしませんが覚えてはおきましょう」
かくして、後に勇者となる少女の運命はここに決した。
これより始まるのは、魂の船旅。
一度でもどこかで失敗すれば蒙昧の闇に万人は落ちる。
あったはずの
予言者すら五里霧中で定かでない、悲劇も喜劇も確約されぬ前人未踏の物語。
その結末を失われたはずの『
続かないです。この先の展開はあなたの脳内でチェックだ!!