TS転生鬼畜難易度RPGセーブロード縛り原作主人公育成系予言者エルフ 作:説くMay
気が付けば神秘的な雰囲気漂う円状の建物にいた。
目につくのは満天の星空を模した天井画と荘厳な石造りの玉座。
ここを訪れるのはもう両手でも足りないぐらいだが、いつ見てもその威容には圧倒される。
「ようこそ、運命に惑える勇星のみたま。ここはブラックカーテンの内側。時の予言者と勇者にのみ許された胡蝶の夢。虚構と現実の境界線を薄れ、限りなくリアルに近づいたメタ世界。『旅人の霊廟』はあなたを歓迎いたします。すなわちは────」
勇者、クレイ=プレイアーツに鈴を転がすような声がかかる。
声のした方には
ノインノルン=セイヴァンドロードと名乗る彼女は、物理的に身に余る玉座の上から輝く黄金色の瞳でこちらを覗き込んでいた。
「また死んでしまったのですね、勇者さま」
──そうらしい。
応じて声を出したはずなのに、音にはならなかった。
当然だ。
彼女が問い、自分で肯定したようにもはや死亡している。
ここにあるクレイとは魂だけの存在。声帯なぞありはしない。
「らしいではありません。あなたがこの旅人の霊廟にいるということはあなたの死を意味します。何度も言ったでしょうに」
だというのにノインは平然とクレイの無音の声を汲み取って咎める。
旅人の霊廟という死者の魂の行き着く先の管理人である彼女には、魂との意思疎通すら可能らしい。魂に伝える意思がある内容のみしか読みとけぬといつぞや謙遜していたが、それでも十分に異常な技術である。
──どうも実感がない。
「無理もないでしょうね。潜伏していた魔物に気が付かず、抵抗する間もなく首を落とされたのですから」
一瞬であった。
仲間と共に探索をしていた最中、道端に放置された宝箱を見かけた。
心躍る冒険の付き物である宝箱に飛びついた途端、クレイの首は胴体から離れていた。
開け放った宝箱が空箱であったと知り、絶望しながらクレイは絶命した。
──すまない。
「同様の死因で亡くなったときに常在戦場の心構えの必要性は教えましたよね?」
そう。ここに来るのは初めてのことではない。
古びた屋敷に侵入し『
──重ね重ねすまない。宝箱に気を取られていた。
「繰り返しになりますが、宝箱には罠以外にも、宝箱に人間が群がることを本能として理解し、釣餌に使う魔物もいます。宝箱は冒険に欠かすことのできない要素かもしれませんが、十分な安全を確保するのが第一です。それをできぬものに宝箱を開ける資格はありません」
──了承した。次回以降は気を付ける。
まあ最悪死んでも蘇れるのだし、変わらず宝箱にロマンを求めよう。
クレイはノインに伝わらないよう心の底でこっそり思った。
「次に似た要因で死亡するなどしたら、魂を現世に送り返しませんからね」
──…………肝に命じておく。
こちらの浅はかな内心などお見通しらしい。
今度からは宝箱を前に残る僅かな理性を総動員しなくてはならないらしい。
自分自身のことながら、信用ならず気が重くなる。
何かと危機の多い勇者という肩書を持つクレイには遡行による蘇生は欠かせない。
「よろしい。探査の魔法や
──そうなのか。感謝する。
ノインはここを訪れるクレイに時折アドバイスのようなことを口にする。
今回のように冒険に役立ちそうな情報、魔物の弱点、世界の成り立ち、学院近くの美味しい料亭など。彼女の痒い所に手が届く助言のおかげか、いつの間にか楽しみになっている。
「感謝は不要です。それでどの地点に戻りますか? 直近である一番目の記録地点ですか?」
問いかけながらノインが指を鳴らした。
すると虚空から分厚く豪奢な装飾のなされた本が生じ、ノインの手元に収まる。
クレイが廃れた屋敷で発見した全知の書『
──今回で鍛錬の不足を実感した。だから一番古いところに送ってほしい。
「なるほど。では三つ目の栞の記録地点ですね」
──ああ。迅雷刀を入手した直後に記録したのだ。
「遡行座標情報、参照」
クレイの要望を受けてノインは書を手繰り、告げる。
玲瓏に発された呪文に応じて、『
そうして開かれた頁は現世においてクレイが『
こうした『
クレイとしては蘇れるのならばなんでもいい。
「それでは諸般の詠唱は破棄ということで。準備はよろしいですか? 勇者さま」
ノインが問いかける片手間に複雑かつ複数の魔法陣がクレイの周囲に展開されていく。
学院に所属し、勇者となったことで王国随一の使い手たちの魔法陣を見る機会に恵まれたクレイだが、ここでノインが構築するものより鮮やかなものは未だ見たことがない。
学院に入る前の自分に話したとて信じてもらえないだろう。
一目で魔法陣の良し悪しが分かるまでになるなんて。
あの頃の自分はただ生きることを目的に生きていて、そもそも魔法陣をお目にかかることすら想像もしていなかったのだから。
──行ってくる。
次はどんな敵が、罠が、悲劇が待ち受けているのだろうか。
自分はそれにどれだけ殺され、どのように打ち破るのだろうか。
それを思うと期待で胸中が満たされていく。
何せ勇者とはそのために生まれ、死ぬ存在なのだから。
「
魔法の名が厳かに告げられる。
かくして魔法陣に魔力が充填され、時間遡行という奇跡の魔法は結実する。
勇者の魂は時を遡り、再び運命の荒波へと漕ぎ出した。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クレイに合格を伝え、学院へと送り出してから早数日。
うっかり寝落ちして見たのは久しぶりに前世の夢だった。
というか夢を見たことそのものが久方ぶりだ。
『
なんだか子どもが幼稚園やら学校やらに通い出して昼間に余暇ができた親の気分だ。
前世含めて自らの子など持ったことはないので確かなことは言えないけれど。
ともかく、日当たりのいいリビングの床で雑魚寝して夢を見る。
全社畜憧れのだいぶ幸福度の高い時間をわたしは過ごしていた。
それで夢見たのがノインノルン=セイヴァンドロードの原作唯一の出番なのは、憑依転生するだけあって縁があるなという感じだが。
原作本編におけるノインノルン=セイヴァンドロードはDLC追加ボスや裏ボスだ。
しかし、その本編というのを抜け出すとノインノルン=セイヴァンドロードは暴れ出す。
具体的には理不尽な敵にゲームオーバーにされ、ロードするセーブデータを選択すると、ふざけた効果音に合わせて現れるのだ。
『セイヴァンドロードのお悩み霊安室』などと自称する謎コーナーが。
そう脈絡なくノインノルン=セイヴァンドロードが登場しうんちくを語り出すのである。
ちなみにシリーズ一作目のノインの出番はこれだけだ。何か特定の条件で出てくるとか軟弱なことはない。本当にこれだけのキャラなのは解析情報にすら裏付けられている。
そんな出番なし予言者、ノインノルン=セイヴァンドロードが、ゲームオーバーになった原因などに合わせて攻略情報を教えてくれる。今回負けたボスは斬撃属性に弱いとか、逆にこの雑魚敵は毒耐性があるとか、そんなの。
加えてイベントフラグのヒントや裏設定なども匂わせてくるので、ゲームを彩る要素ではある。
SNSや攻略サイト全盛の現代に、ゲーム雑誌やら攻略本を読む楽しさを思い出させてくれるし、八作品通して恒例のコーナーで『勇星のみたま』シリーズらしさではあるのでわたしは悪くないと思っている。
が、万人がこれを受け入れるのにはちょっと遠慮というものがない。
先述の攻略情報以外にもノインノルン=セイヴァンドロードはお話してくれる。
当時を知る人以外置いてけぼりの一昔前の時事ネタやマニアックなネットミーム、納期や予算がヤバいという一生秘してほしい類の制作秘話などのメタネタをごまんとこれらを剛速球で投げつけてくるのが『セイヴァンドロードのお悩み霊安室』である。
つまり真面目に正体不明の謎の女が大概ゴミみたいな情報を垂れ流してくるのだ。
一応、
ぶっちゃけ一プレイヤーからするとそういうことしてるから、重くなるんじゃないの?
と切り捨ててしまいたくなる謎采配である。
肌に合わない人には発狂ものの電波展開であるのは疑いようもない。
シリーズ第二作が出世作となったのは、シナリオやゲームバランスが大部分を占める。だけれどもこのコーナーがスキップ可能になるなどユーザビリティへの配慮が優れていたことも一ファンとしては主張したいものである。
まあ、そんな『セイヴァンドロードのお悩み霊安室』も『
憑依転生しておいて、自分の唯一の出番潰すやつとかいねえよなあ?
やはりケジメ案件では。
いや『セイヴァンドロードのお悩み霊安室』なんてゲーム的演出の最たるものである。
『
……切り替えよう。
失くしたものを数え上げても何にもならない。
今あるものをいかに守り、いかに育てていくかの方が建設的である。
さて、学院いるクレイの様子を見てみるとしよう。
これで寝てる間に事故死でもしていたら笑えないのだから。
クレイを監視するために彼女に使い魔をこっそり追従させている。
そいつから感覚情報を受け取ることで状況を確認することができるという寸法だ。イメージとしてはドローンにストーカーさせている感じである。
プライバシーに欠ける方法であるが、世界のためということで諦める。
本音として本人の許可は取りたかったが、クレイには自然体でいて欲しい。
わたしの目的からするとクレイに過干渉なのはあまりよろしくない。
言い訳を述べながら結局視覚情報を共有してみると、クレイは多くの人が行き交う中庭にいるようだ。そこでは何やら男性と向き合って会話している。百年以上も過ぎている前世の記憶が定かならば、あんなネームドキャラクターはいなかったように思えるので恐らくは
何を話しているのか。出歯亀魂、野次馬根性が沸々と湧いてくる。
使い魔との聴覚共有は可能だ。一方で共有する情報の量は使い魔とわたしとの間で送受信される魔力量と比例関係にあるといっていい。魔力が増えると使い魔が気取られる可能性もまた増加することを意味するのだ。
でも聞きたい、聞いてみたい。
ゲームでないリアルな勇星のみたまの魔法学院での会話。
…………いや、わたし、あのノインノルン=セイヴァンドロードですよ。
DLCボスや裏ボスでも最強と名高いノインノルン=セイヴァンドロードですよ。
使い魔の存在が発覚するなんて、そんなヘマするものか。いやしない。
というわけで、聴覚情報もシェアリングしていく。
さてはて、クレイはどんなお話をしているのやら。
「いいだろう。新入生、クレイと言ったか? 決闘だ。お前に訓練場を使い方を教えてやる」
ん?? 決闘????
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔法学院は聖地だ。
聖地オブ聖地オブ聖地オブ聖地なんて馬鹿みたいな形容さえ許されるぐらいには聖地だ。
一つは魔法の本拠地としての聖地。
多くの高名な魔法使いたちが所属しており、その研究は主にここを中心に行われている。
世に出た魔法とは学院で生まれたもので、世に出ぬ魔法とは学院で消えたものだ。
一つは信仰の総本山としての聖地。
学院の運営母体は教会であり、その学舎も本を辿れば教祖が建設した聖堂にある。
そのため各地から巡礼者が訪れるのみならず、学院の職員とはその実聖職者たちであるのだ。
一つは冒険の心臓部としての聖地。
魔物を狩り人々を守る冒険者とは、その定義を教会にて洗礼を受けたものとする。
最大の教化施設である学院は多くの英雄伝説の始発点であり、全冒険者志望の憧れである。
一つは王国の出発点としての聖地。
ダイボス大陸でもっと力を持ち、文化の震源地としても栄える先進国であるクエステット王国。
その建国史は後の学院である聖堂で初代国王が啓示を授かったことを序章とする。
よって学院とはクエステット王国建国の聖地で、その他生活必須の三要素の聖地だ。
ゆえに王国の民とは誰であれ学院に深い畏敬の念を抱いている。
貴族の末席に位置するものとしてアルヴァ=エチュートリリアはそのように考え生きてきた。
その考えは学院に入学し三年のときを過ごそうと変わることはない。
むしろ実生活を通し知る学院の備える底知れぬ奥深さに畏敬の念は強まるばかり。
自らを高めてくれる学院に返報奉仕をすべきという使命感がアルヴァにはあった。
彼が新入生を対象とした施設案内を買って出たのは当然の流れと言えるだろう。
そんな中でアルヴァが出会い、自己紹介を要求したその女は言うに事を欠いて言ってきた。
「クレイ。この学院の頂点を通過点にしに来た」
最初は暖かい目で見ていた。
言ってしまえば新入生には珍しくもない病気である。
学院で技量を高め英雄の仲間入りを果たすのだという子どもじみた全能感と功名心。
本物の怪物たちが平然とそこらを闊歩する学院にいるうちに自然治癒する病だ。
逐一目くじらを立てるほどのことではない。
「ここの最強は誰?」
「どうすれば戦える?」
「過去他に挑んだ人は?」
先述の新入生にありがちな病気は目に余らなければ微笑ましいものとして流される。
だが、この新入生はあまりにも舐めていた。
建国以来の歴史を持つ学院で最強を目指すとのたまう。
この庶民の新入生はそのことの不敬の具合というのを理解していない。
ならば、このアルヴァには先達としてこの新入生に指導する責任があると感じられた。
「……ここの最強と言えば生徒会長を除いて他にいない。だがな、新入生。まずは口を慎め。この学院で最強をみだりに唱えるのは礼を失する恥ずべきものだ。そのような大言壮語は天に向けて唾を吐くのに等しい。顔を無為に唾塗れにしたくないだろう」
「ふうん。汚れるから諦めるの?」
「は? 何を?」
「唾がかかるから顔を背けるの?」
学院の設備に感心するばかりで、アルヴァに向けられることのなかったその目は。
なぜだか、それが気に食わなくて、受け入れられなかった。
下級生、それも入りたての新入生へと決闘を申し出るという行為の動機はそこにあった。
だから決闘をして一撃で潰してしまうことにした。
生意気な新入生に早めに身の丈を突きつけるために。
後々の言い訳として彼女以外の新入生に彼我の差を周知してもらうエキシビションとしてはそのぐらいのパフォーマンスがあった方がいいなんて利口な打算もあるにはあったが。
この新入生の目を塞いでしまいたかった。
そう。それだけの実力がアルヴァ=エチュートリリアにはある。
怪物、英雄となるものは数段劣るが騎士団への道が有力視される程度には。
そう。それだけの実力がアルヴァ=エチュートリリアにはあるはずなのだ。
(なのに、なぜ、この槍は届かない!!)
北方の実家の猛吹雪のようにアルヴァの内心に焦りが降り積もる。
よく馴染んだはずの訓練用の槍を握る手には滂沱の汗が滲んでいる。
もう都合二十以上は打ち合った。相手は剣で、間合いの利は基本的にこちらにある。
現実としては突けども凪げども、槍は避けられ受けられ彼女に届いていない。
攻撃が当たっていないというのは相手も同じ。
だが息の上がったこちらに対し、彼女は悠然とこちらを見据えている。
どちらが優勢かなど本来ならば一目瞭然だ。
訓練場に集まった観客の間を異様な空気が満たす。
入学から数日、クレイは同級生たちから距離を置かれていた。
原因は最強を目指すというビックマウスそのものな発言を繰り返していたことにある。
目に余る彼女の若気の至りが挫かれる場面を見るために通常より多くの人が観戦に来ていた。
断じて上級生が彼女の前に歯が立たない様子を見に来たのではない。
それをアルヴァも把握している。
観衆の面前での無様な敗北はアルヴァ当人を飛び越えて、エチュートリリア全体の風評にすら傷をつけかねない。そう思えば思うほどに焦燥がアルヴァの心を急かす。
(こうなれば、もはやアレを使ってでも落とす)
長くずっと息を吐き出し、構えを変える。
槍を普段よりも長めに持って、穂先を余すところなく相手の心臓に向けた。
変化を機敏に察したのだろう、新入生の体内をめぐる魔力が一段と濃くなる。
しかし遅い。
アルヴァは残された魔力を枯渇するまで全霊を以って身に刻んだ祝福へと流し込む。
「
叫ぶ名は突撃と共に。
大地を抉らんとばかりに蹴って飛び込むアルヴァの槍から逃れられたものはない。
槍先から発せられる凍てつく魔力波が視界を、足元を、そして命を奪うのだから。
魔法以上の効果でありながら詠唱を要せぬ奇跡。
魔物という神敵の鏖殺と引き換えに贈られる祝福の発露。
天与の絶技は一寸の曇りも翳りもなく完了した。
(獲った!)
勝利を、確信した。
槍は何物にも阻まれることなく、新入生の胸元へと吸い込まれるように貫かんとする。
全身を賭した。全霊を吐いた。過去最高の鮮やかさであると先走る手ごたえが告げる。
もはや躱すことは叶うまい。
「そこまでです」
切っ先が触れる寸前。ひどく玲瓏な声を伴って一本の杖を伴って降ってきた。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『
今わたしがいるのは第一作は剣と魔法の冒険ファンタジー。三作目は魔法少女のバトルロワイアル。最後の八作目など硝煙の香るポストアポカリプスでのロボットバトルがメインだ。一作目しかしていないと『
とはいえシリーズ化しており、同一世界線上での出来事なので繋がりやお決まりもある。
それこそ『セイヴァンドロードのお悩み霊安室』も定番コーナーの一つであるのだが。
他に印象的なのものとして
まず
各キャラに一つから三つほど設定されるこれは、戦闘の要とも言うべきものだ。
攻撃技であれば貴重なダメージソースであるし、サポート効果のものは特に魔法に
また一部の敵も習得しているので、ときにはそれをいかに使わせないかも戦闘の鍵となる。
戦闘の中心である
シリーズの戦闘チュートリアルは毎回、男性のモブキャラをエネミーとして戦闘しながら、その男が解説してくるという方式を伝統的に採用している。習った攻撃を男相手に試してみたり、彼の攻撃に合わせて防御してみたりをして「ふーん、このゲームはこんな風に戦っていくのか」と概要を了承していった最後、男ははっちゃける。
すなわち急に
当然初見のチュートリアル直後のひよっこでは耐えられず、HPバーは全損する。
ある意味で敵に
これがシリーズ全八作に共通するチュートリアルだ。
有り体に言って確実に負けイベントなのだ、『
ちなみにはっちゃけが上司にバレて懲戒免職でもくらうのか、このモブはここ以外に出番はない。チュートリアルを終えたら次の周回か、下手すれば次回作までお別れである。
で、そんなシリーズあるあるトークは脇において話を現状に戻そう。
クレイと男の決闘という言葉にフリーズしてしまったが、その正体はこのイベントなのではないかとわたしは推察した。チュートリアル戦闘はどうして戦っているかの理由が明らかにならないので確証はなかったが、使用する
それで原作イベントと喜んだのも束の間、世界の窮地であることをようやく理解した。
使い魔の位置情報をもとに慌てて転移の魔法を使わなければ危なかった。
あのままでは死んでしまっていた。どうにかギリギリセーフというやつである。
入学数日でゲームオーバーなど冗談ではない。いろいろと対策は仕込んではいるのでバッドエンドではないかもしれないが、死に体の原作に鞭打つ真似はすべきでない。
「無事ですか?」
咄嗟に杖をぶん投げて広域に防御魔法を展開したが、ケガはないだろうか。正味な話、この手の守りの魔法はクレイとの組手では無用ものだったので使用は久々。何か不備がありそうで不安でしかたない。
「私は問題ない」
「クレイ、あなたには聞いていません。わたしはそこの彼に聞いています」
クレイには最初から質問していない。
あのままではこのチュートリアルモブが死んでいたのだ。
「そこの新入生の関係者のようだが、お前は何者だ?」
「この場において最も枢要となるのはわたしの正体ではなくあなたの安否なのですが、それだけ声を張り上げられるのならば杞憂であったようですね」
本当によかった。
衆人環視、証人だらけのこんな場所でクレイが殺人を犯す羽目にならなくて。
奴隷落ち程度ならばまだしも、下手を打てば追放処刑も見えてくるのだから。
こういうやらかしも『
つくづく逃した魚は大きく口惜しい。
「それが神聖なる決闘に水を差しておいて物言いか。見ていたのなら分かるだろう。お前に妨害されなければ、あの
「あなたの認識ではそうでしょうね」
「こちらが間違っていると言いたいのか? 魔法でも唱えていたと? 確かにまとう魔力が濃いが詠唱する様子はなかったはずだ」
あー、うんそうだね。
普段からノインノルン=セイヴァンドロードのロールプレイをしていなければそんな感じに素直に頷いてしまいたくなる程度には真っ当なことをチュートリアルモブは言う。
彼の主張はこの文明の未成熟な第一作の舞台では否定しがたい常識だ。
けれどもこの身はチートの代名詞、転生者である。
無詠唱や略式詠唱などそれこそ十八番と言っていい。要は未来である後続作品の知識チートであり、それは何としても性欲連呼おじさんに勝たねばならないクレイにも伝授している。
「ならば実証しましょうか。クレイ?」
「うん。いつでも来て」
「おい、どういうことだ。まずは説明しろ」
指先に最低限の魔力を収束させてクレイに向けて放つ。
ゲーム的には魔法使いクラスの「たたかう」コマンド攻撃であり、眼前の現実ではSFのビームガン的な光線射撃だ。それが、無抵抗仁王立ちのクレイを射貫く。
その途端、クレイは爆発した。
「なんだこの爆炎は! 今のは通常の魔力放出じゃないのか!?」
「ええ。わたしが放ったのはあなたの言う通りのものですよ」
「だったら何故ああなった? 魔力放出であんな風になるわけがないだろう!」
「ですからそれが彼女の使用していた魔法です。攻撃に爆発を以って迎撃する。そしてこのときの爆発の規模は受けた業の威力に依拠するものです。もしもあなたがあのまま
カウンター・フェネクス。
第六作辺りから登場した攻撃反応型の反撃魔法である。発動後攻撃を受けると何度でも爆発するので、いわゆる地雷戦法的運用で格下の雑魚を一掃するにも有用だった。
そういうわけで、利便性だけを理由に時系列など無視して彼女に伝授した魔法の一つである。
「認めたくはないが…………確かにあれ以上の爆炎は耐え難いだろう。ともすれば命の危機があったことも」
「ようやくご理解いただけましたか」
「だが、なんて女だ。自爆による相打ちを狙っていたとは」
「自爆? 相打ち? 何を言っているのです?」
カウンター・フェネクスは自爆技ではない。
ゲーム的にはヒットポイントを損ねるような効果がないということだ。
「どう? なかなかな爆発」
煙からクレイが現れる。その肌には一切の傷はない。
もちろんわたしの魔力放出によって射貫かれた後も残っていない。
不死鳥は業火によってその身を焦がし、その火から新たに産まれ出でるという。
カウンター・フェネクスはそうした不死鳥の死と再生を下敷きにしており、爆発による反撃だけでなく、同時に自らの傷を癒す。
攻撃と回復を両立する性質からクレイの生存力を高めることを目的に初期に学ばせた。
『
この魔法を筆頭に原作由来の技術知識を教授したことに後悔はない。ないのだが。
「クレイ。言いましたよね。教えた魔法の使用は基本学院では禁止だと。何故言いつけを破ってまでこの魔法を使った決着を狙ったのです?」
カウンター・フェネクスなどクレイに伝えた魔法のなかで氷山の一角に過ぎないが、それでもこの時代の魔法技術ではあり得ぬほど高次のものだ。あるいは端的に「また何かやっちゃいました?」し放題なのであると言ってもいい。
いや、クレイよりわたしの方が「
がしかし、あくまでそれらは彼女にこれから訪れる運命を退けるために授けた切り札だ。
むやみやたらに濫用して性欲連呼おじさんとその仲間たちに対策でもされたら元も子もない。
というかそもそも、それらの魔法抜きにしてもクレイはこの段階では無双ができるだけの技量がある。
現にこのチュートリアルモブを剣の一刀にて切り伏せるのは容易だったはずだ。
にもかかわらず彼女はその選択をしなかった。
その理由を確認したい。
「彼の槍の扱いは私より長けていた。だからなるべく長く観察したかった。でもあれだけの威力の
「まあ、そうでしょうね」
やだ。なんて戦闘狂な理由。
なんていうか、拾ってから戦闘訓練ばかりをしていたせいで彼女は戦闘以外のコミュニケーション能力が死滅している。
原作からしては選択肢で会話する意思表示に乏しい典型的なRPG主人公だった。それでも学院生活に希望を持っていたり、友人に興味があったりが短いテキストから読み解けたものなのだが。
このクレイには一切そうした様子が見られない。
軌道修正しなくてはならない。
ここはもう多少強硬手段を使ってでも。
些細なミスをセーブ&ロードで補えるようなことはあり得ないのだ。
「クレイ、学院にいる間の課題です。友人を作りなさい」
「どうしたの、急に?」
「何でもです。友人と呼べる関係を構築するまで決闘を含む全ての戦闘行為は禁止とします」
「なんで、考え直してくれない?」
「撤回はありません。戦いたければ友人を作るのですね」
「……そんな」
途方に暮れるクレイに背を向ける。
これは
何せこの世界、彼女が友人か恋人を作らなくてはやっぱり詰んでしまうのだ。
セーブ&ロードができるできないとは無関係に。
ならば、関係ないこの身は転移の魔法でさっさと帰ろう。
「お待ちください」
なんて腹積もりでテキトーに魔法陣を展開していると、クレイでもチュートリアルモブのものでもない声がした。
観衆がやってきてしまったのであろうか。しかし妙に辺りが騒がしい気がする。
何事かと振り返ってみるとそこには長い金色の髪をたなびかせる気品あふれる出で立ちの女が一人。
その顔には覚えがある。
前世のゲームでも。もしくは今生の肖像画でも。
「お初にお目にかかります。プラト=クラウ=クエステットと申します」
クエステット。
その姓はクエステット王国においてはとある一族が専有するもの。
独占しているのは言うまでもなくこの国の王家に連なるものたち。
プラト=クラウ=クエステット。
この国の第一王女であり、王位継承権第一位の未来の女王。
ああ、なるほど。
彼女、クレイが勇者であると何らかの方法で気が付いたのだろう。原作では全く持ってそんな描写などなかったがここはゲームでない。王国の未来にとって予言に謡われる勇者の存在は尊ぶべきものだからね、独自の調査をしていてもおかしくない。
うんうん。その姿勢大事。セイヴァンドロードの予言者としては花丸あげちゃうよ。
何せ。本物の王女でない彼女の目的に
だから唐突に現れた行方不明の予言者になど用事などはないに決まっている。
故にすたこらさっさと帰宅しよう。
「やはり生きておられたのですね。我らが予言者。ノインノルン=セイヴァンドロード様」
うーん。
まいった。またやらかしてますね、これ。
これ以降はづづく余地がありません。
あるとすれば皆さんの頭のなかしかないでしょう。