TS転生鬼畜難易度RPGセーブロード縛り原作主人公育成系予言者エルフ 作:説くMay
手放した意識が回復したときドーム状の建物の中で漂っていた。
「ようこそ、運命に惑える勇星のみたま。ここはブラックカーテンの内側。時の予言者と勇者にのみ許された胡蝶の夢。虚構と現実の境界線は薄れ、限りなくリアルに近づいたメタ世界。『旅人の霊廟』はあなたを歓迎いたします。すなわちは────」
もはや見覚えしかない星空の天井画と玲瓏な声で馴染みのある口上を語る少女に、彼女には二周りほど大きな石造りの玉座。そして気がつけば辿り着いていたという状況証拠。
それらから察するに勇者、クレイ=プレイアーツは。
「────また死んでしまったのですね、勇者さま」
──そのようだな。だが、今回はこちらに落ち度はない。
冒険の最中、いつものように力及ばず敗北し命を落としたのだった。
が、今度ばかりは事情が違うのだと呆れ顔の霊廟の主、ノインノルン=セイヴァンドロードへ言葉を紡いだ。
「どうしました? やけに強気な発言ですが」
──王女に化けていたあの龍が強すぎて、負けてからなんとかなるタイプの戦いであると思ったんだから仕方がないだろう。
いやはや、圧倒的としか形容のしようのない有様であった。
正体を白日の下に晒されたことで激昂し、本性を明らかにした偽王女こと
もちろん馬鹿げた火力を持ち合わせているというだったら、最近ようやく箔が付いてきた勇者として攻略法を考えるのだが、全身を鋼より硬い鱗でガードされているなればお手上げである。
そのうちに解決の糸口でも舞い込んでくるものかと考えたクレイはリソースの消費を最低限に抑えながら戦っていたがそんな都合のいい話があるわけもなく。あえなく『旅人の霊廟』に導かれる運びとなった。
「それで手を抜いた末に無残な敗北しここにいらっしゃたんですか、いいご身分ですね、勇者さまというのは」
──まあ、死んでも取り返しがつくというのはいい身分であるとは思う。
生も死も一つの人生で体験できるのは一度きり。当たり前の命の絶対原則。
けれど勇者となってからのクレイはその破り難いその規則から解放されていた。
それだけである種の特権階級であるということはできるだろう。
「それは勇者に課せられた過酷極まりない運命を思えばそれは当然の権利でしょう」
──もう少し手厳しい言葉が来ると思っていた。
「わたしだって再三注意しているのにも関わらず宝箱で命を落とすような愚かな方が勇者さまでなければこのような優しさに溢れた思想に目覚めることはありませんでしたね」
──はは、本当に『
「ありえない仮定に意味はありませんよ。『
──そうなのか。安心した。
今後も
「ともかく言っておきますがこの世界は
──そんなこと言って、この間の騎士との戦いではあの横やりがあるまでどうやっても攻撃が通用しなかったが、それは記憶違いか?
「……………………」
──あ、黙った。
突かれて痛いところであったらしく、ノインの言葉が止まった。
「とにかく! 倒せる相手と倒せない相手、それを真に見極める嗅覚もまた勇者に必要な資質の一つです。そして現状の戦力で倒し得ると判断したら弛むことなく全身全霊で挑みかかりなさい。今回の総括はそんなところです。して、どこの記録地点に戻りますか?」
──あ、逃げた。
「逃げてません。でも『
──すまない。調子に乗った。謝罪する。この通りだ。
『
その栞の記録地点へと送り出すためにするいつも通りの仕草であるが、文脈的に意味合いが違う。生き死にに頓着しない冒険狂いと傍から呼ばれることのあるクレイと言えど、今から冒険を一からやり直すのは御免である。一段落着いた後なら、それはそれで楽しみがあるような気もするが、個人的な享楽はまず自分の為すべきことをなしてからの方がいい。
ので、クレイは肉体なきまま、それでも首を垂れて謝意を表明する。
「ふふ、その霊魂だけの姿ではこの通りも何もありませんが、分かればいいのです。さて、勇者さま。次はどの栞にしますか? やはり修練に適している二番目のものですか?」
──いいや、一番最新のでいい。
「となると、それこそ勇者さまが勝てないと評した、かの名実龍とまた対峙することになるのは必然ですが、よろしいのですか?」
一番直近に挟んだ栞は、それこそ名実龍との戦闘開始の寸前のものだ。
あのときに戻れば鍛え直すような暇はなく、あの龍との戦いは避け難いだろう。
だが、だからこそクレイはその栞を選択した。
──ああ。あの龍とはまだ真っ向から勝つという気概をもって戦ってはいない。だからまずはあの龍に今持てる全てを叩きこむ。話はそれからだ。
「なるほど。今のあなたでは些か厳しいでしょうが、万に一つの勝ち筋を拾うこともあるでしょう。存分に戦ってきなさい」
彼女ほどの手練れの眼から見て勝算が万に一つだけというのは絶望的な情報だ。
彼我の差は決して小さなものではないと覚悟していたが、まさかそれほどとは。
真正のものではないとはいえ、流石は神に通じ、ときに次ぐともされる龍の系譜というだけのことはある。
──君のその発言で気概をいくらか削がれたが、とにかく挑戦はしてみるさ。
「ええ、そうしなさい。ではあなたの魂を『
ノインノルン=セイヴァンドロードのもたらす蘇生は過去の記録地点に向けて魂を発信することで成立している。彼女が言うように磨いた技量も、身に刻む魔法も、手にした財宝も、築き上げた仲間との絆も記録されていないものは全て無に帰すこととなる。
今回は記録が比較的新しいので、失うものは少ないがそれでも道中した下らない会話はなかったことになり、二度と同じ形でこの世に現れることはないだろう。
世界も自分も確かなものなど何一つとして存在していない。
すべては状況次第。
今そうであるというだけ仮初。絶対に思えるものすらいつか消える。
クレイが
「ですが忘れないで。歩んだ旅路は魂の糧となり、あなたの生涯を彩るのです」
ノインは祈るように告げる。
「さあ、行きなさい。あなたの運命はこんなところでは終わらないのですから」
ノインは謡うように告げる。
勇者が選び辿る道の全てをノインノルン=セイヴァンドロードは祝福する。
クレイが否決し、存在しなかったと改竄されるものまで予言者は見届け祝福する。
なら、大丈夫だ。
幾多の死、数多の悲劇が襲い掛かろうとも迷いなく運命を歩んでいける。
──わかった。いってくる。
出立の言葉への返答として送られてきたのはわずかに綻ばせた顔。
笑顔なんて初めて見たが、案外、悪くない。
もう少し見ていたいと欲してしまうくらいには。
「
そんなことを思い描いたのも束の間。
彼女の声が魔法名をなぞり、神秘の魔法は形を成す。
今再び、勇星のみたまを宿すものは運命の荒波へと飛び込んでいった。
「あ、言い忘れましたがあの名実龍の弱点は────」
やっぱその情報も欲しかった、なんて思いながら。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
うるさい。
「おい、あいつがアルヴァ先輩に勝ったていう…………」「やっぱ嘘だろ」「あのビックマウス女が?」「でも。オレ見たぜ、あいつがエチュートリリアの
それが訓練場を離れ、講義室へ帰ってきたクレイが真っ先に思ったことだった。
クレイ当人を遠巻きにしながら、それぞれがそれぞれのグループで先程の決闘についての話す声は混ざり合い、クレイの耳に届く頃には雑音となり果てていた。別段、何を言っていても自由の範囲内だとは思うが、喧騒の五月蠅さはシンプルに煩わしい。
「ズル?」「よく分からない女が水を差してたのよ」「なるほど、それはよくないね。神聖な決闘に不正を持ち込むのは許されざることだ」「でも分からんぞ。そうだったら先輩が文句いってるだろ。そういうの許さない人だし」「でも俺は見たぜ。その女は件の第一王女に連行されてたの」「てことは! やっぱズルしてたってことよね?」「確かに?」「それが事実ならその可能性は高まるように感じられるな」
それにもしもなんらかの文句があるというのなら、直接申し出てくれた方が面倒がないし、何よりそれを理由に決闘に持ち込める。
(…………決闘含めて、戦うの禁止になったんだった)
ノイン先程言い渡された沙汰を思い出し、クレイは落ち込む。言いつけを先に破ったのはこちらなので、抗議する余地はないが納得はいかない。
何故なら、クレイは一刻も早く最強に至らなければならないのだ。いつか彼女を打倒し並び立つという目標を実現するためには時間が圧倒的に足りていない。抱く願いに対して、人類の一生は短すぎて、足踏みしている暇など一秒たりとてないのだから。学院に来る前思い知ったばかりだというのに。
「でもな、その連れていかれたの噂だとセイヴァンドロードさまなんだって」「マジ!? 失踪中って話だったよね!?」「ああ。屋敷を徳に欠く輩に襲われ、この世から影を消し、黙されたとの噂もあったが、やはりご存命であったか」「なに、誰? 有名人?」「バカ、お前、セイヴァンドロードさまを知らないのか?」「クエステットどころか、ダイボスでは徳の高さで並ぶものなしの予言者の血統だ」「え、じゃあ、もしやクエステット建国王に啓示を与えて、洗礼を施したっていう?」「そうそう」
ノインの世界でいう、カクテルパーティー効果だろうか。
喧騒からクレイの耳には正に思い悩む原因となった人物についての話題が入ってきたが。
(隠れてた? 徳が高い? 建国王? どういうこと?)
意味するところはどうにも掴めずにいた。
そもそもとして、クレイがノインについて知っていることは少ない。
唯一あるとすれば、セイヴァンドロードという予言者の一門のエルフであることぐらい。
武術に魔法、一般教養。今現在のクレイの構成要素とはすべて彼女から与えられたものであるが、彼女自身についてはちっとも、さっぱり、与えられていない。
クレイは知らない。
ノインノルン=セイヴァンドロードがクレイを拾うまで何をしていたのか。
ノインノルン=セイヴァンドロードがいかなる血筋を受けて生まれたのか。
ノインノルン=セイヴァンドロードがどのような人々と関わってきたのか。
彼女の由縁やライフヒストリーというもののほとんどを、クレイは知らないのだ。
「セイヴァンドロードさまのことを知りたいですか?」
見透かしたような声がした。悩み込んだ俯き加減であったクレイの頭上から。
見上げると亜麻色の髪をした乙女が淡く輝く碧眼でこちらを眺めてきていた。
その顔に覚えはない。クレイに覚えのある顔というのも少ないが。
「誰?」
「ソロン=スナイパァローと申します」
「……何の用? お貴族様が私に」
「いいえ、そのような態度は不要ですわ。わたくし、しがない
「
「ええ、祖父代で弓術の徳が見出されまして、
冒険者は人気の職業である。
冒険者の育成機関である学院の入学希望が絶えないことから明らかであるように。
それは大いなる数多ある冒険譚への憧れも背後にあるが。
同時、誰しもに開かれた成り上がりの道筋であるということもを影響している。
冒険者として偉業をなせば、その徳に応じて貴族としての位を授かることができる。
それらのなかで最もポピュラーで、眼前の彼女がそうであると主張するのが
もっとも、貴族といっても期間限定で血統的な由緒もなく名ばかりであり、血統書付きの上級貴族からは侮蔑の眼差しで見られ、さりとて免税という特権自体は持つため庶民からはやっかみを受けることも多い。ソロンと名乗る彼女含め、三世貴族が妙にへりくだった態度を取るものが少なくないのも、そういうトラブルを避けるためなのだろう。
だが。
「嘘だ」
「あら? なにがですか? クレイさま」
「しがない三世貴族っていうの丸切り嘘。たぶん君はもっと上だろう、色々と」
眼前の彼女は違う。
冒険者からの成り上がりの三世貴族の三代目なんて、バックボーンは噓八百。
ソロンと名乗る彼女の地位はもっと上位であるはずだと、クレイの直観は告げていた。
「高く買って頂けるのは光栄ですが、わたくしの育ちは本当に三世貴族ですのよ。何の嘘もございませんわ。参考までに、クレイさまは何を根拠にそんなことをお思いになったのです?」
こういったときの直感が外れた覚えもクレイにはない。
クレイの中では彼女が身分を偽っているというのは確定事項だ。
だけれども、乙女はそれを肯定せず言い逃れようと言葉を尽くしてくる。
面倒極まりないが、直感を解きほぐして言語化しなければらないだろう。
今一度、三世貴族を自称する彼女を頭のてっぺんから足元までをじっくりと観察する。
「君を三世貴族でないと私が思う理由は三つある」
「まあ。三つも! そんなにあるんですの?」
「…………まず立ち振舞が三世貴族のそれじゃない。私も世間知らずだけど、『三世貴族に礼なし』って格言ぐらいは知っている。なのに、君はここまで体幹に一切のぶれがないし、言葉にも訛りがないのに上流貴族らしい発音の癖がある。相応に高度な教育を受けている証拠だと思うけど」
彼女を一目見て目についたのは美麗さだった。
初めは冒険者としての武功を認めらた三世貴族らしく、武勇を極める過程で自然と得たものだとも思ったが、そうでない。彼女の美しさは実戦実利を突き詰めた果てに辿り着いた天然の機能美ではなく、明らかに余人に見せることを念頭に置いた宝石めいた人為の果ての造形美。
どこまで行っても冒険者に終始する三世貴族にそのような研磨をする余裕も必要もない。
「そうかもしれません。ですが、立ち居振舞いには個人差がございます。それだけで断言することは容易でないと思われます。それに三世貴族のなかにも社交界で恥をかかぬよう学ぶ方も少なくないと聞きますが?」
「今の言葉の時点で三世貴族ではないって認めてることにならない?」
とはいえ、それもそうだ。
三世貴族が三世貴族以上の位を戴かんと望むものも少なくない。
人は贅沢に慣れ、幸福に鈍くなり、貪欲に求める生き物だ。
そういう輩がさらに上へ上へと上がるための切符を欲して、血統書付きの貴族に取り入ろうとする例は枚挙に暇がないという。
が、しかし。
「だったら私のところに真っ直ぐ来たことと矛盾する。他のお貴族さまや有力者を差し置いて得体の知れない私のところには来る時点でそういうのを本質的に得ようとはしてないでしょ。本当に名声を手にしたいのなら、私なんかより縦横の繋がりの方を重要視するはず」
それならそれで彼女の主張は態度と食い違うのだ。
クレイはクレイ自身が自覚している以上に周囲から地雷扱いをされている。
最強に至るというビックマウス発言を繰り返す時点で敬遠されていたというのに、飛びぬけた実力を現に示し、セイヴァンドロードという最上位の権力者との繋がりも示唆された。考えなしに今のクレイに触れれば火傷するというのは、同級生たちの共通認識であった。
いずれ派閥に引き込むにせよ突き放すにせよ接触せねばならないが、今すぐでは確実にない。
それが現状のクレイの評価である。
そんな共通見解すら容易く破るようなものは上を目指していない奇人変人の類と見なしていいだろう。決してしがない三世貴族を自称するものの特徴ではない。
「あらなるほど、それがお二つ目。確かにそうですわね。今のクレイさまは有り体に言ってどのグループに属さず浮いていますものね。派閥に追従することを重んじる方やどの権力者に巻かれる立場の者はクレイさまとは関わらず一先ずは事態を静観するのがそれらしい態度に違いありませんわ」
「やっぱり、君、三世貴族じゃないって認めてるよね?」
「はて? なんのことでしょうか? もしかするとわたくしが甘やかされて育ったおかげで今日まで三世貴族として生き残るために必須のスキルを身に着けていない大間抜けさんかもしれませんよ? それか、そうですわね……わたくしの育ての親は貴族の皆様との繋がり欲していますが、当のわたくしのその意向に逆らう不良娘さんなどはいかがでしょうか? というわけで、最後の理由をお聞かせいただけないでしょうか?」
その場で思いついただけの言葉をよくもまあそんなにつらつらと述べられるものだ。
クレイは呆れと同時に、彼女を相手に筋道立てた論理的な説明は無用であると理解した。論理を解すに十分以上の知性を持ち合わせるため、逆説論理の穴を見つける速度も並外れている。何を言ったところでそれがロジカルであればあるほど嬉々として混ぜっ返されるだけだ。
「はあ、そう。君、楽しんでるよね」
「うふふ。まったくのいいえですわ。自信満々だった三世貴族のフリが一見で看破されたんですもの。落ち込んでますし、心の臓がバクバクでしてよ?」
「もうフリって明言してるし…………」
「それでもう一つほど理由があるんでしょう? お聞かせくださいな」
「………………私、最強を目指してこの学院の門を開いたの。だから強い人は見れば分かる」
「? それがどう関係するんですの?」
「分からない? 君から漂ってる強さは三世貴族なんかのそれじゃないって言ってるの。私がさっき
だからもう、何でもありなこの女に対してクレイは根拠のない所感をぶつけた。
「まあ」
だからそう、何でもありなこの女に対してクレイが虚をつけるだなんて思ってもみなかった。
「こんなことを言うのは不躾極まりないと承知してはいますが、一番うれしい理由で、一番うれしくない理由ですね」
あたかも
彼女は赤らめた頬を両の手のひらで押さえる。
「まさか、隠してたつもりだったの? そんなにこっちの喉元をどう射貫くかばかりを考えてるような眼差しをしておいて?」
「流石にそこまで野蛮でも物騒でもありませんわ。あなたさまを最大限使い尽くすにはいかなる手段や褒賞、そして罰が必要なのかを内心で試算していただけですのよ? 実に平和的かつ牧歌的で、いかにもしがない三世貴族が考えそうなことではありませんこと?」
「もういいでしょ? そんなしがない三世貴族でない君は何者なのか。いい加減教えてよ」
「はい、承知しました。わたくしの正体を察した聡明なるクレイさまに改めて自己紹介をさせていただきます。わたくしはソロン=スナイパァロー=サーヴァトラ。
品のあるカーテンシーの一礼と共に、乙女は自らの素性を明らかにする。
育てられたのはスナイパァローの家ですからしがない三世貴族というのも嘘ではなかったのですよ? と付け加えながら。
けれども、クレイにとって大切なのは、もはや相手の素性などではなく話題に挙がったもう一つの名の方だった。
「プラト=クラウ=クエステット。それって、ノインを連れて行った……」
「ええ、そうですね。我が主さまはセイヴァンドロードさまとご歓談中です。だからわたくしはセイヴァンドロードさまがお隠れになっていた間の関係者と思しきあなたさまに取り入ろうと思ったのですが…………」
「…………が、何?」
「やめました。流石はセイヴァンドロードさまの人選ですわね。しがない三世貴族として近づく作戦をこれ以上続けたとして、どうやら得られるのは不信感だけのようです。だったら続ける理由がこれっぽちもありませんもの」
「独断で決めていいの? そういうのって。主人の命令だったんでしょ?」
「いえ、まったく。むしろわたくしクレイさまとは接触禁止を言い渡されておりましてよ? こうして今お話をしているのは全て、わたくしの自己判断ですので、進むも戻るもわたくし次第ですわ」
「君、絶対従者でもないでしょ?」
例えとして貴族の不良娘かも、などと抜かしていたが真実従者としては不良もいい所だろう。主人の意向を真正面から無視するというのは。
こうなってくると、従者という身分すらも嘘偽りに思えてくる。
「まあ、失敬な。わたくしほどプラト=クラウ=クエステットの意思に忠実な人間は他にいないと自負しております。これだけは九の神さまに誓って真実ですわ」
「それ以外は嘘ってこと?」
「もうクレイさまったら穿ち過ぎですわ。九の神さまに誓えないだけで、他にも真実なところは色々とありましてよ? その辺りはこれからのお付き合いのなかで判断してくださいまし」
「どういうこと?」
「わたくし、クレイさまのことは程よいお付き合いで済ませるだけのつもりでしたが…………その方針、転換することにした、ということですの」
「つまり?」
「もう、結論を急いてばかりでは本質を見落としましてよ? 今後の要改善ポイントですね。友人としてビシバシ指導していきますわよ」
「は? 友人? 誰と誰が?」
「わたくしとクレイさまが、ですわ」
差し出されるのは右手。
握手を求めていることは理解できるが、話が飛躍していてその手を取るのは憚られる。
「何言ってるの。友人って急に言われても…………」
「あら。わたくしたちの関係は友人としてのものにするのが一番有益かと存じますが? 特に決闘禁止のクレイさまにとっては。それの解除条件セイヴァンドロードさまはいかようにおっしゃってましたっけ?」
「うん。私とソロンは友達。ベストフレンド。これからよろしく」
「…………わたくし、クレイさまの御しやすさに驚いてるところです。もう少し後先を考えてご決断をした方が身のためでしてよ?」
最高速で差し出された手を取るクレイ。
しかし相手は、要求が通ったというのに、なぜだが半眼で見詰めてきている。
文句があるならそもそも、そのようなやり方の交渉をしないでほしいものだ。
「関係ない。私の先にある道は最強か死かの二つだけ。それ以外はもう捨ててる。だからそんなのを気にする余裕も意味もないと思うけど?」
「あ、これ、違いますわね。たまたまクレイさまの信念とわたくしのご提案が重なったから素直に従ってくれただけですわ。御しやすいという発言、舌の根の乾かぬ内ですが撤回させていただきます…………よくこんなのを制御できていますわね、お労しや、セイヴァンドロードさま」
「ところで戦闘禁止解除記念──じゃなくて、友誼を結んだ証に一回
「誠に残念ながら、わたくしの方が煩雑な枷を付けられておりまして、学院の施設で決闘というわけにはいきませんの」
「そう、なら帰っていいよ。私は適当に相手を見繕うから」
言ってクレイが辺りを見渡すと騒がしかった辺りが一気に静まり返る。
真偽はどうあれ、中堅に位置する上級生相手に完勝に近い大立ち回りを演じたクレイと何の準備もなしに挑むような気概は新入生たちにはまだなかった。
「まあ、そうおっしゃらずに。耳寄り情報をお持ちしておりますの」
「耳寄りな情報?」
「ええ。クレイさまは知りたいのではございませんか? クレイさまと出会う前のセイヴァンドロードさまのことを」
「それはそうだね」
「そして、わたくしはセイヴァンドロードさまがお隠れになってからのことを知りたい。となれば取引が成立すると思いません?」
「それもそうだね」
互いに需要と供給が一致している。
友人関係に詳しいとは言えないクレイだが、この取引が対等なものであることは想像できる。
「というわけで、クレイさまがその辺りをお話して頂けるというのなら、わたくし案内いたします」
「どこへ?」
「これまでセイヴァンドロードさまの最期の足跡とされてきた場所。恐らくはセイヴァンドロードさまが最も長い時を過ごした場所。即ち、セイヴァンドロードの屋敷。焼け落ち廃れたそこへわたくし案内させていただきますわ」
「その話、乗った」
「…………やっぱり御しやすいのでは? このお方」
クレイの友人として、自身の策略策謀とは無関係に訝しむ。
だが深謀遠慮を巡らせる彼女さえ全くあずかり知らぬ形で運命は動き出そうとしていた。
後にプレイアーツの姓を賜り、勇者となる少女、クレイ。
彼女が、友人と共にセイヴァンドロードの廃屋敷を訪れる。
奇しくもそれは『勇星のみたま』第一作のプロローグと寸分違わぬ話の流れであり。
その果てに勇者となる少女が得るべき『