TS転生鬼畜難易度RPGセーブロード縛り原作主人公育成系予言者エルフ 作:説くMay
焼け落ちたはずの意識が機能を取り戻せば、古びた建物だった。
「ようこそ、運命に惑える勇星のみたま。ここはブラックカーテンの内側。時の予言者と勇者にのみ許された胡蝶の夢。虚構と現実の境界線は薄れ、限りなくリアルに近づいたメタ世界。『旅人の霊廟』はあなたを歓迎いたします。すなわちは────」
見上げた先には満天の星空を模した天井画。鼓膜を響かせるのは冴え渡る少女の美声。
ここがどこか、など問う余地がない程確定的だ。
「────今回は早かったですね、勇者さま」
──ああ、返す言葉もない。あの龍には今のままでは勝てないな。
勇者クレイ=プレイアーツ、王女に化けていた名実龍を相手に二度目の敗北。後先を考えず、持てる手札の全てを出し切ったが、まったく歯が立たなかった。
そんな魂が導かれる場は『旅人の霊廟』除いて他になく。
そんな場で待ち受ける声はノインノルン=セイヴァンドロードのもの以外にあり得ない。
「まあ、でしょうね。今のあなた程度の鍛え方では」
呆れ半分に肩を竦める、ノイン。
彼女からすればこの結末は既定路線も良い所で、それでも尚挑んだのだから呆れて当然だろう。
「ですが。叶わぬと知りながらも、蛮勇と笑われるとしても、それでもと挑戦をしたあなたはまず間違いなく勇者と呼び得る行いでしょう。セイヴァンドロードの予言者としてそこはお墨付きを与えます」
だが、もう半分は確かにクレイの健闘を称える笑みを浮かべていた。
この霊廟に到達する度に、三割助言七割苦言のお小言ばかりを言うノインしては珍しく、真正面からクレイを勇者として慰めた。
本当、初めてに等しい事態であったため、クレイの胸中はなんだか言語化し難い感情が駆け巡る。
──どうした? その、随分、アレだが。
「気味が悪いと?」
──……そこまでは言っていない。
「そこまでは? では、勇者さまはなんと言いたいのです? 有り体に思ったままのことを伝えてくださって構わないのですよ?」
──ノーコメントだ。
「気味が悪かったのですね?」
──それもノーコメント。
言い訳をさせて欲しい。
まず気味が悪いとまでは思っていないのは真実だ。
クレイがバカをやらかして、それをノインが嗜めるという関係性でこれまでやってきたのだ。だからいきなり呆れ半分とはいえ彼女に褒められば、何らか裏があるのではと勘繰ってしまうことぐらいは許してほしい。それが勇者クレイの正直な感想だった。
「いいじゃないですか。純粋な感情にだけに突き動かされ、無謀へと立ち向かう。わたしにだって覚えがあります」
──君に?
「あなたがわたしのこといかように思っているかというのは存じ上げませんが、大概どこにでもいるような普通の向こう見ずであったときもあるのです」
──想像できないな。聡明高徳と噂のエルフの君がそうだというのは……。
「それは偏見というものですよ。まあ、わたしがエルフたちのなかでもはぐれ者であるのは否定しませんが……ともかくわたしにも確かにあったのです、無理難題へ無鉄砲に挑んでいたような時期が。そしてそうでなくなったからこそ、その輝きには目を細めるほかない、という話です」
──ふうん、そういうものなのか?
「ええ。年長者の心境とは得てしてそういうものなのです」
言ってノインは胸を張るが、その姿はあまりクレイよりも歳上であるとは想像し難い。エルフという種族の寿命を思えば当たり前なのだが、どうにも直感には反する。というか彼女の立ち振る舞いに年長者らしさを感じたことがない。
──前回、言っていたあの名実龍の弱点というのは?
なので、自分の興味のある方向に話題を誘導することにした。
「そういえば言いましたね、そんなことも」
──本当にあるのか? あの名実龍に、そんなものが。
「ええ、それはもう。龍の逆さ鱗とも言うべき決定的な泣きどころか」
──それは? どのように突けばいい?
「戦闘中につけるようなものではありません。そもそも不思議に思わなかったのですか?」
──何にだ?
「何故、クエステット王国などという所詮は人間の一集落程度に執着するのかということに。あれだけの力、それこそ勇者さまを鎧袖一触に仕留めるだけの破壊力を持った名実龍が、です。わたしからすると不思議で不思議でならないのですが…………恐らくはそれほど欲しいものがあったのでしょう」
唐突に疑問を投げかけてくるノインだが、言われてみればという気にもなってくる。
これまで、クレイは勇者として彼女から下された
偽のプラト=クラウ=クエステットとクレイ=プレイアーツとの関係はそれだけである。
しかしそのなかで偽王女こと名実龍はこのクエステット王国を蔑ろにしていた様子はなかった。
むしろ、クエステット王国という枠組みを誰より重要視していたように思う。
もちろん王女という肩書を名乗っていたのだからそのように装うことが必須であるのは承知しているが、クレイの視点からはそれだけとは決して思えない。
──欲しいもの、支配とか?
まず思いつくところとしては、そんなところである。
手に入れたいものだからこそ、大切に扱う。理にはかなっているはずだ。
「いいえ、全くの外れです。欲を抱くまでもなくあの龍はこの国を支配できます。国土を焼き払って、そこに寝転んでしまえば終わる話なのですから」
──なら、名誉欲?
「またしても不正解です。真正の龍ともなれば存在そのものが神に次ぐ徳ともなります。その次元からは数段劣りはするものの名実龍の徳もかなりのもので、今更新たな名誉など余剰でしょう。それに、真に名誉欲ならば他人に成りすましては意味がないのでは?」
──むう。だったら宝物が欲しいとか?
「彼女はそんな俗らしい願いを抱いてはいませんよ。いくら命を落としても宝箱を狙うあなたでないのですから。それに、名実龍としての本性を明らかにすればいくらでも衆愚どもは捧げものをするでしょう?」
──じゃあ、なんなんだ?
お手上げ状態で、クレイの考え得る範囲のなかに名実龍が望むものを推察することはどうやったって不可能であると音を上げた。ホールドアップ、もしくはギブアップである。
第一、クレイと王女は少ないながらも関わり合っていたが、あの名実龍としては薄っぺらいとさえも言えないものなのだ。分かるわけもない。
「正解は勇者さまが先程挙げたもの、全部でしょうね」
──それ、あり、なのか?
「わたしがありと言えばありなのです。そして、現に名実龍は欲しています。支配を、名誉を、宝物を。あるいはその他この世にあるものの全てを。ともすればあなたが相対した強欲罪源の体現者よりもあれは欲深いかもしれませんね、彼女」
──だが、それなら何でこちらの提案は不正解扱いなんだ? そもそも、それらは龍にとって不必要なものだち否定したのは当の君自身だろう? これはどういうことだ?
「そうですね。龍には支配も名誉も宝物も、その他全ても本質的に欲するものではありません。ですから、この事態を真に理解するには考え方を変える必要があります。具体的には欲する対象が違うのです」
──対象が違う?
「どれも龍には不要なものですが、人間の王女にはいくらあっても足りないものでしょう?」
龍という圧倒的なスケールの存在には支配も、名誉も、宝物も価値があるとするには小さすぎる。そんなのをわざわざ得ようと足掻くのは人類というちっぽけな生き物たちのみだろう。
だがら、それらを欲し得る必要があるものがいるとすれば必然、それは人間だ。
──まさか、わざわざ王女に化けていたのは……?
「ええ、龍の能力を以ってして王女の影武者を演じれば、それはもう余人とは比較にならない支配を、名誉を、宝物をを、本人に与えることが可能でしょうね」
──なんて、周りくどいやり方。
「それについては仕方がないでしょう。龍ならざる真の第一王女は既にこの世に影を落とさず、黙する者なのですから。偽り、仮初でも王女という器を用意しなければ愚者でも喝采を送りませんよ」
──は? 勘違いだと思うけど、本物の第一王女が既に亡くなっていると君は言っているように聞こえるが?
「そう言っていますから、それ以外に聞こえると困るのですが…………もしやまだご存じでなかったのですか? 勇者さま」
──初耳だが?
長らく龍が化けていたとあって、平穏無事だとは考えていなかったがよもや、そこまでとは。
勇者というある種、政治の外側の立場かつ生まれも庶民であるため詳しくはないが、この情報はクエステット王国を揺るがす大変なものなのではなかろうか。
プラト=クラウ=クエステットが、先王の正室の唯一の子である。
それゆえ、彼女が王位継承権第一位であり、次代の女王として国の方針は固まっていた。
賛否あれども異議はなし、というぐらいには。
だというのに、当のプラト=クラウ=クエステットは死亡しており、今現在次期国王として扱っていたのが化けた龍であるなど、明らかになれば国が乱れる。今まで埋まっていたと思っていた君主の席がその実空いていたということに他ならず、その蓋然性により決定的なナンバーツーも不在。約束された骨肉泥沼の権力争い待ったなしだ。
そのうえ、近年立て続けに起こった三度の飢饉で、民は国を信じていない。
クエステット王国を堅牢強固に支えるはずの基盤は案外、ぬかるんでぐらついている。
──だから、あの龍はあんなにも憤怒の形相で襲い掛かってきたのか。
納得する。
あの龍にとって、プラト=クラウ=クエステットでないことを白日の元に晒されるというのは二重の意味で神経を逆なでする行いであったのだ。
今は亡き真のプラト=クラウ=クエステットに捧げる追善供養を無為にされた挙句。
クエステット王国の安定を損ねるような暴露をされたのだから。
当事者であったのなら、クレイも存分に憤慨しただろうことは、想像がつく。
──これ、色々となかったことにできないか?
「名実龍が第一王女として扱われているのは、第四の神を崇める悲嘆派の哲人たちの工作によるものであることを忘れましたか? あなたが勇者としての責務を果たすには、悲嘆派による不正であるこの件を明るみにしない手はありませんよ?」
──それはそうなんだけど……。
いかんせん、元が庶民のクレイには荷が勝つ。
これまでも勇者という身分ゆえに聖剣を振りかざし、時には少なくない血を流してきたものだが、今回はスケールが違う。クレイは途方もなく問題にいつ間にやら放り込まれていた。
だが、その渦中に呑まれているからこそ、思うこともある。
──どうして、あの龍はそこまで……?
名実龍は献身的だ。
国の中枢に潜り込み、人類が勝手に定めただけの作法に従って、ちっぴなただ一人の人間のために影武者となる。その苦労や心労は今のクレイ以上だろう。
が、それを名実龍は手を抜くことなくひたむきに励んでいる。どんな事情があるかまではクレイには明らかなことではないが、相応の覚悟が求められる行いであるのは違いない。
「名実龍とプラト=クラウ=クエステット。その間に何があったかは、わたしも詳細はあずかり知らぬことです。ですが、プラト=クラウ=クエステットのもたらしたものは名実龍にとってその後の生き方を変えてしまえるほど大きなものだったのでしょう」
──龍が人間に絆されるなんてことが?
「ありますよ。誰かが誰かを思うのに条件などないのですから。名実龍はプラト=クラウ=クエステットのためにどこまでも生き抜くことを選んだ、それだけのことです。ですが、それゆえそこは弱点になります。彼女の私室にある本物のプラト=クラウ=クエステットとの繋がりを示す品などを盾にすれば、攻撃を躊躇い名実龍は大きく弱体化すること間違いなしです」
──嘘だろう? そんなことが許されていいのか!?
徳高いと名高いエルフが提案する戦術が、そんなに卑怯の代名詞めいたやり方でいいのか。
いや、エルフとか関係なしに人類失格レベルの卑劣さだ。
エルフと龍、永い時を生きる者同士故に通じ合うものなどの話かと思って聞き入っていたが全く違った。
「あなたがあの名実龍の弱点を聞いたのでしょう?」
──全部、そのための話だったのか!?
「ええ、わたし、無駄話はしない主義なので」
──それはそれで、嘘だろう。
ノインがときたましてくれる学院近くの美味しい食堂の情報なんかは世間話で、勇者に関する助言としては無駄に分類されるはずだ。そのほかにも彼女の話は脱線しがちであるので、無駄を省く主義だというのは頷きかねる。
「まあ、今回の総括はこんなところでいいでしょう。尺も押してますし、巻き戻すポイントはこちらで決めておきますね。では詠唱も省略で────
かくして、あり得ないほど適当な調子でセイヴァンドロードの秘奥の魔法は発動する。
緻密かつ端正に仕立て上げられた魔法陣の光にクレイの魂は呑み込まれ、生きていたかつてへと引き戻される。勇者としての運命の旅を終えるために。
──いや、せめて、栞だけは選ばせてくれぇええええええ!!!!
クレイの文字通りの魂の叫びを丸切り無視する形で。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔法学院、生徒会室。
未だ晴れ渡る青空が眩しい昼下がり頃だというのにその一室は暗い印象を受ける。締め切られた分厚いカーテンにより陽光が遮られ、光源が魔導燭台によるものだけに限られているからであり、唯一のそれらも並べられたタペストリーに向かっているため部屋の隅などは夜の暗がりと見紛うほどである。
とはいえ、さしもの聖地と名高い学院の生徒会室という場であっても、何も普段からこのように厳かなレイアウトであるわけでは無い。たった今、この場で対面している人物たちこそが問題なのだ。
片やセイヴァンドロードの裔の聖女。
片やクエステット王国、未来の女王。
どちらも一挙手一投足を以って国を、世界を動かしていく要人である。そんな二人が対面するというだけで外に知れたら、意味がなくとも意味が生じてしまいかねない。
それゆえ、生徒会室は異界と化していた。
窓を塞ぐカーテンの刺繍による魔法模様が仄か織り成す認識遮断をはじめとする幾重もの魔法的手法で、ここに外界と隔絶する結界が定められている。それも、結界そのものが外からの観測では察知できない性質を帯びさせて上で、である。
例え、生徒会室に用向きがあってとしても結界が存在すら気が付かぬうちに何もせぬまま来た道を引き返すことだろう。引き返した自覚も、そもそもの用事さえもを忘却させて。
それほどの効能を持った強固かつ精緻な結界は、けれども今にも決壊寸前だった。
何らかの結界を壊そうとするための力が働いているというわけではない。
この部屋で起こっているのはただ単に。
「クエステットにまつわるものよ。今、何と?」
ノインノルン=セイヴァンドロードの纏う魔力が一段階濃くなったというだけ。
ただそれだけのことが、周囲を威圧し、結界を乱しているのだ。
「ァ、グゥ……」
余りの圧に、プラト=クラウ=クエステットが息を吐き、呻く。
これほどの高濃度の魔力に満たされた空間は深海にも準えられる。そんな場に何の準備もなしに放り込まれば、どのようなものであれ、活動に支障をきたすのは当然だった。
「わたしは時の予言者として、賢明なる未来の女王に問うています。
「……ッ!」
さらに放たれる魔力が色濃く深まる。
結界は形を失い、常人ではもはやただ直立することさえままならないだろう。
「…………失礼ながら、それこそ無論です。この先に、いかなる裁決が待ち受けていようとも、私の身がいかようになろうとも、私は私自身の意思に基づいて、具申せねばならぬのです」
しかし、である。
プラト=クラウ=クエステットもまた常人ではない。
身体さえもを抑圧する魔力のなかでも、立ち上がり、面を上げると、ノインと相対する。
「
「クエステットにまつわるものにそこまで言われてしまえば、仕方がありませんね。いいでしょう、セイヴァンドロードの予言者としてあなたの覚悟を認めます」
観念したように嘆息を一つ漏らすノインと期待感に目を見開くプラト。
先程までノインから発されていた殺人的な魔力は嘘のように静まり返っていた。どんな手品か、奇跡か破られた結界もノインの手で詠唱もなしに、それまでより強固に補修されている。
穏やかな雰囲気が両者の間に流れる。
「でしたら……!」
「いまやクエステットにまつろい、いずれクエステットを統べるはずの名実龍よ。贖いなさい。セイヴァンドロードの禁則に触れたその罪を、命を以って」
「そこまで、まさか把握して────」
が、そんなこととは関係なしに交渉は疾うに決裂していた。
ノインは偽りの王女の正体を看破したうえで、厳かに告げた。
「
運命の札が舞う。
死が、静かに牙を剥く。
威圧の魔力が仕舞われたのも、結界が修復されたのも決して一触即発の空気が弛緩したためではない。
むしろ、その逆。ノインは冷静に、冷徹に罪人を処断するための最適な場を整えたに過ぎない。
命を刈り取るつもりならば威嚇は不要で、学院の生徒会室で戦闘するならば隠匿のための結界がある方が都合がよい。
「────がぁ!」
そんな当たり前を読み違えてしまったプラト、否、名実龍がその必死の魔法を避けられたのは単なる幸運の産物だった。人間に化けるために複数身に着けた
正に九死一生の命拾いだ。
けれども、名実龍だって見通しの甘い楽観主義者ではない。
殺意を持ったセイヴァンドロードの予言者の攻撃がこれで止むとは露ほども思っていない。
愛用する戦斧を掴む。もはや対立は免れない。彼女の決意と正体を指し示すように足と手が分厚い鱗に覆われていた。
この場には二人以外おらず、そのノインが真実を知る以上、出し惜しみする理由もない。
いや、後先考えて持てる手札を出し惜しみしている余裕など一欠けらだって残されてはいない。
だから、名実龍は戦斧を構え、詠じる。
「
戦斧は仮にも王女に化けたものが握るだけあって、一級品だ。
そう一級品であって、伝説伝承の逸品ではない。
それでセイヴァンドロードの予言者に抗うには余りに心もとない。
かといって王女の身分を利用したとして、いや今のプラト=クラウ=クエステットの複雑な立場を思えば、余計にこれ以上の品を入手するのは難しいのが現実。
「
されど、そのための魔法はある。
単なる上質な量産品止まりの戦斧であったとして。
龍族の莫大な魔力を用いて、指向性を持たせて強化すれば逸品にも劣らぬ威力を発揮する。
いかにセイヴァンドロードの血筋といえど、短いスパンでの魔法の連射は難しいはず。その凪のように生じた間隙に重たい一撃を叩きこむ。名実龍にある唯一の活路はそれだけである。
「汝、
龍は物質界最強であり、それゆえ魔法を使う必要はないなどというのは時代遅れな価値観であると名実龍は判ずる。魔法を使って価値があると思えるものを、思えたものを守れるのならば積極的に導入するべきだ。
本流直系でもないこともあって、名実龍はそのようなプラグマティックな思想の持ち主であり、埃被った誇りを理由に魔法を容れぬ同族をどこか侮蔑的にも考えていた。
そして、その考えは正しい。魔法の有用性は龍にとっても多分にある。
どこかの世界で、この世界を戯画的に表した
もっともそれは。
未来を見通す時の予言者を前にしていなければ、の話であるのだが。
略式ですらない詠唱などノインノルン=セイヴァンドロードは悠長の一言で棄却する。
「
逆さまの愚者の札が象徴するのは、無計画。
それが運命という形で予言者から名実龍へと采配される。
魔法とは認知において精密子細な式を構築して、ようやく現実を改変し影響を及ぼせるような繊細極まりないものだ。そこに全く無意味な要素を外から無計画な干渉を受けでもしたら、それは途端に破綻するだろう。
「────汝、既に汝に非ずな、り……?」
ちょうど今、このときのように。
詠唱は無為となり、戦斧に付与されるはずの強化は霧散していった。
見通しが甘かった。楽観主義者の都合のいい虚妄であった。
魔法と魔法の隙をついて、一撃を振るう?
たった二節の詠唱でこれほどの能率を叩き出す怪物を相手に?
そんなもの全くもって、夢物語もいいところではないか。
「
いかに名実龍が打ちのめされたとしても、ノインに猛攻を緩める理由はない。
ノインノルン=セイヴァンドロードが携えた錫杖の先端に、彼女の周囲に浮かぶ札たちが集う。
そして札は魔力の光となり燃ゆる焔のごとき鋭い穂先を形成し、杖を槍へと変えていく。
「────
魔物を鏖殺する神秘。神与の祝福による絶技。
★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
暴力……!! やはり暴力は全てを解決する…………!!
ああ、暴力はいいね。人類の生み出した文化の極みである。
事切れ横たわる名実龍の亡骸を見下ろしながらわたしは確信を深めていく。
失くした『
だけど、無いものを求められてもどうしようもない。無い袖は振れない。屏風の虎を捕まえてみせろと言われても屏風から出してから一昨日きやがれという話である。どこから、どう考えても
つまりわたしは悪くない、だってわたしは悪くないんだから。
というわけで、わたしは名実龍を撃破した。
龍族絶対殺したるスピアとファンに呼ばれている
物質界最強で、並び立つものなしの硬度を誇る龍族といえど、魂や運命に直接作用する防御無視属性攻撃で殴れば案外に脆い。
ちなみにこの
原作ノインノルン=セイヴァンドロードの再現でもある。
『勇星のみたま』の本編後やDLCで戦える彼女はあらゆる能力を使ってくる。あらゆるとは文字通りで、『勇星のみたま』シリーズに登場するすべての魔法、スキル、
敵だけ楽しそうなタイプのギミックボスなので、苛立ちで昇った血がノスタルジーなどきれいさっぱり洗い流すのだが。
そんなこんなでわたしは名実龍に最も有効な
いや思い返せば、第八作の
大切なのは、今後の名実龍の処遇である。
まあ、雑に蘇生魔法をかけておけばいいだろう。わたしだって原作キャラの名実龍を殺したくはないとここに明言しておく。ただ『
要は「おまえ次やったら本当にコレだからな」という態度を名実龍相手に示して諦めてもらう必要があったのだ。そのための脅しとしては、
てなわけで詠唱破棄で、蘇生魔法ぽいー。
脈と息とが正常に再開される。龍相手に使うのは初めてのことなので、緊張したが問題なさそうだ。
自分でしといて、なんだがゲームの世界というだけあって、命の扱いが軽い。そのあまりの軽さに、この手軽さでクレイにも蘇生魔法を使えたら楽だったのだろうと溜息が漏れ出す。
使えないことはないだろうし、一応死亡時パッシブで発動するようにはしてあるけど、わたしの精神安定剤以外の意味はない。
何せクレイは勇者だ。
絶命すれば、その魂は『旅人の霊廟』へと誘われるだろう。一見すると魂が確実に保管されるという安心設計に思えるが、『
なんで、そんな面倒な状況になってるのかな?
勇者の旅路に達成不可能なほどの制約を課した犯人は誰でしょう? そう、わたしです。
やっぱこれ、ノインノルン=セイヴァンドロードが腹を切ってお詫びします案件なのでは……?
ともかく一旦、名実龍関係の問題はこれで終わりにしておこう。
後で色々と対策を練る必要はあるかもしれないが、今考えてもしかたない。
とりあえず、クレイに追従させてる使い魔から近況を確認しておこう。
「それでは行きましょう、クレイさま」
「うん。そうだね、ソロン」
クレイ、女の子と一緒に歩いてる…………クレイが女の子と一緒に歩いてる!?
え? この短期間で友達出来たの!? あの無口無愛想無表情で!? どういう手品!?
わたしよりもコミュ力ない!? わたし、転生してから友人ほぼゼロだよ!?
……………………まあ、いい。
というか、普通に喜ぶべきだ。
一歩
シンプルにここまでクレイを育ててきた後見人として、これまで鍛錬ばかりで作る機会を与えられなかった友人ができるのは喜ばしいことである。
さて、はて、お相手は誰かな?
この段階で仲間になる女性といったら、ノンデリセイバー? 守銭奴重戦士? はたまた没落魔法使いとか? この辺りがストーリー的にはあり得るラインだが、この世界はゲームではない。一体全体、クレイはどんな友好関係を築いたのだろうか。
使い魔に命令を下して、クレイの友人の顔を確認する。
あれは……誰だ? いや、本当に誰? 少なくとも先程挙げた三名ではない。
となるとモブというか、ゲームでは登場しなかった人物だろうか。その可能性は十分あるし、なんなら割合を思えばその可能性の方が高い。が、なんいうか妙に引っかかるというか、面影に覚えがあるというか。
覚えはそう確か、『勇星のみたま』公式ガイドブックだ。
そこでは本編に名前だけ登場した人物のヴィジュアルなんかを公開していて、彼女の顔はそのなかの一人に似ている。そうそう、名実龍が化けていた対象で本編開始に諸事情で亡くなったはずの人物。それが成長したのなら、きっとこんな感じだろう。
ん? あ? え? そういうこと?
はあ?? じゃあなに?? なんですか??
本当の本当に影武者じゃない本物のプラト=クラウ=クエステット???
なぜいきてるんです???? ほんとに『勇星のみたま』ですか?????
…………もしかして、わたし、まだ何かヤバメのやらかしとかしてますかね??????
続きですか? よく知りませんが皆様のご自分の脳内のほうへ行かれますね。