未知を駆ける福音   作:Blackiel

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 いつも読んでくださりありがとうございます、投稿主のユウです!


 本日はpixivで投稿している『最凶の女』、『【慈愛】』を統合したものを投稿します。




最凶の女 / 【慈愛】

 

 

 オラリオから少し離れた位置にある宿屋街、そこで宿屋を営む者達の多くはオラリオに向かう夢見る冒険者志望の子供など、騙せそうな者を見つけては宿泊代を通常よりも高く設定するといった、こずるい悪事を頻繁に行っていた。

 

 そんな性悪な店主たちは今一人の例外もなく腰を抜かし震えていた。特にとある宿屋の店主に至っては汚物で濡らし今にも気絶しそうな有様だ。しかしそれは許されない。何故なら目の前にいる恐怖の権化が許さず、意識を落としそうになれば手に持つ鞭でしばかれるからだ。

 

 店主はわからない。何故自分が、自分達がこんな目に合っているのかを。己の所業を棚に上げているような発言ではあるが、悪事を続けて十数年、彼らは己のした悪行に関して、もはや悪行として認識すらしていなかった。

 そんな「何故…」と疑問を微かに残る思考領域で疑問を投げていると、目の前の恐怖が語り出す。

 

 

「さて…」

「っ」ガクガク

「その汚物を見るのも寒気がするが、答えよ。」

 

 

 冷静に語りかけているようでその声色には一切の容赦を感じられない。

 

 

「貴様は今から半年ほど前、【白兎の脚(ラビット・フット)】を騙したと聞いた。事実だな?」

「ら、ララ【白兎の脚(ラビット・フット)】?い、いや俺、私はそんなk「黙れ」ひっ」ガクガク

「貴様があの子を騙しその後いらぬ苦労を掛けた要因の一つであることは調べがついている。」

 

 何故、今更。それが店主の本心だった。騙したといっても通常料金の2倍を吹っ掛けただけではないか。何故その程度のことで俺がこんな目に…。

 

 十分な理由ではあるが、もはや彼に悪意すらない。正直言って手遅れな性悪根性である。

 だが目の前の女性にとってそんな些事などどうでもいい。

 

「反省の色も見せぬとは、この一帯は昔から性根が変わらんと見える。潰しておこうか」

 

 すると先ほどまで宿泊街に漂っていたプレッシャーがさらに増した。この街にいる者達の多くは冒険者と関りはあっても冒険者本人ではない。故に自分達がかけられたプレッシャーが神威(・・)であることに気付かない。

 

 もはや店主が発せられる言葉はない。逃げ道もない。

 

「ひっ、…あ、ぅあ…っ」ガクガク

「と、常ならそうだが今回は急ぎだ。命拾いしたな店主」

 

 途端プレッシャーが消え去った。無意識に止めていた呼吸を再開し、店主は荒い息と共に助かったことに安堵する。

 しかし、

 

「だが」

「ひっ」

 

 店主の目の前に女性の絶対零度の瞳が映る。そして器用にも彼だけに向けて先と同僚のプレッシャーが放たれる。

 

「もし同じようなことを、いや。あの子に悪意を向けてみろ。次はない」

 

 店主はとうとう気絶した。閉じかける瞳にゴミを見る目で宿を去る女神を残して…。

 

 彼、彼らはその後、同じような悪事を働こうとすると、今日起きたことを思い出し宿を畳むものが増えた。

 

 

 

(さて、オラリオまであと少し…。だが先のあれ(・・)は一体)

 

 この女神は元々、オラリオから遠く離れた場所で隠居していた女神だった。しかし、先の【フレイヤ・ファミリア】vs【ヘスティア・ファミリア】の派閥大戦を聞き急いでオラリオに向かっていた。

 

 隠居故に移動手段が乏しく、急いで向かうも派閥大戦に間に合うことが出来ず、様子を見ながらも向かっていた。もし【フレイヤ・ファミリア】が勝利した場合は自分が持つ全てをもって【フレイヤ・ファミリア】を文字通り消そうと考えていた。しかし、【ヘスティア・ファミリア】の勝利を確かめもはや自分が向かう理由はないと引き返していた。

 

 本音を言えば渦中の子に一目会いたいが、己にその資格はないと律して引き返した。本来であればそのままこの女神は引き返し、【ヘスティア・ファミリア】と会うことはなかった。だが、現在この女神は引き返した足を再び戻し、かき集めた情報を基にいくらか潰しながらオラリオに向かっていた。

 一体何故か、それは…

 

 

7年前消滅した己の眷属の気配がしたからだ。

 

 

 本来それはあり得ない。しかし己が刻んだ【恩恵】に由来した感知だ。それを何億と生きた己が間違えるはずもなく、その気配は今もなおオラリオの方向に存在している。

 

 

 故に女神は向かう。場合によれば己の眷属の身体をいじった不届き者の可能性もある。その場合、自分はかつてないほど怒り狂うだろう。己に残されたあらゆる手段を使って、最悪己の送還・消滅覚悟で滅ぼしてくれる。故に…

 

 

 

(待っていろ、アルフィア、…ベル)

 

 

 

_______

 

 

 

_オラリオ内【ロキ・ファミリア】拠点【黄昏の館】_

 

 

 現オラリオ最強ファミリアが構える応接室には神と眷属がいた。【ロキ・ファミリア】からは神ロキ、幹部陣が、事態を聞き駆け付けた【ヘスティア・ファミリア】からは神ヘスティア、リリ、リューが来ていた。

 

 しかし、応接室に集まった者達の表情は主に3つに分かれていた。

 

 目の前の衝撃映像に目頭と頭を抑える者(主に神ロキ・リヴェリア)

 目の前の空間からどう本題に切り替えるべきか真剣に悩む者(主にフィン・ガレス)

 自分の宝を掻っ攫われた現状に憤慨し言葉がまとまらず震える者(主に【ヘスティア・ファミリア】勢)

 

 彼らをここまで悩ませ、震えさせる原因、それは…

 

 

「ふむ、やはりお前の髪は撫で心地がいい…」

「え///、あ、あの…ありがとうございます」

「なんだ?照れているのか、可愛いやつだ。そこは変わらないのか」

「あ、あの、アルフィアさんは、僕のことを知っているんですか?」

「あぁ、良く知っているとも。お前ではないがな」

「?あの、それどういう」

 

 

 ベルとアルフィアのイチャイチャ空間が原因である。この空間に誰が本題を出そうかと周りが視線を互いに向けていた、その時…

 

 

「ふがぁ――――っ!いい加減にしろ!僕のベル君から離れるんだ!というかベル君も何されるがままなんだ!」

「か、神様…。それが離れようにも離れられないんですよ!」

「…はあ、全くこちらでもうるさい女神だな。しかしベル、そんなに私から離れたいのか?」

「え、あ、いや…それは、だって、初対面の女の人だし…」

「ふふふ、やはりお前は可愛いな」

「僕を無視してイチャイチャするなーーーーっ!」

 

 

 ベル・クラネル大好き女神としてもはやオラリオ中で有名なヘスティアが割って入った。本来フィンたちの良く知るアルフィアであれば神ヘスティアを吹っ飛ばすくらいはするが、このアルフィアはヘスティアに対して軽くため息をこぼす程度だった。

 

 これまで感じている違和感がさらに強くなりながらもフィンはこれを機に本題を投げかける。

 

「さて、【静寂】。戯れているところ悪いけど、本題に入らせてもらうよ」

「チッ、まぁいいだろう。その前に」

 

 アルフィアが再び話を遮り、フィンを睨む。

 

「あのクソ神はどうした?魔道具はそこにあるようだが、私はあのクソ神も来ることを条件としたはずだが?」

「あ~、それはね…」

 

 そう、元々アルフィアが話し合いの条件として提示したクソ神こと、神ヘルメスがこの場にいない。故にアルフィアはベルを構い倒していたのだが、しばらくしてもヘルメスが来る気配はない。挙句フィンも言いよどむ始末、それはなぜか…

 

「逃げた、と…チッどうせそこらに隠れているはずだ。探せ」

「もちろん、探しているさ。僕たちも事の次第を聞きたいからね。ただ、どうやら魔道具でも使っているのかベートでも見つけられなくて…」

 

 現在、この応接室には【ロキ・ファミリア】幹部陣がいるがベートだけはヘルメス捜索のためいない。しかし、獣人で第一級冒険者たるベートを始め【ロキ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】による人海戦術でも捕まらない。そこはさすがヘルメスというべきか…。

 

 

「ふん、なら話し合いはせん。さぁベル、お前の話の続きだ。私に聞かせてくれ」

「えっ///あ、はい…でも」チラッ

「ああ、ベル・クラネル?彼女を街にこのまま放りだすわけにはいかないんだ。申し訳ないが話せる範囲で良い、彼女をここに留まらせてくれるかい…」

「え…あ、はい。わかりました」

 

 

 すでにフィンは疲れ始めた。ベルもそんなフィンの様子からもアルフィアとの話を再開した。ちなみに【ロキ・ファミリア】他幹部はベルに構い倒そうとするアルフィアに飛び掛かろうとする【ヘスティア・ファミリア】勢を抑えている…。

 

 

 

_______

 

 

 

 ベル・クラネルの主神ヘスティアは憤慨していた。しかしそれも致し方なし…

 

 今日もバイトに明け暮れていたらいきなり轟音が鳴り響き客はいなくなり理不尽に起こられた。その後騒がしくなり、ロキの子どもたちが来たかと思えば、また自分の大好きな眷属がどこぞの女をひっかけ面倒事に巻き込まれたと言うではないか。急いでロキの拠点に来てみれば、件の女がベルを構い倒し、当のベルもまんざらではないようだ。(一部ヘスティアの独自解釈が含まれる)

 

 もう一度言おう、憤慨せずにはいられない!

 

(以下ヘスティアたちの小声相談)

「ちょっとっ【勇者】君、ロキ!あの子どうにかできないのかい?!あんなにも僕のベル君にベッタリなんて!普通もう少し段階とかあるだろ?!なんでいきなりあの子、ベル君への好感度マックスなんだい!」

「いやぁ、僕もこれに関してはわからないんだ神ヘスティア。僕の知る彼女はもっと苛烈だったはずなんだけど…」

「ウチに当たんなやドチビっ。こっちもいきなりあの【静寂】が蘇った言われたって混乱しとんねん。おまけにドチビの子に激甘ってあれほんとにあの【静寂】か、フィン?」

「少なくとも僕らに対する態度とか諸々は僕の知る【静寂】で間違いないはずだ。ただ、ベル・クラネルに対する態度だけがわからない。あれだとまるで、ベル・クラネルと並々ならぬ関係があるようにしか見えない。それに…」

「それに?」

「彼女を捜索していたとき、商店街にいた人たちが彼女が自分のことを「しばらく前からオラリオに暮らしている」と言っていたと証言しているんだ」

 

 アルフィアがまだ廃教会に着く前に行っていた買い物で話したいくつかの店の証言だ。彼女を知らない彼らが同じ証言をしている、十分な信憑性がある。しかし、

 

「なんやと…。いやそれはおかしいやろ」

「ああ、おかしい。それならこの場にいる全員いや、オラリオの住民がこれまで見かけないなんて…」

 

 ここにきてフィンたちも目の前にいるアルフィアの違和感が明確になってきたことを認識する。しかし、彼女を召喚した張本人が捕まらない事には話が進まない。

 

 

 

 

バンッ

 

 フィンたちが今持つ情報で考えをまとめていた、その時いきなり応接室の扉が勢いよく開かれる。室内にいた全員がそちらに振り返ると…

 

 

 

 

 

「」チーン

「ふん」

 

 ぐったりと気絶するヘルメスとそれを抱える見知らぬ美女がいた。

 

 

_______

 

 

 

時は少し遡り…

 

 

 【ロキ・ファミリア】に事の次第を報告したヘルメスはオラリオから抜け出そうとしていた。

 

 何故かはわからないが、召喚系アーティファクトで死んだはずの【静寂】が現れた。しかも出現早々不機嫌で殺気マシマシというおまけつき、ことの発端とも言える自分が苛烈な仕置きがされることは想像に難くない。最凶たる【ヘラ・ファミリア】に由来する仕置きなぞ、どこの神もごめん被ると言うだろう。

 

 本来であれば7年前の大抗争で多くの被害を出した【静寂】を野放しにするべきではなく、ヘルメスも制裁覚悟でもオラリオに残るべきだろう。だが、ヘルメスは知っている。

 

彼女が実際に殺したものは一人もいないことを

彼女が出した被害と言えば露払いによる怪我人十数名くらいであることを

実際今回召喚され牙をむいた彼女に対峙したアスフィたちも重態ではあっても回復魔法で十分直る程度であることを

彼女が大抗争に敵側として参加した動機からも今「英雄候補」のいるオラリオに牙を向けることはないことを

 

 しかし、ヘルメスも以上の理由ならまだ逃げずにいた。ではなぜ逃げたのか、それは…

 

(僕がベル君にしたことを知れば最悪送還されかねないっ)

 

これに尽きる。ヘルメスは知っているのだ。

 

彼女がベルの叔母にあたることを

彼女にとってベルの母親は唯一の宝物であったことを

 

 その宝物が残した唯一の子どもがベル・クラネルなのだ。彼女がもしベル・クラネルと出会い、自分がこれまでベル・クラネルにしてきたことを知れば……。

 

(ただでさえ苛烈な仕置きが、ヘラ直伝の拷問術になるに決まっているっ。はやく隠れないとっ)

 

 既に治療院にいるアスフィや団員達には指示書を残している。あとはほとぼりが冷めるまで身を隠す。幸いヘルメスにはこれまでアスフィが制作した隠密特化の魔道具が複数ある。これにより聴覚・嗅覚の優れた獣人たちでさえ捜索不能の逃走が可能になっている。

 

 

 件の騒動により人も少なく、門番もいるにはいるがばれることはない。ヘルメスは難なくオラリオの門を抜けることに成功した。

 

(ふぅ、これで一安心だ)

 

 あとは近場の宿屋にでも身を隠せば…。そうヘルメスが歩きながら考えていると向こう側から女が歩いてくるのが見えた。安堵した拍子で何かの間違いで見つかる。そんなオチにならないよう気を引き締めるヘルメス。

 

 女がすれ違いオラリオに向かう。ヘルメスが再び安堵したその時、

 

ガシッ

「がっ?!」

 

 後ろからいきなり首をつかまれ地面に倒れ伏す。

(何故ばれた?!無音無臭に加え気配も消えているはずなのにっ)

 

 ヘルメスは強くつかまれた状態から何とか自分を捕まえている者を見る。犯人は先ほどすれ違った女だった。十分に美女と言える容姿だが、気配からして恩恵は授かっていない。こんな女性をヘルメスは知らない。まさか闇派閥(イヴィルス)が利用した一般人かと考えを巡らすヘルメス。しかしその予想は大外れなものだった。

 

「相変わらず隠れることが得意なようだな、ヘルメス」

「っき、君は一体」

「この私が貴様程度が出来る気配の遮断に気付かぬとでも思ったか。自分に自信があるあまり考えが一部甘くなるのも変わらぬと見える」

 

 明らかにヘルメスのことを知った風に語る女。訝しむヘルメスに対し、女は漂わせる気配をガラリと変える。それはヘルメスにとって一番出会いたくない人物であることを察するには十分だった。

 

「まさかたった数年で私の得意とすることを忘れるとは…。さしもの私とて、いくらか残念に思うぞ。なぁ、ヘルメス?」

(あ、おれ…おわった)

 

 ヘルメスの意識はそこで閉じた。

 

 

_______

 

 

 時は戻り…

 

_【黄昏の館】応接室_

 

 

 いきなり登場した美女と捜索していたヘルメスが現れた。だがこの場にいる多くの者は気絶したヘルメスをつかんでいる見知らぬ女に警戒していた。

 

 最初に口を開いたのはフィンだ。

「誰だい、君は?ここに来るまでに門番や団員たちがいたはずだが」

 

 そうこれまで誰もこの女が侵入したことを知らせるものはいなかった。しかも争いが起きた様子でもない。この応接室は【黄昏の館】内部にあり、盗聴防止は施されているが外の騒音が聞こえないことはあり得ない。つまり目の前にいる女は誰とも対峙せずここまで来たことになる。

 

「黙っていろ【勇者】、貴様らが捜していたのはこの男だろう?オラリオから逃げているようだったが私も話を聞きたかった故連れてきてやった。しかし…」

 

 女の不遜な物言いにティオネが飛び掛かろうとするがフィンが手で制す。言葉を続けた女はフィンから奥にいるアルフィアに目を向けた。

 

「まさか、本当にお前がいるとはな…アルフィア」

「誰かと思えばお前か、こちらでも変わらないようだな」

「なに?………いや、なるほど私の知るお前ではないと」

「察しの良さも変わらずか、ここにいる者は察しが悪く困る」

 

 なにやらアルフィアと旧知のように話し、アルフィアの少ない言葉から事情を察す女。いったいこの女は誰なのかあわや戦闘態勢に入ろうとする【ロキ・ファミリア】勢をよそに、次に口を開いたのは意外にもヘスティアだった。

 

 しかし彼女が口にした名前にこの場にいるアルフィア以外の全てが驚愕することになる。

 

 

 

 

「へ、へへ、ヘラァ――――っ?!えっなんで君がここに?!」

「「「「は?」」」」

「ん?あぁ、久しいなヘスティア。降臨していたのは知っていたが会いに来ずすまなかったな」

 

「「「「はぁーーーーーーー?!」」」」

 

 

 黒竜討伐失敗による追放から15年、かつてオラリオ最凶を誇った【ヘラ・ファミリア】が主神、ヘラ。

 

 

 15年の時を経てオラリオに再び降臨

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

 【ヘラ・ファミリア】

 

 

 それはこのオラリオに1000年近くも前から君臨したファミリアの一つ。【ゼウス・ファミリア】と共に人類の命題としても数えられる「三大クエスト」の二つの完遂に大きく貢献し、オラリオ最大派閥として名を馳せた。しかし、15年前の黒竜討伐の失敗によりファミリアはほぼ壊滅、闇派閥(イヴィルス)の活性化に伴い、【ゼウス・ファミリア】と共にオラリオ追放となった。

 というのが一般的な見解なのだが、【ヘラ・ファミリア】に関しては別の意味合いもあった。それは…

 

 

”主神ヘラが恐ろしいから”

 

 

 これに尽きた。

 

 

 【女神ヘラ】

 

 

 【ゼウス・ファミリア】が主神ゼウスの妻であり、結婚・母性・貞淑を司りし女神だ。ただ拷問・恐怖・圧制を司っているのでは?と思われるほど苛烈かつヤンデレな面を持ち合わせ、ゼウスの醜聞が広がればその制裁を加えるために当時多くの者が巻き込まれた。また、己に逆らうものは何人たりとも許さぬ姿勢を貫き、ある意味オラリオを闇派閥(イヴィルス)以上に恐怖に陥れた女神でもある。

 

 余談だが、【女神ヘラ】は拷問のエキスパートでもあり、【ヘラ・ファミリア】に入団した者はこの拷問術を取り入れた訓練を受けると共に、拷問術を身に付ける。故にかつて【ヘラ・ファミリア】の団員に教えを乞うた数名の冒険者が

 

 

「…やめろ、思い出させるな」ガクガクブルブル

「な、なにが手始めだ…、あんなの拷問じゃねぇか」ガクガクブルブル

「し、知ってるか?モンスターって同種でも臭いが違うんだぜ…」ガクガクブルブル

 

 

と残し、冒険者稼業を引退したという伝説があった…。果たして本当だったのか、もはや知ろうとする者はいない…。

 

 

 そんなオラリオにおける恐怖の象徴、最凶最悪(クレイジー・サイコ)超絶残虐破壊衝動女(ハイパーウルトラヒストリー)の異名を持つ嫉妬の女神、ヘラ。

 

 それが【ロキ・ファミリア】の応接室に突如姿を現した。

 

 

 

_______

 

 

 

 【ヘラ・ファミリア】団員たるアルフィアとのやり取り、天界では同郷たるヘスティアの驚愕、それが今注目を浴びる女性があの【ヘラ】であることを証明していた。

 

 

「いやおかしいやろ?!門番は?!てかガネーシャ何しとんねん?!」

「チッ喧しいのは変わらずかロキ」

「というより見ればわかるだろ。ヘラ得意の変装と潜入だ。生ぬるい者共が気付くわけもあるまい」

 

 

 オラリオ門番どころか大手ファミリアの門番を素通りしてきたことと、目の前の女性の差異をロキが突っ込む。

 

 

「せやかて、これのどこがあの【ヘラ】やねん?!変装にも限度があるで!」

「あ”?」

 

 尚も突っ込むロキに【女神ヘラ】?はドスのきいた声を出す。

 

 同じく【勇者】もまだ衝撃で戻っていない仲間に変わり、見抜いたヘスティアに声をかける。

 

「…神ヘスティア、あの女性は本当に神ヘラなのかい?僕には全くの別人に見えるんだが…」

「あぁ~…【勇者】君、あれは間違いなくヘラさ、僕が保障するよ。まぁゼウスを本気で追いかける用のガチの変装だから判るのは僕含めて一部だろうね…。ほら【神の力(アルカナム)】を全く感じないだろ?あれ出来るのあの子だけじゃないかな?」

 

 ヘスティアは「無理もない」と苦笑い。無理もない、今この場にいる全ての者の目に映る【女神ヘラ】?はかつて記憶にある【女神ヘラ】とあまりにかけ離れているのだから。

 

 

 同じく美人ではあるのだが、髪形から髪色、肌、目の色、骨格、身長、挙句纏う雰囲気まで異なる。「変装」と称するにはあまりにも違いすぎた。極めつけに下界の子が「神」を認識する最大の点である【神の力(アルカナム)】さえ一切感じられない。少し前に似た事例があったが、あれとはまた違う。

 

 

 「整形」と言われても違和感のない姿にロキ含め多くの者が驚愕している中で【女神ヘラ】?は持っていたヘルメスを無造作に放り、おもむろに手を己の顔のエラ付近にあて()を剥がした。

 唐突の行動に誰もが目を向いていると今度は肩・肘・腰を「コキッ」と鳴らしていく。

 

 すると剥がれた皮の下からは先とは違う美しい顔が、音を鳴らした身体はより細く・高くなり、先ほどの「美しい女性」から「美の女神と見紛うほどの美女」に変貌する。その美貌、纏う雰囲気、まぎれもない【女神ヘラ】である。

 

 

「ふん、これで問題あるまい」

「ルパンか己は?!」

 

 

 突然披露されたびっくりショーにより驚愕に静まり返った室内に、ロキの咆哮がこだました。

 

 

 

 

 

 

 少しの騒動から少し経ち、ようやく落ち着いたが突然来訪したヘラをどうするか悩む中、ヘスティアが声を上げる。

 

「突然来たことには驚いたけど、元気そうじゃないかヘラ。それにしても何故来たんだい?結構離れたところで隠居してるって聞いてたけど…」

 

 それはこの場の誰もが知りたいこと、全員が二人のやり取りに口を挟まず耳を立てる。

 

 

「心配をかけたなヘスティア。私はこの通り問題はない。ここに来たのは、…その、あれだ…」

 

 ここで何故か言いよどむヘラ、どうしたのかとヘスティアが疑問符を浮かべていると、

 

 

 

「フレイヤとの【派閥大戦】が、あっただろ?」

「ああ、この前ね。…もしかして応援に来ようとしてくれたのかい?」

「ああ、あの人を追いかけているときに小耳に挟んでな。居ても立ってもいられず急いで来たのだが無事で安心した」

「は?!」

 

 ヘスティアが驚愕の声を挙げる。声こそ上げてはいないが、フィンたち(少なからず【女神ヘラ】を知る者)もその顔は驚愕に染まっていた。

 

 

「君がゼウスよりも僕たちの【派閥大戦】を優先したのかい?!君が?!」

 

 同じ言葉を繰り返す程度には驚くヘスティア。しかしそれも当たり前、ヘラとはそういう人物なのだ。何が起きてもゼウスの浮気を知れば制裁のために周りに意識を向けず追い回すことを何十、何百と繰り返してきたのだ。もし彼女の行動をそらすものがあるとすれば、彼女が愛した者に何か起きた時くらいだろう。

 

 

「そう驚くな、私とて心配もする。それに、お前の所には…」

「?」

 

 

 再び言いよどみ何故かためらいを見せるヘラ。かつて見たことのないヘラの表情に本気で心配になったヘスティアだが、言葉の続きは別の者が続けた。

 

 

「この子がいたから。そうだろう、ヘラ?」

「…え?僕、ですか?」

 

 頭をなでるのは止めるも未だ身体をベルに寄せるアルフィアが言いよどむヘラの言葉を当てた。

 

 

 

 

 

 これまで一度も面識のなかった元最強ファミリア主神から心配され、困惑するベルとベルにそれほどの何かが隠されているのかと思考を巡らせる者達。しかし答えはすぐに返ってきた。

 

 

「ベル、これから語ることはお前にとって気分のいいものではない…。話を聞いて恨んでくれてもいい」

「え?」

「他の者にも話すことになるが今から話すことは他言無用だ、いいな?」

 

 

 あのアルフィアでさえ言いよどむ内容、この場にいる者達もこれから話すことはそれほど重要、もしくは秘匿すべき内容であることを察す。

 

 

「もちろんだ、僕たちもベル・クラネルにはいろいろ恩義があるからね。それに個人的にもベル・クラネルとは友好でいたいしね」

 

 

 これまでのベルとの関係も踏まえ、代表してフィンが宣言する。それを見たアルフィアもヘラを一瞥して口を開く。

 

 

「いいだろう、では話すとしよう…」

 

 

 

 

 

 

「まず、ヘラがオラリオまで来た理由はベルだ。母親が己の眷属だったからな」

 

「「「「?!」」」」

 

 いきなりの衝撃話に一同が驚愕する。

 

 

「そいつの名前はメ―テリア、ヘラ・ファミリアにいた回復者(ヒーラー)だった。貴様らも少しは覚えがあるだろう?私の妹だ」

「まさか、【慈愛】か?」

「あ、思い出したヘラがちっとも外へ出そうとしなかった奴やろ?!」

「そういえば確かにいた…、いや待て彼女が母親だと?!父親は命知らずか?!」

 

 【慈愛】、それがベルの母親メ―テリアの二つ名だった。15年前にもいたロキ達もヘラが囲っていたため直接面識が無く、言われるまで思い出すこともなかった存在。しかし、姉であるアルフィアだけでなくあの(・・)ヘラが囲むほど可愛がった女性が母親、つまりは孕ませた奴がいるのだ。当時【ヘラ・ファミリア】には男はいなかった。つまり…

 

「父親は…」

「ヘラに消されたんとちゃう?」

「え?!そんな…」

 

 かなり物騒なことが囁かれ、ようやく自分の両親の話を聞くことが出来るのかと思ったベルが驚愕しながら恐る恐るヘラを見る。

 

「!待てベル。消してなどいない!だからそんな目で私を見ないでくれ…っ」

 

 ベルに怯えられ慌てて弁明するヘラ。

 

「確かにあの子の妊娠が発覚したとき私は絶句した。しかしそれが分かったのは黒竜討伐失敗の後だった故、男の方は死んでいる」

「ちょい待て、黒竜っちゅうことは…。まさか」

「そのまさかだ、ベルの父親は【ゼウス・ファミリア】に所属していた」

「「「「?!」」」」

 

 再び驚愕する一同。【ヘラ・ファミリア】と【ゼウス・ファミリア】、最凶と最強の混血児(サラブレッド)だ、無理もない。ベルも同じく驚愕するが、アルフィアの言葉に思わず一言こぼそうとした。

 

「…あれ?ということは、アルフィアさんって…」

「ベル、お前の母メ―テリアは私が愛した妹だ。複雑とは思うがお前とも血縁だ。向こうのお前は私を「お義母さん」と呼んでいたぞ」

 

 とある言葉を出そうとしたベルを遮る形でアルフィアが語り掛ける。この関係性にも一同は驚く。特にアルフィアと浅からぬ因縁があるリューにとっては複雑な顔だ。だが、そんな空気を壊すのが天然ちゃん。

 

「ベルの…おばさnヒギュッ」

「天然なのはこちらでも変わらずか残念娘。おい年増エルフ少しは教育したらどうだ?」

「アイズ!貴様っ…」

 

 

 アイズの天然発言にアルフィアが指弾を飛ばしアイズを無力化させる。娘を倒され母親ハイエルフが吠えるがガレスにより羽交い締めされ止められる。

 

 

 

「はぁ、話を戻すぞ。メ―テリアは私と同じで「不治の病」に罹っていた。故に出産なぞ自殺行為に等しかったが、あの子はベル、お前を産んだ。その後メ―テリアは病が悪化し、…死んだ」

「っ…なら、僕は」

 

 出産とは母体に負担をかける、つまり自分が産まれたことが母親の死に繋がった。その事実にベルは自責の念に駆られそうになる。しかし、うつむいたベルをヘラが抱きしめ説き伏せる。

 

「ベル、メ―テリアは幼い時より病でいくばくもなかった状態を恩恵で永らえさせていた。私もあの子の病を治そうと方々を描けたが、無駄だった。あの子は何か自分に繋がるものを残したかったのだと思うぞ。だからお前は胸を張っていきなさい」

「っ…はい」

 

 傍から見れば孫を慰める祖母の図だが、話を再開するためにフィンが疑問をぶつける。

 

「ベル・クラネルの母親が女神ヘラに(ゆかり)があり、女神ヘラもベルを気にかけていた。ここまではいい。だが、ベル・クラネルからの様子から見て、女神ヘラはベル・クラネルとは会っていないようだが、それは何故だい?」

「それは私も断言できないが予想は出来る。おいヘラ、お前正気に戻ったのは何時頃だ?」

「正気?……まさか」

 

 フィンやロキ達は何か察しがついたようだが他の者は意味が解らず首を傾げ、口ごもっているヘラに視線を向ける。

 

 

「…大体、今から1年ほど前だ」

「おっそ?!」

 

 ロキが突っ込むも多くの者達は未だ首を傾げたままだ。

 

 

「【勇者】君、どういうことだい?」

「当時黒竜の討伐失敗で女神ヘラは多くの眷属を失った。あまりに衝撃が強かったんだろうね、茫然自失で残った眷属の声も聞こえない状態だったんだ」

「っ…」

「神ゼウスも似た状態だったが、早く正気には戻っていたんだ。ただ女神ヘラはそのままでね、そんな状態では闇派閥(イヴィルス)に何をされるか分かったものではない。だから体外的には追放の形で安全を確保しようとしたんだ」

 

 

 かつてオラリオに大きく貢献したファミリアを壊滅規模のクエスト失敗で追放というのは些か奇妙には感じていた一同もその理由に納得。しかし、改めてヘラの語った正気に戻った時期を思い返すと…

 

 

「「「長っ!」」」

 

 感想は一致した。

 

 

 

 

 

 

 今まで語られることのなかった自分の両親。それを聞いてベルはいつの間にか涙を流していた。

 

「「「べ、ベル(君)(様)?!」」」

「す、すいません。知らなかった親の話を聞けて、なんだか…嬉しくてっ」

 

 

 ベルの涙に驚く【ヘスティア・ファミリア】勢。ベルの心情を察してかヘラが語りかけた。

 

 

「…ベル、すまなかった。正気ではなかったとはいえ私がしっかりしていればお前が寂しい思いをすることもなかっただろうに…」

 

 

 それはヘラのまぎれもない本心であり、悔恨だった。

 

 

_自分が正気であればメ―テリアの傍にいることが出来た。_

 

_自分が正気であればアルフィアを死地に行かせることはなかった。_

 

_自分が正気であればベルに寂しさを感じさせることはなかった。_

 

 

 この3つが正気に戻り情報をかき集めたヘラの心に燻り続けていた。

 

 

「い、いえヘラ様は悪くありません!僕も少し前までおじいちゃんがいたから、そんな寂しいなんて…っ」

 

 

 慌てて気丈に振る舞おうとするもかつての寂しさを思い出したのか、明らかに気持ちを隠そうとしていることが分かる。

 

 

「いいんだ、これからは私がいる。ヘスティアもいるから寂しい想いなんぞこれからはさせん!」

「そうだよベル君!君には僕たち家族がいるんだぜ!」

「神様…、はい!ありがとうございます」

 

 

 ヘラとヘスティアの言葉に別の涙と笑みを浮かべるベル。

 

 

「ところでベル、祖父がいたらしいが、その者は今は?」

「あ、えっと…、おじいちゃんは僕がオラリオに行く前に谷に落ちて死んでしまって…それでっ」

「っ…。いや、良い。辛いことを聞いてすまなかったな」

 

 祖父を思い出し再び表情を暗くするベルにヘラが謝罪し、アルフィアに目配せをする。

 

(これはそういうこと(・・・・・・)だな、アルフィア)

(だろうな、あの好々爺に何か企みがあったか、それとも単純にお前から逃げようとしたか)

(どちらにしろ許せんっ、ここは譲れ良いな?)

(ああ好きにすると良い、その分こちらの私たちの分も乗せろ)

(もとよりそのつもりだ、覚悟しなさい、あ・な・た)

 

 

 恐ろしいやり取りがあったが、さすが眷属と主神、全く悟られること無く一瞬のやり取りだった。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、これでヘラがここへ来たことには納得しただろう」

 

 流れが乱れたその場の空気をアルフィアが戻す。

 

 

「ああ、良くね。なら次は本題だ。君が何故生者しか召喚されないアーティファクトで現れたのかを聞こう」

 

 

 フィンもそれに載って本題に移った。同じくロキはヘラに視線を移し質問を投げかける。

 

 

「さっきヘラが言ってたな。「私の知るお前じゃない」って…。あれはどういうこっちゃ?」

 

 

 誰もが気になること、全員の視線がアルフィアに戻る。しかしここで再びヘラが口を開いた。

 

 

「それならこいつも加わった方が良いだろう。おい、何を寝ているふりして様子を窺っている。とっとと起きろ、クソヘルメス!」

「ゴホァッ」

 

 

 ヘラの足元で沈んでいたヘルメスに向かって女神ヘラの足蹴りがクリーンヒット、ヘルメスは宙に飛んで転がり、強制的に目を覚ました。

 

 

「っく、おぉっ、いや待って、起きたから追撃止めて、いや止めてくださいお願いしますっ!」

 

 追撃をしようと歩みだしたヘラにヘルメスが待ったをかける。

 

「チッまあ良い、続けろアルフィア」

 

 

 茶番を見てため息をつくアルフィア。

 

 

「まあ、先の問いの答えは簡単だ。文字通り、私はお前たちの知る【静寂】のアルフィアではない」

「ということは何かの魔法で変身でもしているのかな?」

「それだったら今頃ヘラが怒り狂うだろうが…」

 

 フィンの予想を即座に否定するアルフィア。しかし、仮にフィンの予想が真実であれば間違いなくアルフィアの予想通りヘラが応接室の扉を開けた瞬間にアルフィアを消しにかかるはずだ。そしてその巻き添えを自分たちがくらうこともフィンとて分かっていた。

 

 

「では君は何なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、こことは違う世界、ベルと出会い大抗争に協力することのなかったアルフィアだ」

 

 

 

 






 今回はここまでとします。皆様、読んでいただきありがとうございます。


 正直ダンまちの派閥戦争がどの神にも見えるのなら、ゼウスも見ているだろうし、神ヘスティアのファミリアならヘラも見ていると思います。そしてメ―テリアに似たベルに注目するはずです。ただ、ベルに対していくらかの負い目があるとも感じているはずで、とりあえず「ゼウスをとっちめる」を優先して会わなかったと考えています。ただ、フレイヤの騒動でさすがに向かおうと足を運ぶも間に合わなかったという捏造を含みました。
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