未知を駆ける福音   作:Blackiel

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 いつも読んでくださりありがとうございます。


 今回はpixivで投稿済の『平行世界』『小さな女王』の統合版となります。

 それではどうぞ!


平行世界 / 小さな女王

 

 

 

「私は、こことは違う世界、ベルと出会い大抗争に協力することのなかったアルフィアだ」

 

 

 

 ヘラとヘルメスが加わった空間は先程とはうって変わり静けさに満ちた。ヘラ以外の神はその目を大きく見開き、眷属たちは要領を得ないのかアルフィアの言葉を頭の中で反芻させる。

 

 神々の頭の中では総じて「あり得ない。」と断じ言葉にしようとするも、アルフィアの存在が証明となっているため己の全知をもって頭を巡らせる。しかしいくら考えようとも答えが出るはずもなく、行き場のない言葉を事件の元凶にぶつけようとロキが口を開く。

 

「あ…り得へん、やろ。それ…。おい!ヘルメスっ、どうなんや!」

「いや、…すまない。俺にもわからない、これは完全に下界の『未知』だ」

「っ下界の『未知』仕事しすぎとちゃうか…」

 

 当然、偶然の産物でしかない「平行存在の召喚」などヘルメスも分かるはずがなく、力なく答えるしかない。ロキも分かっているからか、追及せずに最近やたら出番のある『未知』に驚きの声と共に力なく座る。

 

「ヘラ、君分かってたのかい?!」

「当たり前だ、アルフィアは私の子だぞ。わからない方がおかしい。ヘスティアも別のベルがいても区別できるだろ?」

「あ、当たり前じゃないか!…」

 

 ヘラの当たり前のような返しにヘスティアは答えるも、「ベル君が二人…ふへっ」と思考が吹っ飛びかける。

 

 神々のこのやり取りにアルフィアが放った言葉の意味を理解していることを察し、リヴェリアが問いかける。

 

「ロキ、神々の間で理解されても困る。アルフィアの言葉はどういう意味だ?」

「…皆も知ってる通り、この世界っちゅうのは今うちらがおる『下界』の他に、神々が元々おった『天界』、魂が巡る『冥界』とかいくつかの領域で出来とんねん。やけどそれとは別にほとんどは同じ、やけどどこか違う、そんな世界が無数にある。それをうちらは平行世界って呼んどる」

「平行世界…?」

「無数に?」

「あぁ、皆も考えたことあるやろ?『あの時ああすれば良かった』みたいな「たられば」の世界や」

「っ…」

 

 「たられば」、そんなことはここにいる全員が考えたことのある言葉。今この時に来るまで多くの者を失い、救えなかった、そんな過去が多少ある彼らは一瞬言葉に詰まる。

 

「つまり、この世界では大抗争に参加していても、参加せずに時が過ぎた世界があって、この【静寂】も言葉の通りその世界から召喚された、と…。『未知』と言っていたが認識は出来ても本来干渉できないのかい?」

 

 「平行世界」について理解を示した神々にフィンが問いかける。

 

「いや時間や空間系を司る神々ならともかく、俺たちも知識として認識はしても干渉どころか実際に見たことなんてない。改めて言うけど俺は今回意図して彼女を召喚なんてしていない。ただ召喚時に少し【神の力(アルカナム)】を吸われたような感覚があったから…」

「それが原因、と…」

 

 アルフィアに加え、ヘラもいるためすかさず弁明に奔るヘルメス。しかし逆効果…

 

「おい、つまりは私をすぐ元の場所へ戻すことはできない…と?」

「ま、まぁ…そうい、グヘッ」

 

 黒いオーラを纏い始めるアルフィアに上手く返すことが出来なかったヘルメスは一瞬の内に首をつかまれる。

 

「っ、待て!【静寂】、そんなことをしてもどうにもならないぞ!」

「黙れ年増エルフっ、普段からいけ好かないのに別世界の同じ奴のこの所業。…どうしてくれようかっ」

 

 リヴェリアが止めにかかるもアルフィアは歯牙にもかけない。すでにヘルメスの命は秒読みとなった。

 

「や、やめてくださいアルフィアさん。ヘルメス様も故意にした訳でもないですし、ヘルメス様の協力がないと解決できなくなりますよ!」

「っ……くっ」

「ゲホッ、ゴホッ…ハァハァ、…あ、ありがとう、ベル君」

 

 ベルの静止の声に悔しくもようやく手を離すアルフィア。

 

「とりあえず、ヘルメスはアルフィア君の送還方法の模索をしたらどうだい?」

 

 アルフィアの行動に驚きながらもヘルメスに提案するヘスティア。しかしヘルメスとて都市内外へ多く行き来するため、表情は渋い。

 

「いや、俺だってギルドからの依頼や調査とk「後回しにしないなら私にも考えがあるが?」最優先で頑張りますっ!」

 

 しかしそれを許さないヘラの一言で態度を180度変えるしかないヘルメス。

 

「じゃあ、ヘルメス、解決にどれぐらいかかるとか分かるかい?」

「…いや、今回は完全に『未知』だから再調査やアーティファクトのエネルギー補充とか諸々で…。補充だけでも最低1週間はかかるよ…」

 

 話がまとまったため、問いかけるヘスティアだが、ヘルメスの表情は再び渋くなる。元々使用したアーティファクトは召喚にしても多すぎる魔力が込められていた。それとヘルメスの【神の力(アルカナム)】が合わさったことからも送還には同等のエネルギー量を最低条件に、解決策を模索する必要がある。最悪戻すことが出来ない可能性すらある。

 

「となると、【静寂】をどこで預かるかが問題だね」

 

 フィンの一言にその場の多くが再び頭を悩ませる。仮に暴れないとはいえ、【静寂】のアルフィアをオラリオ内にそのまま居させるわけにもいかないからだ。

 

「ベル、しばらくお前たちのファミリアにいても構わないか?」

「え?」

 

 アルフィアの居候宣言に驚く【ヘスティア・ファミリア】。とはいえ他のファミリアで預かるわけにもいかないため当然ともいえる。

 

「すまないが、ベル・クラネル。頼めるかな?」

「は、はい!任せてください」

「ヘスティア、私も構わないか?」

「もちろん!ヘラをのけ者になんかしないぜ!」

 

 これにより【ヘスティア・ファミリア】で一時アルフィアとヘラを預かることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 一応のまとまりが着いたことでその場にいる何人かは安堵の息を吐く。そんな中口を開いたのはベルだった。

 

「あ、あの…アルフィアさん、ヘラ様…」

「ベル、お前にとって初見でも私はお前の義母だ。お前が嫌でなければ「お義母さん」と呼んでくれないか?」

「メ―テリアの子だからな、私のことも祖母と思ってくれて構わない。いや、むしろ呼んでくれると嬉しい」

 

 在りし日の【ヘラ・ファミリア】を知る者はもう既に諦めたかのようにスルーする。先ほどまでの剣呑さとの差で頭と胃を刺激しないための防衛本能である。

 

 突然現れた己の血縁からの要望に困惑、というか照れるベル。

 

「じゃ、じゃぁお義母さん、お祖母ちゃん///」

「ガハッ」

「お、お祖母ちゃんっ?!」

「うむ、なんだ?ベル。あぁ、ヘラのことは気にするな」

「え…う、うん」

 

 自分がとても愛したメ―テリアによく似たベル、しかも【ヘラ・ファミリア】の苛烈さ故にあまりなかった「孫」という存在からの「お祖母ちゃん」発言にヘラが吐血した。吐血ではないが、過去に起きた「ベル子ちゃん爆誕」の件でも複数名キャラ崩壊が起きていたため、恐るべしベルといったところだろう。

 

 突然のヘラの吐血に驚きながらもアルフィアの促しで、平行世界の話題から浮かんだ疑問をぶつけるベル。

 

「あの…アルフィアさんがいた世界だと僕たちってどう過ごしてるんでしょう?」

「お前と同じようにオラリオで暮らしているが…何か疑問に思うことでもあったか?」

「いえ、リヴェリアさんたちと話しているときにまるではっきりと違うところがあるような言い方だったので…」

「そういえばそんな言い回しにも聞こえたの」

「確かに、それに共に暮らしているなら何故ベル・クラネルと最初に会った時あんな行動をとったのか…」

 

 ベルの発言によりこれまでのアルフィアとの会話を振り返り、ベルの疑問に納得する一同。ベルと最初に出会ったアルフィアは共に暮らしている人物と出会ったとは思えない態度だったのだから。

 

 そんなベルの疑問を聞き、アルフィアも当然だなと納得の表情で答える。

 

「そうだな、あの時はすまなかったなベル。お前の元気な姿を見たら堪えられなかった…」

「っアルフィア、まさかお前のいた世界では、ベルは…」

「「っ」」

 

 アルフィアの言葉にヘラが最悪の予想を口にし、ベルに思いを寄せる者達を中心に息を飲む。

 

 

「いや、こちらでもベルは生きて暮らしている。ただ、お前と違って病弱だがな…」

「「ほっ…」」

「っ」

 

 「病弱のベル」、それを聞き周囲の反応は二つに分かれた。病弱でもオラリオで生きていることに安堵した者、「病弱」と聞いて別の予想を立て青ざめるヘラ。故に再びヘラが問いかける。

 

「アルフィア、ベルの…そちらのベルの病気は…」

「あぁ、私やメ―テリアが患ったそれと同じだ」

「っ…そうか」

 

 

 アルフィアの病、それは【才禍の怪物】と称されたアルフィアをLevel7程度に留まらせ、敵として相対したときの突破口として注目されたもの。アルフィアのことをよく知らないヘスティアたちも話の流れでそれが重い病であることを察し言葉を失う。

 

 

「まあ幸い私や本人のスキルで私やメ―テリアのように衰弱していくことはないとは思う。ただ併発して体調不良が頻繁に起こるから私たちは良く看病しているんだ」

「そういえば教会で会った時に貴様が持っていた袋、果物もあったが看病用だったのか…」

「ああ、あの時も風邪を引いたベルに食べさせるものを買っていた。それをどこかの阿保のせいで…っ」

「ひっ、だから偶然なんだってば」

 

 再燃したアルフィアの怒りのオーラにヘルメスが怯える。だが、アルフィアは何かを思い出しオーラを鎮める。

 

 

「そうだ、おいヘラ」

「なんだ?」

「オラリオにある廃教会を覚えているか?」

「?ああ、お前やメ―テリアの思い出深い場所だな。話が終わった後にでも行ってみるか。メ―テリアとの思い出もあるしな」

 

 廃教会、リヴェリアたちがアルフィアを見つけた場所であり、【ヘスティア・ファミリア】始まりの拠点でもある。しかし、【ヘラ・ファミリア】にとっても思い出深い場所であったようで、古参勢を中心にアルフィアが何を言おうとしているか察した。

 

 

「いや既に瓦礫の山となっていたぞ。ベルを狙ったアポロンのせいだそうだ」

「なん…だと、……っ!」

「「「ひっ!」」」

 

 

 先程少しベルにこの世界での軌跡を聞いていたアルフィアがチクった。ただでさえ思い出の場所を破壊されたのに、よりにもよって理由が「ベルを狙った」である。ヘラから禍々しい神威が迸りだし、耐性の無い者やトラウマがあるヘルメスが悲鳴をあげる。

 

 

「アポロン…っ、話には聞いていたがまさかあの教会も壊していたとはっ。聞けば他の馬鹿共もやらかしているではないか。許せんっ、手始めにクソビッチ(フレイヤ)の所に行くか」

 

 

 黒い邪気と邪笑を纏ったヘラが立ち上がる。ようやく【派閥大戦】が終了し、【フレイヤ・ファミリア】もなんとか追放ではなく良い落としどころで納めたのにもかかわらず、突然訪れたフレイヤ送還の危機にベルたちが慌てて止めた。

 

 

 

 

 

 

「と、ところで他にも違うところってあるんですか?」

 

 なんとかヘラの怒りを鎮めることに成功したベルは空気を換えようと再びアルフィアに話題を振る。ちなみにヘラは今もヘスティアに宥められている。

 

 

「そうだな…まだベルから詳しく聞いていないからわからんが、今のところ2つ(・・)ある」

 

 

 少し考えるそぶりを見せるアルフィアが平行世界との違いを語りだす。

 

 

「まずそこの三首領共のLevelが違う。こちらの方が強いな」

「そうか…」

「歯痒いの…」

 

 語られた違いに三首領やロキ、リューの顔が曇る。Levelが多少違うことは問題ではない。「アルフィアが大抗争に参加」したか否かでその違いは出ていると察しているからだ。向こうでも大抗争が起きているかどうかはわからないが当時【静寂】の参加は【闇派閥(イヴィルス)】にとって大きな影響が出ていたのは想像に難くなく、アルフィアの存在だけで大抗争の難易度は大きく変わる。

 アルフィアが「贄」となる選択を取ることで自分たちのLevelが上がったことを改めて感じ、当時も抱いた不甲斐なさを再び抱いたのだ。

 

 

「他には…そうだな。明らかに別人(・・)のような奴がいるな」

「え?」

「誰?」

 

 ここまで出来事やLevel程度の違いだったが人物そのものに言及され、驚く。アルフィアがこの世界に来てからそこまで多くの者と会っていないため、自分達が知っている者であることが察せられるから余計に。

 

 注目を浴びたアルフィアがおもむろにある人物に指を向ける。その指が指す先は……

 

 

 

 

 

「え?わ、私ですか?」

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】所属サポーター、リリルカ・アーデだった。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

_【バタフライエフェクト】_

 

 

 本来であればわずかな変化与えると他の所で大きな変化をもたらす、謂わば自然的な環境で起こる現象を指す言葉。しかしここに時空移動・平行世界の要素を加えると毛色が変わる。

 

 例えばAの世界では剣を取った少女がBの世界では槍を持った。この差異だけで少女の運命は大きく変化する、というものだ。

 

 A(原作)の世界では【大抗争】が起こり、7年後【ベル・クラネル】は紆余曲折ありながらオラリオで冒険者として活躍する。一方で、B(病弱)の世界では病弱なベルをアルフィアがAより早く認知・接触を行い、【大抗争】が中止となった。

 

 基本的にAとBで起きた差異はベルを起点としてものであり、直接的な変化も先に挙げた通りのものだ。しかしこの時点で既に【バタフライエフェクト】の火種は撒かれていた。

 

 

_【大抗争】_

 

 神エレボスが長となり数多いた【闇派閥(イヴィルス)】をまとめオラリオに挑んだ大規模な正邪決戦。これにより大きな被害が多発し、多くの者が大切な誰かを失った。しかしオラリオ連合が数多ある【闇派閥(イヴィルス)】を相手できたのは皮肉にもエレボスの統治あってのこと。ある程度の統率がなされたからこその大規模な事件だったのだ。そのエレボスが不参加、それどころか切り札もなく【大抗争】が中止となれば、集まった【】はどうなるか。

 

 答えは簡単、一気に散り散りになり事件を起こす。

 

 

 これにより、本来想定していた組織形態ではなくなった【闇派閥(イヴィルス)】の行動にオラリオは混乱、大規模な事件・被害こそないが、小規模な事件・被害が多発的に起こりだし被害は拡大していった。

 

 そうなると当然Aとは違う人物たちも被害にあうわけで、彼らもまたその一人だった。

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 リリルカは目の前の光景に思考がまとまらなかった。

 

 

 彼女の目の前には物言わぬ躯が複数。その中には彼女の両親の姿もあった。【ソーマ・ファミリア】に入団したばかりだが、既に神酒に魅入られ狂いだしていた両親。

 

 本来Aでは神酒(ソーマ)を求め狂いきり、彼女の心を蝕むだけとなっていた彼らだったが、ここではまだ(・・)まともだった。

 

 

___小人族(パルゥム)故に迫害される己を不器用ながらも慰めてくれた父の手___

 

___怯えながらも手伝う己に微笑みかける母の顔___

 

 

 神酒(ソーマ)に狂いだし怖くなってきた彼らだったが、そでもリリルカの両親だった。【闇派閥(イヴィルス)]】の襲撃にとっさにリリルカを押しのけて見えないところへ飛ばした。

 

 

 優しい人たちだった。狂いだしても自分の両親だった。自分の居場所だった。

 

 

__ダレガワタシカラウバッタ__

 

__ダレニコワサレタ__

 

__ダレガワタシヲワラウ__

 

__ダレニコノイカリヲムケレバイイ__

 

__ワタシニハナニガタリナイ__

 

 

 

「あ”ああぁぁぁ”あ”あ”ああぁぁぁっ!!」

 

 

 

 視界が赤く染まる。周囲の喧騒が遠く感じる。私の中に何かが溢れて来る。

 

 その日勘の良い神々は虚空を見上げた。

 

 

__何か(・・)が来た?__

 

 

 この日、Aの世界では終ぞ降臨することのなかった『小さな英傑』、その女王が誕生した。

 

 

 

_______

 

 

 

__【ソーマ・ファミリア】主神ソーマは語る__

 

 

 始めに彼女を見たのは、彼女の両親が僕の派閥に入団した時だった。ついでとばかりに【恩恵】を授けたが、他の子と同じでいずれ酒におぼれ狂う有象無象、ぞの程度の認識だった。

 

 最近は外が騒がしくこれではおちおち神酒(ソーマ)を作ることもできない。それ故、最近では神酒(ソーマ)の粗悪品の粗悪品しか造れていない。そんなものでも子供は狂乱し我がものにしようとするのだから気分が落ちる。

 

 そんなある日、周囲の喧騒が少し落ち着いていることに気が付いた僕はこれ幸いと酒造りを行おうとした。すると僕の神室の戸が開き、傷だらけの彼女が入ってきた。無視しようにも彼女が遮る。

 

 せっかくの酒造りを邪魔され機嫌の悪くなる僕を気にも留めず彼女は消えるような声で言った。

 

 

「昨日…、リリのお母さんとお父さんが殺されました」

 

 

__だから何だ。__

 

 

 正直なところ、それが僕が感じたことだった。下界の子どもなんて酒を飲むだけで醜く狂う獣、有象無象でしかない。それが多少減ったからなんだというのか、僕には関係が無い。減っては増え、増えては減る。それがこの派閥での当たり前、期待するだけ無駄なのだ。だから僕はこの本音を溢してしまった。

 

「だから何だ。さっさとそこをどいてくれ。酒造りのじゃm」

 

 瞬間僕の頬に鋭い痛みが走ったと同時、僕の身体は宙を舞い壁に激突した。いくら神でも【神の力】を封印すれば、Level1の冒険者の本気の一撃すら耐えられない。

 

「っガハっ?!…ぐ、がっ」

 

 それゆえに彼女の追撃を許した。顔、腕、腹、脚と体のあちこちに無差別に繰り出される攻撃は先ほどまでの威力はない。されど彼女の紅い瞳が怒りのためを雄弁に語っている。

 

「っだから何だ、だと…。ふざけないでください、…っふざけるなソーマっ!」

 

 彼女の怒りが再び爆発した。

 

「こんな時でも、酒酒酒っ。貴様の頭には酒しかないのか球無し!」

 

 少女に似つかわしくない言葉が出た。

 

神酒(ソーマ)で子が溺れていることは知っていたはずだ!飲むことも造ることも止めない貴様にも責任はあるはずだっ」

「違う」

「あ”?」

「あんなものは神酒(ソーマ)ではない。良くて粗悪品がせいz」バチンっ

「んなこた聞いてねぇんだよ!てめぇが作る酒は毒にしかならないことを自覚しろっ」

 

 酒は毒になり得る。【酒】の神として理解しているそれを飲んだことすらない少女に言われた。繰り出される攻撃が止み、ここで僕はこれだけ騒いでも子どもが誰も来ない異常に気が付く。

 

「あぁ、しばらくは誰も来ませんよ。私が誘導しましたから」

 

 どうやら【闇派閥(イヴィルス)】が神酒(ソーマ)を狙っていると偽情報を流し誘導したらしい。彼女の親が殺されたことも信憑性を上げ、我先にと出払ったのだろう。しかしそうなると拠点にいた全ての子が出たことになる。

 

「やはり、人の子は醜い…」

「っお前が狂わせたんだろうがっ」

 

 また頬を殴られた。

 

 そこからは激しくも醜い言葉の応酬。やれ責任やら、やれ酒やら、やれ原因やらと今にして思えば恥ずかしい限りだ。それでも酒すら飲まない小娘の言葉なぞと言えば彼女は何の躊躇もなく傍に会った神酒を飲み干した。最近のものの中で一番の出来で保存してあったそれは少女の顔を一切変化させることもなく彼女の胃に収まった。

 

 僕はそれを見て呆然と、されど霧が晴れたように彼女を見た。綺麗だった茶色の髪は薄汚れ、可憐な肌には傷と血で汚れていた。それでも僕は『気高い』と『美しい』と初めて思えた。

 

「なぁ…君の、名は…何だったか」

「あ”?…マジでろくでもねぇ神だな」

 

「いいか、私は両親を、人を狂わせる酒を造るお前を許さない。だから教育して見張ってやる。覚悟しろよ、毒神」

 

 【酒】の神にとって最大限の侮辱ともとれる発言をされた僕は、不思議と怒りを抱かず彼女の顔を始めて見た。

 

 そこには親の死に嘆く子でもなく、浅ましい人の顔でもなく、小さくも勇ましい女王の顔だった。

 

 

 これが僕と彼女の本当の出会い。

 

 

 

 

 

__それから数年後__

 

 

 【闇派閥(イヴィルス)】全盛の時代に現れた小人族(パルゥム)の超新星としてリリルカはオラリオ内外にその名を轟かせた。槍を持たせれば【勇者】以上と称されるほどの槍の達人となったため、その容姿と相まって人気なのだが一部女性(少し男性)から変な目で見られることが最近の悩み。

 

 そんな彼女に付けられた二つ名は【聖戦士(セイント・ゲリエ)】、神をも恐れず突き進む彼女は頭角を現したかと思えば約1年程度でLevelを上げていくため、今やLevel6の第1級冒険者。そんな彼女が所属するのはかつて半壊となって大規模縮小を行った【ソーマ・ファミリア】、そんなファミリアよりもうちをと勧誘する声は鳴りやまず、中には何を見たのか美神もいたとか。そんな彼らの勧誘に対して彼女が出した返答は…

 

 

 

「申し訳ありません。私は神ソーマの子、皆と酒を造りたまにダンジョンへ行くのが性に合っているんです」

 

「すみません、あなたの派閥へ移る気はありません」

 

「おい、あそこにいる奴らみたいになりたくなかったら二度と来るな。良いな”?」

 

「こんにちは【勇者(笑)】様、お帰りはあちらでよ?」

 

「女にまで色を向けるな色情魔。その無駄にある肉を削ぎ落してやろうか?」

 

「おい【猛者】、あそこにいる変態を何とかしろ。てめぇの神なんだから持って帰れ。そろそろ営業妨害として正式に訴えんぞ」

 

 

と、いった感じである。1度だけ勧誘しに来た者には丁寧に、複数来る奴にはそっけなく、強硬に出るバカには制裁を、それがここ数年で彼女が学んだ鉄則である。

 

 

 そんな彼女だが、オラリオ内外で迫害される子を中心に種族問わず働き先の斡旋を行うなどの慈善活動もしていると専らの噂が立っていた。基本的には【ソーマ・ファミリア】での酒造りや販売、【デメテル・ファミリア】へのアルバイトなどを紹介しているため間違ってはいない。

 

 そのため、オラリオ外では彼女のことを【小人の聖女】と持て囃される。

 

 そんな彼女は現在、とある廃教会で少年の看病をしていた。

 

「ゲホッ…ぅゴホッ」

「大丈夫か、ベル?ほら水だ、ゆっくり飲んでください」

「…んぐ。ありがとう、リリ」

 

 本来であれば少年の義母であるアルフィアがしているはずのこと。しかし、アルフィアが現在行方不明であるため基本的にベルの知り合いがローテーションで看病しながら情報を集めていた。

 

「お、義母さん…大丈夫かな…」

「大丈夫です、あのアルフィアですよ。しばらくしたらひょこっと現れてまたあいつらと騒がしくするでしょう」

「ふ、ふふ。そうだね、お姉ちゃんたちも探してくれてるんでしょ?大丈夫だよね…」

「えぇ、大丈夫です。さぁ早く寝ましょう。アルフィアに元気な姿を見せないと、ね?」

「そう、だね…。おやすみ、リリ」

 

 そうしてやっと眠りについた少年の頭を撫でながらリリルカは小窓から天を見上げる。

 

(ヘルメスや他の神に吐かせてある程度候補は絞れたが、最悪の場合…)

 

 ここまでに彼女を含めアルフィアを探す者達の手によってある程度どこへいったのかと候補は絞れてきた。現在、他の者達が情報収集と共に候補地へ向かっているが、最悪の候補であった場合、アルフィアの帰還は絶望的と言って良い。

 

 だが、それをこの少年に伝えるわけにはいかない。

 

(せめてどの場所にアルフィアがいるのか知ることが出来れば…)

 

 

 絶望的と言っても手段がないわけではない。だが、まだその時期でないことが歯痒いのだ。

 

 

 もう一度リリルカは少年を撫でる。

 

(アルフィア早く、帰ってきなさい。でないと…)

 

__私や彼女たちがベルを食べてしまいますよ__

 

 

 

 

 






 今回はここまでとなります。

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