推しカプのイチャイチャすこすこ侍。
「茅森、ちょっと付き合え。」
「やだ、浮気…!?」
なんてやりとりを繰り広げ、私はいちごに連れられ、ファミレスにいた。
「よぉ。」
「待たせたな、和泉。」
「いや、私もついさっき来たところだ。」
「いやデートか!」
「ちげぇよ。」
「違うな。」
私の渾身のツッコミを華麗にスルーされ、ユッキーの隣に座ったいちごに
「まぁ、そこに座りな。」
と促される。言葉に従って、私は2人に対面する形で座る。
「さて、茅森…」
「待って待って待って!何が始まるの?拷問?公開処刑?」
「ちげぇわ。」
「恋バナってやつだよ。」
「…!?いちごが!?」
「ぶん殴るぞテメェ。」
「ごめんなさい!」
いちごの勢いに負け、素直に謝る。
「…で、最近、蒼井とはどうなんだ?」
「どう、と申されますと…?」
「いや、付き合ってもう3ヶ月くらいだろ。アタシらの参考にもなるだろうしな。」
「その期待を月歌に向けるのは間違いだぞ、いちご。」
「…そういやそうだった…手繋ぐのすら2ヶ月かかってたな。悪い茅森、帰っていいぞ。」
「扱いが雑ー!」
「事実だからしょうがないだろ。」
「だな。」
「2人とも言葉のナイフの扱い気をつけて!」
事実だけど!
とツッコミを入れると、
「じゃあ先輩の茅森に色々突っ込んでも良いんだよな?」
「うぐっ…」
「あんまりいじめるなよ、いちご。」
「悪い悪い。からかいがいがあるからな、コイツ。」
「これでもゆっくりだけど進んでるからな!?」
「ほぅ、じゃあもうキスくらいはしたんだろうな?」
「…して、ないけど。」
「アタシらより進んでねぇ…」
「ちょっ、ばか!ばらすなって!」
「悪い。口が滑った。」
「…え、もうキスしたの?」
「…したよ。」
「いつ!?」
「あ?アタシの家でだよ。」
「すももいるのに!?」
「流石に目の前ではしてねぇよ…寝室で、すももが寝た頃にだよ。」
「早い!早い!なんで付き合って一月でキスまで進んでんの!?しかもお泊まり!?」
「…そりゃ、私がしたいって言ったし…」
「アタシもしたかったしな。」
「なん…だと…」
「ふ、普通のことだろ!好きな人になら、して欲しいししてあげたいだろ!」
「まぁ、人それぞれだしな。茅森たちは茅森たちのペースで進めばいいんじゃねぇか?」
「…したい…。」
「は?」
「私も蒼井とキスしたいー!」
「したらいいじゃねぇか。」
「そこに向かうまでのステップが分からない!いちごたちはどうやったの!?」
「…あー、それはだな…ってぇ!」
話を中断したのは、ユッキー。脇腹に肘打ちがクリーンヒットしたいちごは、少し呻くような声を漏らした。
「なにすんだよ!?」
「こっちのセリフだ!なに人の恥ずかしい情報流そうとしてやがる!?内緒だろ!普通!」
「…悪りぃ。」
「…私も、普通に止めればよかった。肘打ちして、ごめん。」
「いいよ。今回はアタシが悪かった。ごめん、ユキ。」
「いちご…」
「ストーップ!2人の世界に入るのやめて!あとここ、ファミレスだから!周りの視線凄いから!」
「あ、あぁ…」
「そうだな。」
「…もう、お腹いっぱい…」
「なんだよ、帰るのか?」
「こんなとこにいたらブラックコーヒー何杯飲んでも足りないよ!」
私はドリンクバーとポテトの代金を置いて、ファミレスを後にする。背後から聞こえる、
「なぁ、今日うちこいよ。」
「すももは?」
「クラスのやつの家いってる。泊まってくるってよ。」
の会話をスルーして、私は家へと向かった。
どう切り出せばいいんだろう。
キスしたい、なんて、直球で切り出されたら、嫌じゃ無いだろうか。
自室のベットで、ゴロゴロしながら考えを巡らせる。
未だに手を繋ぐのすら慣れないのに、キスなんてしてしまったら、心臓が破裂する気がする。
「でも、してみたい…」
キスがしたい。その願望を口にすると、ますます欲求は膨れ上がる。
「蒼井は、どう思ってるんだろう…」
蒼井も、そうだったら良いな。なんて考えながら、私は眠りについた。
放課後。私は蒼井に、一件のメッセージを送った。
『屋上に来て。』
とだけ書いた、簡素なメッセージ。
「茅森さん、お待たせしてすみません。」
30分ほどした頃、蒼井は息を切らしながら私のところへと来た。
「こっちこそ、寒いのに外に呼び出してごめん。」
「いえ。茅森さんと一緒に帰りたかったですし…こちらこそ、学級委員の仕事が長引いてしまって…」
「うん、ちょっと寒いけど…大丈夫。ね、蒼井…こっち、来て?」
「はい。」
「手、握って?」
「はい。」
蒼井の指先が、私の指に触れた。少し躊躇う様な様子を見せて、蒼井は少し恥ずかしそうに指を絡める。指先から伝う体温が心地よかった。
「…あったかい。」
「茅森さんの手、いつもより冷たいです。」
「そう?」
「はい。でも、蒼井もあったかいです。」
「ならよかった。」
数秒の沈黙。
「…ねぇ、蒼井。ハグしていい?」
「ハグ…ですか?」
「うん。ちょっと、体が冷たくて。」
「良いですよ。」
蒼井は私の要求を飲んでくれた。向き合うように座り、私に体を預けながら、抱きしめてくる。
「ふふ。ドキドキする。」
「蒼井も…ドキドキしてます。」
2人の心音が重なる。触れ合う体から、じんわりと互いの熱が混ざり合うような、そんな感覚。このまま、一つにでもなってしまうような、そんな気がした。
今なら、言えるかも。
「ねぇ、蒼井…キス、したい…。」
私の言葉に、蒼井が固まった。こちらを見据える視線は、少し潤んでいる。妙に熱っぽい視線が、私の唇へと向けられた。
「いや、かな…?」
「…少し、恥ずかしいです…」
「私も、すごいドキドキしてる。恥ずかしいこと言ってる自覚もある。」
「したい、ですか?」
「…うん。」
そう言うと、蒼井は少し深呼吸をした。
「わかりました。蒼井も、茅森さんとキス、したいです。」
蒼井の手が、頬に添えられる。ひんやりとした指先が頬に触れた。蒼井の顔が、すぐそばにある。
ちゅっ。
小さなリップ音が、静謐な屋上に響いた。
蒼井の吐息が、少しくすぐったい。先ほどまで大きかった心音が、世界から消えたような、そんな、不思議な感覚。
目の前の蒼井から、目が離せなかった。
「…どう、でしたか?」
「…すごい、幸せ。ねぇ、次は私から…いい?」
「はい。茅森さんからも、キスして欲しいです。」
そう言うと、蒼井は目を閉じて、薄く唇を突き出した。
ゆっくりと、吸い寄せられるように、蒼井の唇へと唇を重ねる。
じわり、じわりと、多幸感が体を満たした。唇から流れ込む体温が、じんわりと体に染み渡るような、そんな感覚。
息も、時すらも止まったような、このまま終わらせたくないと感じるような幸福が、脳を蕩していく。
数秒か、10数秒か。一瞬にも、永遠にでも感じられる甘美な時間が、終わりを告げた。
「蒼井…どう、だった…?」
とろんと蕩けた視線が、私を見据えている。
「茅森さんの熱が…吐息が、心地よくて…ずっと、このままだったら良いのに、なんて、思いました。」
「…私も。蒼井の熱が、心地よかった。」
「ね、蒼井。」
「…はい。」
「また、してもいい?」
「2人きりなら、良いですよ。」
「うん。」
離れた唇の熱が愛しくて、狂おしいほどに切なかった。
私たちはもう一度、示し合わせた訳でもないまま、唇を重ねた。
「ね、蒼井。」
「はい。茅森さん。」
「…だいすき。」
「蒼井もです。」
「ちゃんと、言って?」
「だいすきです。茅森さん。」
数分、余韻を楽しむように手のひらを重ね合わせた。
同時にくしゃみをして、笑いあった。
「帰ろっか。流石に、そろそろ寒いや。」
「そうですね。手、繋いでも良いですか?」
「もちろん。」
私たちは、手を繋いで歩いて帰った。
寒いはずなのに、お互いの手は、緩く火照っていた。