アサルトリリィ Bouquet 本編改変ストーリー 作:ニュゼ
「んん…。あ、あれ…。」
気が付くと、どこかの部屋にいた。
感触的にベッドで寝ている状態だろう。
天井は白く、部屋全体に医務室のようなにおいが充満している。
「そうだ…。」
自分が、意を決して一人でヒュージを倒しそうとしたのを思い出した。
あの時、私は2人のリリィから、それぞれ『ルナティックトランサー』と『フェイズトランセンデンス』をコピーした。
既にヒュージが弱っているのを確認して、火力に全振りできるようにしたのだ。
だが、どちらもマギをかなり消費するレアスキルであったため、ルナティックトランサーの影響で理性が保てず、下限を考えずにマギを使った私は、戻ってからすぐに気絶した。
案外覚えていて、自分のことながら驚いた。
どれくらい眠っていたかは分からないが、感覚的に体に異常はないように思えた。
少し動きたいと思い、動こうとする。
「あ痛!?つつ…。」
体全身に痛みが走った。
どうやら相当重い筋肉痛になっているようだ。
動けないことはないが、動きたくない。
「あ!起きたんですね!」
「?」
突然声が聞こえた。
顔を動かせる範囲で見ると、1人のリリィが医務室に来ていた。
桜色の短髪に四葉のクローバーの髪飾り、一柳隊にいたような気がする。
「えっと、あの時はありがとうございました。あのまま倒せないかと思ってたので。」
「え、あ、はい。」
「一日ほど眠っていたのですが、具合はどうですか?」
「い、一日…。」
「はい。あのすぐ医務室に運んだのですが、お姉さま曰く、かなりのマギを一瞬で使っていたそうで。」
「…な、なるほど…。」
『お姉さま』…。
このリリィはシュッツエンゲルの契りを結んだ相手がいるということだろうか。
となると、年上がいることは確定した。
無礼のないようにしないと。
それより、やはりかなりのマギを消費して、その反動で気絶していたので合っていたようだ。
スキルを発動させるのは、一撃必殺の諸刃の剣だと思うべきだろう。
とはいえ、鷹の目をコピーした時は、そこまでマギを使っている感覚はなかったため、ある程度の調節は可能かもしれない。
「それで…。」
「?」
「あの、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「あ、すいません、自己紹介が遅れました。」
「い、いえいえ!」
「立繋共音です。一年生ですが、入学式の少し後にこの学園に来ました。」
「共音さんですね。私は、一年の一柳梨璃って言います。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いいたします。」
一柳梨璃…。
てことは、この人が一柳隊のリーダーなのだろうか。
レアスキルは…確かめたいが、今はいいだろう。
「理事長。昨日のヒュージの迎撃についてですが…。」
「…ふむ。」
「やはり、共音さんはスキルを組み合わせることが可能なようです。しかし、その分、マギの消費量も多いようです。」
「…だが、あのレベルのヒュージを一人で倒せるポテンシャルはあるようじゃな。」
「…ええ、そうですね。」
「…また無理をしなければいいのじゃが…。」
「…。」
「えっと…私を一柳隊に入れたい…と?」
「はい!」
勢いよく一柳さんに迫られつつ聞き返す。
私の記憶では、一柳隊はもうすでにメンバーは足りているはずだが…。
「どうしてです…?」
「共音さん、まだどこのレギオンにも入ってないんですよね?」
「はい…。」
「特に入りたいところがないのであれば、私たちのところに来ませんか!?」
「は、はあ…。」
理由になってない答えが返ってきたが、要するにただ単に入ってほしいということだろう。
確かに、今のところは特に入りたいところはないが…。
「少し考える時間をもらってもいいですか?」
「いいですよ。私たちはいつでもウェルカムなので!」
とても元気がいいリリィだ。
「私はこの後用事があるので、これで失礼しますね。」
「はい。お見舞いありがとうございます。」
「いえいえ。共音さんも、お大事に。」
入れ違いで、別のリリィが入ってきた。
「あの子、元気がいいでしょう?」
「は、はい。」
「悪い子ではないから、仲良くしてあげてね。」
「はい。」
「…と、それより、初めまして、共音さん。私は2年の秦祀。生徒会に入っている者よ。よろしくね。」
「よろしくお願いします、秦様。」
ここで初めて先輩の方と話した。
「共音さんは…外傷はないけど、マギの使い過ぎによる疲労と、激しすぎる動きによる筋肉痛で、体に限界が来てるから、動けるかもしれないけど、今日1日は安静にね。」
「分かりました。」
「あと、昨日と今日の授業は、ヒュージ迎撃の際の負傷という理由で、欠席しても大丈夫なようになってるから、安心してね。」
「はい、ありがとうございます。」
「それじゃあ、私はこれで。」
秦様は部屋を出た。
私は言われた通り、1日安静にした。
「…ふぅ…。」
体を慣らすために訓練場に来ていた。
今は区切りがいいので休憩している。
私のこのチャーム、名前はアルマスというらしい。
レアスキルを使った瞬間、自動的に斧の形に変形した。
だが、同時に、マギの扱いが少し楽になった気がした。
やはり、このチャームは私専用に作られたもののようだ。
確かに剣の状態の時は、対面での戦闘に向いている。
だが、レアスキル使用中には、何となく使えない気がした。
斧の形態にしていないと、マギの制御ができず、戦闘どころではなくなりそうだと感じた。
おそらく、私のスキラー数値が低いことが問題なのだろう。
制御が難しいレアスキルを持っていながら、スキラー数値は低いため、発動させても制御ができない。
それをチャームでカバーしているということだろう。
どういう構造かは分からないが、単純にすごいなと感じた。
真島様にはほんとに感激する。
あの時は、ルナティックトランサーを発動させていたから上手く扱えたが、ちゃんとした状態で使うとなると、できないかもしれない。
そのために、私は斧の形態に慣れるために、こうして訓練所に来ていたのだ。
レアスキルを発動中以外では使うことはないだろうが、動きを体にしみこませた方がいいだろうと思った。
「ん?あら、この前の戦闘でお見かけした方ですね。」
「?」
聞いたことのない声が聞こえてきた。
そこには、ロングほどの長さの緑髪の生徒がいた。
「初めまして、共音さん。あなたのことは、この前の戦闘でお見かけしたのと、それ以来、話題になってるのを耳にしました。」
「そ、そうなんですか…?」
「はい。週刊リリィ新聞にて、2つのレギオンが迎撃に失敗したヒュージを立った一人で撃破した、という内容の記事があったので。」
週刊リリィ新聞…。
そういえば、あの時二川さんがいたなあと思い出す。
ちょっと恥ずかしい。
「自己紹介が遅れました。私は、1年の田中壱です。所属レギオンはアールヴヘイムです。よろしくお願いします。」
「立繋共音です。田中さん、よろしくお願いします。」
「壱でいいですよ。というより、苗字呼びしてるのって、おそらく共音さんだけだと思いますよ。」
「え?そ、そうなんですか?」
確かに、今まで出会った人は私を下の名前で呼んでいた気がする。
「そこまで緊張しなくても、百合ヶ丘女学院の生徒は皆優しい方が多いですし、もっと軽い気持ちでいてください。」
「…はい。」
今まで会った人の下の名前を思い出しつつ、ちょっと恥ずかしくなる。
「ところで、近々競技会があるのは知ってますか?」
「競技会…?」
「はい。リリィ同士の戦闘技術を競い合ったり、工廠科の新しいチャームのレクリエイションなど、いろいろやるんですよ。」
「そうなんですね。」
おそらく、医務室にいたから情報が回ってこなかったのだろう。
競技会…体育祭のようなものだろうか?
「共音さんは、一応安静期間は過ぎてるので、今からでも出ることは可能ですよ。」
「んー…。」
正直なところ、戦闘技能なところはまだ自信がないため、参加しなくていいかもしれない。
「今回はやめておきます。」
「そうですか。競技会の見学は誰でもできるので、是非見に来てくださいね。」
「はい。」
そういって、壱さんは訓練所をでていこうとする。
「あぁ、それと…。」
「?」
「最近、一柳隊に新たなリリィがやってきたんですけど、そのことも話題になってますよ。なんでも、海で見つかったリリィなんだとか。」
「は、はあ…。」
「それじゃ、私はこれで失礼しますね。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
最後にニコッとして、壱さんは去った。
海で見つかったリリィ…少し気になる。
競技会当日、同学年だけでなく、先輩方も参加していて、とても賑やかで見ている方も十分楽しめる雰囲気だった。
以前見た、一柳隊の皆さんも参加していて、皆勝ち負けにこだわる姿はとても楽しそうだった。
そして…。
(…あの子かな…。)
壱さんが言っていたリリィを見つけた。
確かに前の時は一柳隊にいなかった気がする。
初めてみるリリィだが、なぜだろう…どこか懐かしい感じを覚える。
あのリリィも、周りと同じように楽しんでいる、1人のリリィ。
他の子と何も違わないはずなのに、なぜだか心がざわざわする。
そうしてボーっと見ていると、あのリリィと工廠科自作のヒュージが戦うこととなった。
「ちょっと百由様!これどういうことですか!」
「んー…。ほんとはグロッピがやるはずだったんだけど、さっきのフェイズトランセンデンスでマギを使い果たしちゃったみたいで、動けなくなったのよ。多分その代わりかしら。」
「梅が代わりに登録しておいたぞ。」
「梅様!何してるんですかあ!」
競技会の予定表を確認すると、この時間帯はエキシビションマッチ。
つまり、あのヒュージとリリィが戦うということだ。
壱さんが言うには、あのリリィ最近海で見つかったばかり、つまり、本当なら戦闘技能は私よりも優れてないはず。
そんな状態で、競技会に参加して大丈夫なのだろうか。
そう心配していたが、私が思う以上に、そのリリィは強かった。
チャームを使ってヒュージの攻撃を受け流す。
そしてその勢いのまま、一気にヒュージに迫り、十字に切り裂く。
危なっかしくて、とても心配していたのが、一気にほっとした。
(…どうしてこんなに胸がざわざわするんだろう…。)
他のリリィよりも明らかに気にしすぎな気がした。
だが、それを分かっていても、あのリリィだけは目を離すことができなかった。
ある日、突然とんでもないニュースが流れてきた。
一柳梨璃の逮捕命令と一柳結梨の捕獲命令だ。
一柳結梨は、前に壱さんから聞いたリリィのことだ。
ゲヘナからの情報により、一柳結梨がヒュージである説が浮上し、捕獲命令が出た後に、梨璃さんが結梨さんを守るために学園を飛び出し、逮捕命令が出たという感じだ。
この命令は他のガーデンにも通知されており、かなりの大規模なものとなっている。
相手がリリィなだけに、今回は全リリィに外出の許可がおりている。
とはいえ、周りの様子を見ると、本気で2人を探し出そうとするリリィはぱっと見でもいない。
皆、ヒュージ説をあまり信じていないようだ。
これに関しては私も同感だったが…。
「…。」
気持ちを整理したくなり、私は海岸に向かった。
「大丈夫…。大丈夫だから…。」
妹と一緒に物陰に隠れて、身を隠す。
大勢のヒュージがここら一帯の地域を襲った。
リリィの助けを待っているが、既に家は壊され、見つからないようにうずくまるしかなくなっていた。
このままだと、私も妹も限界だ。
せめて、妹だけでも安全なところへやりたい。
私は意を決して、物陰からしずかにこっそりあたりを見渡す。
周りにヒュージの気配はなさそうだと思い、妹と一緒に動こうと思った。
その時、ものすごい轟音と共に、遠くからヒュージが降ってきた。
そして、すぐに私たちのもとに振り向いた。
「あ…あ…。」
妹は、ヒュージを見て動けずにいた。
ヒュージは卑劣にも、私ではなく妹を狙った。
私は咄嗟の判断で妹を抱き上げて逃げた。
とはいえ、リリィでもない私たちが逃げても、ほとんど意味のない行動だった。
ヒュージの攻撃は、普通の人間には速すぎて捉えることすら難しい。
ただそれでも、命の危機を感じていたためか、次の攻撃がくる気がした。
確実に私たちを狙って。
「!!」
私は、自らが犠牲になろうと、妹を草むらの方に投げた。
けど、この選択は間違いだった。
私が介入したとしても、このヒュージは変わらず妹狙っていたことなど、少し考えれば分かるはずだったのに。
妹の体は…思い出しくもないほどに無残な姿になった。
その後数秒間は、何が起こったか分からなかった。
本来すぐに私も攻撃されるはずだったが、他に向いていた。
正確には、誰かが注意を引いてくれた。
だが、それも数秒間の出来事。
目の前に転がってきたもう一つの変わり果てた姿は、私の心の傷をさらに抉った。
私のせいで…私がそこにいたせいで…。
そこからの記憶が思い出せないほどに、その時の私の精神は閉鎖していた。
ふと、記憶がよみがえってきた。
甲州撤退戦では、終戦までに長い期間を要した激戦で、その被害は甚大で多くの犠牲者が出た。
複数のガーデンからリリィが出動したが、それでもすぐには終わらなかった。
私は甲州撤退戦で運よく助かった。
…いや、あれを「運よく」で片づけたくはなかった。
あれを一瞬でも「運よく」などと表現した自分が嫌いになる。
失いたくないものを、自ら手放してしまったようなものなのだから。
きっと、許されはしない…。
リリィにも…妹にも…。
「ち、ちょっと結梨ちゃん!」
「!!」
随分と時間がたっていた。
既に逮捕命令と捕獲命令は解除されており、結梨さんは一柳隊の皆と一緒にいた。
一方それとは別に、海の向こう側、ヒュージネストの近くにヒュージが出現していた。
あのヒュージは、あたかもマギを操っているような挙動をしていた。
攻撃の威力はすさまじく、単騎で向かうにはあまりにも無謀な気がした。
そして、今まさに目の前で結梨さんが飛び出した。
そして、一度自身も似たような状態になったことがあるから分かった。
結梨さんのあの速さは、明らかに縮地とフェイズトランセンデンスを同時に発動していた。
フェイズトランセンデンスは数秒しか持たないほどのマギを消費するため、本来結梨さんはあれだけの時間を動けないはず。
おそらく、相当な無茶をしている。
それに、あのような使い方をする時点で、戻ることをまるで想定していないように感じた。
あれだけのマギを使えば、戻ることができなくなるのを分かってやっているようだ。
さしずめ、縮地で一瞬で距離を詰め、フェイズトランセンデンスを使った高火力で一気に仕留めるつもりだろう。
それは、一柳隊の皆さんも分かっている様子だった。
だが、結梨さんの速さに誰もついてこれず、誰も止めれる状況ではなかった。
仮に縮地で追いつこうとも、縮地自体がマギをそれなりに消費するものであるため、結梨さんと状況はあまり変わらないだろう。
万事休すか…。
「…いや…。」
そういえば、この前二水さんに教えてもらった、一柳隊の皆さん全員のレアスキルの中に、縮地があったことを思い出した。
「…。」
一か八かの賭けになるが、私は動いた。
ほぼ無意識のうちに体が動いていた。
「くっ…どうすれば…。」
「…ん?うわ!?え?ちょ!?」
梅様の両手をつなぐ。
縮地を最大レベルで発揮できれば、結梨さんに追いつく。
「私に任せてください。」
それだけ言って、勢いよく地面を蹴り、戦っている結梨さんのところへ向かう。
誰かが何かを言っている気がしたが、無視する。
「たぁあ!!」
結梨さんが最後のトドメを指そうとしたところだった。
トドメを指した直前に、私は結梨さんのチャームをはじき、その勢いでヒュージに1振り。
フェイズトランセンデンスの場合、トドメを指してしまうと、あたかたもなく消えてしまうから、サブスキルを使用しつつ、私がとどめを刺した。
「え!?な、何!?」
チャームを介して、サブスキルでヒュージから無理やりマギを急速に補給する。
「くっ!?」
マギを補給する際、とんでもない負荷がかかっているのが分かった。
それでも、無理やり体を動かす。
さらに、結梨さんと手を繋ぐ。
「!?」
結梨さんのレアスキルは分からなかった。
だが、なぜか、先ほど使っていた、縮地とフェイズトランセンデンスをコピーできた。
私は、結梨さんを抱き上げた後、マギを集中させて、空中を思いっきり蹴った。
それと同時に大爆発が起こったが、間一髪巻き込まれなかった。
とはいえ、これ以上はもう体がほとんどいうことを聞かなかった。
先ほどのマギ吸収による高負荷に加え、2度目のマギ枯渇状態ともなると、さすがに限界だ。
海岸までぎりぎり届かないと思い、私は最後の力を振り絞り、結梨さんを海岸に投げた。
そして私は海に落ちた。
そこから、死を悟りつつ、海に沈みながら意識を失った。