戒野ミサキは歩きたい   作:ぞんぞりもす

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 ※ミサキ視点です。


二◯話

 転入が目前に迫り、気の早いふきのとうが芽を出し始めた夜のことだった。

 

 その日、私たちは届いた制服を試着してやいのやいの言ったり、なぜかシャーレビルを背景に写真を取ったりした。先生は最終調整だと言って、私たちがときどき足を運んで授業を受けていた三大学園へと向かった。

 

 

 私の体は幸福に満ちた疲労を覚えていた。

 

 

 先生といっしょに寝室に入り、二人で反対側から同じように布団をめくって中に入る。あらかじめ暖房をつけていた室内は暖かかったけれど、布団はひんやりと冷たい。何も言わずに先生の腕を取って抱きしめた。

 最近少し、先生は痩せたように感じる。肩口が骨ばってて痛く感じるから、私が先生の料理を作る日は肉料理を多く作るようにしていた。

 

 体重をかけられたベッドがいきなり沈みこむ様子と、私の睡眠は似ている。いきなり抗いがたい力によって強制的に眠りへと落ちてゆく感じ。その気配が、今日はまだなかった。疲れていることは確かだけれど、寝たら幸福を忘れてしまうような気がして心と体が眠ることを拒んでいる。

 

 

「やっと始まるな。ここからだ」

 

 

 先生は疲れたように言った。そうして、考え込んでいる気配がした。区切り目みたいなものがついたから、過去のことを思っているのかもしれない。

 私はそっと頷いた。声は出していないけれど、動きは伝わったはずだ。先生が話すならそれを聞くつもりだったし、話さないのなら穏やかな時間を揺蕩おうと思っていた。

 

 先生の足を自分の足で絡め取った。私はこの寝方が、先生に覆いかぶさって寝ることの次に好きだった。

 あまりくっついてしまうと翌朝に先生が困ってしまうので、そう何回もやっていないけれど。

 

 

 サテン生地の寝間着には、いまだに慣れない。肌触りのよさが逆に恐怖をもたらす。一人だけジャージを買ったリーダーの気持ちがよく分かる。私も寝巻きにそれを買おうとしたけれど、姫からにっこりと笑顔を向けられた。渋い顔で暗い単色の上下から手を離さない私に、今度姫はスマホを見せた。

 色とりどりの花の写真の中に、ぽつりぽつりと私と先生のツーショットがあった。白雪の中にぽつんと真っ赤なイチゴがあるみたいに、幸せの記憶は目立っていた。

 

 ショッピングモールを出た私の腕には多くの紙袋が下がっていた。その中には、薄緑のサテン生地でできた衣類が含まれていた。

 私がそれを着たのを初めて見た先生は、手を口にやっていたが笑みを隠しきれていなかった。私はそれを見て、そっぽを向きながら耳に触れていた。これもまた、真っ赤なイチゴとして収められている。実際の顔もそれだったかもしれない。

 

 

 先生の大きなため息が私を現実に引き戻す。

 

 

 先生は小さなため息をもらさないが、ときどきものすごく大きなものをこぼすことがある。これは私しか知らないことだ。そしてそのため息は、幸福な大変さと、本当にどうしようもなくて詰んでいることのどちらかを感じているときにもらされる。

 

 

 先生の横顔を窺う。整った容姿は暗闇に阻まれて見えなかった。けれどこれは、悪い考え事をしているな、と思った。

 先生の髪をよせ、耳元で囁く。

 

 

「聞きたいな。話して?」

 

 

 先生はくすぐったそうに肩を震わせた。少し抵抗があるけれど、たとえば姫が私に甘えるときのような声をまねると、先生はだいたい私の言うことを聞いてくれる。

 あなたは私に甘い。そして私もまた、あなたに甘い。いつか食べた日のクレープみたいに、あたたかくて甘くて多幸感のある思い出を私たちは重ねてきた。過去のことをあまり話せない私が、今や未来の話をたくさんできるようにと、あなたはたくさん気を遣ってくれる。

 

 

 だから私も、あなたに捧ぐ。

 

 

 これを恋と呼ぶのか、はたまた愛と呼ぶのか、私と先生は話していない。ひらがな二文字に背負わせるには重すぎる感情を互いに向け合っているのだと思う。また、それを言葉にしてしまったら、恋しているから恋と呼ぶのか、それとも恋していると言ったから恋をしているのか分からなくなってしまう。私たちはそんな病気を患っている。

 

 

 催促するように、抱きしめた腕や足に力をこめる。

 先生は観念の息を吐いた。

 

 

「始まる……けどさ」

「うん」

「アリウススクワッドのことは、あまり心配していなくて。きっともう大丈夫だろうし、困っていたら、力になれると思う」

 

 

 ただ、と言い淀んだ先生の表情は見えない。

 

 

「アリウス自治区の、生徒のことで。思っていることがあって。これはずっと、転入のことで動き始めていたころから抱えていたことなんだけど」

「……一人では抱えるのが難しくなったんだね」

「ああ、難しくなった」

 

 

 「話を聞くのがうまいな」と呟く先生に「あなたのおかげ」と返す。こんなふうに前置きのある話は、その人にとって重大なことだと先生は以前語っていた。だから焦らせずに聞いてあげようとも言っていた。これは、シスターフッドへおこなった講習にまぜてもらったときに聞いた。

 

 

 先生は毛先についた水滴が膨らんで落ちるときのように不規則に、間を置いて話し始めた。声色も温度も多様だった。私は先生から教えてもらった相槌で、先生が力を抜いて話せるように手助けをする。

 

 

 アリウス生よりもアリウススクワッドを優先してしまったこと。

 自分の言うことを聞かせるために、生徒を痛めつけてしまったこと。あの子たちも必死に生きていて、言い分だってあっただろうに、それを踏みにじったこと。

 あの中にミサキがいなくてよかったと、アリウススクワッドに所属していてくれてよかったと、一度でも思ってしまったこと。

 無責任な言動のせいで、アリウス生が今以上に苦しくなるかもしれないこと。生徒がそれを想像できるだけの情報を与えずに、ただ感触のいいことだけを伝えたこと。ベアトリーチェと何が違うか分からなくなったこと。

 

 

 先生はたくさんのことを考えていた。何度も自分を切りつけた。それだけ反復して考えていたのかもしれない。私に聞かせたら私が自分を責めてしまいそうだったから、今まで言えなかったのかもしれない。

 知らず知らずのうちに強まっていた力を抜いて、先生の上に乗る。先生は仕方ないなと言うように小さく笑った。

 

 

「それでも、今こうして、あなたは私を頼ってくれたよ」

 

 

 特等席に顔をうずめて、優しい言葉と声で紡ぐ。

 

 

「自分の正義を馬鹿みたいに信じられる人間だったら、私とあなたは出会っていない。私は先生と出会ってよかったと思うし、先生のそういう性格、いいと思う」

 

 

 私は先生のしたことについて、いいとも、悪いとも言わなかった。何の感想もこぼさずにただ受け止めた。ほんの少しだけ、鉄骨みたいなあなたの根幹を撫でることを言った。

 ぎゅっと抱きしめて、次いで首筋に唇を触れさせる。それは柔らかい音をたてた。

 

 

「一人の大人である前に、一人の先生である前に。あなたは、かけがえのないたった一人の人間だから。そして私とあなたは、かけがえのない一対の人間関係だから。忘れてほしくない。いつか、先生……壊れるよ」

 

 

 先生はただ静かに笑った。

 熱いものがこみ上げてきたんだろうな、と思った。その吐息と同じかそれ以上の熱をもって、私はあなたに触れている。言いたかったけれど、お預けだ。

 

 

「ありがとな」

「ううん。私もいつも、先生に助けてもらっているから。いつもありがとう。一緒にいてくれて、話を聞いてくれて」

 

 

 まったく、もう。あなたは。

 歩いているときにさっと鳥の影が通るみたいに、どこからともなくやってきた悪い思考があなたを連れて行こうとする。

 もしかしたら、今は私のほうが明るいとすら言えるかもしれない。けれどそれは、トリニティでの学校生活が始まればまた逆転するだろう。私はあまり、強くない。そんなときはこんなふうに、なれたらいいな。

 

 似たようなことを先生も思っていたのだろう。

 

 

「これからも、お世話になるな」

「大丈夫だよ。それなら、お世話した分思いっきりくっつくから」

「……それならの前後で文章繋がってるか?」

「嫌なの?」

「その聞き方はさ……?」

 

 

 ぎゅっと抱きつく。音を立てて首筋に口づけた。強くやりすぎて姫のコレクションに入るようなまねは二度としない。あれは恥ずかしい。

 

 

「ほら、頬が緩んでる」

 

 

 頬にも口づけを落とした。予想した感触どおりに、事実として先生の頬は緩んでいた。

 いつの間にか健康的になっていた私の体を押しつける。姿見を見るのが最近は楽しい。服も、少しだけ増えた。

 

 しっとりと濡れている唇を何度も各所に押しつけた。そうして肩口や側頭部に顔をうずめて、深呼吸をする。寝る前のこの時間が、一日の中で最も好きな時間になっていた。好きな時間なんて、一年前までは考えることのなかった概念だ。

 

 

「あなたのにおいがする」

「ミサキ……さすがにそろそろ寝ないか……?」

 

 

 あなたはやっぱり、少しだけヘタレだ。言葉と精神の触れ合いで満足するから、なかなかその先を求めてくれない。撫でたり抱きしめたりはしてくれるけれど、口づけをするのは、いつも私から。

 まったく。そんなところも――。

 

 

「おやすみ、先生」

「おやすみ、ミサキ」

 

 

 ずっと前はこうやって挨拶を交わすことにも神経をつかって察し合っていたのに。今はもう、溶け合った日常の一部になっている。輝く明日が待っていると無邪気に信じて眠ることはできないけれど、目が覚めたときにあなたがいることを当然だと思っている。天国でも地獄でもない彩りに満ちた世界が続いていくように思っている。

 

 私はこの年齢になってようやく、かなり多くの睡眠が必要になることと、一度寝たら起きづらいことを知った。逆だと思っていた。寝起きの悪さに呆れられてしまわないか、私は少しだけひやひやしている。いつか聞こうと、これから先も一緒にいることを前提に心のノートに書き留めた。私は今日も、あなたのぬくもりに身を委ねる。

 

 

 

 

 快晴の空に、遠くからでも分かる樹木の香り。視界には大きな校舎。

 ヘアピンで留めて耳を出しているところに爽やかな風が吹き抜け、先生に買ってもらった小さなクマのピアスが揺れる。

 角張ったスクールバッグと愛用のロケットランチャーをそれぞれ片側にかける。

 黒のタンクトップにぶかぶかの上着を着慣れていたから、長袖制服の可動域の狭さが少しだけ鬱陶しい。

 それに、スカートよりもズボンのほうがよかった。ストッキングを履いても足元が寒い。太腿を撫でつける風にも全く慣れない。

 まだ歩き慣れないきれいな石畳に、ローファーが奏でる聞き慣れない音。

 

 

 校内の鏡で確認をして、教室に入る準備は万端。

 

 なんだかロケットランチャーだけ古ぼけて見えてちぐはぐだ。それでもこれは、私が歩いてきた道だ。そしてこれから三年間は、この正装が私の道となるのだろう。いつか()()()()()()()()これだけの距離を進んだのだと示してくれる道に。

 私は決して、前を見て歩ける人種ではないだろう。それでも、話をして、聞いて、道から外れて転げ落ちそうなときにそっと手を握って気づかせてくれる人が並んで歩いてくれる。たったそれだけの月並みな幸福を、誰よりもあなたとともに。

 

 もう一度鏡に向かい、緩んだ顔を整えた。

 

 

 成績の話をすれば、私は二年に入ってもよかった。けれど私は、時間をかけて人間関係のことを学びたかったし、すでに出来上がっている関係に入ることが怖かったし、何より四人と一緒がよくて先生の提案を断った。

 

 

 式はつつがなく終わり、私は決めていた部活を見に行った。本当に式の日にも活動しているか不安だったけれど、まったりと活動していた。聞いていたとおりだった。

 入部希望はもう出したけれど、今日は顔合わせだけ。

 

 所用でここを訪れる先生と一緒に帰る約束をしていた。

 

 

「――お帰りですか?」

 

 

 現ホストとなったハナコに、石畳の真ん中で呼び止められる。私の苦い顔にも彼女はほほえみを返してきた。

 ハナコは事あるごとに「順調ですか?」と話しかけてくる。体験入学みたいに通っていた昔も、そしておそらくこれからも。人前で。

 ()()()からは意味深な目で見られるし、同級生や上級生からの視線も痛い。

 

 鬱陶しいが、それでもこれは『次期ホストであり、現ホストである私が気にかけるほどの人物なのですよ?』と周囲に知らしめているのだろう。彼女の()的好奇心と優しさの犠牲になっているだけと思えば、また将来正門をくぐってこの整備された硬質な通りを歩く人たちのことを思えば、我慢できる。……我慢できる。

 

 

「うん……先生を待たせてるから」

「あら♡ つれないことを言わないでほしい、と言いたいところですが、相手が先生では勝てそうもありませんね。今日の夜にそちらにお伺いすることを楽しみにしています。少々、いろいろと、先生とありまして」

「……私も同席するから」

「もちろん構いませんよ? そちらのほうが安心ですものね」

「何が? 紙の整理だから。どうせ今日も、私が同席しやすいようにって紙束を持っていくんでしょ?」

「ええ、まあ。紙を使うのはトリニティの伝統、風習のようなものですからね」

「……嘘? まあどっちでもいいか。悪い風習をどんどん改革していったのによく言うよ」

「私はこれを、悪いこととは思っていませんから。あなたがホストになった時代に変えるのはいかがでしょう?」

 

 

 ため息をついて、別れた。相変わらずハナコは楽しそうだった。

 

 

 見慣れた人が、片手に一枚ずつ紙を持って見比べていた。試着のときも登校のときも思ったけれど、()()()には白よりも黒が似合うと思う。偏見かもしれない。

 

 

「どうしたの?」

「……自警団と正義実現委員会とでは、何が違うのかと思っただけだ。どちらも内容としては同じではないのか?」

「似ている、とは思うけど。代表者に直接聞きに言ったら?」

「そうだな……迷っていても仕方がない」

 

 

 私はサオリのことが、あまり好きではなかった。直情的で、先生風に言えば、常に生のほうにとんでもない重りがある人。そしてそれを押しつけてくる人。

 けれども。ずっと前から言おうと思っていたことが、今日なら言える気がした。初めての登校で気分が浮かれていたからと言い訳ができるからだろう。普段と違うことをしてもいい。先生と初めて会った日が思い起こされる。

 

 踵を返したサオリの背中に声を投げた。

 

 

「サオリのおかげで、私は先生に会うことができた。大切な人ができた。だから。今まで、ありがとう」

「……そうか」

「私はもう、大丈夫。アツコも、きっとヒヨリも。今までありがとう。これからは自分だけ、責任を持って大切にしてほしい」

 

 

 間の抜けた顔をする彼女に畳み掛ける。サオリのしてきたことは報われているのだと思ってほしかった。

 

 

「今度から何か困ったことがあったら、頼って。たくさんお世話になったから。私も先生も、みんな、あなたが困っていたら助けるよ」

 

 

 じっと、サオリは私を見つめた。小さなころから今までずっとリーダーとして振る舞ってきたせいで、牽引者のような役割が抜けていない。だから他の振る舞い方を知らないのだと思った。これからはきっと、一年二年と部活に所属することで学んでいくだろう。

 

 気乗りしなかったが、私は部活から出された課題を口にする。サオリが呆けている今のうちだと思った。

 

 

「あと、今度どこかに、甘いものを食べに行こう」

「……そ、そうか、分かった。覚えておこう」

「うん。放課後スイーツ部から出された宿題だから、できれば早いほうがいい」

「…………ま、待て。放課後スイーツ部? それは部活なのか? もう決めたのか?」

 

 

 初めて見るサオリの驚き顔に頷く。「甘いものは幸せの味だから」私はちっとも幸せそうな表情をしていなかったと思うけれど。

 口早に言った。癖でマスクを上げようとして、つけていなくて空振って、耳たぶに触れる。真新しいピアスはひんやりしていた。きっと私の頬は正反対の熱をしている。

 

 サオリは正気を疑うように私を見つめ、いきなりくつくつと喉を鳴らし始めた。失礼な気がした。キャラじゃないというのは分かっているけれど、あからさまに笑われると腹が立つ。……やはりサオリとは反りが合わない。でも、反りが合わないことを分かりあって生きていくことはきっとできる。

 

 

「そうか。今度何か食べに行くのを、楽しみにしている。アツコやヒヨリも呼ぼう。……ああ、先生もいたほうがいいか?」

 

 

 多方面からこんなふうにからかわれることが増えた。私は大きくため息をついて答える。

 

 

「任せる。でも先生とは、二人で出かけたときに楽しむからいい」

「……そうか。それなら、旧アリウススクワッドで今度の土日にでも行こう。連絡しておく」

 

 

 そっぽを向いて「ありがと」と答えた。サオリはまた笑った。彼女とも別れ、私はあの人の元へと急いだ。

 木漏れ日が差す、緑豊かな場所にしんみりとあるカフェの主人のような。基本的に一人で完結していて、それでも人のぬくもりに触れたいから、人が来るか来ないかはお任せで店を開いている。その穏やかな雰囲気が好きな人が、自然と集まってくる。集まるようになった。私もその一人だった。そんな人の元へ。

 

 

 正門まで歩いていくと、その姿に吸い込まれるように自然と発見できた。

 洗い流してすぐのような澄み渡った空に、私がアイロンをかけたシャツを着た先生は、長年使っているであろうジャケットを羽織っている。

 

 

「ごめん。待たせた」

「いやいいよ。ぼーっと考え事をしていたから」

 

 

 先生は一番近くに生えている木を見ていた。何を考えているかは分からなかった。

 ……そういえば。歩き始めた先生の名を呼び、手首を掴んで、引き止める。何回か目線を上げて先生を見て、下を見ることを繰り返す。

 

 先生は笑った。優しく「うん」と言って。私に勇気を与えてくれる、親愛のこもった仕草でもって待っていてくれる。

 息を吸い、もう一度「先生」と呼ぶ。

 

 

「あなたの天秤は常に傾いているって言ってたけど。今の私は、生きるほうにずっと重いものを乗せられている?」

 

 

 先生は晴れ渡ったそれに顔を向けて、ふっと笑った。晴れやかな表情をした先生は新鮮で、気を抜かなくても見惚れていた。あの顔、ずるい。

 

 

「もうなってる。本当にありがとうな、ミサキ」

 

 

 私たちは、それの意味するところを承知で、あらん限りの慈愛を込めて、重みづけをした。嬉しくて抱きついて、そうして、ここは人通りのある正門だと思い出した。顔から火が出そうな色味のまま二人で笑いあった。

 

 

 無邪気ではいられない。私も先生も。

 ――それでも。きっと私たちは、言葉の重みを知りながらそれを積み重ねて、丁寧にていねいに人生を溶け合わせて生きていくのだ。

 私たちは、手を繋いで帰った。






 トリニティ総合学園に入学する生徒の人数は、しばらくの間、少しずつ増えていったという。


 ――完――


 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 ミサキと先生の人生の一端であるこの物語が、読んでくださった方の一助になれば幸いです。
 お気に入り登録、感想、誤字報告、評価、ここ好きなど……たくさんでした。ありがとうございました。おかげさまで、なんとか最後まで書き切ることができました。またどこかで。

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