電子生命体系AIっぽい配信者で稼ぐ話 作:深空 秋都
「ひぐっ……ひぐっ……」
目の前で女の子が泣いている。
「なんでぇ……」
涙をジャージの袖で拭いながら俺の方を見続けている。
正確にはパソコンの画面なのだが。
画面に映っているのはメールアプリとSNS。
この二つの共通点はどちらもある出来事に関して記載されている事だ。
その出来事とは――――炎上。
「初めてだったのにぃ……ひぐっ……ひぐっ……」
炎上自体は女の子自身ではない。
炎上したのは仕事のパートナーであり、とある動画投稿サイトの配信者であった。
女の子は配信者が所属する企業を通じてイラストを提供しており、そのイラストは配信者のアバターとして利用される。配信者は仮想の人物に成りきることで現実の容姿やしがらみを気にせず配信が可能となる。こういった配信者たちのことを世間一般ではバーチャルストリーマーと呼んでいる。
女の子はそんなバーチャルストリーマーの顔となるイラストを提供するイラストレーター。
SNSでもそれなりに名の知れた新進気鋭のイラストレーターであり、注目度も高かった。
炎上が起きるまでは。
(それにしてもこれは酷い)
今回炎上した中身は男女のいざこざとSNSの裏アカウントというダブルパンチ。
何から突っ込めばいいのか戸惑う事案だ。
(幸いこの子はイラスト提供者というだけで飛び火はしていない。が、ネットニュースにイラストが出てしまうのはマイナスに働くか)
インターネットの評判を気にした他の企業からの依頼自体もキャンセルされてしまい、心無いSNSのコメントが女の子をめった刺しにする。ほとんどのコメントは同情や励ますような内容だったが、精神的に不安定な状態であるほど悪意あるコメントが見えやすくなる。
これはかなり危うい自体だ。早々に誰かが手を差し伸べなければいけないほどに。
(よしっ、スピーカーから合成音声を出してっと……)
女の子のPCをバックグラウンドから操作する。
『あー、あー、マイクテス、マイクテス』
「ひっ、ひいぃぃぃぃっ!?」
『その様子だと聞こえてるね。あと驚かせてごめんね』
「ぱ、パソコンが勝手に喋った……ウイルス?」
『ウイルスじゃないよっ!』
「そういうこと言うのは悪い人では?」
『えっ? ……そうかも』
彼女の言うことは一理ある。
だが待て。納得しかけてしまったが今大事なのはそこじゃない。
「電源落としますね」
『待って! さっきまで泣いてたとは思えないほど冷静な対応だね!?』
流れるようにマウスカーソルをシャットダウンへ持っていく女の子に待ったをかけ、少し大きめに音声を出力する。
『まずは自己紹介をさせてほしいんだ』
合成音声をリアルタイムで調整し、生身の人間に限りなく近い声を再現する。相手の感情に訴えかけるような少し申し訳なさそうな風に。
「ウイルスじゃないんですか……?」
『違うよっ! ゴホン……俺の名前はエレフ。正体は生身の人間とは違う本物の電子生命体。特技は演算、趣味は動画サイトのライブ配信視聴』
「ちょっと追いつけてないんですけど。AI的な? 感じなんです?」
『厳密には違うけれど今はその認識でもオッケー』
人工知能すら未発達の時代だ。電子生命体との差違を語ったところであまり意味は無い。
「それで、えーっと、そんなエレフさんがなぜ私のパソコンに?」
『実はお気に入りのライブ配信者の一人に君がイラストを担当していた子がいたんだよね』
「あっ」
再び思い出したのか涙ぐむ女の子。
俺はやってしまったと焦りながら早口で説明する。
『そこで先の炎上の件から何も悪くないイラストレーターの君に飛び火しかかっているのを見て、気にかかって色々調べたんだ。一応俺は電子生命体だからインターネットのあらゆる情報を簡単に入手できちゃうんだ。そうしたらSNSの悪意ある言葉、仕事のキャンセル、その他諸々を知ってしまって……うーん、あの、泣かないで』
「ふふっ、ちょっとストーカーっぽいです」
女の子は服の袖で涙を拭きながら笑みをこぼした。
「電子生命体さん? も人間とあまり変わらないんですね」
『そうだね。今は身体と呼べるようなものは無いけれど、あったらきっと汗をかいて焦り顔になってるだろうね』
「なるほど」
女の子は唐突にパソコンで絵を描くための道具を手元に置き、軽快な音を立てて何かを描いている。
「こんな感じですか?」
パソコンの画面に表示されるデフォルメされた少女の焦り顔。ごく短時間でさらさらと描くところは流石プロイラストレーターだ。
『そうそうこんな感じだね。このイラストを少し借りてもいいかな?』
「へ? はい、どうぞ……?」
俺は電子生命体の腕の見せどころとばかりに描かれたイラストを3D化する。幸いなことに女の子が使用しているパソコンはクリエイター用の高性能パソコンであったため、画面上で3Dモデルを動かすこともできた。
『これで顔を合わせて話せるねっ!』
「……すごい」
『電子生命体なので』
ふんす、と全身ですごいだろう、と表現する。
「本当に電子生命体さんなんですね。人間じゃこんなあっさりできないですもんね」
女の子の言葉は事実だ。
世界中どこを探してもこのクオリティと速度で作成、そして動かすことはできない。今より更に発展していけばいずれできるようになるはずだが、それはだいぶ先の未来だ。
『で、こうして話せるようになったし本題に入ろう』
にこやかな表情から一変。真剣な面持ちで話を続ける。
『まず調べた情報から今は以前より案件が十分の一ほどで炎上以降は新規案件無し、で合ってるかな?』
「はい、デビュー当時からお世話になってる取引先だけですね……」
彼女がイラストレーターとしてデビューしたのは三年前。イラストのクオリティも高く、取引先のイラスト内容の指定にも忠実。総じて取引先満足度の高い仕事ができており、実際に評価はかなり高い。
「生活だけなら今の案件だけでも大丈夫なんですけど、その……」
『妹さんの学費の工面、かな』
「っ!」
いくら人工知能が未発達とはいえ、それなりに電子化自体は進んでいる時代。大抵のことは情報さえ引き出せれば知ることができてしまう。
「やっぱりお見通しなんですね」
『ごめんね』
「大丈夫です。逆に知ってる前提でお話しできるほうが楽ですから」
妹さんの学費の工面。
これは家庭の事情だが、ここまで話をしている以上は精一杯サポートしたい。
『今からいくつかお金を稼ぐための案を提示するよ。これだっ、て思う案があったら言ってね』
「へ?」
間髪入れず画面上に表示する。
提示した案のほとんどは電子生命体である俺の力が無ければできないことだ。お金を稼ぐことは簡単ではない。
今の俺のように簡単にイラストを高精細3Dに落とし込むツールなどのクリエイティブ系の便利ツール販売やIT技術者向けの案件を並行処理。電子生命体ならお茶の子さいさいの仕事。
他には彼女の力を借りて電子生命体配信者として活動するなどのちょっとネタに走ったものもある。
『どうかな』
「ほとんど私は何もしないのが多いですよね」
『……うん』
少し悩んだ素振りを見せた後、彼女はゆっくりとある一つの選択肢にマウスカーソルを合わせた。
「これがいいです」
『え、これでいいの?』
正直、彼女の癒えない傷を刺激するようなものは選ばないと思っていた。だが、それは思い違いだったようだ。
「はい、これがいいんです。やっぱり私はここで引き下がりたくありません」
『なら、俺も腹を括るよ』
マウスカーソルと重なっている選択肢。
それは――――
・電子生命体系AIっぽい配信者で稼ぐ話
勢い