SIREN落語   作:ドラ麦茶

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しびと(ろくろ首)

 羽生蛇村で生まれた者は村で一生を終えるしきたりとなっており、村外に出ることはめったにありません。

 

 しかし、中には何らかの事情で村の外へ出て行く者もおります。

 

 恩田(おんだ)家の次女に理沙(りさ)という娘がおりますが、その者は村を出た人間の一人です。理沙は集団就職で上京し、スーパーマーケットでレジ打ちの仕事をしておりました。初めての東京での生活で不安もありましたが、少しずつ仕事を覚え、生活にも慣れてきた頃、ひとつ問題が起こりました。理沙は同じく村から集団就職で上京した別の娘とアパートの一間で共同の生活をしていたのですが、この同居人の娘、夜中に起き出して部屋の中を徘徊するようになったんです。その時の同居人の顔と言ったら恐ろしいのなんの。青白い顔をして目から血の涙を流しており、まるで羽生蛇村に昔から伝わる化け物・屍人のようでした。理沙は同居人が屍人化して徘徊し始めると、布団をかぶってガタガタ震えながら夜が明けるのを待っているしかなかったのです。

 

 ある日。恐怖に耐えかねた理沙は、アパートを飛び出し、実家へ帰ることにしました。

 

「――ああ、やっと村に着いた。やっぱり羽生蛇村は遠いわね。電車とバスを乗り継いで十時間以上かかるんだもの。そのうえ駅で乗る電車を間違えて三時間も遅れちゃったから、すっかり暗くなっちゃった。さて、お姉ちゃんが迎えに来てくれてるはずだけど……どこにもいないわね。お姉ちゃんどころか、人っ子一人いないじゃない。まあ、そりゃそうよね。羽生蛇村じゃ、陽が暮れたら外に出る人なんてまずいないもんね。しかし困ったなぁ。ここから家までの道は街灯が無いから真っ暗だし、懐中電灯なんて持ってないし、一人だと心細いし、どうしようかしら」

 

「こんばんは」

 

「きゃ、ビックリした。いきなり後ろから声をかけないでください」

 

「へえ、これは失礼しました」

 

「なんだ。駐在所の石田(いしだ)巡査じゃないですか。こんばんは」

 

「美奈さん、こんなところで何してるんです?」

 

「あ、いえ、美奈は姉で、あたしは妹の理沙です」

 

「おや、そうでしたか。いや、美奈さんとは少し前に田掘(たぼり)の方で会ったばかりで、またここでお会いしたからおかしいと思ったんですよ。そうですか。妹の理沙さんでしたか。確か、東京で就職したと聞きましたが、今日は帰省ですか?」

 

「そうなんです。ちょっと事情がありまして」

 

「事情?」

 

「はい。実はあたし、村から一緒に就職した娘さんとアパートで同居していたんですが、その子、夜になると屍人になって部屋の中を徘徊しはじめるんです」

 

「屍人? 屍人っていうと、あのゾンビみたいなやつですか? 青白い顔をして、血の涙を流してる化け物」

 

「そうです。あたし、それが怖くて怖くて……ガマンできなくなって、帰ってきちゃったんです」

 

「そうでしたか。いや、それは怖い目に遭いましたね。しかし、無事に帰って来られて良かった」

 

「はい。途中、駅で迷っちゃったから、到着が三時間も遅れちゃったんですけどね」

 

「あらら、三時間も? そうか。それで、美奈さんはあんな風に」

 

「あんな風?」

 

「ええ。さっき田掘で美奈さんに会ったって言ったでしょ? あの時の美奈さん、随分と心配そうにしてましてね。理沙が帰ってこない、何かあったんじゃないか、道に迷ってるんじゃないか、理沙を見ませんでしたか? って、そこらじゅうを訪ね歩いてました」

 

「そうなんですか? それは、心配かけちゃったな」

 

「ええ。そりゃあもう、血眼(ちまなこ)になって探してましたよ」

 

「ええ! 血眼になって!? ダメだわ、それじゃあ実家にも帰れない!」

 

 

 

 

 

 

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