羽生蛇村で生まれた者は村で一生を終えるしきたりとなっており、村外に出ることはめったにありません。
しかし、中には何らかの事情で村の外へ出て行く者もおります。
ある日。恐怖に耐えかねた理沙は、アパートを飛び出し、実家へ帰ることにしました。
「――ああ、やっと村に着いた。やっぱり羽生蛇村は遠いわね。電車とバスを乗り継いで十時間以上かかるんだもの。そのうえ駅で乗る電車を間違えて三時間も遅れちゃったから、すっかり暗くなっちゃった。さて、お姉ちゃんが迎えに来てくれてるはずだけど……どこにもいないわね。お姉ちゃんどころか、人っ子一人いないじゃない。まあ、そりゃそうよね。羽生蛇村じゃ、陽が暮れたら外に出る人なんてまずいないもんね。しかし困ったなぁ。ここから家までの道は街灯が無いから真っ暗だし、懐中電灯なんて持ってないし、一人だと心細いし、どうしようかしら」
「こんばんは」
「きゃ、ビックリした。いきなり後ろから声をかけないでください」
「へえ、これは失礼しました」
「なんだ。駐在所の
「美奈さん、こんなところで何してるんです?」
「あ、いえ、美奈は姉で、あたしは妹の理沙です」
「おや、そうでしたか。いや、美奈さんとは少し前に
「そうなんです。ちょっと事情がありまして」
「事情?」
「はい。実はあたし、村から一緒に就職した娘さんとアパートで同居していたんですが、その子、夜になると屍人になって部屋の中を徘徊しはじめるんです」
「屍人? 屍人っていうと、あのゾンビみたいなやつですか? 青白い顔をして、血の涙を流してる化け物」
「そうです。あたし、それが怖くて怖くて……ガマンできなくなって、帰ってきちゃったんです」
「そうでしたか。いや、それは怖い目に遭いましたね。しかし、無事に帰って来られて良かった」
「はい。途中、駅で迷っちゃったから、到着が三時間も遅れちゃったんですけどね」
「あらら、三時間も? そうか。それで、美奈さんはあんな風に」
「あんな風?」
「ええ。さっき田掘で美奈さんに会ったって言ったでしょ? あの時の美奈さん、随分と心配そうにしてましてね。理沙が帰ってこない、何かあったんじゃないか、道に迷ってるんじゃないか、理沙を見ませんでしたか? って、そこらじゅうを訪ね歩いてました」
「そうなんですか? それは、心配かけちゃったな」
「ええ。そりゃあもう、
「ええ! 血眼になって!? ダメだわ、それじゃあ実家にも帰れない!」