マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム   作:下城米雪

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第12話 お披露目ミーコ

:ローディング猫なんか癖になってきた

:これミーコの手書きなんやろ?

:5分で描けそう

:絵心(

:かわいい

 

 配信が始まる前の待機画面。

 ミーコは今、ちょっぴりホットだった。

 

 一万回再生された切り抜き動画。

 魂も知らない猫の一件による小さなバズ。

 

 その結果、千人弱の暇人が集まった。

 彼らは、ぽつりぽつりとコメントを投稿して、配信開始を待っている。

 

 突然、配信画面が切り替わる。

 フードを被った少女の姿が映し出された。

 

:おっ

:始まったか?

:かわいい

:舞ってた!

 

 ミーコは喋らない。

 口元に笑みを浮かべ、左右に揺れている。

 

:かわいい

:なんか言えよw

:フード邪魔じゃね?

:かわいい

:ミーコ喋って!

 

 コメントの勢いは普段と比較にならない。

 有名Vtuberと比較すれば緩やかだが、もはや全てのコメントに返事をすることは不可能な程であった。

 

 ミーコは動きを止めた。

 その直後、小さな手がフードを掴む。

 

:手!

:かわいい

:!?

 

 ミーコは滑らかなアニメーションでフードを脱ぎ、頭を左右に振った。

 

 二つ結びの長い髪が揺れる。

 初めてハッキリと顔が見えた。

 

 ミーコは快活そうな笑みを浮かべ、得意気な表情を披露した。その瞳に、不安の色を浮かべながら。

 

 直後、コメントは一気に勢いを増す。

 

:ふぁっ!?

:モーションすご!

:かわいい

:なんこれ!?

:脱いだ!?

 

 Vtuberの動きは、大きく分けて二種類ある。

 首から上だけ動かすタイプと、全身を動かすタイプである。

 

 どちらも、現実の人間をカメラで撮影して、その動きをアバターの関節に反映させている。

 

 ミーコは少し違う。

 一般的な配信ツールは使用せず、兄が作ったツールを使用しているため、ボタンを押すだけで複雑な動きを見せることができる。

 

 もちろんミーコにアニメーションをアピールする意図は全く無い。ただの思い付きである。

 

 衣装の変化も決して珍しいことではない。

 パーカーのチャックが独りでに閉じたり開いたりするとか、そういうシンプルな動きは稀によくある。

 

 しかし手書きのアニメーションみたいに洗練された動きは滅多に無い。

 

 ミーコの動きは完璧だった。

 妹の晴れ舞台を盛り上げるため、兄が本気を出した結果である。

 

 リスナーの期待感が高まった。

 その熱を感じ取ったかのように、彼女は声を張り上げる。

 

『にゃっほろぉ~!』

 

:声でっかw

:かわいい

:耳痛い

:待って待ってフードどうやって脱いだの?

 

『肉体を手に入れたミーコだよ!』

 

:草

:かわいい

:あの謎猫がこんな美少女になるなんて

:さっきの謎技術について詳しく!

:wktk

 

『来てくれて嬉しい。ありがと!』

 

 その声は少しだけ上擦っていた。

 瞳には兄特製の配信ツールが映っている。

 

 いくつかのボタン。配信画面。

 そして、視聴者からのコメント。

 

『うぉぇぁっ!? コメントはやァ!?』

 

 彼女は声を出すことで緊張を紛らわす。

 

『サラマンダーより速ァい!』

 

 コメント欄には中々の勢いでリアクションが投稿される。その大半は「会話」を前提とした内容ではなく、単なる感想のようなものだ。

 

 これまでの視聴者は常に一桁だった。それは、あえてマイナーな配信を見る者達。コメントは会話を想定した内容となる。しかし今回は違う。全てのコメントに返事をすることが当たり前だった彼女は、それはもう戸惑った。

 

『すまん! コメント全然ひろえん!』

 

 ミーコは唇をへにょへにょにして、ポロポロと涙を流すアニメーションを披露した。

 

:無理に拾わんでもええよ

:声かわいい

:表情www

:ほんま謎技術

 

『とりあえず自己紹介するね! 許せサスケ! ツイッターで返事するから!』

 

:ツイッター?

:?

:かわいい

:知らない子ですね……

:ツイッター?

:???

 

 彼女は声だけで分かる程にテンパっている。

 それでも震える手を必死に操作して、事前に用意した自己紹介を始めようとした。

 

:!?

:なんか一回転したぞw

:この謎技術どうなってんの?

:かわいい

:全身トラッキング?

 

『うぉぇぁっ!? 間違えた!?』

 

 結局、彼女は三回もボタンを押し間違えた。

 全てアニメーションのトリガーであり、放送事故には至らなかったが、そのミスは彼女の精神に多大なるダメージを与えた。

 

『はにょゎっ、どれだっけ、どれだっけ!?』

 

:落ち着けw

:何してんの?

:かわいい

 

『これぇ!!』

 

 画面にはプレゼンっぽい表紙が映った。

 ミーコの姿は、右下の方に固定されている。

 

 ──ミーコの自己紹介

 彼女はタイトルを読み上げ、ページを捲った。

 

『ゲーム配信とか雑談配信とかやるよ!

 時間は夜の九時から一時間! 頑張って早起きする!』

 

:早起き?

:早起きとは

:早起きw

:かわいい

:朝じゃなくて?

 

『夜九時はヒキニートの早朝!』

 

:草

:ヒキニートなんか

:夜行性

:かわいい

 

『アーカイブなるはや!

 編集した動画を投稿してから寝る!』

 

:( ˘ω˘)スヤァ

:寝るんかw

:かわいい

:ほえー

 

『今日は、お前にミーコのこと知らしめる!

 スライドは残り五枚!

 最後まで付き合ってくれよな!』

 

:知らしめるw

:もっと他に言い方あるだろw

:かわいい

:草

:賢そう

 

『ママはむしゃピョコさん!

 最初のメッセージが四万文字だったり、

 深夜に送ったラインに一瞬で既読が付いたりして怖い!』

 

:怖いwww

:草

:四万文字!?

:かわいい

:確かに怖い

:あの人そんな感じなんかw

 

『パパは兄!

 ペンネームとかじゃなくてガチの兄!』

 

:兄妹でやってるんか

:きゃ~! お兄様~!

:ほえー

:かわいい

:お兄さん!

 

『SNSのハッシュタグはミーコ学園!

 ミーコは校長か理事長。お前らは生徒!

 

 入学条件は、チャンネル登録をすること。

 年齢制限なし! 永久(とわ)に留年してくれよな!』

 

:入学した

:かわいい

:割と設定作り込んでるのな

:期待の新人

 

『目標は生徒数百万人!

 絶対に達成するから、応援よろしくな!

 

 こほん。あー、あー。

 生徒諸君には、ミーコ学園を布教する義務があります。

 

 ヌヒヒッ、なんちゃって。

 ミーコはがんばるけど、お前らは程々に楽しんでくれよな』

 

 テンポ良く、ゆっくり喋る。

 ひとつひとつの言葉を強調する。

 

 Vtuberを見慣れていない人は、アニメみたいな話し方だと思うことだろう。これはマイクにしっかりと音を乗せる為の技術である。

 

 毎日活動を続けた一ヵ月間。

 彼女は目標である千人のフォロワーを手に入れることができなかった。

 

 しかし、無駄なことなんてひとつもない。

 彼女が「無意味」だと思っている「十年間」も、今この瞬間に繋がっている。

 

 普通の人は、マイクに声が乗らない。

 聴き取りやすい声を習得するためには、相当な期間の訓練を必要とする。

 

 だけど彼女は、そもそもマイクを通して会話することが当たり前だった。

 

 このため、有名なVtuberの喋り方を真似するだけで、あっという間にプロレベルの発声技術を習得することができたのである。

 

 彼女は気が付かない。

 マイクに向かって喋るという「当たり前」の中に、人生が詰まっている。それが、ミーコの魅力を伝える武器になっていた。

 

『ミーコ考えたんだよね。

 どうすればミーコのこと伝わるのかなって』

 

 ミーコには教養が無い。

 それもまた、シンプルな言葉を選ぶことに繋がり、プラスに働いている。

 

『他の人を見てたら、

 声帯の写真を見せてる人が居たのね?』

 

:なにそれ

:どこのお嬢様w

:ですわ~!

: 

:かわいい

:声帯???

 

『すごいよね。びっくりした。面白い。

 だから、ミーコのソースコードを見せます』

 

:ソースコード!?

:なんそれwww

:どゆことwww

 

『じゃん!』

 

:なんも分からん

:バイナリーで草

:!?

:なにこれwww

 

『この部分が、頭です』

 

:分からんw

:www

:かわいい

:草

:なにこれwww

 

『こっちが脚で、こっちが……耳かな?』

 

:なんかモザイクあるな?

:モザイクなにそれ

 

『モザイクは見ちゃダメ! えっち!』

 

:草

:ソースコードに恥じらいという新概念

:ある意味で全裸だもんな

:かわいい

:草

 

 彼女は、それはもう必死だった。

 たまーにコメントを拾うけど、九割は見えていない。文字は読めるのに、その意味が頭に入って来ない。

 

 後に彼女は言う。

 最初の配信、ぜーんぜん覚えてない。

 

 その言葉の通り、彼女は無心で喋っていた。

 最初に用意したプレゼン資料に添って、とにかく思い付いたことを口にしていた。

 

 結果、そこそこ受けた。インフルエンサーである「むしゃピョコ」の協力もあり、ミーコ学園には次々と入学希望者が現れた。

 

 その勢いは凄まじいもので、あっという間に一万人を突破した。

 そして二万人を目前としたところで──ピタリと、勢いが止まった。

 

 

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