マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム   作:下城米雪

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第15話 悲報

『コラボ決まっちゃった……』

 

:ふぁっ!?

:だから展開速いんよwww

:このスピード感すこ

:私じゃなきゃ見逃しちゃうね

 

 翌日、ユラティブにおける配信。

 ミーコは心から不安そうな様子で言う。

 

『……ミーコ、死ぬかも』

 

:誰とコラボするの?

:またお兄様のコネ?

 

『……コネじゃない。なんかDM送り付けてきた』

 

:送り付けてw

:言い方よ

:そんなに嫌?

 

『……ミーコは人と話すと死にます』

 

:草

:匿名以外絶対受け付けない系女子

:ガードが固すぎる女

 

『どうしよう!?』

 

:腹くくれ

:楽しみ

:わくわく

 

『薄情者ォ!』

 

 ミーコは涙声で悲鳴をあげる。

 リスナー達はしばらく友達を茶化すようなコメントを続けていたが、やがてミーコが本気で苦しんでいることを悟り、背中を押す方向にシフトした。

 

:それで、コラボ相手は?

 

『……それは当日まで言えないけど、チャンネル登録者数20万人くらいだった』

 

:大物やんけ

:ミーコの人生確変してんなぁ

:運命力SSS

:めっちゃ良い機会じゃん! おめでとう!

 

『お前ら聞いて。チャンスはピンチなんだよ』

 

:逆では?

:ピンチな要素あるか?

:???

:あらあら、皆様方、ミーコ理解力が乏しいですわね

 

『解説よろ!』

 

:ふふっ、お任せください

:ミーコの目的は百万人。確かに、大物とのコラボはチャンスです

:しかし、それは大きな失敗をするピンチでもあります

:ミーコは何度も述べています

:会話が苦手

:どうしても無理なら断れば良い

:その言葉は愚の骨頂

:ミーコは我々と約束しました。最初の誘いを断らない

:健気なミーコは約束を守ります

:やるしかないのです

:しかし、まともに会話できる気がしない

:このコラボを機に、多くの人から嫌われてしまうかもしれない

:コラボした相手に迷惑をかけるかもしれない

:今のファンに失望されるかもしれない

:そういう気持ちなのです

:わたくしには、よく分かります

:大丈夫ですよ。ミーコ

:わたくしが信じるミーコを信じなさい

:あなたは、やればできる子です

 

『……こわ』

 

:ど"う"し"て"ぇ"!?

 

『……妖怪来ちゃった』

 

:覚(さとり)ですの!?

:心を言い当て過ぎて妖怪扱いですの!?

 

 ミーコは言葉を探す為に口を閉じた。

 数秒の間が生まれ、新しいコメントが投稿される。

 

:お兄様ガチ勢のイメージ画像これか(URL)

:完全に猿で草

:どう見ても雄なんだよなぁ

:わたくし悪いことしてないのに!

:この仕打ち!

:ど"う"し"て"ぇ"!?

:もっとかわいいイメージ画像を希望しますわ!

 

『こっちのサトリはかわいいよ(画面共有)』

 

:弾幕ごっこ始めそう

:ガチのトラウマはNG

:それ! かわいい! 採用ですわ!

:よく見たら作者むしゃピョコじゃん

:不採用! あの女の絵はお断りですわ!

:じゃあ猿やな

:ムキィィィィィ!

 

『ヌヒヒッ、お前らほんと愉快だな』

 

 ミーコはケラケラと笑った。

 それは普段通りの会話だったけれど、ミーコの心は随分と軽くなった。

 

『お前らネタだと思ってるかもだけど、ミーコのコミュ障、割とガチなやつ』

 

 だからこそ本音で相談する。

 前に進むために、自らの欠点を打ち明ける。

 

『多分、ぁ、とか、ぅ、とかしか言えなくなる』

 

:練習しよう

:むしゃピョコと音声通話したら?

:不本意ですが、お兄様経由なら断らないでしょうね

 

『……そっか、練習か』

 

 その提案はミーコにとって目から鱗だった。

 ずっと孤独だった彼女の頭には、誰かに頼るという選択肢が存在しなかった。

 

 当然、兄に頼ることは考えた。

 しかし兄と会話することが他人と会話する練習になるとは思えない。

 

 むしゃピョコは、兄が紹介してくれた人だ。

 最初のメッセージは怖かったけど、信頼できる。

 

『ミーコ、がんばってみる』

 

 その声は微かに震えていた。

 心に深く刻まれたトラウマによって、無自覚に、震わされた。

 

:がんばれ!

:コラボ楽しみにしてる!

:最悪、通信環境が悪いとか言ってバックレりゃええやろ

 

『ヌヒヒッ、それはダメでしょ』

 

 その後、普通に会話を続けた。

 そして配信が終わった後、彼女はラインを起動した。

 

 トークルームは、たったひとつ。

 ゆるキャラみたいなアイコンの隣に、「むしゃピョコさん」という名前が設定されている。名前の下には「配信面白かったよ!」というコメントがあり、その隣には、メッセージの数を知らせる「3」という数字が表示されている。

 

 彼女は、むしゃピョコからの通知を無視していた。

 兄を経由して「ありがとう」とは伝えたけれど、直接連絡を取るためのエネルギーは、最初の一回で使い果たしてしまった。

 

 だから今、再び力を振り絞る。

 

 普通の人なら当たり前にできること。

 マウスのカーソルを合わせて、ぽちっとボタンを押すだけの行為。弱いミーコは、たったそれだけの行動にも、多くのエネルギーを消費する。

 

 十年以上も逃げ続けた。

 だけど、それは終わりにした。

 

 もう逃げない。

 二度と、振り返らない。

 

『──ご相談があります』

 

 二秒でタイピングした。

 それから一分以上かけて、送信ボタンを押した。

 

『どうしたの?』

 

 返事は二秒後に来た。

 

「こわっ」

 

 彼女はパソコンをシャットダウンした。

 それから小走りで布団に飛び込んで、小刻みに震えた。

 

 今日はここまで。

 次の一歩は、明日から。

 

 そんな決意を胸に。

 ミーコはすやすやと眠りに就いた。

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