マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
ウチの名前は
期待の新人発掘系Vtuberである。
ウチは、この世界が大好き。
自分の好きな姿で、好きな声で、好きなことをして笑う。そんなVtuber達を心から愛している。
ほぼ全ての新人を一度はチェックした。
そして、数え切れない程の別れを経験した。
環境の変化。心境の変化。
あるいは、モチベーションの喪失。
とても悲しいけど、仕方が無い。
それもまた
突如として会えなくなるかもしれない。
だからこそ、今この瞬間を全力で楽しめる。
最初は見ているだけだった。
ウチは名無しのリスナーAでしかなかった。
ある日、思った。
それはもう突然に。それはもう強烈に。
もっと推しを布教したい。
あの子の魅力を皆に伝えたい。
そんな想いから新見真希が生まれた。
野暮ったいおさげと黒縁眼鏡が個人的なチャームポイントである。
活動歴は四年ちょっと。
我ながら長続きしてると思う。
好きだから。なんて言えたらカッコいいけど、ウチよりも「この世界」を愛していた人なんて山ほど居たと思う。それでも、何年も活動を続けられる人は多くない。個人Vtuberの平均寿命は八ヵ月という話もあるくらいだ。
ウチの場合、ぶっちゃけお金だ。生活できる程の金額ではないけど、日々の食事をワンランク上げられる程度の収入を得ている。
お金はとても大切だ。生々しい話だけど、夢という言葉が持つキラキラの正体は、金銀財宝とかそんな感じなのだと思う。
例えば、声優の話をしよう。
人気のある若手声優は高確率で実家が太い。
理由は少し考えれば分かる。
実家が太ければ、声優の仕事に専念できる。
週に百時間練習できる人と、週に十時間しか練習できない人。どちらが優れた演者になれるかなんて、そんなの前者に決まってる。
夢を追うにはお金が必要なのだ。
大人達はキラキラと目を輝かせる子供達に「まずは百万円稼ごうか」とか言って、その目を曇らせるべきだとウチは思う。それでも輝ける想いだけが、本物なのだ。
うへへ、なんか語っちゃった。
今ちょっと最高にワンダフルなんだよ。
本題に入ります。
見つけちゃいました。
メッチャ推せる期待の新人です。
コラボ配信やります。
日時は以下の通り。
誰とコラボするのかは内緒だよ。
──以上、新見真希のブログより。
そして現在。
個人Vtuberとのコラボ配信には壁がある。
最も大きな壁は環境差分。人によって異なる配信ツールを使っているため、その辺りの調整をする手間がある。同じスタジオでオフ会できれば最高だけど、知らない人と会うのは抵抗があるものだ。
しかしウチはベテランである。
例外的な対応をした経験も豊富にある。
でも今回は超絶レアケース。
滅多に無いパターンだった。
──ちょっと回想。
ウチは彼女と事前の打ち合わせをしていた。
連絡手段はメール。文字だけのやりとりだ。
配信方法について確認していた時のこと。
彼女は「お兄ちゃんが作った配信ツール」を愛用している。配信で「お兄ちゃん」と聞いた時はキャラ作りの可能性も考慮したけど、メールを見る限りガチっぽい。
ウチはファイル転送サービスを使って、そのツールを受信した。
ご丁寧にマニュアルがある。
ダブルクリックするとブラウザが開いた。
HTMLを駆使したマニュアルみたいだ。
簡単スマホのようなデザイン。大きなボタンが沢山あって分かりやすい。
ウチは「起動の仕方」をクリックした。
画面にウチのデスクトップが映し出された。
突然、謎のアイコンが現れる。
OHTと記された黒いアイコンだった。
アイコンはデスクトップの適当な位置に移動する。
それから存在を強調するように明滅して、「次からこれ」という文字が現れた。
本物のデスクトップを見る。
ちゃんとアイコンが存在していた。
「……謎の技術」
アイコンをダブルクリックする。
配信ツールっぽいウィンドウが現れた。
マニュアルを片手に操作してみる。
そして十分後──
「革命やんけ」
ウチは思わず呟いた。
既存のツールとは比較にならない。
配信する音声の切り分け。
配信する画面の設定方法。
アバターや画面の位置調整。
あらゆる要素に愛を感じる。
あまりにも簡単。あまりにも直感的。
コラボ配信も超簡単。
サブPCを使ってテストしてみると、なんかもう涎が出る程に快適だった。
「お金払いたい」
ウチは涎を拭いた。
以上、回想終わり。
「んにょ、メール来た」
噂をすれば何とやら。
彼女からの連絡だった。
「……ふむふむ」
コラボの誘い、ありがとうございます。
ひとつだけ謝らせてください。
ミーコはとてもコミュ障です。ごめんなさい。
失礼な態度を見せるかもしれませんが、悪意はありません。
楽しみにしています。
よろしくお願いします。
「……かわいい」
自称コミュ障。これは挨拶みたいなものだ。
ウチとコラボした新人のほぼ全員が同じ言葉を使った。
ただし、そこから繋がる言葉には個性が出る。
彼女の場合は「相手に迷惑をかけること」を心配している。ウチの経験則で言えば、この発想が一番に来る子は炎上しにくい。そして──人気も出にくい。
配信者は品性を捨てた方が良い。
上品で落ち着いた配信よりも、小学校低学年の男子のように大袈裟なリアクションをして、下品な言葉を躊躇なく叫ぶ配信の方が多くの視聴者を集められる。
他人を気遣うようではダメだ。
常に自分本位で、自分の利益を最優先に考えられなければ、人気は爆発しない。
でもウチは上品な子の方が好きだ。
汚い言葉を使わない子の方が推せる。
あとは、がんばってること。
何か明確な目標があるとなおのこと良い。
ミーコちゃんは完璧だ。
ウチの好みに、どんぴしゃり。
「んにょ、ちょうど配信始まる時間やんけ」
配信直前にメールを送信したのかな?
そんなことを思いながら、彼女の配信を視聴する体勢になった。
『重大発表~!』
初手、元気な声。
『ミーコ、留学します!』
直ぐに分かった。
多分、コラボ配信のことだ。
やっぱりコラボのことだった。
ミーコはある程度の説明をした後、ゲームを始めた。
とっても元気で、声が聞き取り易い。
しかも適度にコメントを拾っている。
デビューしたばかりの新人とは思えない。
まるで大手事務所の中堅どころみたいな配信だった。
「これがコミュ障とか絶対ウソやんけ」
ウチは良質なコラボをするため、彼女の動画を30時間分ほどチェックした。会話が苦手な印象は受けなかった。この配信を見ても、会話が苦手な雰囲気は全く無い。
多人数で会話する時、なかなか発言できない人は多い。
しかし今回のコラボはペアである。仮に彼女が「コミュ障」を発揮したとしても、ウチがフォローすれば良いのだ。まぁ、ぜーんぜん心配してないけどね。
「あー、楽しみだなぁ」