マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
『お姉さんと一緒に、ぽよテトしましょ』
ぽよテト。
空から降ってくる「ぽよ」を重ねて消滅させる「ぽよぽよ」、そして同じく空から降ってくるブロックを揃えて消滅させる「テトリンヌ」が合体したゲームである。
プレイヤーは「ぽよ」か「テト」を選択して遊ぶことができる。
この際、双方で同じゲームを選択する必要は無いため、「ぽよvsテト」の対戦が実現するのだ。
果たして最強は「ぽよ」を愛する者か、それとも「テト」を愛する者か……そんな感じのゲームである。
このチョイスを見た視聴者達は……
:あっ
:うっわ
:ないわ
:鬼か?
と、新見真希を蔑むような反応を見せた。
その反応に対して、初見の視聴者達が困惑した様子を見せる。
真希はあえてコメントを無視した。
ミーコにはコメントを読む余裕が無い。
『ミーコ(呼びかけ)
どうかな? ぽよテト、楽しいよ』
:悪魔の微笑み
:これは涎垂れてない
:垂らせよ!
:涎が求められてて草
ミーコは炬燵から顔を出し、ジト目を続けている。
『……』
真希は返事を待ち、沈黙した。
彼女に釣られ、視聴者達の視線がミーコに集まる。
仮に現実世界の出来事なら、ミーコの第六感が視線を感じ取り、その重圧から意識を手放していたことだろう。
だが、今は違う。
配信を成功させたい。会話を成立させたい。
そのような願望から生み出された「重圧」が、トラウマから生み出される「重圧」を一時的に上回っている。それは決して軽いものではない。だが、彼女を狭い部屋に閉じ込めていた重圧よりは遥かに軽い。
彼女を縛る重圧は、いつの間にか誰もが知る緊張に変わっていた。
トラウマではなく、ありふれた緊張感であるならば、克服できない理由は無い。
──ミーコの口が微かに開いた。
彼女の勇気が、ほんの少しだけ、息が吸える程度に、こじ開けた。
『おっ?』
:口空いた!
:おっ^q^
: (^ω^≡^ω^)おっ、おっ?
:ためるねぇw
:ここで断ったら笑う
真希とその視聴者達が反応を示した。
:ミーコがんばれ!
:多分むしゃピョコより無害ですわよ!
:来たか?
:がんばって!
ミーコを応援する者達のコメントも、先程からずっと止まらない。
息を吸う音がした。
そして、彼女は──
『あ』
と、一言だけ声を発し、かたまった。
真希は「え、それだけ?」と驚きのあまり目を見開いた後、咄嗟にフォローする。
『や?』
:嫌?
:やっ!(拒絶)
:「あ」じゃなかった?
『や? や~、る? る?』
真希が圧をかける。
ミーコは引きこもるボタンにカーソルを合わせていた。
指先が震える。
微かな呼吸音をマイクが拾う。
気力を使い果たした。
もう無理だ。逃げたい。終わりにしたい。
でも──!
『……やる』
雪が地面に落ちたみたいに小さな音が鳴った。
『んきゃわぁぁぁゆぃぃぃいっひぃぃぃぃ!』
真希が壊れた。
アバターは硬直し、遠い所からガタガタと音が鳴り響く。
ミーコは炬燵になった。
コメント欄には爆笑が生まれた。
そして、およそ三分後。
配信画面はゲーム画面に切り替わった。