マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム   作:下城米雪

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後の祭り

 新見真希が行う新人発掘コラボ。通称、マキルートと呼ばれるその配信は不定期に開催されており、数千人の視聴者を安定して集められる人気コンテンツである。

 

 これまで数多くの新人が発掘され、その中には「コアなVtuberファンなら一度は見たことがある」程度の人気を獲得した者も多く居る。しかしコラボ配信そのものが大きな話題を呼んだことは無い。

 

 今夜、歴史が動いた。

 ミーコが振り絞った1%の勇気と、99%の奇跡が生み出した結果。それを当事者達が知るのは少し先の話。

 

 まずは配信直後の様子を語ることにしよう。

 

 

*  むしゃピョコの場合  *

 

 

 都内にあるマンションの一室。

 むしゃピョコは机の前で拍手していた。

 

「うぅ、うぅぅぅ」

 

 泣いている。

 

「あの──ちゃんが、こんな……がんばったね。がんばったねぇ」

 

 彼女の前には27インチのモニターがある。

 数分前までは娘の勇姿が映し出されていた。

 

 むしゃピョコはミーコのママである。

 もちろんイラストを生み出した者という意味なのだが、彼女の練習に付き合った経験が本物の母親以上の感動に繋がっている。

 

「えらい! えらいよぉ~!」

 

 SNSの裏垢で今の気持ちを書き込む。

 その途中、ぴこんと通知音がなった。

 

「なんかメール来た」

 

 差出人はミーコ。

 内容は、お礼だった。

 

「んがわぃぃよぉぉ」

 

 SNSに書き込む速度が増す。

 この夜、むしゃピョコは一時間かけて百件以上の投稿をしたのだった。

 

 

*  四天王の場合  *

 

 

 ミーコを応援する原初の四人。

 自称、四天王が集まる完全匿名チャット。

 

 コラボ配信が終了した後、当たり前のように勢いが加速した。

 

 チャットの参加者達は思い思いに感想を書き込み続け、その感動を共有する。

 

 そして会話が一段落した頃。

 参加者の一人が次のような投稿をした。

 

『むしゃピョコの裏垢みつけたかもしれん』

 

 ざわ……ざわ……。

 

『可燃性はありますの?』

『真っ先にその質問が出てくるお兄様ガチ勢怖すぎるんよ』

『とりま鍵は無い。投稿数は二十万件くらい』

『(;゚д゚)』

『(つд⊂)ゴシゴシ』

『(;゚Д゚)20万!?』

『流石に全部見るのは無理』

『お任せください』

『燃やすなよ』

『わたくしがミーコに迷惑をかけるとでも?』

『まぁ、それくらいのリテラシーはあるか』

『当たり前です』

『ほい(URL)』

『ちょっと本人にDMするだけですわ』

『あらぁ、入れ違いでしたわねぇ』

『邪悪過ぎるんだよなぁ……』

 

 

 ~むしゃピョコ裏垢鑑賞会~

 

 

『ひとつ、よろしいでしょうか?』

『ええで』

『正直、侮っておりました』

『今とても後悔しています』

『ワイは爆笑してるけど』

『わたくしもですわ』

『草』

『草』

『このツイートなんて特に激痛ですわよ』

 

 

 〇月×日。

 私の青春と再会した。

 

 古びた校舎とは違う。

 高級感のある個室で二人きり。

 

 止まっていた時間が、動き出す。

 

 

『待ってwwwwやめてwwww』

『続きますわよ』

 

 

 彼が就職活動をしていた時のこと。

 一足先に社会人だった私はランチを奢った。

 

 たった数百円のパスタ。

 まさか、数万円のシャトーブリアンになるなんてね。

 

 流石に遠慮する私。

 だけど彼は優しい声で言ったの。

 

 君がしてくれたことを考えれば、安いくらいだ。

 

 録音したかった。

 なんて、ちょっときもいかなw

 

 

『派手にキモイと思いますの』

『草』

『もうやめてwww息できないwwww』

『まだまだ続きますわよ』

 

 

 私は思い出した。

 彼は誠実で、受けた恩を忘れない人だ。

 

 数百円のパスタがシャトーブリアン。

 じゃあ、十年間捧げ続けた私の気持ちは、何に変わるのかな。

 

 

『灰に変われば良いと思いますの』

『wwwww』

『涙出てきたんだがwww』

 

 

 その後も「裏垢」改め「黒歴史」鑑賞会が続いた。

 

 四天王達はミーコの配信を見届けた余韻を忘れる程に笑い続ける。

 

 だから気が付かなかった。

 チャットの参加者が、三人であることに。

 

 

*  新見真希の場合  *

 

 

 真夜中の海辺。

 彼女は湘南の風になった。

 

「すぅぅぅぅぅぅ……」

 

 大きく息を吸い込む。

 

「んきゃわぁぁぁゆぃぃぃいっひぃぃぃぃ!」

 

 波の音に乗せ、吐き出した。

 

「ミーコ! ミーコ! ミィィコぅわああああああああああ!」

 

 途中、ランニング中の近隣住民が彼女の後ろを通る。一瞬「ビクリ」としたが、「またか」という気持ちで素通りした。

 

 限界オタクと化した彼女は、近所にある海で叫ぶことが多い。

 

 登録者数20万人の配信者としては迂闊な行動だが、その時はその時である。

 

「ああああああああああああああ! ミーコミーコミーコうぁぁわああああああああああ! んぎゃ、ぎゃわ、おぎゃわんゅいっひっぃいああああ! かわいい! かわいいよぉぉおおおお! ピコピコ! 猫耳ピコピコぉぉおおお! ミーコのふわふわでピコピコなお耳をクンカクンカしたいよぉぉおおお! 炬燵! ……炬燵? コタぁああああ! 炬燵ぅぅ!! 次は一緒に炬燵の中でハートになろうねぇぇ! 絶対オフコラボしようねぇえええええええええ! ぐへ、うへ、うへ、うへへへ!」

 

 彼女は全力で叫び続けた。

 決して配信用のネタとして演じているわけではない。純粋に、今の彼女は異常者だった。

 

 久々に発掘した全力で推せる新人。

 想定外の連続。極限まで高まった集中力。

 

 例えばそれは、九回裏ツーアウト満塁逆転のチャンスで打席に立つ野球選手。

 例えばそれは、試合終了間際に獲得したPKを蹴ることになったサッカー選手。

 

 ミーコが心を開いた瞬間。

 それはホームランであり、奇跡の逆転ゴールでもあった。

 

 必然、脳汁が溢れ出る。

 真希の脳はビチョビチョだった。

 

 寄せては返す波のように、息を吸っては感情を吐き出し続ける。

 

 やがて通報を受けた警察に止められるまで、彼女は叫び続けたのだった。

 

 

*  ミーコの場合  *

 

 

 閑話休題。

 彼女は、感謝の気持ちをメールで伝えた。

 

 沢山フォローしてくれた新見真希。

 練習に付き合ってくれたむしゃピョコ。

 

 ひとまず、この二人だけ。

 もちろん他にも感謝を伝えたい人が居る。

 

 いつも応援してくれる四人とか、コラボ配信を見に来てくれた人達とか。

 

 でもやっぱり、一番は決まってる。

 だから──今はまだ、その時じゃない。

 

「…………」

 

 今日のコラボ配信、がんばった。

 これまでの自分を考えれば奇跡だ。

 

 でも全然足りない。

 こんなんじゃ、お兄ちゃんは安心できない。

 

「……休んでる場合じゃない」

 

 彼女は、いつものように反省会を試みた。

 それは自分の配信を見て、レベルアップするための時間。

 

 何が良かった。何がダメだった。

 百万人を目指すと宣言した後、彼女は毎日それを続けている。

 

「……あれ?」

 

 頭がふわふわする。

 パソコンから出力される音が、目に入る文字が、ちっとも理解できない。

 

「……疲れてるのかな?」

 

 彼女は椅子をクルリと回して、パソコンに背を向けた。

 

「……ちょっと、だけ」

 

 ベッドで横になることにした。

 床に足を付け、ほんの一歩踏み出す。

 

 その瞬間──

 まるで疲れ果てた子供のように、ぷつりと意識が途絶えた。

 

 それは力を出し尽くした結果である。

 同時刻、新見真希が元気に絶叫していることを考えれば、あまりにも脆い。

 

 単純に、実力不足なのだ。

 

 確かに努力した。何度も限界を超えた。

 結果、多くのファンを得た。ミーコの人気は既に「個人勢」として上位数%の位置にある。

 

 当然、それ相応のハードルが与えられる。

 子供を育てる学校のように、ミーコの成長を待ってくれる視聴者など、極一部だ。

 

 だけど何も変わらない。

 どれだけハードルが高くなったとしても、歩みを止めることは有り得ない。

 

 彼女が始めたのは、

「弱くてニューゲーム」なのだから。

 

 

 ──現在Vtuberの数は1万人を優に超える。

 多くの企業が参入し、日に日に競争が激化している。

 

 企業に属さない者は個人勢と呼ばれ、ミーコが目標として掲げた「100万人」を達成している者は、ほんの数人しか存在していない。

 

 国内では、たった一人だけ。

 その者は企業と深く関わっている。

 

 実質的には、ゼロ。

 

 Vtuberが誕生してから約10年。

 個人の力で100万人のファンを集めた者は未だ国内に一人も存在していない。






いつの間にかお気に入り千件超えてた~! やった~!!

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