マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
ズルい。インチキだよ。
ズルだ。ズル。ズル。卑怯者。
なんで、なんでそんな。
私は、わた、私はこんな。
暗い。痛い。辛い。寂しい。
こんな、あ、こんな、なのに。
お前ばっかり。
お兄ちゃんばっかり、上手く行くの?
──ああ、これは夢だ。
直ぐに分かった。
だって、自分が見える。
狭い円の中、ひとりきり。
一歩も動かない。わぁわぁ叫んでる。
ガラスを引き裂くみたいな音。
血と涙を同時に吐き出したみたいな声。
分かるよ。その気持ち。
よく分かるよ。その痛み。
全部が憎らしかった。
何もかも妬ましかった。
私は、お兄ちゃんにさえ嫉妬していた。
世界でただ一人の味方さえも遠ざけていた。
こんな風に。
一歩も動かず、叫んでた。
──違うよ。
声は出ない。
──ズルくないよ。
息もできない。
不意に声が聞こえた。
雑多な街を歩いた時みたいな音だった。
私が悲鳴を上げた。
丸くなって、ぷるぷる震えている。
私はぼんやり周囲を見た。
両隣にエスカレーターがあった。
制服を着た顔の見えない人々。
ケラケラと笑い合いながら上ってる。
あの場所に行きたい。
でも、それはできない。
道が無い。
右も、左も、前も、後ろも。
断崖絶壁。
跳んでも投げても届かない。
ぼんやり見る。それだけ。
景色は変わる。どんどん遠くなる。
最初は近くにあった。そのはずだった。
でも今は違う。いつの間にか、豆粒だ。
ああ、ああ、なんて、酷い。
気が付いた時には、もう全部が手遅れ。
私はどこにも行けない。
膝を抱えて泣き続けるだけ。
それに飽きたら、奈落の底に飛び込むだけ。
とても真っ暗な場所。
だけど、どこか心が安らぐ闇の先。
何があるのかな。
きっと何も無い。
さぞ、心地良いことだろう。
──眩しい。
ふと顔をあげた。
とても細い糸が目の前にあった。
キラキラと輝いている。
宝石みたいで、思わず手を伸ばした。
誰かの声が聴こえた。
とても安心できる声だった。
糸を強く握り締める。
次の瞬間、身体が浮かび上がった。
突然、身体が重たくなった。
糸を握る手に力を込めるけれど、ズルズルと滑ってしまう。
ふと下を見る。
私が、ぶら下がっていた。
「……」
思わず、笑い声が出た。
とても皮肉に満ちた夢だと思った。
私は泣いている。
私は怯えている。
私は叫んでいる。
私は妬んでいる。
私は──
「大丈夫」
初めて、声が出た。
「見てて」
切り離せたら、どれだけ楽だろう。
切り捨てたら、どれだけ身軽になるのだろう。
どれだけ私が上を向いても、いつだって過去が足を引っ張る。
「……私、強くなるよ」
だから、もっと強く糸を握り締める。
重たい過去を全部背負って上に行くために、歯を食い縛る。
辛い。もう無理だよ。
休みたい。手の感覚が無い。
なんの意味があるの?
この先に何が待ってるの?
コスパ悪いよ。
諦めて、楽になろうよ。
「うるさい」
思い切り身体を持ち上げる。
全身全霊で、血反吐を吐いて、ほんの数ミリだけ。
景色はさっぱり変わらない。
ただ疲れただけ。終わりは見えない。
それでも、やめない。
もう一度、ほんの数ミリ、上に行く。
──何のために?
決まってる。
私には、理由がある。
──そんなの、意味無いよ。
本当に、ひどい夢だ。
弱い私が囁き続けている。
諦めろ。
諦めろ。
諦めろ。
諦めろ。
「……やだよーだ」
へにょへにょした声で言い返した。
どういうわけか、身体の内側から無限に力が湧き出てくる。
……ああ、そっか。
だから私は、こんな夢を見てるのか。
多分、もうちょっとで目が覚める。
分かるんだ。体が熱くて、とても痛いから。
あの時も同じだった。
全身が溶けてしまいそうな高熱の中、私は──